師匠系爺に憧れて   作:武神祭

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アイリス留学期①

 アイリス・ミドガル。剣鬼の弟子である紅の剣姫。

 彼女の来訪をヘルツォーク領の領民は歓迎した。領の誇りにして七武剣のカレンを倒した実力者。武こそ尊ぶベガルタの民に彼女を歓迎しない理由はないのだ。

 

「少し複雑ですが…………カレンさんが万全なら結果は分からなかった」

「それでも、貴方は己の強さを誇るべきだ。万全ではないとて、我等の中にカレンお嬢様に勝てる者はいませぬ」

 

 領地を回る馬車にて領民を見ながら呟くアイリスにそういうのは執事のチューギ・ターカイ。嘗ては七武剣を決める戦いにてかなりの成績を収めた魔剣士だ。

 

「誇りなさい。貴方は我等に取って神にも等しい剣鬼の教えを受け、剣姫と称えられる実力を示したのです」

「………………はい」

 

 チューギの言葉に頷くアイリス。

 

「まあ、その実力も本物か怪しいものですがね」

 

 と、馬車の外から声が聞こえた。

 

「だってまだ子供じゃないっすか」

「ウーラ。貴様。それはお嬢様の実力も侮辱しているぞ」

「誤解ですって。俺はお嬢様は尊敬してますよ? これまでの自分の苦労が馬鹿らしく思えるほどに」

 

 そういうのはヘルツォーク領の魔剣士の一人ウーラ・ギテッタ。近年ヘルツォーク領にやってきた元旅人で、そこそこの腕前故にヘルツォークの魔剣士として雇われたらしい。

 

「まあ騎士団まで引き連れてきてくれるんだから感謝してますよ。半分ぐらい護衛に残しとかなくてよかったんすか?」

「ウーラ! 申し訳ありません、アイリス様。ベガルタの者はどうにも粗野な者が多く…………」

「気にしないでください。私自身小娘ですから、カレンさんの代わりが務まるのかと疑問を持つのは当然です」

「いえ、この者には後で身の程を分からせてやります」

「げげっ!」

 

 訪問先の街でウーラの悲鳴が響くことが確定した。

 

 ヘルツォークは領地の村々に足を運ぶことが多いらしい。

 人は欲に染まりやすく、報告書だって信頼していても時折その目で確認するというのが家の方針なのだとか。

 

「部下の言葉を鵜呑みにできないのですか………?」

「してはいけないのですよ。上に立つということは、そういうことです。目の前にいる部下だけでなく、その者が関わる全ての言葉に耳を傾けねばならない。それが領に、国に住む民の命に責任を持つ王族、貴族というものです」

「全ての言葉、ですか…………参考になりますね」

「お嬢様も、あの剣鬼殿の教えを受けているのです。こちらも教えられることを教えねば不義理というもの」

「はっ。過去にどれだけ伝説を残してようと、過去は過去でしょ。あれから時代は進んで、戦場の鬼も老いた老人じゃないっすか」

 

 ピクリとアイリスが肩を揺らし馬車の扉を蹴り開ける。ウーラがギョッと固まる。気にせず剣を振るい、金属音が鳴り響く。

 

「………魔力を付与した矢」

 

 肉体から離れた魔力をこれだけの威力で留めるとは、中々な魔力精度………ではない。膨大な魔力に物を言わせた強引な力技。

 

「ガルアアアア!!」

「ギャギャギャ!!」

「な、何だこいつら!?」

 

 森の奥から現れたのは黒装束の集団。その全てが獣のように唸り、充血した目で泡を吐きながら迫ってくる。

 

 ドス黒い魔力が可視化する程の膨大な魔力。その代償に細胞が異常増殖し、爛れ、腐臭を放つ。

 

「悪魔憑き!? いや、これは…………!」

 

 カレンとは放っている魔力の質が違う。

 カレンの魔力も本人の魔力と別の何かが混ざり合っていたような感覚ではあったが、例えるなら色が近い感じがした。目の前の兵士達は全く別の色を無理やり混ぜ込まれ、その色に本来の色が侵されているような………。

 

「シャアアアアア!!」

「フッ!」

 

 魔力で強化した膂力で剛剣を振るう襲撃者。すれ違いざまに切り捨てる。

 

 血の線を描きながら転がる上半身は、地面に指を食い込ませ勢いを止めた。

 

「!?」

「キャアアアア!!」

 

 腕の力でだけで跳び上がる。背後から迫る上半身だけの襲撃者の顎を蹴りつける。顎と首の骨が折れる音。吹っ飛んで行く上半身は木の枝を掴む。

 

「ギイイイイ!!」

「……………」

 

 これだけ痛めつけられても怯まないのはその不死性ゆえか、或いは獣以下の知能なのか。

 

「な、何だこいつら!?」

「うわああああ!!」

 

 他の魔剣士にも襲いかかる襲撃者達。一人一人の平均値は襲撃者が上。チューギを筆頭に勝る者もいるが、死なない身というのが厄介だ。

 

「斬って死なない。砕いて死なない兵士、ですか………」

「シャアアアアア!!」

 

 剣を鞘に戻したアイリスに迫る襲撃者。赤い花火が弾けた。

 

「────え」

 

 斬って死なない。砕いて死なない敵。なので()()()()()()()()

 鞘に納めた剣で殴る。肉は潰れ骨は砕け肉体は弾け飛び森の一角が赤く染まる。

 

 肉片レベルに飛び散った襲撃者はもう再生したりしなかった。

 

「不死に近いだけで、死ぬのなら殺せますね」

 

 突っ込んできた襲撃者を踏み潰す。地面が陥没し赤い染みが広がる。後ろから迫る弓を掴むと握力で圧し折り魔力を流し弓兵に投げつけた。上半身が吹き飛び木々に穴が空いた。

 

「ご、ごりらが暴れてやがる…………」

 

 技の何もない。強化して殴るという魔剣士の基礎。ただし、基礎の水準が高すぎる。

 

「っ!!」

「痛みへの恐怖はないが、死への恐怖はあるようね。いえ、そもそも痛みを感じていないのかしら?」

 

 仲間達がやられていくのを見て足を止める襲撃者達。ジリジリと後ずさる中、唐突に後退を止める。

 

(魔力波長………? あそこ!)

 

 アイリスが森の奥を睨むと襲撃者と同じく黒装束の人物が2名。片方が魔力波長を出しているようだ。と、襲撃者達が一斉にアイリスへ向かう。近くの魔剣士すら無視した動きは一応統率が取れていると言えなくもない。

 

「アイリス様!」

 

 チューギが慌てて叫ぶ中、アイリスは近くの襲撃者の首を引っこ抜く。ガチガチ噛みつかんと動く首を襲撃者の首魁、もしくは幹部らしき影に向かって投げつけた。と、魔力波長を飛ばす者のそばを控えていた者が首を弾く。同時に残る襲撃者がアイリスを間合いにいれた。

 

「……………逃げられましたか」

 

 拳についた血と肉片を落としながら呟くアイリス。

 魔力波長を放っていた連中には逃げられてしまったようだ。

 

 

 

 

「時にカレン殿。ベガルタにて警戒するべき者はいますかな?」

 

 話しかけられて魔力操作が乱れた。頭をゴツンと叩かれる。

 

「き、貴族たるもの知らずに恨みを買うことはあります故………ですが、そうですね。個人的に私を恨んでいそうな者として思いつくのは、セルゲイ・ゴーマンでしょうか」

 

 魔力の操作に意識を割きながら答える。

 

「七武剣を決める大会にて………私が勝利こそしましたが、かなり恨み言を言われたと記憶しています」

「ほほう」

「決して弱くはありませんが、七武剣程では…………仮に奴が攻めてきたとしてもアイリス様なら恐らくは………問題ないでしょう」

「勝負は行い結果が出るまで分かりませんよ。ですが、弱くはないと貴方に言わせる相手………アイリスの良き糧になると良いのですが」

 

 実力が近い者同士で戦えば、それは得難い経験となる。今のハクオウと戦える者はあの女ぐらいだが…………知る限りあの女を除けば最強の、鍛え直すと言っていた彼はどうしているのだろうか?

 

 

 

 

 

 

 一方その頃。アイリス達が向かう予定のヘルツォーク領の街。白銀の髪をした少年は何やら騒がしい窓の外に視線を向ける。

 

 御伽話から抜け出したかのような美しい少年だ。そんな少年に跪く

 

「どうやらミドガルのアイリス姫がやってきたらしく………」

「ミドガルの………?」

「この地の領主に勝利した剣鬼の弟子ですよ。いかがなさいますか、()()()()()様………」

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