師匠系爺に憧れて   作:武神祭

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アイリス留学期③

 明朝、森の中。

 資料にあった過去の砦を目指すアイリス達。包囲するように散開するよう指示を出す。

 

 少数になるが、砦自体はそこまで大きいわけではない。突入する頃には再び合流している。異変があれば信号弾を撃つ。

 

 結果………。

 

「貴様がアイリス・ミドガルだな。古臭い伝説ばかり聞かされる忌々しい爺への警告と同時に、王家の血筋の死体を持って帰れるとは俺も運が良い」

 

 黒い鎧の大男。その部下らしき男達と、異形の怪物達が待ち伏せていた。

 

「余計な抵抗をしなければ、痛みなく殺してやろう」

「数を揃えた獣は、子犬でも獅子に吠えると聞きましたが………」

 

 師の言葉を思い出し呟くアイリス。身の程を知らずに挑んでくるという意味もあるが、子犬でも数の力で獅子を狩ることもある。

 

「勘違いするな、女。貴様が怯え、逃げ出さぬためよ。昨日の雑兵ばかりと思うなよ! 精鋭と強化を施された、俺の主力部隊よ!」

「シャアアアアア!!」

 

 と、セルゲイの言葉に反応するように飛び出す怪物。振るった爪は空を裂き、怪物は細切れにされ地面に散らばる。

 

「それで? 強化された兵士は何処?」

 

 剣の国ベガルタや剣鬼の住まうミドガルならともかく、その他周辺国家ならば魔剣士の平均よりも上のチルドレンサードに強化を施した兵士。それを歯牙にもかけないアイリス。

 

 ファーストやセカンド達が驚愕する中、しかし頭目たるセルゲイは冷静に見据えていた。

 

(…………魔力に無駄がない。()()()強いな………)

 

 強化したチルドレンファースト達でも手に余るだろう。

 成る程、伝説。その剣技の冴えと指導力は老いて益々健在というわけだ。

 

「下がっていろ。お前達では相手にならん」

 

 セルゲイの言葉に後退し場を開けさせるチルドレン達。逃さぬよう武器を構える。

 

 セルゲイが一歩踏み出した瞬間膨大なドス黒い魔力が溢れ出した。

 

「っ!!」

 

 アイリスを凌駕する魔力量。空間が、世界が異物に軋みを上げる。

 

「ぬぅん!」

「!!」

 

 振り下ろされる剛剣。横に飛び回避するアイリス。一振りで崖が生まれた。

 

「おおおお!!」

「っ!!」

 

 振るわれる轟撃。大雑把に見えて緻密。

 アイリスの魔力防御にまず綻びを作り出そうとする。

 

 それでいて威力も強大。剣以外で受ければ魔力防御を行っていても斬られる。

 

「ぬん!」

「!?」

 

 剣を振るう為に地面を踏み込む。それだけで地面がひび割れアイリスがバランスを崩し、迫る大剣。

 アイリスの体が砲弾のごとく森の木々を吹き飛ばしながら吹っ飛んだ。

 

「……………!」

 

 ペッと血痰を吐き出し口元を拭う。中々戦い方が上手い上に力が絶大。技量だけなら自分の方が上だが圧倒的な出力(パワー)が全てを覆す。

 

「アイリス様!」

 

 傷を治癒しながら立ち上がるアイリス。そんな彼女に近づく影。チューギだ。

 

「ご無事ですか!?」

「ええ、まあ………」

 

 傷は癒えた。まだ動ける。勝ち目があるかは………まあ、勝ってから解ることだ。アイリスは剣を振るい注射器を切り落とす。

 

「!?」

「薬ですか」

「…………気付いておられましたか」

 

 チューギは距離を取りながら片手を上げる。ゾロゾロと現れる黒装束達はセルゲイの部下と異なり狂化はされていないようだ。

 

「私達の作戦を流し私を孤立させ、しかしあの男は異なる目的がある様子…………何のつもり?」

「セルゲイ様はラウンズであらさられます。ならば私は彼の言葉に従いましょう。されど、ディアボロス復活の足掛かりに王家の血は有用。なれば私は確保を優先します」

 

 ディアボロスチルドレン『操躯(そうく)』のチューギ・ターカイ。自意識を保つチルドレンファーストでありながら思考能力を失ったチルドレンサードよりもなお自己なき忠臣。己の全てを組織に捧げし狂信者。

 

 世代交代が人族や獣人族より長く、故に英雄の血を濃く受け継ぐ英雄の子孫たるエルフを数十年も監視していたのもネームドチルドレンに命令されたから。そのネームドが死した後も命令を守り続けていたのだ。

 

「何時から私をお疑いに?」

「昨夜、貴方がディアボロス教団なる組織の光暗号を森に送っていたと聞いた時から」

「何を………」

 

 それは傍目から見ても信号を送っているとは思わせないよう徹底されているはずだ。それを見抜けるとしたら、それは『その行為が』()()()()()()()()()者だけ。つまり…………

 

「裏切ってたか、ウーラ!」

 

 その忌々しげな叫びと同時にアイリスを囲んでいた魔剣士の包囲の一部が流星により吹き飛んだ。それは槍を構えたウーラであった。

 

「悪いな、先輩………」

 

 ウーラが片手を上げるとその場にヘルツォークの魔剣士が集まる。散開せずに、彼等も近くで待機していたらしい。

 

「ウーラ………貴様、なぜ裏切った!」

「………………俺は神も武神も信じねえ。見てねえからな………見たものだけを信じる。だから、カレンお嬢様を信じる」

 

 ウーラ・ギッテタ。チルドレンセカンドであった彼は、チューギに誘われヘルツォーク家の監視員として紛れ込んだ。

 

 運良く自我を保っただけの彼は別段教団の教えを信じていたわけじゃない。幼少期から力なければ死ぬ環境で力のみを信じ、故に彼が見た限り最も力のある組織であるディアボロス教団に従っていた。

 

 鍛錬しても強くなれない己自身を価値の基準に置いていた彼は雫の齎す恩恵を得られるディアボロス教団こそが強者と疑わなかった。だが、見たのだ。領地経営をしながらその合間に鍛錬をするカレンを、その強さを。

 

 そしてこれまでの自分の授業が馬鹿らしくなった。

 ファーストになれない? これ以上強くなれない?

 

 自分より年下の少女が領主の責務の合間にやっている鍛錬の()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()鹿()()

 

 きっとあれこそが正しいのだと、ウーラは信じる。その時から彼はディアボロス教団を裏切っていた。

 

「…………チューギ殿。残念です………貴方が少女趣味で、行動にまで移すなんて!」

「黙れケント」

 

 マサカはケントの見当違いの発言に呆れ果てる。「まさか、あいつが………」と最後までチューギの叛意を信じていなかっただけに、悲しそうな顔でチューギを睨む。と、そこへ………

 

「チューギ。貴様………報告にない増員、どういうつもりだ?」

 

 セルゲイが追いついてきた。

 

「王族の血筋は生かして捕らえる。それが教団の方針です」

「ふざけるなよ! 知ったことではない! ラウンズたる俺に、貴様如きが意見するか!」

「吠えるな若造。組織の意見に口出ししたくば3名以上の上申の後、半数の同意を得てからにしろ」

「真面目な方ですね。残念です………とは言え、ラウンズに、半数。牢にてそのまま口を滑らせてもらおう」

「口を滑らせる分には構いませんとも。聞いたものには死んでもらいますからな」

 

 3つの勢力が残る両勢力を睨みつける。一触即発。何かのきっかけで直ぐにでも殺し合いが始まるだろう。そんな張り詰めた空気に異物が混じっていたのに気付くのは異物が声を発してから。

 

「うるさいぞお前達。俺の朝は早いんだ………静かにしろ」

「「「────!?」」」

 

 気高き狼を思わせる銀の髪を持つ少年。この中の誰よりも幼く見える少年は近所で騒ぐ者達へ文句を言いに来たかのように自然体でそこに居た。

 

「グルアアアアア!!」

 

 誰もが混乱する中、理性を無くした狂戦士の数名が飛び掛かる。

 異形化した爪が少年の身を引き裂き…………

 

「……………え」

 

 バラバラに崩れ落ちる狂戦士。少年はスタスタとセルゲイの下へ歩いていた。

 刻まれた狂戦士は尚も動こうとするも切断面は癒着せず血を流し絶命。

 

「………貴様…………何者…………いや、まさか貴様! 貴様貴様貴様貴様はあああああああ!?」

 

 混乱するようにセルゲイが叫ぶ。その目に怒りと困惑が宿る。

 

「フェンリル! 何故お前が、まだ若い!? 最早雫を摂らずに何十年経過したと!!」

「フェンリル様…………!?」

 

 セルゲイの言葉にチューギも目を見開いた。

 

「裏切りのラウンズ………! まさか貴方が、こんな身近に潜んでいたとは!」

「? 潜むだと、何を言っている。()が鍛えた弟子達から俺が隠れる理由があるとでも?」

 

 フェンリルと呼ばれた少年は呆れたように呟く。その古狼を思わせる玲瓏な金の瞳がアイリスを見据えた。

 

「チッ………あの小僧めが。いい弟子に恵まれているようだな」

「こ、小僧?」

 

 少年に小僧呼びされるような子供の弟子になった記憶のないアイリスが戸惑う中、再びの硬直から抜け出したのはチューギ。

 

「始末しろ! 若さの理由はともかくとして、雫を手放して久しいラウンズなどネームドと変わらん!」

「………………」

「どうぞ抵抗をフェンリル様。されど、我等この命尽きるまで教団のためにある事をお忘れなきよう」

 

 どれだけ斬られようと、仲間を失おうと止まる気がないとそう告げるチューギ。しかし彼の部下は誰一人動かない。

 

「何をしている!?」

「抵抗? 何を寝ぼけている。俺に死体を刻む趣味はない」

「っ? 何を…………ええい! 裏切り者めが、私が…………ッ、体が!」

 

 叫ぶチューギ。恐らくは動こうとしたのだろうが一歩どころか指一本動かせない。

 

「貴様、何をした!?」

「話の通じぬ奴だ。魔人でもあるまいし、死体が動けるわけないだろう」

 

 その言葉と同時にチューギ、セルゲイ、2勢力の部下達の体が割れるように崩れ落ちた。

 

「斬られたことに気付けぬ未熟者が、俺の敵になったつもりとはな…………身の程を知れ」

「────!」

 

 既視感。目の前の少年から強者の気配を感じない。強さを見せつけられても、だ。

 

 アイリスが知る強者達が纏う気配はそれこそ獣や、見たこともない竜に例えられる。

 だが例外がいた。ハクオウだ。

 

 まるで植物のような静かな気配。強者であり、それを隠しているわけでもないのに認識出来ない極致。

 

 目の前の少年は師と同等かそこに限りなく近い領域にいる。

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