師匠系爺に憧れて   作:武神祭

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アイリス留学期②

 辿り着いた街にて聞き込みをすれば、経済に関しては報告通りだったが異変に関しての報告をサボっていたようだ。林道にて怪しい影を見たとの報告………怠っていなければ襲撃者への警戒を強め、或いは捕縛出来たかもしれない。

 

 明確な証拠を見つけてから報告するつもりだったらしいがアイリス達は現に襲われている。せめて視察が来ると分かった時点で教えるべきだった。

 

「………しかし」

 

 と、一人の魔剣士が呟く。どうしたのかとアイリスが問えば今回の襲撃に違和感があるらしい。

 

 目撃証言こそあれ襲われたという報告はないのなら、理性なき狂戦士達は誰彼構わず襲うわけではない。実際統率する者がいたわけだし。

 

「つまり、はなから俺達を狙ってたってことになりますが…………」

 

 悲しいかな、武力こそが全ての謳いながらもベガルタにも権謀術数を巡らせる者はいる。特にカレンは若くして七武剣に名を連ねるとは言え第5位の男爵。後、主に女にモテる。様々な理由で嫉妬を買うのだ。

 

 当然警戒して、街に向かうルートを幾つもパターン化して同行する魔剣士とて当日に伝えられる。ルートを知っているのはほんの数名のみ。だというのに襲撃があった。

 

「もちろん、事前に幾つかの場所に張っていただけの可能性もありますが…………」

「情報を流した裏切り者がいるかも知れない、と?」

「そう思いたくはありませんが、可能性として………」

 

 アイリスはふむ、と魔剣士達を見る。この場の魔剣士達はカレンがスカウトしたものばかりだという。それでも裏切り者が居るのだろうか。

 

「人とは移ろうものです。それに……言いたくはありませんがカレンお嬢様はお若い方ですからな」

「チューギ殿………」

「困窮する民の為にも名を挙げるために七武剣となり、七武剣という立場が次期領主という立場を変えてしまった」

 

 年齢的に引き継いでも問題なかったカレンは、七武剣でありながら親とは言え人の下につくのは、という理由で領主へと任命された。もちろん父も手を貸しているが真面目な彼女は自分の力でやろうとする。

 

「力以外が評価されない七武剣。多くの七武剣は貴族の責務を部下に任せているというのに………」

「領主としての仕事しながら合間の修行であの強さ。少なくとも俺等なんかとは全然ちげーですよね」

「ウーラ、貴様………今日の教育の後にはそんな切り口が利けると思うな」

「やっべ!」

 

 慌てて逃げるウーラ。言動が一々軽い彼だが、決して弱いわけではない。頭一つ抜けて、と言うほどではないが今回同行した魔剣士の平均よりもやや上の方。槍使いではあるが時折間合いがズレているのは本来の武器を隠しているから?

 

「ウーラさんって、どんな方ですか?」

「彼奴ですか? 調子は軽いけど、いい奴っすよ。俺、人を見る目はあるんです!」

「ケントさんそんなこといって、また女に騙されてたのにな〜」

「うるせえぞヒメ!」

 

 ケント・ウチガーイの言葉にヒメ・タオモイと言う女魔剣士が笑う。

 カレンが選んだ魔剣士達。ベガルタの魔剣士なだけあり、皆実力は高い。一人一人がミドガルの分隊長クラスはある。

 

 強さを示すことこそ己の価値を簡単に示せるベガルタの国風故か。

 

「戻りました」

 

 と、街の衛士長と話に行っていたマサカ・アイーツガ隊長が戻ってきた。

 

「アイリス様の要望通り、今夜の見張りは倍の数を動員。明朝、森の調査へと向かいます」

「お、なら明日に備えて英気を養わないとな」

「ケント……言っとくが、夜の店には我々の入店は拒否するように言ってあるからな」

「……………はい」

「ふん!」

 

 落ち込むケントの尻をヒメが蹴りつける。そのままプリプリと怒ったまま何処かへ行ってしまった。

 

「おー、いて。あの女ぁ………」

「ま、まあ、ヒメさんも女性ですからね。あんなに堂々と店の話をするのはどうかと」

「へっ、わかってないですねアイリス様」

 

 頬を染めながらコホンと咳払いするアイリス。一応はこの一団のリーダーとして禍根を残さぬようとりなすつもりの言葉だが、ケントはニヤリと笑う。

 

「ヒメの奴、この前俺がウーラの奴を一緒にどうかって店に誘った事を根に持ってんですよ」

「ウーラさんを? それはまたどうして………」

「そりゃぁ、女が男にそんな店に行ってほしくない理由なんて一つでしょう………渡したくないんですよ」

「!? そ、そうなのですね………ヒメさんが、ウーラさんを」

 

 それは本気で言っているのかとマサカは呆れた目を向けた。というかアイリス姫もそういう事が気になるお年頃らしい。

 

 剣鬼の弟子にして紅の剣姫………剣姫の名を名乗らせる程度には腕を認められた一国の姫君に釣り合う男がいるかは不明だが。ないとは思うが剣鬼が最後の障害として立ちはだかったりしないだろうな。あの戦の鬼は浮いた話など一つぐらいで、子や孫もいないし弟子をそういうふうに思っててもおかしくない。

 

 

 

 

 その夜。

 

「う、いてて………ひどい目にあったぜ」

 

 チューギにボッコボコにされたウーラはヨロヨロと月明かりに照らされた夜道を歩く。武の国だけあり、街の各所に鍛錬場がある。

 

「ふっ!」

「……………」

 

 その一つで、剣を振るう紅の剣姫を見た。

 

 自分とはまるで違う。そう思えば、目的の場所を目指す足も自然と速まった。

 

 

 

 

 森の奥、城塞跡地。

 過去の内乱にて使われ、今は放置されたそこに集う黒装束達。黒い鎧を纏い、牙を模した仮面で口元を隠した男は部下に手を翳す。

 

 ドス黒い魔力が渦巻き、部下に流し込んだ『血』が反応する。

 

「ご、が…………グギャアアアアア!!」

 

 ボコリと肉体が膨れ上がり殆どがその肉体を腐肉に変え溶け崩れるも、一部の者達は黒い鱗が鎧を内側から砕く。

 

「くく、くくくく…………これが、魔王の力! ニーズヘッグの力か!」

 

 嘗て世界を滅ぼしかけた魔人ディアボロス。今よりも遥かに発展した魔法文明の尽くを滅ぼした生ける厄災。

 

 魔王でも魔神でも無く、魔人…………魔なる人。それは『ある存在』の力を人間に植え付けたことで生み出された怪物だからだ。

 

 以降の英雄も『雫』も、全て人と混じった『混ざり者』を使用して作られている。だからこそ人と親和性があるのかもしれない。三英雄が全て女性だったのも、悪魔憑き…………血が濃く出るのが殆ど女なのも元となった人物に近いからかもしれない。

 

「だが、俺は違う!!」

 

 第十二魔界の魔王ニーズヘッグ。嘗てラウンズの一人が捕らえた異界の王。その血そのものを取り込んだのだ。

 

 つまり今の世で唯一、魔人ディアボロス同様『原種』と混じった存在。第二の魔人。その血を与えることで他者を作り変える。

 

 自意識のないサードは理性を失った狂戦士と化し、魔力制御力が高いセカンドは理性を残し狂戦士を操ることができる。ファーストに至っては『雫』による覚醒セカンドを大きく超える強化幅。しかも時間制限もない。

 

「この絶対的な『個』! 圧倒的な『群』! この力を持って、あらゆる神話を過去にする! 魔人も、英雄も、剣鬼も! 全て俺が齎す恐怖に塗りつぶされるのだ!」

 

 手始めにあの小娘。生意気にもこちらを見下したカレン・フォン・ヘルツォークを組み伏せ領民も家族も全て皆殺しにしてやろうと思っていたが、まさか不在とは。

 

 代わりに今なおあらゆる戦士を所詮二番煎じとさせるベガルタにおける歴代最強の七武剣元一席『戦鬼』の弟子がいる。

 

「代わりにあの女から殺してやる。戦争になればもうけもの………耄碌してノコノコ誘われるか、最早杖しか握れず震えるだけか………鬼の牙など龍の前では楊枝も同然よ! はは、ははは! ははははははははは!!」

 

 血肉を取り込んだその時から万能感が身を支配する。絶対的な力。何者にも負けぬその力を持って世界を支配し、そして…………そして?

 

「壊ス! 全て、破壊ヲぉぉぉ! っ!? 俺は、何を………? いや、そうだな。過去の英雄に夢を見る聖教も、過去の魔人にすがる教団も、全て破壊してやる!」

 

 自分にはその力があると信じて疑わない。

 男………ラウンズ十席『闘剣嵐武』セルゲイ・ゴーマンの笑い声が響いた。

 

「奴等は明朝動く。情報は筒抜けよ…………くくく。まさか奴等もあの男が裏切っていたなんて夢にも思うまい」

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