エタった小説のラスボス邪神に転生したが、過去の俺の性癖が痛すぎて死にたい   作:超とんでもなくムッチリしたインコ

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第10話 邪神教団の違法建築と、聖女の殴り込み

「……なんだ、あれは」

 

俺は王都の大通りで、絶句していた。

エリスにおんぶされ、マスクをつけたまま、口をポカーンと開けていた。

 

目の前にそびえ立つのは、白亜の王都には似つかわしくない、漆黒の建造物。

壁には無数の棘が生え、入り口には禍々しい魔法陣がネオンサインのように回転している。

 

「……『邪神教団・王都総本部』だそうだ」

 

エリスがこめかみを押さえながら答えた。

 

「バカかあいつら!! 目立ちすぎだろ!!」

 

俺は叫んだ。一等地だぞ。銀座のど真ん中に魔王城を建てるようなもんだぞ。

しかもよく見ると、建物のデザインが、俺がノートの隅に落書きした『ダーク・フォートレス』にそっくりだ。

やめろ。俺の落書きを建築基準法無視で再現するな。

 

「しかも、見ろあの行列を」

 

エリスが指差す先には、建物をぐるりと囲む長蛇の列。

 

「邪神様にお会いしたい!」

「あのマスクこそ救済の象徴!」

「入信希望です! 貢物はチョコパイでいいですか!?」

 

チョコパイの需要が爆上がりしてる……。

 

俺が頭を抱えていると、黒いローブの集団が駆け寄ってきた。

先頭はもちろん、ガリウスだ。

 

「おお! お待ちしておりました邪神様! ご覧ください、この威容を!」

 

「ガリウス。……解体しろ、今すぐに」

 

「ええっ!? なぜでございますか!? この棘など、邪神様の『他者を寄せ付けぬ孤高』を表現しており……」

 

「物理的に危ないんだよ! 子供が転んで刺さったらどうすんだ!」

 

「!!」

 

ガリウスの顔が青ざめた。

 

「な、なんということ……! 私としたことが、民の安全を蔑ろに……!」

 

ガリウスがその場に膝をつき、深々と頭を下げた。

 

「申し訳ございません! 邪神様の御心を理解せず、形ばかりを追い求めた愚か者……すぐに棘を撤去し、安全な装飾へと改修いたします!」

 

「お、おう……」

 

ガリウスの反省の早さに、俺は少したじろいだ。

 

「ただ……!」

 

ガリウスが涙目で俺にすがりついてきた。

 

「取り壊しだけは! 取り壊しだけはどうかご容赦を! この建物は、信者たちが心血を注いで建てたもの……彼らの信仰の証でございます!」

 

「わ、分かった分かった! 解体は撤回だ!」

 

俺は慌てて答えた。

確かに、言い過ぎたかもしれない。

建物自体は……まあ、趣味は悪いが、信者たちの善意で建てられたものだ。

それを頭ごなしに否定するのは、さすがに酷だろう。

 

「おおおおおッ!!」

 

ガリウスはその場にひれ伏し、石畳に額をこすりつけんばかりに慟哭した。

 

「なんという慈悲……! なんという海よりも深い御心……! 愚かな私の暴走さえも許し、あまつさえこの建物を認めて下さるとは……! 一生ついていきます、邪神様ァァァ!!」

 

「顔を上げろ! 公衆の面前で地面とディープキスすんな!」

 

俺はドン引きした。信仰の重さが物理的に重い。

 

「ありがたき幸せ! 建物の存続が決まったところで、活動資金の柱となる『物販』も安泰でございますな!」

 

「……は? ぶっぱん?」

 

聞き捨てならない単語が出た。

 

「ええ! 地上1階から3階までは、教団の活動資金を稼ぐための『聖域』となっております! 1階は土産物、2階はアパレル、3階はコラボカフェ……」

 

「ただのショッピングモールじゃねえか!! 本部機能はどうしたんだよ!」

 

「ご安心を。中枢機能はすべて地下にございます」

 

ガリウスが不敵に笑った。

 

「地下1階は信者たちの居住区。地下2階は作戦司令室。そして地下3階には、最重要機密を保管する『禁断の書庫』を設けておりまして……」

 

「地下!? 王都の地盤をなんだと思ってんだ! アリの巣かお前らは!」

 

俺は食い気味にツッコんだ。

 

「お、お待ちくだされ! 地下3階の『禁断の書庫』にこそ、我が教団の魂とも言える秘宝が眠っているのです!」

 

なんだろう。嫌な予感がする。

 

「信者限定販売の『邪神様オフショット写真集(ガリウス隠し撮り)』で……」

 

「解体だ! 今すぐ地盤ごと爆破しろ!!」

 

俺は即座に前言撤回した。

いつの間に撮ったんだ。肖像権とかプライバシーとかないのかこの爺さんは!

 

「ええっ!? なぜでございますか!? 邪神様の麗しき御姿を、あまねく世界へ広めるために……」

 

「おいループしてるじゃねぇかいい加減にしろ!!」

 

俺がブチ切れ、ガリウスの胸ぐらを掴もうとした、その時だった。

 

ザッ……。

 

突然、群衆が静まり返った。

通りがモーゼの海のように割れる。

 

「……来たぞ」

 

エリスが声を低くする。

『聖光教会』のお出ましだ。

 

通りの向こうからやってきたのは、白銀の鎧に白マントを羽織った一団。

教会の私兵、聖殿騎士団だ。

そしてその中心に、一際目立つ豪奢な法衣を纏った少女がいた。

 

金髪碧眼。透き通るような白い肌。

手には身の丈を超える巨大な杖…というより、もう巨大なメイスだ。

 

俺は息を呑んだ。

 

知っている。あのキャラは、この物語のヒロインの一人。聖女ルミナ。

俺の設定では『慈愛の化身』であり主人公カイの幼馴染、悲劇的な死を遂げる運命にあるキャラだ。

 

(ルミナ……。よかった、元気そうじゃないか)

 

俺は少しホッとした。彼女が生きてそこにいる。

それだけで、俺が転生した意味があるというものだ。

きっと彼女なら、話し合えば分かってくれるはずだ。

 

(……しかしあんなメイス、ルミナの設定にあったか…?)

 

俺はふと眉をひそめた。

妙な既視感がある。

どこかで見たことがあるような——いや、『書いた』ことがあるような。

 

(……いや、今は武器のことよりルミナだ)

 

俺は思考を切り替えた。まずは対話だ。

 

ルミナが、俺たちの前で足を止めた。静寂が支配する。

彼女は美しい青い瞳で、俺を見下ろし、鈴を転がすような声で言った。

 

「見つけましたわ」

 

「……はじめまして、聖女殿。我は……」

 

俺が挨拶をしようとした、その瞬間。

 

ブォンッ!!

 

ルミナが巨大なメイスを片手で振り回し、石畳に叩きつけた。

 

ドゴォォォォォン!!

 

爆音と共に、地面がクレーター状に陥没する。

 

「え?」

 

俺は固まった。ガリウスも、信者たちも、エリスさえも固まった。

ルミナは陥没した地面からメイスを引き抜き、満面の——狂気的な笑みを浮かべた。

 

「あなたが邪神ですね? 問答無用! 神の鉄槌を受けて滅びなさい!!」

 

「はあああああ!?」

 

俺は叫んだ。慈愛の化身? どこの誰の話だ!?

目の前にいるのは、どう見てもバーサーカーだ!

 

「ま、待て! 話せば分かる!」

 

「問答無用と言いましたわ! 邪悪な存在は、お話する価値もありません! 消毒です! 物理的な消毒こそが救済です!」

 

ルミナがメイスを構えて突っ込んでくる。

速い。ドレス姿とは思えない機動力だ。

狙いは俺の首。

だがイムーバブル・ロード(不動の王)が発動して避けられない!

 

「させるかッ!!」

 

横合いから銀閃が走った。

エリスだ。彼女は俺の前に割って入り、その剛撃を剣で受け止めた。

 

ガキィン!!

 

金属音が響き、エリスが後方へ弾き飛ばされた。

 

「くっ……受け流せない…! なんだこの怪力は!?」

 

エリスの足が石畳を削る。

完全に防御態勢だったにも関わらず、エリスの顔が苦痛に歪む。

 

「あら、騎士団の副団長様。異教徒に味方するとは嘆かわしい。あなたも『異端認定』しますわよ?」

 

「ルミナ様! お待ちください!」

 

エリスは痺れる手を叱咤し、剣を構え直して叫んだ。

 

「この者は、王国が認めた『名誉騎士』です! いくら貴方でも、問答無用で斬り捨てるなど、法が許しません!」

 

「法…? あら、エリス様」

 

ルミナが冷ややかに微笑んだ。

 

「神の御心は、法よりも上位にあります。邪魔をするなら、あなたも『浄化』しますわ」

 

ルミナがメイスを振り上げた。

 

ズドォォォン!!

 

轟音。

 

だが、エリスは潰れていなかった。

彼女の背後から飛び出した巨大な影が、ルミナのメイスを真正面から受け止めていたのだ。

 

『……ナカマ……イジメナイデ……』

 

「ジェノ君……!?」

 

エリスが目を見開く。

ジェノ君は、エリスの危機を察知し、自らの意思で飛び出していた。

 

「可愛らしいお人形。……壊し甲斐がありますわね!」

 

ルミナの目が怪しく輝く。

ジェノ君の鋼鉄の腕と、ルミナのメイスが火花を散らす。

 

『コノ人……アブナイ……』

 

ジェノ君の巨体が、ジリジリと押されていく。

嘘だろ、あのジェノ君が力負けしている!?

 

なんでだ!? なんでこんな脳筋キャラになってるんだ!?

設定では献身的なヒロインだったはず…。

俺は頭を抱えながら、黒歴史ノートに書いた設定を思い出していた。

 

『聖女ルミナ』

 

『備考:彼女の正義は太陽の如く、闇を照らし悪を溶かす。その信念は鋼鉄よりも固く、炎よりも熾烈に燃え上がる。愛する者を守るためならば、彼女の双腕は神の鉄槌と化し、いかなる障壁をも打ち砕くであろう』

 

(……これだァァァァァッ!!)

 

俺は絶望した。

 

(『鋼鉄よりも固い信念』……『炎よりも熾烈』……『神の鉄槌』……『障壁を打ち砕く』……!)

 

当時の俺は「揺るがない意志の強さ」を表現したつもりだったんだ!

比喩だ! メタファーなんだよ!

 

だが、世界はこれを「物理攻撃力特化型スキルツリー」として処理しやがったのか!?

 

しかも『愛する者を守るため』という条件が、カイへの執着と監視欲求に変換されている!

俺は呆然とする。その時、俺の背後から声がした。

 

「……ル、ルミナ…?」

 

振り返ると、そこにはカイが立っていた。

信じられないものを見る目でルミナを見つめている。

 

「カイ……?」

 

ルミナの動きが止まる。

二人の視線が交差する。幼馴染の再会。

本来なら感動的なシーンだ。

 

「カイ! 無事でしたのね!」

 

ルミナがジェノ君を弾き飛ばし、カイに駆け寄る。

 

「心配しましたわ! 行方不明になったと聞いて、私、毎晩神に祈りながらオークの巣を3つほど壊滅させて探していましたのよ!」

 

「……えっ」

 

カイが引いている。

ルミナはカイの両手を包み込み、潤んだ瞳で見つめた。

 

「カイ……。どうして私のそばから離れたのですか? あなたは弱いのだから、私が管理してあげると言ったでしょう?」

 

「ひっ……」

 

カイが青ざめる。

 

「あなたの食事も、睡眠も、交友関係も……すべて私が『正しく』導いてあげますわ。さあ、帰りましょう。こんな汚らわしい場所、すぐに浄化(爆破)して……」

 

「ま、待てルミナ!」

 

カイがルミナの手を振り払った。

そして、震える足で俺の前に立った。俺を庇うように。

 

「……この人は、邪神だけど……悪い人じゃないんだ」

 

「はい?」

 

ルミナの笑顔が凍りつく。

 

「俺を……鍛えてくれたし(崖から落とされたけど)。飯も食わせてくれたし(プリンだけど)。それに、本当は何だかんだ優しい人なんだ!」

 

カイ……。お前、いい奴だな。

ちょっと感動したぞ。

だが、ルミナの反応は違った。

彼女の美しい顔が、般若のように歪んでいく。

 

「……洗脳、ですね?」

 

「え?」

 

「可哀想なカイ。邪神の毒気に当てられて、心を操られているのですね? 大丈夫、すぐに解放してあげますわ」

 

ルミナがメイスを構え直す。

その身体から、黄金のオーラが噴き出した。

 

「洗脳を解くには、頭を強く殴るのが一番ですわ!!」

 

「「物理かよ!!」」

 

俺とカイの声が重なった。

ダメだ、話が通じない。慈愛(物理)救済(物理)

俺の書いた聖女は、カイの為なら浄化(爆破)も辞さないバーサーカーにジョブチェンジしていた。

 

「覚悟なさい邪神! 私の『愛』は、障害となるもの全てを粉砕する最強の力です!」

 

その瞳は、カイへの愛と、俺への殺意で完全に濁っていた。

やるしかない。

あんな風にしたのは、紛れもなく俺(作者)だ。

俺が責任を持って、彼女の暴走(設定)を止めなければならない。

 

俺は腹を括った。

 

「カイ! エリス! ジェノ君! 総員、戦闘配置!」

 

俺は声を張り上げた。

逃げるための戦いじゃない。これは、俺が歪めてしまった彼女を救うための戦いだ。

 

「あの暴走特急を止めるぞ!!」

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