Still in Loves,   作:soradayo

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10.Still in Loves,

 ――それから、何日か、何週間か、何ヶ月か。

 ――あるいは、何年か。

 

 スティルとの日々は幸せなもので、現実は溶けたマシュマロのように甘いものだった。

 輪郭はどろどろに混ざり合い、時間なんてどうでも良くなる。

 私の眼前に広がるのは、色鮮やかな花畑だった。

 風が心地よく、息を吸うと花の香りが私の身体を楽しませる。

 

「綺麗な花畑……!」

「実は、ずっと、貴方と来たかったのですが」

「え、そうだったの?」

 

 今日はスティルから誘われたデートだった。

 風も強くなくて、天気も最高。絶好のお出かけ日和になってくれてよかった。

 

「覚えていますか? やりたいことリスト」

「あっ……。今、思い出した」

「貴方とここに来るのは、その中の一つです」

「そう、だったんだ」

 

 なんでも『大切な話』があるから、この特別な場所に行きたいのだと、この間聞かされた。

 ……何を言われるのだろう。内心怯えているものの、どんなものでも受け止めたい。

 それが彼女の選択なら――スティルが最善だと考えるなら、恋人として……真摯に受け止めたい。

 

「あ、あそこのカフェ。雰囲気良さげじゃない? スティルが好きそうだよ、行ってみよ!」

 

 そんな怯えを取り除くように、私はなるべく楽しげに振る舞うことにした。

 スティルと二人のデートなら、実際楽しいのだから、本当の感情とは離れていても決して苦ではなかった。

 

 

 そうして、指差したカフェに入ってみる。

 私たちは席について、窓の外を眺めながら言った。

 

「外に見えるのはなんだか天国みたいな花畑だけど」

「ふふ、少し予想外でしたね」

 

 中の雰囲気は良かった。けど……なんというか……昭和?

 外観はアンティークで古めかしい感じだったのに、その中身はどこかの雑居ビルにある個人経営の喫茶店のようだった。嫌いじゃないけど。

 

「雑誌とか漫画とかあると、現実に引き戻されちゃうなあ。昔ながらの喫茶店って感じはするけどね」

 

 ……現実を忘れられるのは、スティルと二人っきりのときだけ。

 ただ……レースのことが目に入ると、お仕事モードが私のことを邪魔してくる。

 ……はあ。心の内で溜息をつきながら、席に持ってきた新聞を開いてみると、意外なところに喜びがあった。

 

「あ、見て。うちの子載ってる。有マ記念一番人気だってさ」

「イリリさん、ですか」

「……ねえ、リリーって呼んでるのって、もしかして私だけ?」

 

 新聞には今度の有マ記念の投票結果が載っていた。

 名だたる強豪たち、人気ウマ娘たちの名前の一番上に――『イリーガルリリー』。

 彼女はついに、ここまで辿り着いた。

 

「そうだ。リリーの走り方の指導してくれてありがとうね。あの子、中距離でももっと活躍したいって言ってたからさ……。走り方の癖が取れるといいんだけど」

「お気になさらないでください。私も、楽しかったですから」

 

 スティルが来てくれるようになってから、指導のやり方にも変化が生じていた。

 私だけでは難しかった感覚的な指導を、スティルが担ってくれていた。やっぱり、ヒトではうまく言い表せない感覚とかがあるらしく、特に走り方なんかはスティルの指導の方が私よりよっぽど上手かった。

 

「モリブデンもね。あの子、次の大目標がアメリカだから。ダートの本場じゃ、スピード勝負がすごいからさ」

 

 当然、リリーだけでなくモリブデンにも。

 モリブデンはダートウマ娘だからスティルのやり方が合うのかわからなかったけれど、一度海外で走ってからはその考えは吹き飛んだ。

 あっちでは、日本の芝と同等かそれ以上に、ダートでもスピードを求められる。

 初めての海外――ドバイから帰ってきたモリブデンは、スティルに何度も頭を下げて教えを請うていた。

 

「あの子も、スティルと走れて沢山学べたって、すごい感謝してるよ」

「そうでしたか。……お二人とも、ご自身の才能ですよ。しかし……私のような昔のティアラウマ娘が、こんなに教えを請われるのも、不思議です」

 

 本当に不思議そうに言うから、私は笑ってしまった。

 だって――誰から見ても、その理由はすぐにわかるんだから。

 

「ふふっ、気づいてないの? 好かれてるんだよ、スティルは。愛されてるの」

 

 私の言葉を聞いて、スティルはぽかん、としてしまった。

 その間に、頼んでいたケーキとコーヒーが来た。

 「ありがとうございます」と伝えて、コーヒーを一口含む。スティルがおすすめしてくれたコーヒーなだけあって、コクと香りのバランスが良く、すごく美味しい。

 スティルに視線を戻すと、顎に指を当てて思索している。

 

「なんだっけ――ティアラの子たちの『繋がり』ってやつ? ティアラでもないし、そもそもヒトの私にはあんまり分かんないんだけどさ。それじゃないの?」

「『繋がり』……ですか。もしかすると、そうかもしれませんね」

 

 スティルにそう言うと、ようやく納得してくれた。

 現役の時の貴方には『繋がり』はあまりなかったかもしれない。

 だけど、今では『スティルインラブ』の意志は継承されている。

 そう思ったものの、言ってもまた考えてしまうだろうから、この意見は心の中に仕舞っておくことにした。

 別の話題を切り出して、話を逸らす。

 

「そうだ。最近うちのチームに入ってくれた子、小さい頃からスティルのファンだったんだって――」

 

 

「おいしかった〜! スティルはどうだった?」

「私のお気に入りの豆がありました。美味しかったです」

「よかった」

 

 カフェを出てからというもの、スティルは、心ここにあらず――そんな感じだった。

 その様子に不安を覚えてしまって、私は彼女の手を強く握る。

 不安に苛まされながら歩き続けると、花畑の向こうにあった風車にまで辿り着いていた。

 遠くまでよく見える。

 地平線の向こうでは、西日が山々に沈もうとしている。東を見ると、太平洋が一望できた。

 

「ねえ……スティル。こんな場所で言うのも相応しくないのかもしれないけれど」

「はい」

 

 ここまで上の空なのは、スティルの……『大切な話』に関係することなんだろうか。

 たぶんだけど……薄々気付いている。

 

「もう二度と、貴方には会えないと思ってた」

「……はい」

 

 だから、大切なことは早めに言っておかないと。

 もしかしたら、もう二度と話せないかもしれないのだから。

 

「会いに来てくれて、ありがとうね」

「……ふふ。もう、何回も聞いていますよ」

「えっ、うそ」

 

 悲壮な気持ちで言った言葉は、想定外の言葉を返されてしまった。

 ……私、そんなに言ってるの?

 どんだけスティルのことを好きなんだよ――と自分自身に突っ込んでしまう。

 

「何度目でしょうか。共にお酒を飲んだ夜などは……もう、何度も、何度も」

「……そうだったの!? 私ももう歳かなあ……」

「私たち、大人になってしまいましたからね」

「私たちが出会ってからもう……十年以上か。こんなに一緒に居られるなんて思ってなかったよ」

「長い間……。貴方のお傍に居られて、光栄でした」

「私こそ。いままで、ありがとうね」

 

 まるで別れの挨拶のようだと思った。

 でも、たぶん、実際そうなんだ。

 

「それで……スティル。大切な話って?」

 

 なんとなく、わかってる。

 私と彼女について、仲の良さは問題ない。

 だけど――年の差は。

 

「その……さ。どんな話でも……私、受け止めるから」

 

 もう十分一緒に居られた。

 この先も……繋がりはあるままが良いけれど、恋人であることを望み続けるほどに、強欲ではない。

 関係性を変えるタイミングを伺っている――スティルから、そんな雰囲気を察していた。

 

「わかってるよ。……貴方のためなら、私、わかってるから」

 

 友人に……戻れたら良いな。

 そうでなくても、せめて知り合いに。

 頭を下げて、今までの感謝を告げた。

 

「……夢を見させてくれて、ありがとう」

「トレーナーさん」

 

 スティルに手を握られた。

 あの頃よりも少しだけ大きくなっていたけれど、細く、柔らかいのは変わらなかった。

 優しげな紅色の瞳が、私をそっと見つめてくる。

 視線を逸らしてしまいそうになったとき、スティルに顎を掴まれた。強引に視線は交わされる。

 

「勘違いしないでください。私が貴方に伝えたいのは――」

 

 こくり。

 頷くと、スティルは手を離して、一歩後ろに下がった。

 次はスティルがもじもじとする番だった。

 何かを言いたそうに、口を開いては閉じている。朱色に染まった頬が愛らしく、私の心も穏やかになっていく。

 そっと彼女の手を取ると、体温が混ざりあってひとつになったかのような錯覚がした。

 

「……暖かいです」

「ちょっとカサカサになっちゃったけどね」

「いいえ。貴方は、あの時から……変わっていません」

 

 ……勘違いしてた。

 彼女が変えようとしている関係性の方向を。

 

「……ごめん、スティル。別れ話されると思ってた」

「違います」

「だよね。……でも、こんなに年の差があるから。……貴方にも、もっと素敵な出会いがあるだろうし」

 

 そのことに気が付くと、途端に頭の中が真っ白になってしまった。

 

「そのようなこと、言わないでください」

 

 後ろに下がったスティルは、また一歩踏み込んでくる。

 両手を握られた。腕を引き寄せられて、顔が至近に迫る。

 特徴的な流星。

 紅色の瞳に、長い睫毛、垂れ目。

 栗毛と、なんだか良い香りがする。

 

「もっと大切なことを、貴方に伝えたいんです」

「え、と……。それっ、て……」

 

 その……。

 そういうこと、だよね。

 恋人の、次。

 

「まだ、いえ、違うわ……今でも、ううん、もっと……」

 

 スティルは、()()を言う決心をしたみたいで、いっぱいいっぱいになっていた。

 そんな彼女を見てなんだか落ち着いてきていた私は、微笑ましく思いながらその様子を見ていると――今度は逆転した。

 強引に手を取られ、指輪をはめられる。

 赤い夕日がスティルを照らした。

 なによりも——美しい。

 

私は、いつまでも(Still in)――貴方を、愛してる(Loves, You.)




ハメでの感想評価お気に入り、ほかにも感想ツイや支援絵等々どれか一つだけでもすごく嬉しいです!よろしくお願いします!
してくれてる人はありがとうございます!あなたのお陰で作品は完結まで続きます!

ウマ娘用X▶︎@chitosejinko
(ここまで定型文)

(ここからあとがき)
くぅ疲w。本当に疲れました。
俺の答えはこれや、というスティルシナリオに対する自分なりのアンサーのつもりで書きました。みんなも考察より連載して小説書こう。
さて、皆様。
ここまで読んでくれてありがとうございます。なによりもまず、読んでくれた方に感謝を。
そして、スティルインラブのシナリオを生み出してくれたウマ娘プリティーダービーとサイゲームスさんにはどでかい感謝を……。初見のときは3日引きずりました。
シナリオを読んでから、絶対に長編を書くぞ~と決めていたものの、実際問題二次創作で連載とかやったことなかったのでどうなることやらと心配していたんですが、なんか普通にいけました。
なんなら尺足りないくらいでした。この後の話と、ここまでの日常と、あとクリスマスとかバレンタインとかいろいろ書きたいもん。
蛇足になるので、書きませんが。
話は変わりますが、この小説は本にするつもりで書いています。
来年のURC(ウマ娘オンリー)か、夏コミか……あるいはその両方で出したいと思っています。その時にはちょっと書き下ろしても良いかもね。
あとがきは何も考えずに書いています。支離滅裂で、推敲もしていません。
ともかく――

スティルインラブ、ありがとう! 大好きだよ!
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