エタった小説のラスボス邪神に転生したが、過去の俺の性癖が痛すぎて死にたい   作:超とんでもなくムッチリしたインコ

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第23話 創造主の告白と、共犯者

「――創造主よ」

 

その言葉は呪詛のように、あるいは祈りのように、夜の教室に響いた。

彼が向けるその瞳には、確信の光が宿っている。

俺の正体――ただの邪神でもなく、「創造主」であると正確に射抜いていた。

 

「……レオンハルト、気付いていたのか」

 

俺の声は自分でも驚くほど低く、重かった。

誤魔化すことはできなかった。彼の眼光が、まるで俺の魂までをも貫いていたからだ。

 

「当たり前だ。私の真の名と、この世界の『ループ』を知る者は同時に存在しない。お前以外はな」

 

レオンハルトは淡々と語り出す。

感情を押し殺したその声は、逆に底知れない狂気と、果てしない疲弊を孕んでいた。

 

「私は、この悪夢を100回繰り返した」

 

「……100、回だと……!?」

 

おかしい。そんな事は書いていない。

何かが、根本から狂っている。

カイが黒竜を放ち、アリスを殺して救済する――俺が『正史』として定めたあの結末。

 

(そもそも……この世界に『正史』など、存在するのだろうか……?)

 

「毎回、同じ結末だ。アリスが壊れ、学園が地獄と化し、世界が勝手に『最悪の形』で補完し続けるのだ。何をどうしても変えられなかった。運命という名の強制力が、私のささやかな抵抗をあざ笑うかのように踏み躙っていく」

 

彼は俺に背を向けたまま、夜空を見上げて言った。

 

「だが、前回は違った。101回目にして初めて、物語が変化した」

 

レオンハルトは俺を横目で見た。

それは推測ではなく、すでに確定した事実を見る目だった。

 

「……ああ。だが、なぜ俺だと……なぜ俺が介入したと分かった?」

 

「王都大火災」

 

短く、彼は告げた。

 

「……本来、王都は魔神の業火に包まれて壊滅するはずだった。私の記憶では、いつもそうだったからな。多くの人間が死に、世界は絶望へと加速する。それが決まった物語だった」

 

そうだ。それは俺が書いた第1章のクライマックスだ。

だが、今の世界線ではそれは起きていない。俺がフラグをへし折ったからだ。

 

「だが、今回は何も起きなかった。誰も死なず、王都は平和なままだ」

 

レオンハルトがゆっくりと振り返る。

月光に照らされたその顔は無表情でありながら、瞳だけがギラギラと飢えた獣のように輝いていた。

 

「代わりに聞こえてきたのは、『仮面の氷結処刑人』というふざけた二つ名だけだ」

 

その言葉に俺は唇を噛み締めた。

今は彼にとって、運命が変わった唯一の証拠として突きつけられている。

 

「その時、確信した。……私の知らない『誰か』が、意図的に物語を書き換えている、とな」

 

「……ああ、その通りだ」

 

俺は肯定した。隠す必要など、もうどこにもない。

 

「俺は、悲劇を書き換えるために……お前たちの運命を変えるために行動してきた」

 

レオンハルトの鋭い視線が俺を射抜く。

 

俺は、その視線に耐えかねるように、どうしても聞きたかった問いを口にした。

 

「……そのループがお前を変えたのか?その白髪も。そして、なぜ『アッシュ』と名乗った?」

 

偽名にしてはあまりにも投げやりで、どこか悲痛な響きを含んでいたからだ。

レオンハルトは懐から煙草を取り出し、深く吸い込んだ。

紫煙が夜空へと溶けていく。

 

「……最初は、歓喜したのだ」

 

彼は遠い昔を懐かしむように、少しだけバツが悪そうに目を細めて語り始めた。

 

「最初の死に戻りをした時、私は自分が『神に選ばれた特別な人間』だと思った。この悲劇を覆すために、時の超越者として選定されたのだと……密かに、胸を躍らせていたのだ」

 

「…………」

 

「誰にも言えなかったがね。物語の主人公のように、私だけが時を越えて未来を変える……そんな運命に憧れてすらいた」

 

その言葉を聞いて、俺の脳裏に嫌な記憶が蘇る。

かつての『混沌クロニクル』の設定だ。

 

レオンハルトは時を遡る能力を持つ準主人公として設定した。

カイが学園外から来る闇を抱えた復讐者なら、彼は学園最強の光の王子様であり、カイの良きライバルとして。

対照的な二人が互いに高め合い、世界を救う――そんな熱い構想だったはずだ。

 

だが、連載を続けるうちにプロットが破綻した。

タイムパラドックスの処理が面倒になり、俺は連載中盤で設定を強引に変更したのだ。

『レオンハルトはループ能力者ではない。完璧超人である彼の唯一の欠点、それは自分はループしているという妄想に取り憑かれた残念な王子である』と。

 

―――どうしてこんなことになった。 

 

当時の俺は適当すぎた。

まさか改稿を繰り返すうちに、修正漏れが出てしまったのか……?

それとも、この世界が矛盾した設定を勝手にを埋めてしまったのか。

 

だが、確かなことが一つだけある。

『光の王子』でありながら『ループ妄想の残念な王子』という設定を背負わされ、その上で『本当にループさせられる』という地獄を生み出したのは、間違いなく俺の杜撰な執筆のせいだ。

 

「しかし、これが『呪い』であると気づくのに、そう時間はかからなかった」

 

レオンハルトの瞳が、暗く濁る。

 

「何回やっても、何十回やっても、アリスは絶望して闇落ちする。どんなに手を尽くしても、世界の強制力が彼女を迷宮へと変貌させようとする。……この運命だけは、一度も回避できなかった」 

 

彼は自分の白髪を、指で摘まんだ。

 

「繰り返される地獄に、私の心は摩耗していった。かつて黄金のように輝いていた私の髪は、いつしか色を失い……文字通りの『灰』へと成り果てた」

 

「……それで、アッシュか……」

 

「ああ。私はもう、輝ける『レオンハルト(獅子の心)』などではない。燃え尽きた灰のような『アッシュ』という別人である……。そう思い込むことでしか、精神を保てなかった」

 

彼はギリッと拳を握りしめ、血が出るほど食い込ませる。

 

「だが、私は絶望の果てにこう誓ったのだ」

 

絞り出すような低い声。

 

「こんなふざけた運命を強いた者が居たとしたら……例え神だろうと、必ず一矢報いてやるとな」

 

圧倒的な殺気が、こちらへ押し寄せてきた。

頬はこけ、髪は白く染まっていても、その魂だけは紛れもない王として燃えていた。

殺される。そう直感するほどの怒気だった。

俺は覚悟を決め、震える唇を開いた。

 

「……ああ、そうだ。俺が書いた」

 

俺は虚空から、古びた黒いノートを取り出した。

全ての元凶。『聖典』であり『黒歴史』であり、彼らにとっての『運命の記述書』。

 

この学園編の悲劇を生み出したのは、このノートに書かれた「絶望こそが美学」などという俺のポエムが、世界によって最悪の形で拡大解釈された結果に他ならない。

 

「俺が、この世界の創造主だ」

 

全てを話した。

自分がかつてこの世界を物語として書いたこと。

安易な鬱展開への嗜好が、彼らを苦しめる設定の根幹にあること。

そして、俺がカッコいいと思って書いた『ポエム』や『思わせぶりな記述』を、この世界が真実として定着させてしまったこと。

 

謝罪の言葉が空虚だと知りながら、それでも頭を下げた。

視界が滲む。罪悪感で、仮面の下の顔が歪むのがわかった。

 

レオンハルトは怒号を上げることも、呆れて笑うこともしなかった。

ただ、紫煙を吐き出しながら、静寂の中で俺の言葉を咀嚼していた。

やがて彼は短く息を吐くと、ふと、俺の手元を顎でしゃくってみせた。

 

「……ならば、今すぐその薄汚いノートに書き加えれば済む話ではないのか?『みんな幸せになりました』とな」

 

レオンハルトがノートを指差し、冷ややかに告げる。

 

「無理だ……」

 

俺は震えそうになる手を押さえつけ、首を横に振った。

 

「こいつには『絶対不滅』の属性がついている。破ることも、書き込むこともできない。現実での行動で運命をへし折らない限り、記述は一行たりとも変わらないんだ」

 

「……やはりな」

 

レオンハルトは得心がいったように頷いた。

 

「全能の神ならば、指先一つで解決できるはずだ。……だがお前はそうしなかった。いや、できなかった」

 

彼は俺を真っ直ぐに見据える。

 

「だからこそ……お前は自ら戦場に降り立ち、あの魔神を討伐したというわけか」

 

「……ああ、そうだ」

 

彼は呆れたように、けれどどこか憑き物が落ちたように笑った。

 

「傑作だ……。私の人生を狂わせ、100回の地獄を見せた神の正体が……こんな泣き虫な幼女とはな!」

 

彼は新しい煙草に火を点け、その揺らめく炎を見つめる。

 

「なぜこれほどまでに、私の人生は理不尽なのかと恨んでいたが……」

 

彼は吐き捨てるように、けれどどこか清々しい声で言った。

 

「私の人生を弄んだ『世界』とやらは……親に似て(創造主)、かくも『不器用で融通の利かない』ものだったというわけか」

 

「レオンハルト……」

 

それは嘲笑でも、怒りでもない。

長い地獄の果てに辿り着いた、一つの結論だった。

 

彼はゆっくりと視線を上げ、俺を真っ直ぐに見据える。

 

「……創造主であるお前もまた、自らが記した『理』に閉じ込められた囚人だ」

 

それは、創造主に対する最大の皮肉であり、同時に彼なりの許しのようにも聞こえた。

レオンハルトは、肺腑を絞るような深いため息をつく。

すると、遠い過去を見るように語り始めた。

 

「……たった一度だけ、アリス・リドル殺害に成功したことがある」

 

「……ッ!? アリスを殺した……だと?」

 

衝撃的な事実に、俺は息を呑んだ。

 

「多大な犠牲を払ってな。……正面からは通じない。だから強制力に綻びが生じる隙を狙った」

 

彼は紫煙の向こうに、遠い日の幻影を見るように目を細めた。

 

「……腐ったスープを『美味だ』と飲み干し、彼女へ呪詛を吐こうとする者を闇に葬り続けた。世界の悪意が彼女の目に映らぬよう、その視界を塞ぎ続けたのだ」

 

彼は自嘲するように、短く息を吐き出す。

 

「だが、それでも……彼女の『迷宮化』は止められなかった」

 

静寂が降りる。

彼はポツリ、ポツリと、最期の光景を語り出した。

 

「彼女が涙を零しながら……儚く微笑んだ瞬間だ。大切そうに『魔導書』を抱くその胸元……なぜか、そこだけ結晶化が遅れた。私はそこに全力で殺意を突き立てたのだ」

 

ふぅ、とレオンハルトは短く息を吐く。

肺の奥からせり上がるどす黒い記憶を、煙と共に無理やり外へと押し出しすように。

 

「……ああ。多大な犠牲を払い、成し遂げだ。その時に宿った感情は、歓喜でも安堵でもなく……ただひたすらの、虚無と後悔だけだった」

 

彼は指先の煙草を離し、足元の山へと無造作に落とした。

床で転がった火種が消えるその瞬間を、虚ろな目で見下ろしていた。

 

「己を恥じた。彼女もまた、『絶望の象徴』という運命を背負わされた生贄だ。私と同じ、この理不尽な世界に囚われただけの、哀れな少女なのだ」

 

(……そう、か。だからこそ、100回もの苦難を選び続けたのか……)

 

世界を救うだけなら、とっくに終わっていたのかも知れない。

だがレオンハルトは、最も困難な全員生存という茨の道を選び、そして100回敗北した。

 

「私はすぐに自決した。……あんな虚しい世界で生きるくらいなら、地獄の業火に焼かれた方がマシだ」

 

「……!」

 

その言葉を聞いて、俺はようやく理解した。

彼が名乗るアッシュという名の、本当の重さを。

彼はただ時を経て燃え尽きただけではない。

己の心を焼き尽くすほどの後悔と、自ら命を絶つほどの虚無を経て、文字通り死の灰となって蘇った。

その白髪は彼の魂が一度死んだ証だったのだ。

 

レオンハルトは俺に向き直ると、腕を組んで見下ろした。

そこに馴れ合いの空気はない。

あるのは、極限状態における冷徹な計算と、わずかな賭け。

 

「もしお前が、躊躇なくあの黒炎をアリスに放っていれば……私は決して信用しなかっただろう」

 

「……撃つわけない」

 

俺は考える間もなく即答した。

 

「アリスがいない世界なんて、救ったことにならない。全員揃って馬鹿騒ぎのハッピーエンドを迎えるまで、俺は何度でもやり直す……!!」

 

「……それでいい。そのやり方でしか、私たちは前に進めないのだから」

 

レオンハルトは皮肉げに口角を上げる。

 

「だが、勘違いするなよ。信用はしても、信頼はしない。……お前と私が組めば、このループを抜け出せる確率は上がる。それだけは事実だ」

 

レオンハルトは鋭い眼光を俺に向け、言葉を付け足す。

 

「もし失敗だと思ったら、手遅れになる前に私を殺せ。……いいな?」

 

その言葉の意味を、俺は痛いほど理解した。

彼こそがこの世界のループのトリガー。彼が死ねば世界はリセットされる。

彼は自分自身を、やり直すための道具として俺に差し出したのだ。

 

試すような視線。覚悟を問われている。

俺は顔を上げ、彼の目を真っ直ぐに見返した。

迷いは、もう微塵もなかった。

 

「……何度でもやり直すと言ったが……訂正する。 今回で必ず決めてやる」

 

俺は宣言する。

お前を死なせてやり直すつもりなんてない、という強い意志を込めて。

 

「レオンハルト、お前をこれ以上苦しませない。それに俺は……皆やアリスが苦しむ姿も、二度と見たくないからだ」

 

俺の言葉に、レオンハルトの瞳がわずかに揺れた。

じっと俺を値踏みするような数秒間。

俺の目には、一点の曇りもない決意が宿っていたはずだ。

 

「だから、お前の知識と力を貸してくれ、レオンハルト。……俺にはお前が必要だ」

 

俺は彼に手を差し出した。

過去の清算と、これからの協力。その証としての握手を求めて。

 

だが、レオンハルトはその手を握り返そうとはしなかった。

彼は俺の手のひらをじっと見つめ、やがてフッ、と小さく鼻を鳴らした。

 

「……甘いな、創造主」

 

レオンハルトは握手の代わりに、ゆっくりと自分の拳を突き出した。

これは友愛の握手ではなく、死線を超える者同士の契約だと言わんばかりに。

 

俺は一瞬きょとんとして、すぐに苦笑した。

ああ、そうだな。俺たちは友達じゃない。

作者と被害者、あるいは神と王。

歪な関係のまま、同じ志を持つ共犯者だ。

 

俺は差し出していた掌を、強く握り込んだ。

そして、彼の拳に自分の小さな拳をぶつける。

コツン、と。

硬質な音が、夜の教室に響いた。

 

「……いいだろう。なら見せてみろ、創造主」

 

拳越しに、彼の熱が伝わってくる。

その口元には、初めて戦意に満ちた猛々しい笑みが浮かんでいた。

 

「お前の語る『ハッピーエンド』とやらを」

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