エタった小説のラスボス邪神に転生したが、過去の俺の性癖が痛すぎて死にたい 作:超とんでもなくムッチリしたインコ
俺は『強欲の錬金釜』の前に立った。
これまでの稼ぎで、当面はなんとかなる。
だが、今後の活動資金を考えれば、ここで一発デカいのが欲しい。
俺が覚悟を決めて口を開こうとした、その時だった。
『条件達成。総羞恥エネルギーが規定値を超過』
釜から無機質な声が響いた。
次の瞬間、釜の「悪魔の顔」がグニャリと歪み、超ハイテンションな実況ボイスに切り替わった。
『イェエエエエイ!! お待たせしました魔界の諸君!』
「はっ?」
『ここからはボーナスタイム! 特別企画『邪神ちゃん黒歴史コスプレ・ガチャ ~深淵からの生配信~』のお時間だァァァ!!』
ブォン!!
釜の煙が空中に広がり、巨大なホログラムスクリーンを形成した。
そこに映し出されているのは、俺たちの姿と……滝のように流れる、おぞましい数のコメント…?
【視聴者数:666,666人(急上昇中)】
『キタアアアアアア!邪神サマ降臨!!』
『我、深淵ヨリ待機セリ』
『目玉5個に増やして全アングル同時視聴』
『供物の準備はできているぞ』
『魔界の第7階層から視聴中』
「な、なんだこれ!?」
俺は絶叫した。
文字化けした異様な言語が、脳内に直接意味として流れ込んでくる!
「こ、これは……伝説の魔界通信網『アビス・チューブ』!?」
ガリウスが震える。
「邪神様がかつて『全魔族と意思疎通するために作った』とされる禁断の魔導具!」
(書いたァァァァ!! 「配信ものやったらウケるんじゃね?」って魔が差して書いた設定だ!)
『ルールは簡単! 邪神ちゃんが黒歴史を叫ぶたびにガチャが回転! 出た衣装を強制装備! 視聴者の貢ぎ物(スパチャ)が目標額に達すればクリアだ! いくぞオラァ!!』
「ふざけんな! 誰がやるか!」
俺は逃げようとした。 だが、足が動かない。
『不動の王』じゃない。
『配信者の性』という謎の力が俺を縛り付ける!
『はい一回目! 魔界の同志諸君、まずは軽いジャブだ! お題は『お前が書いた夢小説のタイトルを叫べ!』』
「やめろォォォォ!!」
俺の口が勝手に動く。
システムによる強制執行だ。
「《……隻眼の堕天使と、黄金の聖騎士の禁断ラブ・ウォーズ ~世界を敵に回しても、キミの
俺は白目を剥きかけた。 死にたい。
ドロロロロ……ッ!
釜から漆黒の粘液が噴出し、俺の体を包み込む。
触手のように蠢く闇が、俺のゴシックドレスを侵食し、形を変えていく。
だが、闇が晴れた後に現れたのは――
純白のエプロンと、膝上20センチの超ミニスカート、オーバーニー。
背中には堕天の証、黒い羽。邪神メイド Ver.だ。
『オーバーニー! オーバーニー!』
『邪神メイド…尊すぎて俺の存在が消滅しかけてる』
『我が一族の全財産を捧げる』
『クッ……我ノ寿命ガ…100年縮ム…ダガ……投ゲル!!』
『【100ソウル】が投げられました』
「投げ銭感覚でソウル(魂)投げるな!」
チャリンチャリンチャリン!!
釜から金貨と銀貨が滝のように溢れ出す。
ソウルは金貨に変換されているようだ。
「す、すげぇよ、あんた……!」
カイが目を輝かせて俺を見ている。
「『羞恥』すらも力に変え、悪魔に貢がせるなんて…これが邪神ってやつか……!!」
違う。ただの公開処刑だ。
「美しい……!!」
ガリウスが号泣しながらスケッチブックを広げた。
「これこそ我らが主の真の姿!! 聖画にしますううう!!」
エリスだけが、腕を組んで冷たい目で見ている。
「……見るに堪えないぞ」
助けてくれエリス。お前だけが良心だ。
『まだまだ行くぞ! 視聴者の欲望(リクエスト)が止まらない! 二回目! お題は『ダークネス・ハグの詠唱をメイド口調で!』』
「鬼か! 悪魔か! あ、悪魔だったわこの釜!」
拒否権はない。
俺は涙目で、スカートの端を摘んでカーテシーをした。
「《わ、わたくしのお膝で……お眠りになられますか、ご主人様……? 漆黒の抱擁を……どうぞぉ……♡》」
(死にたい死にたい死にたい死にたい)
ズズズズ……!
闇の触手が俺の頭と腰に絡みつく。
強制追加装備ドン!
猫耳カチューシャ+首輪(鈴付き)+尻尾(電動機能付き)!
尻尾が勝手に左右に振れる。
『我、興奮ノ 余リ 分裂 シテキタゾ(現在5人)』
『お、おれも友達の魂10個集めてきた!』
『邪神ちゃんの「ご主人様♡」で心臓が3つ爆発した。残り7つもヤバい』
『尊すぎて骨しかないけど鳥肌立った』
『眷属100体の魂を一括捧納。もっとスカートめくれろ』
(分裂するな! 友達の魂捧げるな!! なんだこいつら!?)
コメント欄が加速しすぎて、読み切れないほどだ。
釜から溢れる金貨が、俺の足元まで埋め尽くす。
「カイ! こんな卑猥な邪神様、見ちゃダメです!」
ルミナがカイの目を手で覆う。
だが、ルミナ自身がガン見していた。
「……猫耳。ふむ、破壊的ですね。……(懐から財布を取り出し、金貨を投げ入れる)」
「お前も投げるんかい!!」
『はいラストスパート! 視聴者90万人突破!はい、 最後の黒歴史を叫べー!!』
もうどうにでもなれ。
俺の中の何かがプツンと切れた。
羞恥心? 尊厳? そんなものは、あの金貨の山と一緒に溶かしてやる。
俺はカメラ(釜)に向かって、破れかぶれの笑顔で叫んだ。
「《混沌の闇より出でし……絶望の慟哭よ! 我が右腕の疼きと共に……世界を……も、萌え上がらせろぉぉぉ……♡》」
俺はハートマークを描き、なりふり構わず腰をくねらせた。
膝上20センチのミニスカートを、もはやパンツが見えても構わんという勢いで翻し、あざとさ全開の上目遣いでカメラを撃ち抜く!
魂を削った、捨て身のアイドルポーズだ!
カッ!!!!
世界が光に包まれる。
『世界征服諦めた。平和主義者になる』
『残りの心臓7つも爆発した』
『ヌォオオオ!! 興奮シスギテ 分裂 ガ 止マラン!!(現在666人)』
『【5000ソウル】アアアアアアアアアッッ!!!(脳が退化)』
ドゴォォォォン!!
釜が限界突破し、純金の延べ棒が噴水のように吹き上がった。
地下室の床が抜けるほどの質量。
もはや金策どころではない。国家予算レベルの富だ。
『 100万人達成!というわけで本日の収益、魔界滅亡レベル! 視聴者のみんな、また来週もやるからチャンネル登録よろしくー♡ 邪神ちゃん、次回は「スク水回」な!』
『スク水で「萌え上がらせろ♡」は不死身だけど即死しちゃう』
『眷属1000体の魂を前払い。次回スク水絶対見る権利主張』
プツン。
ホログラムが消えた。 静寂が戻る。
俺は金塊の山の上で大の字になり、空っぽの目で天井を見上げていた。
「……もう、何も怖くない」
俺は悟りの境地に達していた。
ここまでやれば、もう怖いものなどない。
今の俺ならどんな敵も、スク水でブレイクダンスを踊りながら倒せる気がする。
カイが震える声で言った。
「俺の一生の目標が決まった……。あんたを超えることだ……!」
(やめとけ。人間を捨てることになるぞ)
「これが……究極の御姿……!!」
ガリウスはあまりの尊さに気絶していた。
「……私はもう知らない。他人のフリをさせてもらう。行くぞ、リナ」
「えー、リナもっと見たかったのにー!」
「ダメだ。これ以上ここにいると教育に悪い」
エリスは完全に心を閉ざし、リナを小脇に抱えて階段を上っていく。
俺は天井を仰いだまま、金塊の冷たい感触を背中に感じていた。
莫大な活動資金。毎日のプリン代も心配ない。
「……でも、代償は大きかったな」
俺は遠い目をした。 全員の秘密がバレ、俺の尊厳は魔界全土のおもちゃにされた。
だが、不思議と空気は悪くなかった。
みんなで泥沼をのたうち回ったような、奇妙な連帯感がそこにはあった。
「まあ、お前らにも可愛いところがあるって分かったしな」
俺が言うと、ルミナがスカートの埃を払いながら微笑んだ。
「ええ。……皆様の秘密、しかと私の『監視記録』に追記させていただきましたわ」
「は?」
ルミナが懐からボイスレコーダーのような魔道具を取り出した。
「先程の告白大会、全て録音させていただきました。……特に邪神様の『萌え萌えワールド・エンド』は、永久保存版ですわね」
ピッ。
《も、萌え上がらせろぉぉぉ……♡》
魔道具から、俺の悲痛な叫び声が再生される。
ルミナはそれを耳元に当て、うっとりとした表情で目を閉じた。
「ああ……なんて心地よい響き。これを毎晩の子守唄にすれば、悪夢も甘い夢に変わりそうですわ……」
「お前、今すぐ消せよ!?」
「嫌ですわ。これが流出したら困るのは邪神様でしょう? ふふ、これで強力な『交渉カード』が手に入りました」
ルミナが悪魔のように笑う。
こいつこそ、聖女の皮を被った悪魔だ。
「くそっ……! 金は手に入ったが、弱みを握られた……!」
俺は頭を抱えた。 だが、まあいい。
少なくとも、この奇妙な共同生活は、もう少し続きそうだ。
その時、エリスが階段の上から顔を覗かせた。
手には、王家の紋章が入った封筒を持っている。 その表情は、さっきまでの呆れ顔から一転、騎士の険しい顔に戻っていた。
「おい、アルテ。……金儲けもいいが、現実に戻れ」
「なんだよ、藪から棒に」
「先ほど、王城から勅命が届いた。……以前、陛下から賜った『名誉騎士』としての、初仕事の依頼だ」
「仕事ぉ?」
俺は露骨に嫌な顔をした。
名誉職なんて、名前だけの飾りじゃないのかよ。
「内容は、『王都連続失踪事件』の極秘調査だ」
「失踪?」
俺の手が止まる。
「ああ。ここ数日、王都で貴族の子弟が次々と姿を消しているらしい。……共通点は一つ。全員が『王立学園』の生徒であることだ」
「学園……」
俺は眉をひそめた。
王立学園。本来なら、物語の「第3章」の舞台となる場所だ。
設定では、第3章が始まるのは、第2章の王都大火災から復興した一年後のはずだ。
まだ大火災(未遂だが)から一か月も経っていない。
それに人が消えるなんてオカルトミステリー、俺は書いていない。
第3章のヒロイン、アリス・リドル。
彼女は季節外れの転校生として現れ、第3章のクライマックスで精神が崩壊(闇堕ち)、学園を地獄に変える。
「人が消える」なんて、静かで不気味な現象じゃない。
(……なんだ? 何が起きている?)
俺は腕組みをして唸った。
時系列が一年も前倒しになっている?
俺の知らない未知の領域だ。これは放置するとマズい気がする。
だが、俺の介入がトリガーになって、アリスが暴走したら?
俺が動くことで、逆にバッドエンドを確定させてしまったら?
作者として、俺はこの世界の命運を握っている。
失敗すれば、取り返しがつかない。
その恐怖と責任の重さが、鉛のように胃にのしかかる。
誰かに相談したい。「どうすればいいと思う?」と聞きたい。
だが、言えるわけがない。俺は「作者」なのだから。
この孤独な恐怖は、俺一人で抱えるしかない。
「騎士団も手詰まりだ。そこでお前にも潜入してほしい。……無論、私も『臨時教師』として同行し、内部からサポートする」
「…………」
俺は言葉を失った。
腕組みをしたまま、深く俯く。
「……アルテ」
不意に、静かな声が降ってきた。
顔を上げると、エリスが真剣な眼差しで俺を見下ろしていた。 いつもの軽口ではない。俺の纏う、尋常ではない迷いの気配を感じ取った目だ。
「……随分と、難しい顔をしているな」
俺はポツリと、本音に近い言葉を漏らした。
「学園に巣食う『何か』は……俺の知る話とは違う。正直、底が見えん」
声は微かに震えていたかもしれない。
未知への恐怖。責任の重圧。 それが伝わったのだろう。
エリスは一瞬だけ驚いたように目を見開き、それから……フッと優しく微笑んだ。
「そうか。……お前がそこまで言うのなら、よほどの事態なのだろう」
エリスは深く追求しなかった。
俺が何に怯え、何を視ているのか。それを聞くことはせず、ただ真っ直ぐに俺を見た。
「だが……お前ならやれると信じている」
根拠のない、けれど力強い信頼。
それが今の俺には、何よりも重く、そして温かかった。
「それに、これだけの難事だ。……陛下も、相応の報いが必要だと仰っていたぞ」
エリスはそう言うと、懐から一枚の紙を取り出し、俺の目の前にそっと置いた。
「このくらいの『楽しみ』があれば、張り詰めた糸も少しは緩むんじゃないか?」
「……なんだ、これ」
俺は重い手を伸ばし、そのカタログを見た。
『王室専属パティシエ特製・幻の至高プリン "禁忌の
「なっ……」
俺は息を呑んだ。 エリスが、いたずらっぽく俺を見る。
それは物で釣るというよりは、「肩の力を抜け」という相棒としてのメッセージに見えた。
「お前……」
俺は震える手でカタログを握りしめた。
分かっている。 これはただのプリンだ。
世界の危機に比べれば、あまりに些細なことだ。
だが、今の押し潰されそうな俺には、この「日常的な救い」が、現実に踏みとどまるための
(……そうだな)
怖がって立ち止まっていても、シナリオは進む。
なら、進むしかない。 このプリンを皆と美味しく食べるために。
そんな不純な動機を燃料にしてでも、俺は足を踏み出さなきゃいけないんだ。
「くっ……! 王家めぇ、足元を見やがってぇ!」
俺はギリリと歯を噛み締めた。
恐怖が消えたわけじゃない。 だが、迷いは断ち切った。
「分かったよ。引き受けてやる」
俺はチョコパイを齧り、ニヤリと笑った。
その笑顔は、さっきまでの沈鬱なものとは違う。
覚悟を決めた、作者の顔だ。
「エリス。王家に伝えてくれ。『そのプリン、楽しみにしている』とな」
「……ああ。伝えておく」
エリスもまた、ホッとしたように微笑んだ。
その時だ。
「くく……俺の封じられた『黒竜』の力が疼くぜ……」
背後から、低く抑えた声が響く。
振り返ると、カイが右目を押さえ、ニヒルな笑みを浮かべてポーズを決めていた。
「…………」
その場にいた全員が、一瞬沈黙した。
俺とエリスは顔を見合わせ、それからカイを見る。
「あれっ、俺も行っちゃダメやつか……? その流れだと思ったんだが……」
カイが目に見えてしぼんでいく。
わかりやすく落ち込む姿に、俺は苦笑した。
「カイ、お前も来てくれるのか……?」
「当然だ! 俺はあんたを超えるって決めたんだからな!!」
俺が水を向けると、カイはパァッと顔を輝かせて復活した。
単純で助かる。だが、その純粋な熱意は頼もしかった。
「邪神様にカイも行くとなれば、私も同行しますわ。それに……」
ルミナが一歩前に進み出ると、ねっとりとした熱の籠った笑みを浮かべた。
「邪神様にも『借り』が作れますしね?」
その笑顔には若干の恐怖を覚えるが、ルミナの実力は折り紙付きだ。
恐怖に震えていた俺の背中を、こいつらが支えてくれている。
「頼むぞ……お前ら……」
俺は感動に打ち震えながら、頼もしい仲間たちの顔を見た。
これなら、未知のシナリオ改変にも立ち向かえるかもしれない。
俺は胸の奥が熱くなるのを感じた。
「……まったく。お人よしばかりだな」
そうぼやきつつも満更でもなさそうな表情で、話を締めに入る。
「手続き上、編入は来週からとなる。それまでに身分証や装備を整えねばな」
「来週か。……とりあえず明日は、街へ買い出しだな」
ん? いや、待て。
俺は改めて頼もしい仲間たちの顔を見た。
ストーカー気質の聖女。中二病全開の少年。そして怪しいマスクを付けた俺。
普通の学生としてデビュー出来るか?
(……無理ゲーすぎるだろ)
制服や道具の準備、そして何よりボロが出ないような口裏合わせ。
学園に行く前に、やるべきことは山積みだ。
こうして、俺たちの「学園潜入準備」が幕を開けることになった。