エタった小説のラスボス邪神に転生したが、過去の俺の性癖が痛すぎて死にたい   作:超とんでもなくムッチリしたインコ

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すまん、間に合わなかった


第25話 黒歴史の解読と、中二病の逆転発想

朝食後、俺たちはリビングに移動し、円卓を囲んだ。

ここからは真面目な話だ。

議題は、王都を密かに騒がせている神隠し事件と、その中心にいるであろう少女アリス・リドルについて。

 

俺は一冊のノートを取り出した。

 

聖典(黒歴史ノート)

 

この世界のシナリオ、設定、そして俺の恥ずべきポエムが書き殴られた、絶対不滅の禁書。

 

「手がかりは……ここにある」

 

俺が重々しくノートを机に置くと、カイが「あっ」と声を上げた。

 

「それ……師匠がたまに、すげぇ難しい顔をして読み込んでるやつ……」

 

「……難しい顔、か?」

 

「ああ。なんかこう、頭を抱えて唸ったり。俺、てっきり世界の深淵に関わる儀式の書なのかと……」

 

「ち、違う!これはだな……!」

 

弁解しようとした、その瞬間だった。

 

「――お呼びしましたかァァァッ!!邪神様ァァァッ!!」

 

バァァァァン!!

 

リビングの窓が勢いよく開き、黒いローブを纏った男が回転しながら飛び込んできた。

教団一の狂信者。ガリウスだ。

 

「ガリウス!?お前どこから湧いて……」

 

「おお、これぞ!!」

 

ガリウスは机の上のノートを見るなり、感極まったように膝をつき、両手を天に掲げた。

 

「これこそ邪神様が天地創造の際に記された、万物の真理……『ダークネス・バイブル』ですぞぉぉぉぉッ!!」

 

(やめろ!原題で叫ぶな!)

 

俺の心の叫びは届かない。

エリスとルミナが「ダークネス……バイブル……」とゴクリと息を呑む。

アッシュだけが、「……フッ」と微かに肩を震わせていた。

こいつ、絶対楽しんでやがる。

俺は震える声で、無理やり話を合わせることにした。

 

「そ、そうだ……。ここには、これから起こるであろう未来の災厄が記されている……」

 

「さすがは邪神様……!全てを見通しておられる!」

 

ガリウスが涙を流して感動しているのを横目に、俺は該当のページを開いた。

アリスと、彼女が迎える末路について書かれたページだ。

 

「……神隠し事件の元凶について、ここに記されている」

 

俺は、かつて書いたポエムを読み上げた。

 

『少女に、安易な救いなどいらない。

彼女の美学は、自ら閉ざした鳥籠という器の中で完結する。

その痛みは毒の根のように侵食し、抵抗の証として黒い花を咲かせる。

他者の手は届かず、誰にも理解されず、闇に沈む。

それが世界への唯一の抵抗であり、至高の証なのだから』

 

読み終えた瞬間、部屋が静まり返る。

皆は真剣な表情でその言葉を咀嚼していた。

 

「……つまり、どういうことだ?」

 

エリスが眉をひそめる。

 

「これは比喩じゃない。……じきに、学園そのものが変貌する」

 

俺は前のループの記憶を予言として語り始めた。

 

「この記述を紐解くと……アリスという少女の絶望がトリガーとなり、学園は徐々に腐敗する。校舎は腐り落ち、花壇の花は毒に侵され朽ち果てる」

 

「腐敗、だと……」

 

「それだけじゃない。食事も腐り、生徒たちの精神も汚染される。……憎悪し、疑心暗鬼になり、次第にアリスの味方は居なくなる」

 

ルミナが青ざめて口元を覆う。

信じがたい話だ。平和な学園が地獄に変わるなど。

 

「……ああ。間違いない。その兆候は、既に観測されている」

 

沈黙を破ったのは、アッシュだった。

彼は冷めた紅茶を一口飲み、淡々と補足した。

 

「生徒会にも報告が上がっている。最近、生徒間の諍いが異常に増えているとな。些細なことで激昂し、まるで何かに操られるように特定の生徒――アリス・リドルを攻撃する者が後を絶たない、と」

 

厳密に言えば、まだそこまで状況は進行していないはずだ。

俺の予言に信憑性を持たせてくれようと、即興で合わせたのだろう。

 

「そんな……。では、神隠しというのは……」

 

「……恐らく、アリスの味方になろうとした生徒の末路だ」

 

俺は断言した。

 

「そして『鳥籠』……アリスが生み出すダンジョンは、外部からの干渉を徹底的に拒絶する。『他者の手は届かず』という一文の通りにな」

 

「ならば、わたくしの浄化魔法で……」

 

「……それも厳しいかもしれない」

 

俺は首を横に振った。

 

「『他者の手は届かず』が厄介だな……。アリスの絶望は深まるほど、世界そのものが『救い』を弾くようになるんだろう。霧散させられてしまうんだ」

 

生徒が暴徒化した際、ルミナの浄化魔法は効かなかった。

もし、一つ一つ予言を潰していけば結果は変わったのだろうか。

だが、このポエムが真理として世界に定着している以上、真正面からの攻略は不可能に近いのではないか。

 

重苦しい空気がリビングを支配する。

誰もが言葉を失い、打開策が見えないまま時間だけが過ぎていく。

 

その時だった。

 

「……なあ、師匠」

 

カイが、ポエムの一節を指差して首を傾げた。

それは場の空気を読まない、素朴すぎる疑問だった。

 

「『安易な救いなどいらない』ってことはさ……」

 

「……ん?」

 

「逆に言えば『安易じゃない救い』なら欲しいってことだよな……?」

 

「…………は?」

 

エリスが呆気にとられた声を出す。

 

「な、何を言っているんだカイ。それはただの言葉のアヤだろう。『救いなんていらない、絶望したい』という意味に決まっている」

 

「いや、わざわざ『安易な』って書いてあるんだぜ?本当にいらないなら『救いなどいらない』でいいじゃないか。条件付きみたいで、なんか引っかかってな」

 

カイは悪びれもせず、ニヤリと笑った。

ただの屁理屈だ。子供のような言葉遊びだ。

だが――その言葉が、雷のように俺の脳を貫いた。

 

「……安易じゃない、救い……」

 

俺はハッとしてアッシュを見た。

アッシュもまた、驚いたようにカイを見つめ、それから口元に手を当てて考え込んでいた。

 

「……一理ある、かもしれん」

 

そうだ。こいつは言っていた。

アッシュの行動は腐ったスープを飲み、いじめっ子を闇に葬り続け、己を歪めてでも彼女を守ろうとした。

それは決して「安易な救い」とは言えない。むしろ、狂気的なまでの献身だ。

だからこそレオンハルトはたった一度だけ、アリスを攻略出来た。

 

前のループで俺たちがやったことはなんだ?

アリスと友達になり、一緒に食事をした。

いざ世界の強制力が発動した時、アリスを庇い、アリスのために学校を休ませようとした。

 

それは、一見正しい行動に見える。

だが、アリスの絶望の深さを考えれば「可哀想な子を助けてあげる」「休ませてあげる」という行為は、あまりにも表面的で、ある意味で「安易な救い」だったのではないか?

 

「……アリスの絶望は、突然完成するわけじゃない。段階を踏んで、追い込んで来る」

 

俺は一度、言葉を切った。誰も口を挟まない。

まるで、その段階の一つひとつを、全員が頭の中でなぞっているかのようだった。

 

「……起きる現象を一つずつ潰していけば、予言の強制力は確実に削れるはずだ」

 

安易ではない救いをアリスへ。そしてアリスの絶望を育てない。

だとしたら、俺たちがやるべきことが見えてきた。

 

(……待てよ。なんでカイの奴、前のループではこんなこと言わなかったんだ?)

 

俺はふと疑問に思った。

前回のカイはアリスと出会い、彼女を必死に守ろうとした。

だからこそ、「助けたい」「守りたい」という感情が先行し、視野が狭くなっていたのかもしれない。

 

だが今のカイは、まだアリスを知らない。

彼女を悲劇のヒロインとしてではなく、ただの攻略対象として、フィルターを通さずに見ている。

だからこそ、このねじ曲がったポエムの矛盾点に、直感だけで気づけたのか……?

 

「……師匠?やっぱ俺、変なこと言ったか……?」

 

俺が黙り込んでいるのを見て、カイが不安そうに頭をかく。

俺はゆっくりと顔を上げ、ニヤリと笑った。

 

「いいや……。でかしたぞ、カイ」

 

俺の一言で、全員の視線が集まった。

 

「そ、そうなのか? だがアルテ、具体的に『安易じゃない救い』とは何だ?試練を与えればいいのか?」

 

エリスの問いに、俺は首を横に振る。

 

「多分違う。試練も、同情も、どっちもよくある手だ。この状況、善意をそのまま当てはめると、必ず歪みが出る」

 

「歪み……?」

 

アッシュが顎に手を当て、探るように言葉を継いだ。

 

「……なるほど。彼女の心の問題だけではないな。……つまり、『安易な救い』になり得る、常識的な『優しさ』や『配慮』では届かないということか」

 

流石はレオンハルト。

ループの記憶を伏せつつも、的確に核心を突いてくる。

 

「なら、どうすればいいのです?」

 

ルミナの問いに、俺は黒歴史ノートを叩いた。

 

「……手間暇をかけ、物理法則をねじ曲げ、こちらの都合を押し付けるほどの『圧倒的な安易ではない救い』だ。予言を、こちらの狂気で上書きする」

 

「だから必要なのは――安易じゃない、もっと重くて、壮大な救済だ」

 

ざわめきが広がる。

抽象論は、ここまでだ。

 

「……例えば、花が毒で腐る件ですが」

 

ルミナが慎重に口を開いた。

 

「絶望が即座に形になるなら、腐らない造花で埋め尽くすのはどうでしょう?枯れないものなら、拒絶しようがありません」

 

「うーん、造花か……。悪くはないんだが……」

 

俺がそう言うと、アッシュも首を横に振った。

 

「そう、悪くはない。……だからこそ、造花は危険だ」

 

「アリスは花が好きでな。枯れない造花は安全だが、同時に否定でもある。絶望に餌をやる手だ」

 

「じゃあ、どうすれば……?」

 

「少なくとも、“守る”という発想自体がズレているかも知れない」

 

「ズレているとは……?」

 

「毒を遠ざける前提だから、後手に回る。……そもそも、花が普通である必要はないよな……?」

 

「普通じゃない花……」

 

沈黙が落ちる。

だが全員の視線が、同じ方向を向き始めていた。

 

「なら、食事が腐る現象はどうする?」

 

エリスが話題を切り替える。

 

「聖別した食材を使うか……?」

 

「追いつかないな」

 

アッシュが即答した。

 

「食べるそばから腐る。浄化の速度が足りない」

 

「量で押すのはどうだ?」

 

「意味がない」

 

アッシュは冷静に続ける。

 

「腐ったものは食えん。……いや、無理して食った阿呆もいたがな」

 

一瞬、俺とアッシュの視線が交わる。

 

「なら――腐りにくい食べ物はどうでしょう?もしくは……最初から腐っているもの」

 

「発酵食品か……!」

 

「可能性はありますわ」

 

「聖別した食材を使う案も……」

 

ルミナが言葉を継ぐ。

 

「ただし、素材との相性は考える必要がありそうですわね」

 

「……ああ」

 

俺は頷いた。

 

「何に聖性を通すかで、結果は変わるかも知れない」

 

ルミナが、ごくりと喉を鳴らす。

彼女の脳内で、調理工程が組み上がっていくのが分かった。

 

「精神汚染には、俺の邪眼(ただの直感)が役に立つ。誰かがおかしくなる予兆があれば、すぐに察知して止めてみせる」

 

カイも真剣な顔で提案する。

 

「いや、それじゃ遅い。察知より、精神汚染を防ぐ為には何が必要か考えよう」

 

「しかしなあ、師匠。じゃあ、どうするんだ?」

 

「……同調が始まる前に、意識を縛りつけるしかない」

 

「縛る……だと?」

 

「考える余地を奪うくらい、単純で、逃げ場のない方法だ」

 

「まさか、恐怖か……?」

 

「いや、逆だ。恐怖を考える暇もない、夢中になれる何か、だ」

 

俺の言葉に、全員が真剣に考え込んだ。

まずはエリスの案だ。

 

「……全校生徒で、私の筋肉トレーニング・ブートキャンプというのはどうだ? 思考する酸素をすべて筋肉に回せば、悩みなど消える」

 

「エリス、それは物理的な死人が出る」

 

「では、わたくしの説法を24時間耐久で……」

 

「ルミナ、それは精神的な死人が出る」

 

「ふっ……ならば俺の右腕の封印を解き……」

 

「カイ、お前は座ってろ」

 

まともな案が出ない。

全員がズレた方向へ走り出す中、ガリウスが身を乗り出した。

 

「おお! でしたら我が教団の地下室へ招待し、全員に『目隠しと猿ぐつわ』を装着させましょうぞ!」

 

「それは夢中じゃなくて監禁って言うんだよ! 却下だ!」

 

「えぇ!? な、なぜでございますか!? 視界と顔を奪い、己が何者かを忘れさせれば、悩みなど持つ意味もなくなります! ただの群れとなり、虚無を共有するのです!」

 

「それが精神汚染だよ! 学園をカルトにする気か!」

 

俺は即座に切り捨てた。

だが――ガリウスの言葉が、妙なフックとして脳裏に引っかかる。

 

「……待てよ、ガリウス?」

 

「はい、邪神様! 何でしたら棘付きの首輪と手錠もセットで……」

 

「い、いや。違う! そっちじゃない!」

 

俺は顔を上げた。

 

「ただの群れとして感覚を共有する、という点。……そのアイデアは使えるな」

 

 

その後も議論は熱を帯び、次々とピースが埋まっていった。

俺は部屋の隅にあったホワイトボードを引き寄せ、中央に『アリス』と書く。

そこへ伸びる矢印に、全員がアイデアを書き加えていく。

 

食事の対策はルミナから。

精神汚染対策はカイから。

花壇が毒に侵される対策はリナとジェノ君で。

そして神隠し対策は……エリスとレオンハルトにも協力を頼んだ。

 

生半可な優しさでは届かない。

アリスという要塞を『安易ではない救い』で包囲し、陥落させるための作戦図へと変貌させてゆく。

その混沌とした盤面を眺めていた俺は、ふとある違和感に気づき、手を止めた。

 

「……なあ。現象が起きる場所は全部違う。食堂、花壇、教室……バラバラだ」

 

俺はマーカーのキャップを閉じる。

 

「だが、引き金になるきっかけだけは、妙に一貫してる」

 

アッシュが眉をひそめた。

 

「……何が言いたい?」

 

「まだ仮説だが」

 

俺は首を振る。

 

「だがもし、呪いが彼女の外から来てるんじゃないとしたら……?」

 

俺は、慎重に言葉を選ぶ。

 

「アリスが常に持ち歩いてるアレだ。それが、強制力と繋がる『窓口』になってる可能性は?」

 

「……確かに彼女は、常に持ち歩いていたな」

 

アッシュの瞳に、鋭い光が宿る。ターゲットは絞られた。

現象への対抗策と、その発生源への疑念。

 

俺たちが正解かは分からない。

だが、これらは決して可哀想だから助けるという、安易な救いではない。

一人の少女に絡みつく呪いを、俺たち全員の狂気で、真正面から殴り返す。

これぞ、「手間暇かけた、最高に安易ではない救い」だ。

 

方針は固まった。 ホワイトボードは黒く埋め尽くされ、やるべきことは明確になった。

だが――まだ、一つだけ。

どんなに議論しても決定打が浮かばない難問が残っている。

最初にして最大の難関。物理的に世界が崩壊する現象――机や椅子、校舎の腐食対策だ。

 

 

会議が一段落した後。

俺とレオンハルトは、何気なく庭に出て、散歩しながら唸っていた。

 

「……どうする。校舎の腐食だけは、個人のスキルではどうにもならんぞ」

 

レオンハルトが煙草を取り出しそうになって、俺の視線に気づいて手を止める。

彼はため息をついた。

 

「やっぱり一番単純な方法はダメか? 腐る机や椅子を、片っ端から新品に交換していくんだ」

 

俺は指を折りながら提案する。

 

「幸い、今の俺には『金塊』という資金源がある。腐るそばから新品を搬入し続ければ、見た目だけは維持できるはずだ」

 

「……無駄だ」

 

レオンハルトは、俺の言葉を遮るように即答した。

 

「1週間で、机や椅子が何個必要になると思う?」

 

「え……?」

 

「搬入が追いつくのは最初の一日、二日だけだ。三日目には廃棄物の山で校庭が埋まり、業者は逃げ出し、生徒たちは発狂する」

 

彼は遠い目をして、吐き捨てるように言った。

 

「……あれは、ただのイタチごっこだ。金と労力をドブに捨てるだけのな」

 

そのあまりに具体的すぎる否定に、俺は言葉を呑んだ。

語るその口調には、生々しい疲労感が滲んでいる。

 

まるで、実際にその地獄のような交換作業を指揮し、失敗した過去があるかのように。

 

(……こいつ、それも試したのかよ)

 

単純な解決がダメなら、超常的な力に頼るしかない。

俺は気を取り直して、別の案を出す。

 

「大規模な幻術とか、神聖魔法で腐食対策は出来ないだろうか……?」

 

俺はふと思いついて提案する。

 

「……私も高名な魔術師を雇い、試したことはある」

 

レオンハルトは首を横に振った。

 

「だが一時的な物にすぎん。失敗すればアリスの絶望を育てる事になる。幻術では物理まで再現出来んし、この規模でやるのなら膨大な魔力を消費し続けるぞ」

 

「なら神聖魔法はどうだ?聖女の加護があれば……」

 

「使い手次第だが……。聖女ルミナですら、この強制力の中でどこまでやれるかだな。一時的に防げても、何日も持続させるのは不可能だろう」

 

八方塞がりだ。

物理法則をねじ曲げる腐食の呪い。

これに対抗するには、同じくらい理不尽な「何か」が必要だ。

そんな話をしながら、俺たちは屋敷の裏手、広大な庭園の一角にたどり着いた。

 

「……なんだ、この像は」

 

レオンハルトが足を止めた。

彼が見上げているのは反射して神々しく、いや、禍々しく輝く巨大な立像だ。

全高6メートル66センチ。無駄に精巧な造形の、俺の像である。

 

「ああ、それは……その……」

 

俺は視線を逸らしながら答える。

あまり直視したくない黒歴史オブジェの一つだ。

 

「以前、ガリウスが勝手に建てた『大邪神像』だ……」

 

「……随分とまた、悪趣味な輝きだな。目が痛い」

 

レオンハルトは眩しそうに目を細め、像の足元へと歩み寄った。

そして、ペタペタとその表面を触り始める。

 

「……ほう?」

 

レオンハルトの目の色が変わった。

100回のループで磨かれた彼の観察眼が、何かの違和感を捉えたようだ。

 

「……なんだこの素材は?神聖力が異常に高い……邪神。この素材は何で出来ている?」

 

彼はブツブツと呟きながら、像を嘗め回すように観察し始めた。

流石はレオンハルト、素材への鑑定眼は確かなようだが。

 

「え?あー、なんだっけ……。俺も詳しくは……」

 

その時だった。

 

「お呼びになりましたかァァァ!邪神様ァァァ!!」

 

「うおっ!?」

 

地面から湧いて出たかのように現れた。

本日二度目の登場、ガリウスだ。

 

「きゅ、急に湧くな!心臓に悪いだろ!」

 

「申し訳ございません!邪神様が我が最高傑作をご覧になっている気配を感じ、居ても立っても居られず!」

 

ガリウスは恍惚とした表情で、自分の建てた像を見上げる。

 

「アッシュ殿!お目が高い!そう、この輝きこそ我が信仰の結晶!」

 

「ガリウス、質問だ。この像の素材はなんだ?」

 

レオンハルトはガリウスの奇行を完全にスルーし、実務的な問いを投げかけた。

100回のループで鍛えられたメンタルは伊達じゃない。

 

「よくぞ聞いてくださいました!」

 

ガリウスは立ち上がり、得意げに胸を張る。

 

「ベースとなるのは腐食に強い最高純度のプラチナ!そこに、古代遺跡から発掘された超強化イリジウムを限界まで配合した『神魔聖・超合金(仮)』でございます!」

 

「プラチナに……超強化イリジウム……だと!? コストはどうなっている……」

 

「採算度外視! 教団の運営資金全てを突っ込みました! その特性は『永遠』!!たとえ世界が滅ぼうとも、この像だけは未来永劫、邪神様の威光を放ち続けるのです! 腐食? 錆?ありえませんなァァァァァァ!」

 

そうだった。

アパレルショップの莫大な売り上げと、胡散臭い寄付金で潤っていたはずの教団がすっからかんになるほどなのだ。

まあそのせいで強欲の錬金釜に手を出すハメになったんだが……。

 

ガリウスの狂気じみた高笑いが響いている。

レオンハルトは俺の方を向き、呟いた。

 

「……無駄だな」

 

「この異様なプラチナであれば腐食を弾き返せる……と思ったがな。時間も技術的にも足りん。お前たちの馬鹿さ加減が移ったかも知れんな」

 

レオンハルトは自嘲気味に笑っていたが、俺の目は死んでいなかった。

 

「……ナイスだ、アッシュ。……イケるかもしれない」

 

「なに……?」

 

「技術も時間も、たぶん問題ないはすだ……」

 

俺は目の前の巨大な邪神像を見上げた。

これだけの質量を持つ『永遠に腐食しない金属』の塊。

これを再利用しない手はない。

 

「ガリウス」

 

「はッ……! この身、この魂、その像と共に――すべては邪神様の御心のままに……!」

 

「ああ、素晴らしい素材だ。……だからこそ、有効活用させてもらうぞ」

 

「は、はい……!?」

 

俺は早速、話を付けた。ガリウスの悲鳴がこだまする。

多少の犠牲……と、教団のシンボル消失という尊い犠牲を払うことになるが世界のためだ。

やむを得まい。

 

さあ、最後のピースは埋まった。

あとは学園への根回しだ。学園長室まで殴り込みに行くぞ。

 

メンツは聖女ルミナ、生徒会長アッシュ、ジェノ君。

そしてこの国の英雄である『仮面の氷結処刑人アルテ・イリヤ』だ。

これだけの面子が揃えば、どんな無理難題も、物理的(と権力的)にねじ伏せられるはずだ。

 

――潜入予定日まで、あと3日。

俺たちの、最高に大人げない学園攻略が幕を開ける。




そしてまた書き溜めだ、引き続き見捨てず頼む
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