エタった小説のラスボス邪神に転生したが、過去の俺の性癖が痛すぎて死にたい   作:超とんでもなくムッチリしたインコ

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第2話 燃えないゴミ(聖典)と、最初の死亡フラグ

黒歴史ノートの表紙を改めて見た。

 

白い修正液でデカデカと『Darkness Bible』と書いてある。

 

しかも――

 

英語の綴りに自信がなかったのか、一度『Bibel』と書いてから、黒く塗りつぶして書き直した跡まで残っている!

やめろ!その修正跡は俺の古傷だ!

 

心の中で絶叫する俺を他所に、ガリウスは恭しく、その薄汚いノートを開いた。

 

「皆、刮目せよ!まずは第一章『創世の記憶』……ここには、邪神様の偉大なるプロフィールが記されております」

 

公開処刑が始まった。

 

「――『我が名はアルテ・イリヤ。混沌の海より生まれし、絶対の支配者』」

 

「――『好きなもの:闇の果実(ダーク・フルーツ)』。……注釈によれば、これは現世には存在しない、黒く甘き至高の果実とのこと」

 

(それ、ただの『チョコパイ』だ! 購買で売ってたやつ!)

 

「――『嫌いなもの:秩序の強制(オーダー・フォース)

 

(それは『体育のマラソン』と『宿題』のことだ! カッコつけて書くな俺!)

 

顔から火が出る。全身の血液が沸騰しそうだ。

だが、拷問は終わらない。ガリウスはページをめくり、ある箇所を指差した。

 

「おお、見よ!ここには邪神様の『真の姿』を描いたと思われる肖像画が!」

 

彼が掲げたページには、関節の数がどう見てもおかしい、バランスの崩壊した棒人間が、巨大な鎌を持って立っているイラストが描かれていた。

 

背景には集中線。横には『覚醒(アウェイクニング)』の文字。

 

「……ッ!!」

 

俺は限界だった。

精神的HPがゼロを振り切り、マイナス領域に突入した。

 

「……ガリウス、よ」

 

「はっ! 何でございましょう!」

 

「その書を……よこせ」

 

俺はガリウスの手から、ひったくるようにノートを奪い取った。

手触り。ざらついた紙の質感。百均で買ったボールペンのインクの匂い。

これは俺の罪そのものだ。

 

「燃えてなくなってしまえぇぇぇぇ!!」

 

ボウッ!!

 

俺の右手から、漆黒の炎が噴き上がった。

 

ニヒリティ・フレア(虚無の炎)

 

概念すら焼き尽くすと設定した、最強の火魔法だ。

黒い炎がノートを包み込む。

だが――紙が焦げる匂いはしなかった。

 

「……あれ?」

 

炎が収まる。俺の手の中には、無傷のノートがあった。

焦げ目ひとつついていない。修正液の跡すら、白く輝いている。

 

「な、なんで……?」

 

その時、俺の脳裏に、当時の記憶が蘇った。

テスト勉強から逃避して、このノートに「ある設定」を書き込んだ時の記憶が。

 

『この聖典は、アカシックレコードの写本であるため、いかなる物理攻撃、魔法攻撃によっても破壊することはできない。(作者)の意志そのものであるため、絶対不滅である』

 

(……書いたァァァァァァ!!)

 

俺は心の中で絶叫した。

 

「重要アイテムが破損したら萎える」とか思って、無敵属性を付与した記憶がある!

バカか! 昔の俺はバカなのか!? いやバカだったわ!!

 

「おお……見たか、今のを!」

 

ガリウスが感嘆の声を上げる。

 

「邪神様が『虚無の炎』を放たれたのに、聖典は傷一つついていない!」

「なんという奇跡……! 聖典は不滅! 我らが教団もまた不滅なり!!」

 

爆発的な歓声。俺は膝から崩れ落ちた。

詰んだ。完全に詰んだ。

その時だった。

俺の手の中で、ノートが勝手にパラパラとめくれた。

あるページで止まり、文字が赤く発光し始める。

 

「な、なんだ?」

 

そこに書かれていたのは、俺が書いた覚えのない――いや、俺が小説の「第1話」として書いた、初期プロットの文章だった。

 

『――封印は解かれた。しかし、代償は支払われねばならない』

 

『目覚めの儀式を行った司祭は、ダンジョンの守護者「煉獄の処刑人」によって八つ裂きにされ、その鮮血をもって邪神の復活は完了する』

 

俺は息を呑んだ。

まて。この展開は知っている。

俺は当時、「邪神の復活には生贄が必要だよね、残酷でダークだろ?(笑)」と思って、最初のチュートリアルとして、ガリウスを死なせる脚本を書いた。

 

ゴゴゴゴゴ……!

 

地下空洞が揺れる。奥の通路から、重苦しい足音が近づいてくる。

 

ドォォォォン!!

 

壁を突き破って現れたのは、全身が棘だらけの巨大なアイアンゴーレムだった。

身長3メートル。右腕には巨大なギロチンが溶接されている。

 

「ひっ……!?」

 

信者たちがパニックになる。

俺は知っている。あれは『煉獄の処刑人』。レベル60。

並の人間が勝てる相手じゃない。

 

『イケニエ……イケニエ……』

 

ゴーレムの赤い目が光り、ガリウスをロックオンした。

ギロチンが振り上げられる。

 

「あ、ああ……」

 

ガリウスが腰を抜かす。

ノートの記述通りだ。あいつはここで死ぬ。確定した未来(プロット)だ。

 

(……ふざけるな)

 

俺は立ち上がった。

俺は今、邪神だ。そして、この世界の作者だ。

目の前で、自分を崇めてくれているじいさんが、俺の書いた「かっこつけの演出」のためだけに死ぬ?

そんなこと、させてたまるかよ!

 

「ガリウス! 下がれ!!」

 

俺はガリウスの前に飛び出した。

ギロチンが振り下ろされる!

その瞬間、俺の脳内に、当時の「設定資料」がフラッシュバックした。

 

『煉獄の処刑人は、邪神の眷属として作られた。そのため、邪神の”あるポーズ”を見ると、強制的に土下座モードに移行する』

 

(あった! 没ネタ設定!)

 

俺は当時、「邪神ちゃんがポーズとってゴーレムが土下座したら可愛くね?」と思って、ギャグシーン用に隠し設定を作っていたのだ。

本編では未使用の、黒歴史設定。

だが、今はそれしかねえ!

俺はギロチンの真下で、仁王立ちになった。

 

「止まれぇぇぇぇッ!!」

 

俺は叫びながら、その恥ずかしいポーズをとった。

右手を高々と掲げ、左手で右目を覆い、片足立ちで背中を思い切り反らす。

 

名付けて『邪眼開放の儀』!

 

「邪神様!?」

 

信者たちが困惑する中、ギロチンが俺の鼻先でピタリと止まった。

 

『……ピピッ……認証……マスター・アルテ……』

 

ゴーレムの動きが止まる。

 

そして、ズズズ……と巨大な膝を折り、その場でド派手に土下座をした。

 

『シテ……ユルシテ……』

 

「はぁ……はぁ……」

 

俺は冷や汗まみれで、その場にへたり込んだ。

助かった。ガリウスは生きている。

俺は震える足で立ち上がり、手の中にある「黒歴史ノート」を見た。

さっきまで赤く光っていた文章が、ジジジ……とノイズを上げて書き換わっていく。

 

『処刑人によって八つ裂きにされ』

 ↓

『邪神の一喝により、処刑人はひれ伏した。生贄は不要である』

 

(……書き換わった)

 

俺はごくりと喉を鳴らした。

変わった。俺が書いた「確定したバッドエンド」が、今の俺の行動によって、生存ルートに書き換わったんだ。

 

「……ははっ」

 

乾いた笑いが漏れた。

なんだよ、できるじゃねえか。

俺が「作者」としての知識と、恥を捨てる覚悟さえあれば、シナリオはねじ曲げられるんだ。

 

「……ガリウス」

 

「は、はっ!」

 

「予定変更だ。……生贄なんて趣味の悪い儀式は、今日で廃止する」

 

俺はニヤリと笑った。

 

それは演技じゃない。このクソッタレな運命に喧嘩を売る、作者としての宣戦布告だ。

 

「俺について来い。この世界の『結末(エンディング)』……俺が全部、書き直してやる」

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