エタった小説のラスボス邪神に転生したが、過去の俺の性癖が痛すぎて死にたい   作:超とんでもなくムッチリしたインコ

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第17話 現代史と、中二病の王子様

「さあ、教室だ。……カイ、ルミナ。目的を忘れるなよ」

 

ガララ……。

 

俺が扉を開けると教室内の空気が一変した。

担任教師が教壇でビクッと震える。

 

その背後にはジャージ姿の女性が腕を組んで立っていた。

エリスだ。

 

「き、今日から転入してくる特待生たちだ。それと……臨時で赴任された体育教師の、エリス先生だ」

 

担任が震え声で紹介する。

エリスは無言で教室全体を見渡した。

 

「……エリスだ。今日からお前たちの体育を担当する」

 

その鋭い眼光にクラス全体がざわめいた。

 

「ルールは一つ。私の授業では手加減しない。怪我をしたくなければ、全力でついてこい」

 

エリスが竹刀の先で教卓を軽く叩く。

カンッ、という乾いた音が教室に響いた。

 

(安心感はある。圧もついでについてくるが)

 

俺は内心でツッコミを入れたが、エリスは涼しい顔で続ける。

 

「体育は午後だ。それまでに覚悟を決めておけ」

 

エリスがそう言うと、壁際へと移動した。

腕を組んで俺たちを見守る体勢に入る。

頼もしいがあの威圧感は少し抑えてほしいもんだ。

 

「では、転入生の自己紹介を……」

 

担任がおずおずと促す。

 

まずはカイだ。

奴は一歩前に出ると、黒板にチョークで『カイ・シュヴァルツ』と書き殴った。

筆圧が強すぎてチョークがバキッっと折れる。

 

「……カイだ。俺に関わるな。……俺の傍にいると、『闇』に飲まれるぞ」

 

カイは教室を見渡すと、わざとらしく右腕の包帯を左手で押さえた。

そして、ほんの少し口角を上げるのも忘れていない。

 

うん、通常運転(中二病)だ。キマった…!って(ツラ)してやがる。

仕方ない、俺がフォローしてやるか。

 

そう身構えた次の瞬間、教室がどよめいた。

 

「キャーッ! なにあのミステリアスな感じ!」

「素敵……影のある人って惹かれるわ」

 

(……は?)

 

俺は思わず真顔になった。

女子生徒たちの瞳がハートマークになっている。

 

逆に男子生徒たちは「けっ、気取りやがって」「ちっ、キザな野郎だ」と舌打ち交じりに睨んでいる。

 

(う、うそだろ……女子にウケてる……!?)

 

やってることはただの痛い厨二病だぞ!?

だが、この世界では「ミステリアスな影」として好意的に受け取られるのか、あるいは単にカイの顔面偏差値がすべてをねじ伏せたのか?

 

後方のエリスが、呆れたように小さくため息をついているのが見えた。

エリスと一瞬、視線が交わる。言葉はいらなかった。

 

「あー、その……次は」

 

担任が女子たちの黄色い声に押されつつ、ルミナを促した。

 

「はい」

 

ルミナが一歩前に出る。

完璧なカーテシーに清楚な微笑み。

 

男子生徒たちが「おおっ……」「美少女だ……」と色めき立つ。

よし、ルミナなら大丈夫だ。外面は完璧だからな。

 

「ルミナと申します。カイの幼馴染ですわ」

 

ルミナは鈴を転がすような声で挨拶した。

そして――格の違いを思い知らせるような、静かな圧で見渡した。

 

「……もし、カイに汚らわしい視線を向けたり、半径2メートル以内に近づく泥棒猫がいれば――神に代わって私が処理しますので、よろしくお願いしますね?」

 

女子生徒たちが小さな悲鳴を上げて身を引いた。

本能が、危険だと告げたのだ。

男子生徒たちの熱視線も一瞬で恐怖に変わった。

 

うん、こっちも通常運転(ヤンデレ)だな。

カイが奇跡的に稼いだ好感度を、秒速で叩き落としやがった。

 

エリスが顔を覆って首を横に振った。

こいつらダメだ……という顔をしている。

大丈夫だ、俺も同じ結論だ。

 

「えーと、最後は……」

 

担任が縋るような目で俺を見る。

 

(……よし。ここからが本番だ)

 

俺は小さく息を吸い込み、スイッチを切り替えた。

今の俺は病弱で健気な深窓の令嬢だ。

 

エリスはいつの間にか教壇の横に立ち、腕を組んだまま俺を見ている。

一瞬、視線が合った。

 

(……頼むぞ、エリス)

 

俺は一歩前に出ようとして――わざと、足をもつれさせた。

 

「あっ……」

 

フラリ。

 

「――危ない」

 

短く、低い声。

次の瞬間、エリスの腕が俺の体を支えていた。

 

「……大丈夫か」

 

「は、はい……。あ、ありがとうございます……」

 

そして俺は白いハンカチを口元に当てた。

 

「……こほっ、こほっ……」

 

俺は儚げに震えてみせる。

教室全体の空気が、一変した。

 

「だ、大丈夫か!?」

「ほ、保健室いく?」

 

クラスメイトたちが心配そうに立ち上がる。

俺は手を振って制し、潤んだ瞳で上目遣いにクラスを見渡した。

 

「は、はじめまして……。カイお兄様の妹、アルテ……と申します」

 

声を震わせ、か細く言う。

 

「生まれつき体が弱く……喉に病を抱えておりまして……」

 

俺はハンカチを握りしめ、深々と頭を下げた。

 

「お見苦しく思われるかもしれませんが……どうか、仲良くしていただけると嬉しいです……」

 

頭を下げたまま、数秒。

静寂が流れる。

 

そして――

 

「「「か、可愛い……ッ!!」」」

 

教室の空気が一変した。

 

「俺が教科書見せてやる!」

「俺は消しゴムを貸す!」

「いや、俺が消しゴムになる!」

 

庇護欲のオーラが充満する。

 

(よし、掴みはオッケーだ)

 

俺は内心でガッツポーズをした。

 

兄と幼馴染がアレな分、俺の可哀想な妹ポジションが際立つ。

エリスも威圧的なだけじゃない事を見せた。

これで結果オーライということにしておこう。

 

後方のエリスが、小さく笑っているのが見えた。

彼女は腕を組んだまま、静かに頷いている。

俺とエリスの間に、無言の信頼が流れた。

 

「えー……席は……一番後ろが空いているな。そこに座ってくれ」

 

担任が指差す。

 

俺たちは指定された席へと向かった。

それにしても、席にぽつぽつ空きがあるな。

 

エリスは壁際に立ったまま、クラス全体を見渡している。

その視線が一瞬だけ――教室の隅に座る、一人の少女に留まった。

 

右目を覆う、白い眼帯。

抱きしめた古びた魔導書。

そして、この世の不幸を一身に背負ったような、儚げな美少女。

 

(……『アリス・リドル』)

 

エリス達も、彼女に気づいたようだ。

俺は小さく目配せをする。

 

(見つけたぞ。退屈な授業を受けた後、接触せねば)

 

俺は席に着き、静かに授業の始まりを待った。

退屈な授業。そう思っていた俺を、逃れられぬ公開処刑が待ち受けていた。

 

 

一限目『歴史』

初老の教師が教科書を広げ、朗々と言った。

 

「さて、今日は『現代史』の重要単元だ。本来は来年度以降に扱う予定だった内容だが……先月、王都を襲った火災について、急遽補足する」

 

(……ん?)

 

俺は嫌な予感がして顔を上げた。

 

「現在、この件は歴史学会と魔導学会の双方で現代史に含めるべきか議論が続いているが……本校では先行して扱う」

 

(なに先行してんだ! 俺の黒歴史を教育に組み込むな!)

 

「王都に現れた炎の魔神。それを一撃で沈黙させたのが、救国の英雄『仮面の氷結処刑人』である」

 

クラス中が「おおーっ!」と沸いた。

 

おおーっ、じゃないだろ!

沸くな。頼むからその名を口にするな!

 

「そして、彼女が魔法を行使する際に唱えた言葉……これこそが、大気中のマナを支配する『聖句』として、現在学会で注目されている」

 

教師が黒板に、デカデカと文字を書き始めた。

 

『騒がしい。少し頭を冷やせ』

 

『永遠の棺に抱かれて、悔恨と共に眠るがいい』

 

「ブフッ……!?」

 

俺は思わず吹き出した。

だが、すぐにハンカチで口を押さえ、「ごほっ、ごほっ!」と咳に偽装する。

 

(やめろォォォ! 黒板に書くな! それはただのイキりポエムだ!!)

 

「先生! その『聖句』……なんだがすごく痺れます!!」

 

男子生徒が手を挙げて叫ぶ。

 

「うむ。一見すると冷徹だが、その奥には『敵対者への静かな哀れみ』と『孤独な王者の悲哀』が込められていると解釈されているのだ」

 

「深ぇーっ!!」 「かっけぇ……!」 「俺も明日から使おう……」

 

(そんな解釈するな!聖句じゃなくて俺の黒歴史だ!)

 

俺の心は、黒板の前で公開処刑されていた。

だが、顔に出すわけにはいかない。俺は病弱で健気な妹なのだ。

 

「……こほっ……う、うぅ……」

 

俺は机に突っ伏し、震える肩を必死に抑えた。

羞恥心で顔が沸騰しそうだ。

だが、周囲には病気の発作で苦しんでいるように見えたらしい。

 

「大丈夫? アルテちゃん……」

「……保健室行こ?」

 

クラスメイトたちが心配そうに声をかけてくる。

 

「だ、大丈夫です……。ただ、歴史の重みに……胸が苦しくて……」

 

嘘は言っていない。これこそが黒歴史の重みだ。

だが、隣の席で腕を組んだカイが深く頷きながら呟いた。

 

「ふっ……。俺も共鳴したんだ。あの詠唱にな……」

 

(共鳴するなバカ!)

 

「……なお資料は学会から正式文書が届き次第、随時差し替える予定だ」

 

(丁寧な仕事すんな! ずさんな管理で紛失してくれ……!!)

 

俺にとっての処刑台のような一限目が、ようやく終わった。

 

 

昼休み。

クラスの隅に座るアリスの方へと、俺たちは歩き出した。

だが――彼女は俺たちに気づくと視線を伏せ、そっと席を立った。

誰とも目を合わせないまま、足早に教室を出ていく。

 

(うっ……。避けられた、か?)

 

その直後だ。

 

ガララ、と扉が開く。

派手な制服に身を包んだ貴族風の男子生徒が三人、教室に入ってきた。

 

品定めするような視線が、一瞬アリスの席をかすめる。

嫌な予感がして俺はカイと顔を見合わせた。

 

「……行くぞ」

 

俺たちも教室を出た。

廊下に出ると、少し先で足音が止まるのが見えた。

 

壁際。

アリスが後ずさり、その前に三人の男子生徒が立っている。

 

「おい。昼飯でもどうだ?」

 

ニヤニヤしながら男子生徒の一人が言う。

 

「や、やめてください……私は……」

 

アリスが消え入りそうな声で言う。

 

「あ?なんだよその目は。呪う気か?」

 

「その気味悪い目、見せてみろよ!」

 

貴族生徒の一人が、アリスの眼帯に手を伸ばす。

 

(まずい……!)

 

俺の脳裏に、設定が蘇る。

 

『「呪いの魔眼」』

 

眼帯が外れた瞬間、男子生徒たちは石化するか最悪死ぬ。

 

(くそっ! 俺が――)

 

俺が介入しようとした、その瞬間。

 

「やめろ!」

 

俺が動く前にカイが飛び出していた。

主人公ムーブだ。偉いぞお兄様。

 

「あぁ? 誰だお前」

 

生徒が振り返る。

 

「俺はカイ・シュヴァルツ! 寄る辺なき闇の継承者だ!」

 

(名乗りが痛い! 普通に止めろ!)

 

カイはいじめっ子たちの前に立ちはだかった。

 

「数の暴力に酔い、弱き者を踏みにじるなら……封印されし黒竜が目を覚ますぞ」

 

「はぁ? かっこつけてんじゃねぇ! やっちまえ!」

 

貴族生徒が殴りかかってくる。

ポケットに手を突っ込んだままカイは動じない。

襲いかかる拳を、首を傾けるだけで回避した。

 

「……遅いな。止まって見えるぜ」

 

「なっ……!?」

 

カイは相手の腕を掴むと関節を極め、地面に制圧した。

 

「ぐあぁぁぁッ!?」

 

鮮やかな手際だ。温室育ちの学生風情では相手にもならない。

オークの巣窟サバイバル合宿、ジェノ君との特訓はダテじゃないのだ。

最近ではエリスと護身術の訓練もしていたしな。

 

「……貴様らなど、闇の力を使うまでもない。……消えろ」

 

「ひっ……!」

 

貴族生徒の一人が、後ずさった。

 

「あの包帯……封印具か!?」

「や、やべぇ……! 逃げろ!」

 

カイの無駄に鋭い眼光を向けられ、いじめっ子たちは悲鳴を上げて逃げ散った。

 

「ふっ……」

 

カイが髪をかき上げ、アリスに手を差し伸べた。

 

「大丈夫か? ……怪我はないか」

 

アリスがおずおずと顔を上げる。

その瞳が、カイを見て揺れた。

 

「あ……ありがとう、ございます……」

 

「礼はいらない。……あんたの眼帯、なかなか良いじゃないか」

 

カイが自分の包帯を指さす。

 

「……俺も似たようなもんだからな。『封印』を背負う者同士、仲良くしようぜ」

 

アリスは見惚れてしまったことを誤魔化すように、静かにこくりと頷いた。

 

(……おいおい、いい雰囲気じゃねえか!)

 

……と、思ってから、ルミナの方をちらりと見た。

ルミナのヤンデレ警報が鳴るんじゃないか?

そう身構えたが、ルミナの口元に安堵の微笑みを浮かべていた。

 

「ふふっ。弱き少女を救うその姿勢……お見事ですわ、カイ」

 

やはり根は聖女だ。

カイの善行を前にして嫉妬心など入る隙もないらしい。

余計な心配だったな。俺はアリスに近づいた。

 

「えっと……大丈夫でしたか?」

 

「は、はい……」

 

アリスが小さく頷く。

その目には、まだ恐怖が残っていた。

 

(……この子を、守らないとな)

 

俺は改めて心に誓った。アリスを孤独にさせない。

アリスの闇堕ちルートは、絶対に回避する。

俺は妹としての笑顔を作りカイの袖を軽く引いた。

 

「……上へ行きましょう、カイお兄様」




話があまり進んでないから、明日も投稿するぜ
引き続き見捨てないでくれ
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