エタった小説のラスボス邪神に転生したが、過去の俺の性癖が痛すぎて死にたい   作:超とんでもなくムッチリしたインコ

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ルミナとの真の和解回です


第12話 聖女の観察日記と、危険な好奇心

私はルミナ・フォン・ルクス。

 

聖光教会が誇る聖女。 神に仕え、民を導き、悪を討つ。

それが私の使命であり、誇りであり、生きる意味だった。

 

「……ふふ」

 

屋敷の庭に張ったテントの中。

私はひとり、粘りつくような甘い笑みを浮かべていた。

 

目の前には、一昨日から書き始めた『監視日記』

表紙には『邪悪なる存在の行動記録』と書いてある。

 

私は想い返すようにそっと、指先でページをめくった。

 

【監視1日目】

 

午前6時:

邪神、起床。

ベッドから這い出る様子は、まるで幼虫のよう。

寝ぼけた声で「あと5分…」と呟く。

考察:何らかの呪文?記録しておく。

 

午前7時:

邪神、朝食。

メニューはプリン。朝からプリン。

栄養バランスを無視した食生活に、思わず注意しそうになったが、監視に徹する。

考察:邪神の力の源は、まさか甘味…?

 

午前8時:

邪神、庭でゴーレムのジェノ君と会話。

「お前、花の水やり上手だな」と褒める。

ゴーレムが嬉しそうに震える。

考察:邪神が優しい? ……いや、これは忠誠度を管理するための飴と鞭に違いない。

 

午前9時:

邪神が指先にちょこんと闇の塊を作り、

「うーん……難しいな……」と唸る。

黒いモヤモヤがふにゃっと変形し、一瞬ウサギの形になってから消えた。

考察:なぜか指先で遊ぶような練習……?目的不明。油断ならない。

 

午前10時:

邪神、エリスにおんぶされて買い物へ。

「歩くの疲れた」と堂々と甘える。

エリスは呆れながらも、優しく背負っている。

考察:誇り高き騎士団副団長がなぜ? 強力な精神支配を疑う。

 

午前11時:

邪神、市場でチョコパイを爆買い。

店主は見慣れた光景と言わんばかりに笑っていた。

考察:邪神は「常連の子供」として認識されている?偽装工作?

 

「……おかしい」

 

私はペンを置いた。

邪神のはずだ。人類の敵のはずだ。

なのに、観察すればするほど――ただの「甘いもの好きな子供」にしか見えない。

 

いや、違う。

きっと、これは私を油断させるための演技だ。

そうに決まっている。

私は日記を抱きしめ、テントの外を覗いた。

 

 

【現在:午後2時】

 

屋敷のテラスでは、邪神がソファに寝転がってプリンを食べていた。

マスク越しにスプーンを口に運ぶ姿は、どこか不器用で……

 

「……っ」

 

いけない。

今「可愛い」と思いかけた。

 

私は頭を振る。

邪神に可愛いなどあるはずがない。

あれは仮面だ。演技だ。

 

その時、気配を感じた。リナだ。

エリスの妹である彼女が、ジョウロを持って庭に出てきたのだ。

 

リナと目が合った。

私は努めて優しく、聖女としての慈愛を込めて微笑もうとした。

 

「ごきげんよう、リナ様」

 

「……!」

 

リナは私の顔を見た瞬間、何も言わず、顔を強張らせた。

ジョウロを取り落とし、ダッ!と駆け出す。

花壇の手入れをしていたジェノ君の背後に滑り込み、私の視線から逃げるように隠れてしまった。

 

鋼鉄の足にしがみつき、じっとこちらの様子を伺っている。

怯えきった小動物のような目。

 

『……アブナイ人……』

 

ジェノ君が、赤い目を光らせて私を威嚇する。

 

「……ごめんなさい……」

 

私は視線を落としながらそっと、足早に立ち去った。

やはり、昨日の戦闘で見せた「暴力」がトラウマになっているのだろうか。

それはそうだ、あれだけエリスやジェノ君を痛めつけたのだから。

 

「怖がられても、仕方ありませんわね……」

 

私は小さく溜め息をつき、テントの影に身を隠した。

胸の奥が、チクリと痛む。

 

「あー……こほん。……飲むか?」

 

不意に声をかけられた。

振り返ると、カイが湯気の立つマグカップを持っていた。

黒いコートを風になびかせ、片手でカップを差し出している。

 

「カイ……。ありがとうございます……」

 

私は受け取る。温かい紅茶だ。

カイはコートの裾をバサリと払って、私の隣――テントの入り口に腰を下ろした。

 

「フッ……。深淵を覗き続けるには、安らぎも必要だからな」

 

「はい……そうですわね」

 

カイはどこか楽しげに鼻を鳴らした。

 

「師匠はな、面倒くさがり屋で、適当な奴なんだ」

 

カイがテラスの邪神を見ながら言う。

 

「でも、花を見て『きれいだな』って言ったり、エリスさんの作ったプリン、『うまい』って何回も言って食ってたり……」

 

「え……?」

 

「まあなんと言うか……そんなフツーな一面もあんだよ」

 

「……そう、ですわね」

 

私は曖昧に頷いた。

だから仲良く? 私と、邪神が?

ありえない。私は監視しているのだ。敵を見張っているのだ。

 

「そういや……リナは」

 

カイが、ジェノ君の影に隠れている少女に視線をやった。

 

「師匠に治療してもらって、すっかり元気になったって喜んでたんだ」

 

「え……?」

 

私はリナを見た。

確かに、顔色はとても良い。病弱な様子は微塵も感じられない。

 

「確か……『魔力不全症』とか」

 

私は息を呑んだ。

教会の秘術をもってしても救えぬ業病。

魔力不全症。私ですら、進行を遅らせることしかできない業病だ。

それを完治させた?

 

(……あの邪神は、一体何者なのですか?)

 

その実態は底が知れない。

やはり、油断はできない。

 

 

【夕方:午後5時】

 

夕食の時間。

私はテントで、持参した乾パンを齧っていた。

 

――カリ……ッ。

 

その音だけがやけに大きく響く。

味気ない。だが、監視中なのだ。贅沢は敵だ。

 

「おい、ルミナ」

 

テントの外から声がした。

邪神だ。

私は慌てて乾パンを隠し、警戒しながらテントの入り口を開けた。

 

「……何ですか」

 

邪神は、お盆を持っていた。

その上には、湯気を立てる温かいシチューと、ふわふわのパン。

 

「お前、乾パンって……。体壊すぞ、これ食え」

 

「……監視中ですので、敵からの施しは受けませんわ」

 

「施しじゃねえよ。お前が栄養失調で倒れたら、カイがまた『俺のせいだ』とか言って落ち込むだろ。面倒くせえ」

 

邪神は強引に、お盆をテントの入り口に置いた。

 

「食え。冷めないうちにな」

 

そう言って、邪神は去っていった。

私は、残されたお盆を見つめる。

 

温かいシチュー。

ふわふわのパン。

そして――小さなメモがあった。

 

『リナがつくったの。のこさないでね』

 

たどたどしい文字。

あんなに私を怖がっていた子が?

 

「……っ」

 

いや、違う。きっと、私を懐柔するための策略だ。

邪神がリナを利用して、私を油断させようとしているのだ。

 

そう思いながらも、私はシチューを一口飲んだ。

野菜の甘味が、口いっぱいに広がる。

 

「……美味しい」

 

なぜか、涙が出そうになった。

 

 

【監視2日目】

 

午後1時:

邪神、食事を差し入れ。

理由は「カイが心配するから」

考察:邪神は、カイを人質のように扱っている?それとも……本当に心配している?

 

午後2時:

邪神、カイに指導。

「こうやって闇をまとめる」

邪神の指先で小さく渦を巻く。まるで黒い綿あめだ。

カイは「くっ……深淵が視える……!」と感動している。

考察:邪神は、カイを「駒」として育てている? それとも……「弟子」として?

 

午後3時:

邪神、ジェノ君と庭で花の手入れ。

「この花、明日咲くかな」と呟く。

ジェノ君が『タノシミ』と応答。

考察:邪神が、花を楽しみにしている? ……邪神なのに?

 

【夜:午後10時】

 

私は、テントの中で日記を書いていた。

 

「……分からない」

 

呟く。

 

あの邪神は、一体何者なのか。

 

悪なのか。善なのか。

それとも、その両方なのか。

 

「私は……なぜ、こんなに気になっているの?」

 

その時、テントの外から、小さな音が聞こえた。

 

ガサッ。

 

私はペンを置き、警戒してテントの入り口を開けた。

 

そこには――

 

邪神が立っていた。

夜風に銀髪を揺らし、こちらを見ている。

 

「……な、何ですか」

 

私は思わず声を上げた。

 

「あ、いや……お前、まだ起きてたのかと思って」

 

邪神が、バツの悪そうに頭をかく。

 

「テント、寒くないか?毛布、持ってきたんだが」

 

邪神の手には、ふわふわの毛布が抱えられていた。

 

「……っ」

 

私は、言葉が出なかった。

邪神は毛布を、押しつけてきた。

 

「じゃあな。風邪ひくなよ」

 

そう言って、去ろうとする。

 

「待ってください」

 

私は、反射的に声をかけていた。

邪神が振り返る。

 

「…なんだ?」

 

「あ、あの……」

 

言葉が出ない。

私は何を言おうとしているのか。

お礼? それとも――

 

「……貴方は、なぜ私に優しくするのですか?」

 

「ん?」

 

邪神が首を傾げる。

 

「私は、貴方を監視しているのですよ? 敵なのですよ?」

 

「知ってるよ」

 

邪神はあっさりと答えた。

 

「でも、お前、別に攻撃してこないだろ? だったら、普通に接するだけだ」

 

「普通に……?」

 

「ああ。お前も、ここにいる以上は『同居人』だ。飯食わせて、寝床を整えるのは当たり前だろ」

 

邪神は、マスクの位置を直した。

 

「それにお前、カイのこと心配してんだろ? 敵っていうより……まあ、ちょっと過保護で空回りしてる幼馴染にしか見えねえしよ」

 

「かっ、過保護!?」

 

私は顔を赤くした。

 

「違います!私はただ、カイを正しく導こうと……!」

 

「ああ、そうだな」

 

邪神は笑った。

マスク越しでも、笑っているのが分かった。

 

「おやすみ、ルミナ」

 

そう言って、邪神は屋敷の中へ消えていった。

私は、その背中を見送った。

 

そして――毛布を手に取った。

 

ふわふわで、温かい。

ほのかに、甘いお菓子の匂いがした。

 

「……っ」

 

私は、毛布を抱きしめた。

そして、テントの中に戻り、日記を開いた。

 

 

【監視2日目・深夜】

 

午後10時:

邪神、私に毛布を差し入れ。

理由は「風邪をひくな」

考察:これは……優しさ?それとも……

 

私はペンを止めた。

そして、日記の隅に、小さく書いた。

 

あのマスクの下、どうなっているのだろう。

 

書いた瞬間、私は慌ててその文字を消そうとした。

だが、インクは消えない。

 

「……いけない」

 

私は顔を両手で覆った。

 

これは、危険だ。

 

私は、邪神に――

 

「……興味を持ってしまっている」

 

私は毛布に包まれながら、胸の奥のざわつき抑えようとした。

しかし邪神の声が、頭の中でよみがえる。

 

『おやすみ、ルミナ』

 

「……っ」

 

私は、枕に顔を埋めた。

 

これは、監視だ。

敵を知るための、観察だ。

 

そう自分に言い聞かせながら――

 

私の心は、確かに揺れ始めていた。

 

 

【翌朝】

 

私は、少しだけ寝過ごしてしまった。

 

そして、テントの外に出ると――

 

邪神が、庭で花に水をやっていた。

朝日を浴びて、その小さな背中が光っている。

 

「おはよ、ルミナ」

 

邪神が、振り返って声をかけた。

 

「お、おはようございます……」

 

私は、どぎまぎしながら答えた。

 

「よく眠れたか?」

 

「え、ええ……毛布、ありがとうございました」

 

「おう」

 

邪神は、また花に水をやり始めた。

私は、その横に立った。

 

「……あの」

 

「ん?」

 

「私も……手伝っても、よろしいですか?」

 

邪神が多分、驚いた顔をした。

 

「いいぜ。ジョウロ、ジェノ君が持ってるから借りてきな」

 

「はい」

 

私は、ジェノ君からジョウロを受け取った。

ジェノ君は『オハヨウ』と機械音を鳴らしてくれた。

私は、少し遅れて返事をした。

 

「……おはようございます」

 

私は、邪神の隣で、花に水をやった。

 

沈黙。

 

だが、不思議と心地よい。

 

「……なぁ、ルミナ」

 

「はい?」

 

「お前、監視とか言ってるけど……もう少し、肩の力抜いたら?」

 

「え……?」

 

「ここにいる奴ら、みんな変わり者だ。お前も、その一人でいいんじゃねえの?」

 

邪神は、咲き始めた花を見ながら言った。

 

「監視じゃなくて、ただ……一緒にいればいい」

 

「……っ」

 

私の胸が、ドクンと鳴った。

 

一緒に、いる?

 

私と、邪神が?

 

「そ、そんな……私は、聖女で……」

 

「知ってるよ。でも、ここじゃ関係ねえだろ」

 

邪神は、立ち上がった。

 

「さて、朝飯だ。リナがパンケーキ作るって張り切ってたから、お前も来いよ」

 

「え、あ……」

 

「監視だろ?俺の食事内容も記録すんだろ?」

 

邪神は恐らく、にやりと笑っているだろう。

 

「……っ、そ、そうですわね!監視ですから!」

 

私は、慌てて後をついていった。

 

心の中では、もう分かっていた。

 

これは、監視なんかじゃない。

 

私は、ただ――

 

この不思議で、温かい場所(邪神の隣)に、いたいだけなのだ。

 

邪神は、危険だ。……私の心に、とても。




よし、堕ちたな
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