エタった小説のラスボス邪神に転生したが、過去の俺の性癖が痛すぎて死にたい 作:超とんでもなくムッチリしたインコ
朝。
小鳥のさえずりと共に目を覚ますと、目の前に顔があった。
「……おはようございます、邪神様。本日の起床時刻は7時12分ですね」
聖女ルミナだ。
ベッドの真横に椅子を置き、無表情で手帳にペンを走らせている。
「……おはよう。あのさ、プライバシーって言葉知ってるか?」
「監視対象に人権はありません。あ、今の『寝起きの不機嫌な顔』も記録しておきますね。……ふふ」
前回の和解(?)以降、彼女は監視という名目でこの屋敷に居座っている。
敵意は薄れたようだが、何故か妙に気に入られてしまった。
そのヤンデレ気質は悪化の一途を辿っている。
そんなこんなでリビングへ降りると、食卓が地獄の様相を呈していた。
「……なんだこれ」
皿に乗っているのは具のないスープと、硬そうなパンの耳。
スープは皿の底の模様がくっきり見えるほど透き通っており、ほぼ白湯だ。
囚人の食事だってもう少しマシだろう。
そこから漂うのは食欲をそそる香りではなく、圧倒的な哀愁だけだった。
「おいおい、いったいどうしたんだよ」
「教団本部の活動資金が嵩んでるそうでな……。すまん、私の給料が出るまで耐えてくれ」
エリスが眉間を押さえている。
「え? 教団って胡散臭い寄付金とか売り上げで潤ってなかったか?」
「申し訳ございません邪神様ァァァ!!」
ガリウスが土下座しながらスライディングしてきた。
「活動資金は先日の『大邪神像(プラチナ製)』の建立費で底をつき……!!」
「何を作ってんだお前は!!」
俺は叫んだ。金がない。
魔神を倒し、聖女を退け、世界を救ったというのに、俺たちは今、餓死の危機に瀕していた。
世知辛い。あまりにも世知辛い。
「ぐぅぅ〜……」
その絶望的な静寂を、盛大な腹の虫が切り裂いた。
「くっ……封じていたはずの
カイが腹を押さえてテーブルに突っ伏している。
見れば、奴の皿は既に空っぽだ。
具のないスープなど、一瞬で胃の中に蒸発したらしい。
「……はあ」
俺はため息をつき、懐から『チョコパイ』を取り出してカイに放った。
「食っとけ。とりあえずのカロリーだ」
「す、すまねぇ師匠! うめぇ……!」
がっつくカイを見て、エリスとルミナの視線も突き刺さる。
俺は全員分を取り出し、配ってやった。
一時的な糖分補給。
だが、根本的な解決にはならない。
「どうする? 冒険者ギルドで依頼でも受けるか?」
チョコパイを齧りながら提案すると、エリスが首を振った。
「『仮面の氷結処刑人』への依頼は殺到しているらしいが、今のアルテが表舞台に出れば、また騒ぎになる」
「じゃあどうしろと……。ところでリナはどこ行ったんだ? あいつの分もあるんだが」
俺がチョコパイを手に周囲を見渡した、その時だ。
「ねぇー、邪神さまー!」
タイミング良く、リナが地下室から顔を出した。
煤で少し顔を汚しているが、その表情は何かすごい発見をした冒険者のようだ。
「地下の倉庫をおそうじしてたら、へんな『お鍋』みつけたよ!」
「鍋?」
俺たちは顔を見合わせた。
この屋敷は元々、没落貴族の別荘だ。
金目のものはあらかた売り払われているはずだが。
俺たちが地下室へ降りると、埃を被ったガラクタの山の中に、異様な存在感を放つ物体が鎮座していた。
黄金色に輝く、巨大な釜。
側面には、口を大きく開けた悪魔の顔が彫刻されている。
そして、その悪魔の口には、厨二病全開のフォントでこう刻まれていた。
『汝の罪を喰らい、黄金を吐き出さん』
「うわぁ……」
エリスがドン引きした声を上げる。
カイだけが「か、カッコいい……!」と目を輝かせている。
俺は冷や汗を流した。
知っている。この釜を知っている。
これは俺が金に困らないためのご都合主義アイテムとして設定し、そして設定が強すぎてバランス崩壊するからという理由でボツにした――
『
「こ、これは伝説の……!」
ガリウスが震える。
「不用品を入れると金になるという、夢の錬金釜では!?」
「……ああ、そうだ」
俺は重々しく頷いた。
「だが、ただの不用品じゃダメだ。こいつの燃料は……持ち主の『心の闇』だ」
「心の、闇……?」
「そうだ。こいつに向かって、誰にも言えない恥ずかしい秘密を暴露する。……その羞恥心の闇を、黄金に変換するんだ」
全員が沈黙した。
なんという悪趣味なアイテムだ。当時の俺の性格の悪さが滲み出ている。
「しかし……このままでは教団も破綻し、皆様も飢えてしまいます」
ルミナが真面目な顔で言った。
「背に腹は代えられませんわ」
「……うむ、やるしかないか」
エリスが覚悟を決める。
こうして、地獄の「告白大会」が幕を開けた。
【第一の挑戦者:ガリウス】
「では、まずは私が!」
ガリウスが釜の前に立つ。
「えー、実は私……寝る時におしゃぶりがないと眠れません!」
シーン……。
釜は無反応だ。
「……銅貨一枚か」
俺が釜の底から出てきた硬貨を拾い上げる。
「ガリウス、それは周知の事実だ。恥じらいが足りない」
「周知ですと!? そ、そんなぁ!」
【第二の挑戦者:エリス】
「……私がやる」
エリスが前に出る。顔が赤い。
「私は……実は……可愛いぬいぐるみが大好きだ! 部屋にクマさんのぬいぐるみを隠し持っている!」
ボロン、ボロン。
銀貨が数枚出てきた。
「……可愛いな、おい」
「う、うるさい! うぅ、副団長としての威厳が……!」
エリスが顔を覆ってしゃがみ込む。
だが、これでは今日の夕飯代にもならない。
【第三の挑戦者:カイ】
「どけ! 俺がやるっ!」
カイが自信満々に前に出た。
「俺の秘密……それは、この右腕に封印された『黒竜』の力……!」
釜がカタカタと震える。
『……証明せよ』
無機質な声が響いた。
「えっ?」
『その包帯を解き、右腕の真実を晒せ』
「なっ……!?」
カイの顔色が青ざめる。
「ま、待ってくれ! これを解けば、闇の力が暴走して……!」
『晒せ』
カイは震える手で、右腕の包帯に手をかけた。
全員が固唾を飲んで見守る。
包帯が解かれる。
現れたのは――
ただの、ちょっと肌荒れした細い腕だった。
「…………」
「……かぶれてるな、包帯のせいで」
俺がボソッと言った。
「うわああああああ!!見ないでくれぇぇぇぇ!!」
カイが泣き崩れて床を転げ回る。
そのたうち回る姿に呼応して、釜から大量の銀貨が噴き出した。
「おっ! なかなかの高得点だな!」
「カイ……」
ルミナが憐れみの目を向けている。
【第四の挑戦者:ルミナ】
「……次は、私ですわね」
ルミナが前に進み出る。
彼女は俺を警戒している。ここで弱みを見せるのは不本意だろう。
だが、彼女は懐から一冊の手帳を取り出した。
「これは……私が毎日つけている『監視日記』です」
『朗読せよ』
釜が命じる。
「……×月×日。邪神の寝顔を確認。……まるで堕ちた天使のようだった」
最初は普通の観察記録かと思われた。
だが、雲行きが怪しくなるのは一瞬だった。
「……あの無防備な寝顔。邪神という名の重荷を背負った、哀れな子羊。 いっそのこと、手足を封じ、言葉も奪い、私の介護なしでは生きられないようにしてあげるのが、彼女にとっての幸せなのではないか? 朝も、夜も、全て私が管理する。 嫌がる彼女に『私がいなきゃダメですのよ』と耳元で囁き続け……堕落させてみたい。 ……あぁ、想像しただけで……」
「監視の皮かぶった変態ポエムじゃねぇか!!」
俺はツッコミを入れた。
「ち、違いますわ! これは文学的な比喩表現で……!」
ルミナが涙目で叫ぶ。
ジャラ!
釜が激しく振動し、金貨の山を吐き出した。
「おお……! かなりの額になりましたぞ!」
ガリウスが金貨をかき集める。
ルミナは真っ赤になってへたり込んだ。
その姿を見て、俺たちの中に奇妙な連帯感が生まれていた。
互いの恥部を晒し合った者同士の、奇妙な絆だ。
「……よし。最後は俺だな」
俺が立ち上がろうとした、その時だった。
「待って! 次はリナがやります!」
元気な声が響いた。
リナが口の周りにチョコパイの食べかすをつけたまま、ピンと手を挙げている。
「リナ!? だめだ、お前にそんな穢れた真似はさせられん!」
エリスが血相を変えて止めた。
当然だ。この釜は「心の闇」をエネルギーにする。
こんな純真無垢な幼女に、晒すべき闇などあるはずがないのだ。
「でも、リナだって、皆と一緒に邪神さまの役に立ちたいもん!」
リナはぷくーっと頬を膨らませた。
「チョコパイ食べて元気いっぱいだし、がんばるもん!」
「うぐっ……」
その健気さに、エリスが言葉を詰まらせる。
俺は胸を撃ち抜かれていた。 なんてこった。
欲と恥にまみれたこの屋敷において、こいつだけが唯一の「天使」かもしれない。
「……やらせてやれ、エリス。リナの気が済むようにな」
「し、しかしだな……」
「大丈夫だ。どうせ釜は反応しない」
俺の小声に、エリスも渋々引き下がった。
リナがトテトテと釜の前に立つ。
【第五の挑戦者:リナ】
「えっと、リナの秘密は……」
リナがモジモジと指を合わせる。
そして、意を決したように顔を上げた。
「実は……邪神さまがソファでうたた寝してる時……こっそり頭を撫でて『いいこ、いいこ』ってしてます!」
釜が静まり返る。
「邪神さまが寝てる時、たまに眉間にシワ寄ってるから……怖い夢、飛んでいけーって。……偉そうなことして、ごめんなさい!」
リナが顔を真っ赤にしてペコリと頭を下げた。
時が止まった。 なんだ、ただの天使か。
俺がうなされている時、まさかこの小さな手に癒やされていたとは。
当然、そんなただの良い話で悪魔の釜が動くはずが――
チャリン。
間の抜けた、軽い金属音が響いた。
釜の排出口から、小さなコインがたった一枚、転がり出てくる。
「……なんだ、銅貨か?」
俺が拾い上げようと覗き込む。
ガリウスと同じ、最低ランクの評価。
あんな純粋な告白、判定対象外で当然。
むしろ銅貨でも大したもんだ――
そう思った瞬間、俺は目を疑った。
そのコインは、薄暗い地下室の中で、鈍くも確かな黄金の輝きを放っていたのだ。
「……は?」
俺は震える手でそれを拾い上げた。
銅じゃない。 正真正銘の。
「金貨だ……!?」
「ええっ!?」
全員が驚愕の声を上げる。
釜が無機質ながら震えた声で答えた。
『尊い……(浄化)』
「お前、感情あったのかよ!!」
あまりのピュアさにほっこりして金貨出しやがった。
「わあ! キラキラしてる! 邪神さま、これ使える?」
リナが無邪気に首を傾げている。
俺は金貨を握りしめ、リナの頭をガシガシと撫でた。
「ああ……。使えるなんてもんじゃない。大手柄だ」
「えへへ、本当?」
「本当だとも。これ一枚あれば、今夜はステーキもケーキも食える。お前が俺たちを餓死から救ったんだ」
「やったぁ! リナ、みんなを救った!」
リナがぴょんぴょんと飛び跳ねて喜ぶ。
その眩しい姿を見て、俺とエリスは顔を見合わせた。
「……勝てないな、これは」
「ああ……。私たちの『闇』など、あの純白の前では霞んでしまうな」
ただ、眩しい。ただ、救われる。
完敗だ。
「……お、お待ちくだされ……!」
ガリウスが泣きながら這い寄ってきた。
「私の……『おしゃぶりがないと眠れない』という命がけの告白が銅貨一枚で……リナ殿の『いいこいいこ』が金貨……?」
ガリウスが虚空を見つめ、そっと頬を濡らす。
「……リナ殿に、負けた……?」
「諦めろガリウス。それが『徳』の差だ」
俺は非情な現実を突きつけ、ガリウスの肩をポンと叩いた。
【第五の挑戦者:
「……よし。最後は俺だな」
俺は立ち上がった。
リナの光によって温まった空気を、再び俺の闇で塗り替える。
作者として、そして邪神として。 自身の尊厳を換金する覚悟を決めたのだ。
次回はさらに好き嫌い分かれるかもしれない、見捨てないでくれ