エタった小説のラスボス邪神に転生したが、過去の俺の性癖が痛すぎて死にたい   作:超とんでもなくムッチリしたインコ

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第18話 平和な昼食と、生徒会長

俺たちは屋上の扉の前に居る。

道すがら簡単な自己紹介を済ませ、昼を食べる場所を探して辿り着いた先だ。

 

鍵が掛かっていたが関係ない。

俺たちには「入れ」と書いてあるようにしか見えなかった。

 

カイが鍵穴の前で膝をつき、針金を取り出す。

 

「……任せろ。我が右腕に宿りし黒竜よ」

 

カイが低い声で詠唱を始めた。

 

「――汝の牙で、この『封印』を喰らい尽くせ!」

 

カチャカチャカチャ……。

 

「開け! アポカリプス・ゲート!!(黙示録の門)

 

ガチャリ。

 

鍵が開いた。

 

(ただのピッキングじゃねーか!!)

 

俺は心の中で絶叫したが顔には出せない。

病弱な妹だからな。

 

「……さすが、お兄様……」

 

俺は儚げにカイを称賛する演技をした。

 

「ふっ……」

 

カイが満足げに髪をかき上げる。

 

「……こ、こんな所に入って大丈夫でしょうか?」

 

アリスが不安そうに魔導書を抱きしめる。

 

「大丈夫だ、アリス。誰も入ってこない、静かな場所だからな」

 

カイが胸を張って言った。

 

「それにもし誰か来ても、俺の『結界』が感知する」

 

(結界なんて張ってねえだろ!)

 

俺は心の中でツッコミを入れた。

アリスは「結界……」と小さく呟いて、少し安心したようだ。

 

(……まあ、結果オーライか)

 

俺が胸を撫で下ろした、絶妙なタイミングだった。

 

「では、安全も確保されたようですし――お昼にいたしましょう」

 

ルミナが流れるような手付きで風呂敷を広げる。

ナイスだルミナ。完璧な気配りだ。

 

「さあアリス様。どうぞこちらへ」

 

ルミナが取り出したのは、豪華絢爛な五段重。

蓋を開けた瞬間、丁寧に仕込まれた料理の香りが広がった。

 

「これは……」

 

アリスが目を見開く。

 

一段目には、タコさんウインナーと玉子焼き、唐揚げ。

二段目には、彩りよく詰められた前菜。

三段目には、たわら型のおにぎり。

四段目には、味の染みた煮物。

そして五段目には――

 

「デザートのプリンまで……!」

 

「ええ。アルテ様の大好物ですから」

 

ルミナがニッコリ笑う。

 

(よ、余計なことを言うな!)

 

俺は顔を赤くしたが、病弱キャラを維持するために俯いて誤魔化した。

 

「私も……い、いいんですか……?」

 

アリスが遠慮がちに尋ねる。

 

「もちろんですわ。私の用意した食事を前にして、不幸な顔はさせませんわ」

 

ルミナがアリスの前に、重箱を開いて置いた。

 

「……おいしそう」

 

アリスが玉子焼きを見つめる。

その目には何かを思い出すような、遠い光が宿っていた。

 

「……久しぶりです。誰かと一緒に食べるのって……」

 

その言葉が、俺の胸に刺さった。

 

(……そうか。この子、ずっと一人だったんだ)

 

俺が何か言おうとした、その時。

 

「待ってくれ!」

 

カイが真剣な顔で手を上げた。

 

「……?」

 

全員がカイを見る。

 

カイはゆっくりと、タコさんウインナーを箸で摘み上げた。

足が8本あるウインナー。

 

「……これは」

 

カイが目を細めて、ウインナーを凝視する。

 

「……『深淵の使徒』だ」

 

「は?」

 

思わず素で声が出そうになったが、俺は咳でごまかした。

 

「こほっ……お、お兄様……?」

 

「妹よ、見てくれ。この8本の触手……いや、『顕現せし腕』を」

 

カイがウインナーを光にかざす。

 

「これは海の底、光の届かぬ深淵に棲む『古き者』の化身に違いない」

 

(ただのタコさんウインナーだよ!)

 

「……ふっ。だが、俺の右腕に宿る『黒竜』なら、この程度の呪いは喰らい尽くせる」

 

カイが覚悟を決めたように、ウインナーを口に運ぶ。

 

パクッ。

 

「……!」

 

カイの目が見開かれた。

 

「……うまい」

 

(そりゃそうだろ!)

 

俺は心の中で絶叫したが、顔は病弱な妹の微笑みを保っていた。

 

「ふふっ」

 

その時、アリスが小さく笑った。

本当に小さく、だが確かに――クスッと。

俺は思わず声をかけた。

 

「アリスさん……?」

 

「ご、ごめんなさい……つい……」

 

アリスが慌てて口を押さえた。

 

「いや、謝らなくていい」

 

カイが真面目な顔で言った。

 

「……あんたの笑顔、悪くない」

 

アリスの顔が、ほんのりと赤く染まる。

 

(……おいおい、カイのやつ)

 

俺は、静かに納得した。

流石のカイもタコさんウインナーを知らないわけがない。

俺の屋敷でも形がカッコイイとか言って、ちょっと誇らしげに食ってたくらいだ。

 

中二病全開の仰々しい台詞も全部ひっくるめて。

 

(和ませたかっただけかよ)

 

カイは相変わらず、キマった顔でウインナーを咀嚼している。

 

(……ほんと、憎めない奴だ)

 

アリスはもう一度だけ、小さく笑った。

今度は肩の力が抜けた、柔らかな笑みだった。

 

その時、屋上のドアが開いた。

 

「アルテ。私も休憩に入ったぞ」

 

ジャージ姿のエリスが入ってくる。エリスの視線が、アリスに向いた。

アリスはビクッと体を硬くし、魔導書を抱きしめ直した。

 

「あ……た、体育の……先生……」

 

アリスが怯えたように呟く。

その視線はエリスのジャージとホイッスル、体育教師という権威の象徴に釘付けだ。

 

「……ごめんなさい、私……」

 

アリスが逃げ出そうと腰を浮かす。

教師に見つかれば怒られる。そう思っているのだろう。

俺はすかさずエリスの腕をギュッと掴み、アリスに最高の笑顔を見せた。

 

「大丈夫ですよ。エリス先生も私たちの仲間です」

 

「え……?」

 

「それに……この世で一番、妹思いの優しいお姉さんなんですよ?」

 

「……なっ!?」

 

エリスが不意打ちに顔を真っ赤にした。

クールな仮面が崩れ、素の表情が覗く。

 

「あ、アルテ……お前、それは……っ」

 

エリスは狼狽えたが、すぐに俺の意図を察したようだ。

 

「……ゴホン」

 

エリスは一つ咳払いをすると顔をキリッと引き締め、アリスに向き直った。

 

「……私は『噂』や『生まれ』で生徒を裁いたりはしない」

 

エリスの声は教室の時よりもずっと柔らかかった。

 

「私は教師としてお前を守る義務がある。それだけだ」

 

エリスの瞳にある揺るぎない意志は、アリスに安心感を与えるには十分だった。

 

「……は、はい」

 

アリスは小さく頷き、緊張を解いて座り直した。

俺はお弁当箱を指さす。

 

「エリス先生も座って。一緒に食べましょう」

 

エリスは竹刀を隅に置き、俺たちの輪に加わった。

少し照れくさそうに、俺の隣に座る。

 

「さあ、召し上がれ。特に玉子焼きは、私の自信作ですわ」

 

エリスが箸を取り、一口食べる。

 

「……うまい」

 

エリスが素直に言った。

 

「食事は生きる基本だ。難しいことは考えず、まずは腹を満たせ」

 

エリスの言葉は飾り気がなかったが、だからこそ温かかった。

アリスは少し照れくさそうに頷き、恐る恐る卵焼きを口に運ぶ。

 

「……美味しい」

 

彼女の顔に、微かな赤みが差す。

その時、カイが再びウインナーを摘み上げた。

 

「俺はまた気づいてしまった……!」

 

(まだ何か言うのか!?)

 

「このタコさんウインナー……なぜ『さん』付けなのか」

 

カイが真剣な顔で言った。

 

「これは『敬意』だ。深淵の使徒に対する、料理人の――」

 

「ただの愛称だよ!!」

 

俺は思わず、素でツッコんでいた。

 

シーン。

 

全員が俺を見る。

 

(……やばっ。素が出た)

 

「……こほっ、こほっ……つい、興奮して……」

 

俺は慌てて咳き込み、病弱キャラに戻る。

 

「ふふっ」「あはは……!」

 

アリスとルミナが、小さく笑った。

エリスも、口元を緩めている。

カイは口角をわずかに上げ、ニヤリとしていた。

 

(……まあ、いいか)

 

俺は心の中で苦笑した。

 

和やかな空気。温かい食事。

これが、俺が守りたかった普通の幸せだ。

 

それからは、賑やかなランチタイムだった。

ルミナが取り分ける彩り豊かな料理に、アリスがおずおずと箸を伸ばす。

一口食べるたびに、彼女の表情が少しずつ解れていくのがわかった。

 

カイはブロッコリーを『世界樹の森』と呼び、エリスは無言でおかわりを要求する。

俺も『病弱な妹』設定を忘れない程度に、ピクニック気分を楽しんだ。

 

だが――ふと、箸が止まる。 アリスが俯いていた。

 

「……私、誰にも言っちゃいけないって、思ってたんです」

 

アリスがぽつりと呟く。

 

「何を?」

 

「私の周りだけ、すぐに物や人がおかしくなるから。……だから、誰とも関わっちゃいけないって」

 

彼女の声は震えていた。

楽しい時間が終わるのが怖くて、釘を刺すように。

具体的な言葉ではない。ただ漠然とした「恐怖」の告白。

 

俺は努めて明るく、優しく言った。

 

「大丈夫です。おかしくなったら、私たちが支えますから」

 

「え……?」

 

「そうだぞ」

 

カイがニヤリと笑う。

 

「俺なんて右腕に『封印されし黒竜』を飼ってるんだ。俺の闇が喰らい尽くしてやる」

 

「私も、多少の呪いなら物理で払えますわ」

 

ルミナが優雅に微笑む。

 

「私は……まあ、なんとかなるだろう。根性でな」

 

エリスが苦笑しながら、力こぶを作る真似をした。

アリスが呆気にとられ、目を丸くする。

そして――涙ぐみながら、くしゃっと笑った。

 

「……本当に……変な人たち……」

 

その言葉には、ありったけの親愛が込められていた。

 

「ふふっ、よく言われます。……最高の褒め言葉として受け取っておきますね」

 

俺たちは顔を見合わせて笑った。

 

(……よかった。この子、ちゃんと笑えるじゃないか)

 

俺は心の中で安堵した。

アリスは今、恐怖ではなく安心感に包まれて、俺たちと食卓を囲んでいる。

小さな変化だが、確実な一歩だ。

 

だが、俺は知っていた。

この幸せを守るためには、まだやらなければならないことがある。

 

 

放課後。俺は一人、生徒会室へ向かった。

生徒会室は本校舎の最上階にある。

普段は生徒が近づきにくい、神聖な場所だ。

 

(……レオンハルトなら、ここにいるはずだ)

 

これから訪れる『未知』攻略するには、俺の知識だけでは足りない。

奴の指揮能力と盤面を操る知略。

それが味方になれば、これ以上なく心強い戦力になる。

 

だが、それだけじゃない。俺はレオンハルトも救いたい。

かつてのシナリオでは全てを一人で背負い込み、誰にも理解されぬまま孤独な道を行くしかなかった。

そんな損な役回りから引きずり下ろして――全員でバカやって笑い合う。

 

レオンハルト。

お前も一緒じゃなきゃ、本当の『大団円』とは言えないんだよ。

 

(まずは接触し、存在だけでも確認しておきたい)

 

俺は扉の前に立ち、丁寧にノックをした。

 

コンコン。

 

だが、返事はない。

 

(……おかしいな。こんな時間なら、誰かいるはずなのに)

 

俺は再びノックをしようとした。

その時、扉の奥から小さな話し声が聞こえてきた。

俺は扉に耳を当てる。

 

「……おい、また『却下』だ」

 

「嘘だろ? あの膨大な予算案、一晩でチェックしたのか?」

 

「ああ……アッシュ会長、また徹夜か? 誰も寄せ付けようとしない」

 

「これじゃまるで、何か『タイムリミット』に追われてるみたいじゃないか……」

 

(……タイムリミット?)

 

俺は眉をひそめた。

『混沌クロニクル』書いた生徒会長の名前は――

 

(……レオンハルト・ヴァン・アレスティアのはずだ)

 

だが、今の会話から感じるのは俺の知らない焦燥感だ。

 

(……なんだ? 何かが狂っている?)

 

いや、待て。

 

朝、廊下で見た白髪の男。

生徒会の腕章をつけていた。

 

(まさかあいつが……会長……?)

 

「……盗み聞きとは感心しないな」

 

背後から、声がした。

 

ビクリと振り返る。

 

そこには、白髪の男が立っていた。

やつれた頬。クマのできた目。

だが、その瞳は鋭く俺を見据えている。

 

「あ……ご、ごめんなさい……」

 

俺は慌てて頭を下げた。

 

「わたくし……生徒会長様に、ご挨拶をと思いまして……」

 

「私が生徒会長、アッシュ・ノエルだ」

 

アッシュが無表情で名乗った。

俺の中で、違和感が膨らむ。

 

(やっぱり、こいつが会長……?)

 

「転入生の、アルテと申します……」

 

俺は病弱キャラを維持したまま、おずおずと言った。

 

「あの……失礼ですが、この学園の生徒会長様は……アッシュ・ノエル様で、間違いないでしょうか……?」

 

「ああ」

 

アッシュが即座に答えた。

 

「何か問題でもあるのか」

 

「い、いえ……。わたくし、てっきり……」

 

俺は言葉を濁した。

 

(……レオンハルトの名前を出すべきか?)

 

だが、俺は慎重になった。

もし「レオンハルト」という名前を出して、何か反応があれば――

 

「……」

 

アッシュが俺を見ている。

値踏みするような、冷たい視線。

 

「何か、聞きたいことがあるなら言え」

 

「い、いえ……。何でもありません……」

 

俺は首を横に振った。

 

(……今は、様子を見よう)

 

「そうか」

 

アッシュがおもむろに胸元から、手帳を取り出した。

 

「生徒会への用件があれば、ここに記録しておく」

 

アッシュが手帳を開く。

その動作はゆっくりで――そして、妙に角度がついていた。

 

その一瞬。

 

俺の邪眼(イーブル・アイ)が、手帳の見開きページを捉えた。

几帳面な文字で、びっしりと何かが書き込まれている。

だが、普通の議事録ではない。

 

ページの端に、小さく数字が並んでいる。

 

『94』『95』『96』『97』『98』……

 

そして、その横には――記号のような何かが羅列されている。

 

(……なんだ、あれ?)

 

俺の視線が、その一点に釘付けになる。

アッシュは手帳を見ていない。

アッシュの目は、手帳を見つめる俺の目を見ていた。

 

パタン。

 

アッシュが手帳を閉じた。

 

「……見たな」

 

その声は低く、冷たかった。

 

「え……?」

 

俺は演技を続ける。

 

「わたくし、何も……」

 

「嘘をつくな」

 

アッシュが一歩、俺に近づいた。

 

「私は今、お前の視線を誘導した。普通の生徒なら表紙を見る。だがお前は迷わず『中身の数字』を見た」

 

その眼光が、鋭く俺を射抜く。

こいつ、俺を試したのか。

 

「い、いえ……わたくしは……たまたま目に入っただけで……」

 

「……ふん」

 

アッシュが、小さく鼻を鳴らした。

 

「そうか。あくまでシラを切るか」

 

アッシュがさらに一歩、詰め寄る。

威圧感が、病弱なふりをしている俺の肌を刺す。

 

「なら、答えろ」

 

アッシュが俺の目を覗き込んだ。

 

「お前は――何者だ?」

 

「え……?」

 

「特待生。病弱な妹。……その裏に、お前は何を隠している?」

 

(……!)

 

俺の心臓が跳ねた。

 

「お前の目だ」

 

アッシュが、俺の瞳の奥にある理性を暴くように見つめる。

 

「右も左も分からぬ『よそ者』の目じゃない。まるで――」

 

アッシュが、わずかに声のトーンを落とした。

 

「――未だ誰も知らぬ『世界の正解』を、確認しているかのような目だ」

 

(……こいつ、何者だ?)

 

俺の背筋に冷たいものが走る。

ただの生徒会長じゃない。こいつもまた、何かを知っているのか?

だが、俺は演技を崩さない。

 

「わたくし……何を仰っているのか……」

 

俺は震える声で言った。

 

「ただ、お兄様と一緒に……転入してきただけで……」

 

「……そうか」

 

数秒の沈黙の後、アッシュが一歩下がった。

 

「なら、いい」

 

アッシュは踵を返し、廊下を歩き出す。

 

「あ、あの……!」

 

俺が呼び止めると、アッシュは振り返らずに答えた。

 

「忠告しておく」

 

その声は、どこまでも虚ろだった。

 

「お前が何者であろうと避けられぬ『結末』からは逃れられない」

 

その言葉が、廊下に冷たく響いた。

アッシュの背中が、廊下の闇に消えていく。

 

俺はその場に立ち尽くした。

 

(……避けられぬ結末……?)

 

その言葉の意味が、俺には分からなかった。

嫌な予感だけが、胸を満たしていた。

 

(……くそっ)

 

俺は拳を握りしめた。

廊下の窓から、夕日が差し込んでいる。

赤く染まる空が、まるで血のように見えた。

 

(……まだ分からない。だが――)

 

俺は誓った。

あの白髪の男の正体を突き止める。

そして奴が言った「避けられない結末」は俺が書き換える。

たとえ、どんな代償を払っても――

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