師匠系爺に憧れて   作:武神祭

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幼き武人②

 桜華流。ハクオウが流派を尋ねられ適当に名付けた名。されど歴史を大きく変えた流派。

 剣術のみならず万の武器に通づる流派である。

 

桜華流槍術・鬼嘴劣孔(きしれっこう)

 

桜華流剣術・狼牙(ろうが)

 

 剣先と槍先がぶつかる。キリキリと鳴る金属音。正確無比な刺突故に1ミリ以下の先端で鍔迫り合う。

 

 込められた2つの魔力がぶつかり合い魔力光が散らばる。これ以上押し込めないと判断した2人は弾かれるように距離を取る。

 

「桜華流剣術──」

「桜華流槍術──」

 

 飛牙咬噛(ひがこうごう)

 双蛇(そうじゃ)

 

 剣と槍が2つに増えた………そう錯覚するほどの2連撃を放つ両者。

 

 アイリスの放った左右から挟み込むような連撃は刃渡りを超える斬撃を生み出し噛み砕かんと迫り、カレンの槍捌きは硬いはずの槍が蛇のように動いていたかのように見せる。

 

 アイリスの攻撃を蛇の如く掻い潜り迫る槍。

 咄嗟に回避するも頬を斬る。

 

 既に剣から放たれた2つの斬撃は引き戻した槍で受ける。斬撃の交差に槍が悲鳴を上げた。

 

(…………技量も、速度も、向こうが上ですか………)

 

 頬から流れる血を拭いもせず、アイリスは冷静に彼我の差を把握する。攻撃はこちらばかりが受け、こちらの攻撃は防がれ流されるか、浅い。

 

(しかし魔力出力(パワー)だけで覆される!)

 

 カレンは冷や汗を流す。

 エルフとして魔力に自信はあったが、それを上回る魔力量。桜華流の修行には魔力を限界以上に使い切って増やすという鍛錬法もある。次期領主として学ぶ事の多いカレンはあまりそれを行えていないが、それにしたってアイリスの魔力量は多すぎる。

 

 魔力量増加鍛錬による増加率は本人の資質が大きく影響する。

 

 天賦の剣。紅の剣姫………剣姫………けんき。

 剣鬼の弟子にて、その名で呼ばれる者は少ない。不敬にも剣鬼を名乗る人斬りはそこそこいるが、他者から呼ばれる………その意味は格別だ。

 

(これがアイリス・ミドガル………! 剣鬼の弟子………!)

 

 何よりも驚きなのが、得物の差。武神祭ではそれこそ殺しもルール内であり、得物は当然本人が慣れ親しんだ物を使う。

 

 カレンはミスリルの槍。七武剣の一角に恥じぬ、混じり物のない高級品。対してアイリスは()()()

 

 魔力伝達率の差はそのまま武器の性能の差。だというのに………

 

「しっ!!」

「くっ!!」

 

 まともに食らう度にこちらの槍が折れそうになる。剣の技量とはまた別。恐らく魔力操作の一環なのだろう。

 

 そちらも恐ろしいが、何よりも恐ろしいのは。

 

「そこ!」

 

 フェイントを見抜き本命の蹴り、と見せかけ本命は槍。視線を誘導し死角を作り、されど防がれた。

 自惚れでなければ、先程までの彼女に今の自分の動きは捉えきれなかった筈だ。

 

 成長している。この戦いの中で。

 

 父曰く基本的にそういう者は二通り。学んできた事を実践でものにする秀才と、学んできた事を進歩させる天才。

 

 前者は戦いの中で成長できる限界があり、後者はこちらも魔力量増加同様に本人の資質に影響される。アイリスは後者。

 

(才能あるものほど基礎が疎かになる………体力切れを狙うのは、剣鬼の弟子相手には無謀かと思ったが…………)

 

 才あるものは基礎………体力作りが疎かになりやすい。体力が尽きる前に事を済ませるからだ。そんな明確な弱点をハクオウが残すわけがないが………戦いの中で成長するアイリスとて、体力が急激に増えたりはしない。

 

 むしろ普段以上に体力を消費させられる。それは相手をしているこちらも同じだが、アイリスに比べればスタミナ管理は容易だろう。

 

(………スタミナ管理、か)

 

 ベガルタ七武剣たる自分が少女相手に? 中々どうして、世界は広い。

 後の試合を考えれば、まだ1回戦の今全力を出すわけにはいかない。

 

(…………無粋だな。武人として相手すると、そう決めたのだった)

 

 ゾワッと悪寒を感じたアイリスが猛攻を止め後ろに飛ぶ。避けきれなかった槍先が肩を切り裂く。肉を断ち、骨まで届く一撃。魔力で治癒しようとするも傷口に残る魔力残穢が阻害する。

 

「今一度名乗ろう………」

 

 若草色の魔力を纏い、カレンはアイリスを見据える。

 

「我が名は『流星(ながせ)』………その名の意味、その身を以て知るがいい」

 

 瞬間、加速。

 槍を構えて突撃。ただ純粋な、それだけの技。槍技の基礎の一つ。それを馬鹿げたほどに極めた。

 

 アイリスが弾き飛ばされる。否、()()()()()()()

 

「…………流星(りゅうせい)

 

 そう呟いたのはアレクシアか、或いは観客の誰かか。

 闘技場を駆け抜ける輝く槍兵。

 

 流星が突き抜けた石畳は砕け散り轍を刻む。アイリスが空中で姿勢を整えた瞬間には観客席を守る結界を駆け上がりながら接近し、結界を蹴り突撃。人一人跳ねた程度で勢いは衰えず反対の壁に着地し再び跳ねる。

 

 七武剣。

 剣の国ベガルタにて家格も歴史も関係なく、他国の出身だろうと力を示さば座れるその座は逆説的に言えば力を示さねば座れぬ座。

 

 若くしてその座に就いた女傑、カレン。

 並の魔剣士を圧倒する彼女の象徴たる技を幼きアイリスは捌く。

 

 身動きの取れない空中で、剣を振り体勢を変える。

 

「私の姉さまが脳筋すぎる」

「ただ膂力任せではありませんよ」

 

 高速で迫るカレンの攻撃を受けるように動いている。大した反射神経だが徐々に押され始めている。

 一撃ごとに腕に衝撃が走り体力も消費する。

 

 だがそれはカレンも同じ事。

 

(…………これ以上受けに徹するのはまずい)

(彼女の才覚を考えれば、早々に決着を付けたい………)

 

 ならば取るべき手段は………。

 

(カウンターで叩き潰す!)

(最大速度で轢き飛ばす!)

 

 カレンは魔力を足と穂先に集中して加速。遠心力により重力を無視して結界を駆ける。アイリスも全身に魔力を漲らせ、同時に剣に流し込む。

 

 

 

 数多の伝説を残す剣鬼の逸話の一つ。豆腐なる料理を生み出した剣鬼は、その豆腐を楽しんでいる時暗殺者に襲われ、豆腐の角で暗殺者を殺したという。

 

「流石に出来ませぬししませぬよ。何故そんな噂が立ったのか」

「葉で亜竜を切れるからでは?」

 

 アイリスは首を切り落とされた翼竜の死体を見る。実戦を積みましょうと森に連れてこられ、食事にしましょうと笹おこわを作っている途中に襲いかかってきたワイヴァーンだったがハクオウは持っていた笹の葉で堅牢な鱗ごと首を切り落とした。

 

「魔力による強化の一環ですよ」

「葉で?」

 

 魔力伝達の低い葉をいくら強化したところで亜竜の首を切れる者など果たしてハクオウ以外にいるのか。

 

「いい機会です。もう少しあとに学ばせるつもりですが………」

 

 

 

 この世の物体は全て目に見えぬ小さな粒の塊。

 その粒が魔力にどれだけ抵抗しないかが魔力伝達率を決める。だが、粒ならば当然隙間がある。

 

 その隙間に魔力を流せば抵抗など関係ない。無論、元々の物体の硬さに影響されるがミスリルと鋼の本来の硬度に大きな差はない。

 

『これより先、刃毀れ一つを恥と思いなさい。もし折れた暁には』

『あ、暁には………?』

『躾として骨を折ります』

 

 

 我流槍術・流星(りゅうせい)!!

 

 桜華流剣術・天輪倶利伽羅剣(てんりんくりからけん)!!

 

 最大加速の槍の突撃。

 魔力で強化した全身を回転させ放つ切り落とし。

 

 ぶつかり合う2つの魔力光。結界がビリビリと震え、紅と若草色の魔力が嵐となって吹き上れる。やがてビキリ、と得物に亀裂が走った。

 

「!!」

 

 ミスリルの槍が鋼の刃に押し負ける。内部に圧縮した魔力が制御を失い爆ぜた。

 

「がはっ………!」

 

 背中から落ちるカレンとなんとか着地し倒れそうになる体を拳で支えるアイリス。己の剣を見る。刃毀れなし。

 

「…………っ」

 

 安堵の笑みを浮かべ姿勢を正す。

 勝利を告げるように剣を掲げる。会場が歓声に包まれた。

 

 

 その後1回戦の疲労が残り2回戦で敗退。ミドガルの魔剣士………ハクオウの弟子も何人か出ていたが、一番の話題は最後までカレンとアイリスの試合であった。そして…………

 

 

 

「お、お時間をいただき、かか、か、感謝いたします!」

 

 武神祭が終わり、カレンはハクオウと対面してとても緊張していた。

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