エタった小説のラスボス邪神に転生したが、過去の俺の性癖が痛すぎて死にたい 作:超とんでもなくムッチリしたインコ
少し悩んだが2回に分けた、すまんが続きはまた明日な
翌朝。
カーテンの隙間から差し込む朝日が、屋敷のダイニングを柔らかく照らしていた。
焼きたてのパンの香り。湯気を立てるスープ。
リナが笑顔でパンを頬張り、ジェノ君が外で花に水をやっている。
いつもの平和で騒がしい朝食風景――の、はずだった。
「……ちょっといいか、アルテ?」
エリスがパンを持ったまま、引きつった笑顔で俺に問いかける。
「私の目が腐っていなければの話だが……食卓に見知らぬ男が混ざっているのだが」
「……奇遇ですね、エリス様。私の目にも、制服を着崩した白髪の不審者が、我が物顔で紅茶を啜っているように見えますわ」
ルミナもまた、警戒心丸出しの冷たい視線をその「異物」に向けていた。
彼女たちの視線の先。
俺の隣の席には、気怠げに足を組み、優雅にティーカップを傾ける白髪の少年――アッシュが鎮座していた。
まるで最初からこの屋敷の住人であったかのような自然体。
だが、その全身から漂う強者のオーラと、どこか世の中全てを達観したようなアンニュイな雰囲気は隠しようがない。
「……騒がしい朝だ」
アッシュはふぅ、と息を吐き、カップをソーサーに置いた。
「紅茶の淹れ方がなっていない。蒸らし時間が10秒足りないな」
「文句があるなら帰れ。というか、お前学校に行かなくていいのか?」
俺が呆れたように突っ込むと、彼は鼻で笑った。
「行くわけなかろう。どうせ同じ授業、同じ教師、同じ喧騒の繰り返し。……欠伸が出るだけだ」
「……こいつ、サボる気満々かよ」
生徒会長がそれでいいのかと思うが、常識を説いても無駄だろう。
なぜなら俺の共犯者だからだ。
そもそも、なぜ彼がここにいるのか。
そしてなぜ、こんなにも堂々としているのか。
それは昨夜、旧校舎で交わした作戦会議にさかのぼる。
『――全てを話す? 愚策だな』
昨夜。契約を交わした後、俺は彼に提案した。
エリスたちにも事情を説明すべきではないかと。
隠し事はしたくない。俺はもう、彼女たちを守られるだけの存在とは見ていないのだから。
だが、レオンハルトは即座に却下した。
『いいか、創造主。情報は劇薬だ。特に我々が抱える真実は、彼女たちの許容範囲を超えている』
彼は煙草の煙を吐き出しながら、淡々とリスクを並べた。
『まずループの事実。私が「この時間を100回繰り返している」などと説明して、誰が信じる? 頭の触れた妄想狂と警戒されて終わりだ。無駄な不信感を招くだけだろう』
『……そうだな』
この異常な話を成立させられるのは作者の俺と、世界に抗い続けたこいつだけだ。
証明する術を持たない以上、口にすればただの混乱を招くだけだろう。
『だが、俺は彼女たちを信頼すると決めたんだ。嘘をついたままじゃ……』
『嘘だと? ……真実を全てぶちまけることが信頼か?』
レオンハルトは冷ややかな目で俺を射抜いた。
『それはただの告解だ。お前が罪悪感から楽になりたいだけの、自己満足に過ぎん』
『ッ……』
痛いところを突かれ、俺は言葉に詰まる。
確かに、本当のことを言って楽になりたいと思っていなかったか?
『想像してみろ。お前がこの世界の作者だと告げた瞬間、彼女たちはどうなる?』
レオンハルトは静かに、けれど熱のこもった声で語りかける。
『痛みも、温もりも、紛れもない現実だ。全てが設定通りに動く人形など存在しない』
『……ああ、知っている』
『だが、神が口を開けば現実は覆る』
『これまで必死に積み上げてきた鍛錬も、流した涙も、仲間との絆も……。 全ては作り物だったのか、と。……自分の人生を「空虚な設定」だと錯覚させることになるんだ』
『それは違う……! 俺は、そんなつもりじゃ……!』
『つもりはなくとも、誰もが受け入れられると思うなよ。神の言葉とはそういうものだ』
そうだ。彼女たちの現実は、もう俺の設定よりも遥かに重い。
俺が作者面をして真実を語れば、それは彼女たちに対する冒涜になるかも知れない。
彼女たちと対等な仲間でありたいと願うなら……むしろ作者という事実は、俺の胸の奥底に封印すべきなのだ。
『……分かったか? 彼女たちの今を尊重するなら、余計な種明かしなど不要だ』
レオンハルトは煙草の灰を落とし、どこか諭すように言った。
『語るだけが信頼ではない。……墓場まで口を噤む。それもまた、我々にしかできないやり方だ』
『……ああ。違いない』
『それと、私がレオンハルトだと明かすのも面倒だ。王族絡みの厄介ごとなど御免だろう? ならば、正体は隠し通すに限る』
『いや……学園の生徒会長で、俺の協力者――そう名乗るにしてもだ。お前のその雰囲気じゃ、エリスもルミナも絶対に不審がるぞ』
一瞬の沈黙。
レオンハルトは何も言わず、ただ俺の顔を見た。
正確には、この「仮面」を。
『お前にだけは、その台詞を吐かれたくはないが……案ずるな』
『……ん?』
『人はな、あまりに堂々とした異物を前にすると、排除より先に受け入れる理由を探し始めるものだ』
『……お前の処世術、雑すぎないか?』
『100回の繰り返しで学んだ知恵だ。最初からそこにいた、という顔をして座っていれば、案外馴染むものだ』
……というわけで、この状況である。
まさか本当に、翌朝の食卓に無言で混ざるとは思わなかったが。
しかも、その圧倒的な存在感(と顔の良さ)で、強引に場を支配している。
エリスとルミナの視線が、俺に突き刺さる。
説明責任を果たす時が来たようだ。
俺は咳払いを一つして、努めて平静を装った。
「あー、紹介する。名前はアッシュ……こいつは協力者だ」
俺はレオンハルト――いや、アッシュに視線を向ける。
「……アッシュだ」
アッシュは座ったまま、短く名乗った。
愛想の一つもない。だがその瞳には、余計な詮索はするなという無言の圧力が込められている。
俺はパンをかじりながら、努めて何でもないことのように告げた。
「ちなみに、王立学園の生徒会長だ」
一瞬、時が止まったような静寂。
エリスは驚きに目を見開いたが、すぐに鋭い視線を俺に向けた。
「……これほど危険な匂いのする男、本来なら即座に剣を向ける相手だ」
彼女の声には、騎士としての冷徹な響きがあった。
だが、すぐにふっと息を吐き、剣呑な気配を霧散させる。
「だが……アルテ、お前が連れてきたということは、相応の理由と『勝算』があるのだろう?」
「ああ。俺たちの目的に、こいつの力は必要不可欠だ」
「なら、私はその判断を信じる。お前が背中を預けると決めたのなら、私にとっても彼は味方だ」
「それならば頼もしい味方ですわね。……ですが」
ルミナはまだ、疑いの眼差しを崩さない。
ナイフを置く手つきは優雅だが、その視線は鋭くアッシュを値踏みしている。
「王立学園の生徒会長といえば、次期宰相候補や大貴族の子息が務める要職。いわば国内最高峰の権力者の卵ですわ。……それが、このような場所で紅茶を飲んでいるなど……」
ルミナの警戒は、聖女として正しい反応だ。
無理もない。 彼女の常識において、王立学園のトップに立つ者は規律と品格を体現したような、清廉潔白なエリートなのだろう。
対して、目の前のアッシュはどうだ。
着崩した制服、不遜な態度、そして全てを見下すような虚無の瞳。
あまりにも属性が違いすぎるのだ。
だが、その張り詰めた空気を――場違いな「共鳴音」が切り裂いた。
「……ほう」
それまで黙ってトーストを食べていたカイが、じっとアッシュを見つめた。
その右腕が、疼くようにピクリと動く。
「……お前……俺と同じ闇属性だな。只者じゃない……
出た。カイの中二病センサーだ。
アッシュが持つ、独特の虚無感や修羅の空気を、あろうことか同類の闇として受信したらしい。
「カイ……? 何を言って……」
ルミナが戸惑う中、アッシュは涼しい顔でカイを見返した。
そして、フッ、と口の端を歪める。
「……いい眼だ。深淵を覗く覚悟がある顔をしている」
「ふっ……分かるか。俺の右手に宿る黒龍が、お前の孤独に反応しているようだぜ」
「初対面ですぐ
俺は思わずツッコミを入れた。何だこの会話。
カイの痛々しい言動の裏にある本物を感じ取ったのか、それとも単にからかっているだけなのか。
二人の間には、奇妙な連帯感が生まれていた。
「……はぁ。カイがそう仰るなら、悪い方ではないのでしょう」
ルミナが毒気を抜かれたようにため息をつき、ようやく警戒を解く。
カイの中二病判定が、まさか身分証代わりになるとは思わなかったが、結果オーライだ。
「……まあ、いいだろう。歓迎するぞ、アッシュ」
エリスも苦笑しながら、改めて歓迎の意を示す。
こうして最強の権力と最強の中二病、そして最強の不審者である俺が揃った朝食会は、何事もなかったかのように始まった。
どんなにカオスな面子でも、腹は減るし飯は美味い。
さあ、騒がしい朝食を平らげたら、次は会議の時間だ。