エタった小説のラスボス邪神に転生したが、過去の俺の性癖が痛すぎて死にたい   作:超とんでもなくムッチリしたインコ

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第26話 無料リフォームと、黄金の口止め料

王都王立学園。

その無駄に豪華な装飾に彩られた学園長室に、悲鳴のような声が響き渡った。

 

「が、学園長! 至急、お伝えしたいことが……!」

 

重厚なマホガニーの扉が勢いよく開かれ、受付の女性職員が転び込むようにして入ってきた。

その顔はバケモノでも見たかのように蒼白で、唇は小刻みに震えている。

 

「なんだね、騒々しい。私は今、『合宿計画』の……コホン、調整で忙しいのだよ。アポのない面会なら、すべて追い返しなさいと言ったはずだ」

 

山積みの書類を整理していた学園長は、不機嫌そうに応えた。

だが、職員の震えは止まらない。

彼女は呼吸を整えるのも忘れ、絶叫に近い声で報告した。

 

「そ、それが……とんでもない大物が、 直ちに面会を求めています!」

 

「大物? 教育委員会の役人か? それとも王族の誰かかね?」

 

学園長が鼻を鳴らす。この学園のトップは自分だ。

多少の有力者が来たところで、のらりくらりと躱す話術には自信があった。

だが、次の一言で彼の動きは完全に凍りついた。

 

「生徒会長アッシュ、聖女ルミナ様、凶悪そうな巨大ゴーレム、そして……『仮面の氷結処刑人』殿です!」

 

「……なっ、何だとッ!!?」

 

学園長の手から高価な万年筆が滑り落ち、ペルシャ絨毯の上に無残なインクのシミを作った。

よりによって、民意(生徒会)、この国の権威(聖教会)、暴力(ゴーレム)、そして救国の象徴である仮面の氷結処刑人。

それはもはや面会ではない。討伐の布陣だ。

 

「学園長、どうしましょう……?」

 

「う、うむ、まずは居留守だ! 私は急病で倒れたと伝えなさい! 今すぐ……!」

 

ドォォォォォン!!

 

指示を出し切る前に、爆音と共に世界が揺れた。

特注の防音扉が軽々と吹き飛び、回転しながら部屋の奥の壁に突き刺さる。

 

「ひっ……!! 扉ッ! 特注のマホガニーが、粉々に……!」

 

「よーう、学園長。無料リフォームに来てやったぞ?」

 

もうもうと立ち込める土煙の中から現れたのは、フリル満載のドレスに黒いマスクという、あまりにも不吉な幼女――俺だ。

背後には、笑顔で凄まじい威圧感を放つ聖女ルミナと、氷のように冷徹な瞳を向けるアッシュ。

そして、開け放たれた窓の外からはジェノ君が、ギチギチと駆動音を立てて部屋を覗き込んでいる。

 

「ひっ……!! き、貴様ら……不法侵入だぞ! 『キリングドール』! この不審者を今すぐ排除するんだ!!」

 

学園長が震える手で、机の下にある非常用魔導ボタンを連打する。

本来なら破壊の自動人形たちが駆けつけ、侵入者を制圧するはずだった。

だが、廊下からは機械の駆動音一つ聞こえてこない。

ただ不気味なほどの静寂があるだけだ。

 

「無駄だ。あいつらは来ないぞ」

 

俺は学園長の執務机に無造作に腰掛け、不敵に笑った。

 

「キリングドールの主は俺だからな。生みの親を攻撃しろなんて、無理な注文をするもんじゃない」

 

「な……馬鹿な、あれは旧文明の遺産で、私が管理して……」

 

「いや、そんなことはどうでもいいんだよ。それより……」

 

学園長が青ざめる中、俺の視線は部屋の隅で縮こまっている受付のお姉さんに向いた。

 

(この人……。前のループで、俺の一生のお願いを聞き入れてくれた人なんだよな)

 

あの時、彼女は規則よりも目の前の可哀想な子供を選んでくれた。

そんな善人を、このドロドロした修羅場の観客にするのは寝覚めが悪い。

 

「……お姉さん。驚かせちゃってすまんな」

 

俺は机からひらりと飛び降り、彼女の前にしゃがみ込んだ。

そしてヴォイド・ストレージから甘いチョコパイを取り出す。

 

「はい、これやるよ。休憩室で温かいお茶でも飲んでて」

 

ポカンとする彼女の手にチョコパイを握らせた。

そして迅速かつ丁寧に廊下へと誘導する。

 

「え……? あ、あの……?」

 

呆然とする彼女に対し、俺は親指で背後――さきほど派手に吹き飛ばした入り口を指差した。

 

「お姉さんは退避推奨だ。風通しが良くなりすぎてるけど気にせず通ってくれ」

 

善良な市民が退場したのを確認し、俺は再び学園長へと冷徹な視線を戻した。

 

「さて、学園長」

 

その名を呼ばれただけで、彼の肩が跳ねた。

 

「……今の優しさが俺の全在庫だ。お前への分は残ってない」

 

俺は、もう笑っていなかった。

 

「んで。あんた、運営資金を横領してるだろ?」

 

「デ、デタラメだ! 何の証拠があってそんなことを!」

 

学園長が泳ぐ目で叫ぶ。だが、俺は畳み掛ける。

予めアッシュから聞いていたからな。

 

「証拠なら、その机の三番目の引き出しの裏にある裏帳簿で十分だろ? ……だが、俺が本当に問題にしてるのは、そっちじゃない」

 

俺は一通の名簿を机に叩きつけた。

 

「生徒が行方不明だろ? 巷で噂の『神隠し事件』だ。……あんたはそれに気づいている。だが、焦っているはずだ」

 

俺は名簿の一行を指差した。

 

「この生徒を知っているか?」

 

「……し、知らない……。私は、こんな生徒など……」

 

「だが、ここを見ろ。確かに学費の入金記録はある。入学許可証に押した印鑑も、あんたのものだ」

 

「うっ……!?」

 

「筆跡も、印鑑も本物だ。……なのに、なぜだ? なぜ顔が思い出せない? 」

 

「あ……あぁ……」

 

学園長の顔色が、恐怖でドス黒く変色していく。

彼は必死に記憶の糸をたぐろうとしていた。だが、そこにあるのは黒く塗りつぶされた空白だけ。

思い出そうとすればするほど、脳が拒絶反応を起こし、生理的な吐き気がこみ上げてくる。

 

「た、確かに私の字です……。確かに、書いた覚えは……ありますが……思い出せないのです……」

 

学園長は自分の頭を抱え、ガタガタと震えだした。

自分の正気が蝕まれている感覚。

俺はあえて、その恐怖の傷口に塩を塗るように囁いた。

 

「事が公になれば、本格的な調査が入る。そうなれば、芋づる式にあんたの悪行までバレちまうもんな? だから必死に隠蔽しているわけだ。……安心しろ、悪いようにはしない。神隠しも俺たちが解決してやる」

 

「こ、告発だけは……! 告発だけは勘弁してください! お願いしますよっ!!?」

 

学園長が縋りつくような目で叫ぶ。

 

「おう、考えてやるよ」

 

(まあ、考えるだけなんだが)

 

俺はマスクの下でニヤリと笑い、本題を切り出した。

 

「ただ、協力してもらうぞ。……今すぐ『臨時休校』の宣言を出せ。期間は、とりあえず二日だ」

 

「きゅ、休校!? そ、そんな急に理由もなくできるわけが……! 理事会への説明もつきませんし……!」

 

学園長が狼狽する。

保身のためとはいえ、何の理由もなく全校休校にすれば、それはそれで自分の首を絞めることになるからだ。

だが、その退路を断つように、一人の女性が優雅に一歩前に出た。

 

「理由なら、わたくしが作って差し上げますわ」

 

ルミナだ。

彼女の背後には、神罰を代行するかのような、神々しくも苛烈な後光が差している。

 

「聖教会の名において、この学園に『不浄の兆候』が認められました。もし反発されるのであれば……この事態を放置した罪、国家反逆罪として死刑は免れませんわね?」

 

「ひっ……!!」

 

ルミナは聖女の微笑みを浮かべたまま、首を傾げた。

 

「……ふふ、火炙りと断頭台、どちらがお好みかしら?」

 

「…………ッ!!」

 

『キュウコウ……キュウコウ……』

 

さらに、窓の外でジェノ君が唸った。

グォォォォン!! と、ギロチンアームのエンジンが凄まじい排気音を上げる。

まるで休校にしないなら、この校舎を物理的に休校にするぞ、と言わんばかりのデモンストレーションだ。

 

学園長は完全にパニックに陥っていた。

従えば理事会に詰められる。拒めば聖女に処刑され、ゴーレムに解体される。

完全に詰みだ。

 

「あ、あぁ……、ど、どうすれば……」

 

絶望する学園長。

その心が折れる寸前のタイミングを見計らい、俺はヴォイド・ストレージを開いた。

アメとムチ。ムチで叩きのめした後は、極上のアメを与えるのが交渉の鉄則だ。

 

ドンッ!!

 

重い音が、机の上から響いた。

窓から差し込む陽光を反射し、部屋中を黄金色に染め上げるほどの輝き。

純金延べ棒の山だ。

 

「 こ、これは……!?」

 

学園長の目が釘付けになる。

恐怖で引きつっていた表情が、一瞬で卑しい欲望の色に塗り替わる。

 

「口止め料兼、今回の手間賃だ。あんたの横領した額より、遥かに多いはずだろ?」

 

「き、金……! 本物の、純金……!?」

 

「神隠しの恐怖からも解放してやる。さらにこの黄金もくれてやる、だが二度と横領すんなよ。で、……どうだ?」

 

学園長の喉がゴクリと鳴る音が、静まり返った部屋に響いた。

恐怖と強欲。二つの感情が天秤にかかり――そして、黄金の重みが圧勝した。

 

「や、やります! やらせてくださいぃぃっ!!」

 

学園長は金塊に抱きつき、頬ずりしながら涙を流して叫んだ。

チョロいもんだ。

 

「あ、アッシュ君! 君も証人だね!? これは正当な寄付金だね!? 私は脅されたわけじゃない、学園のために、正当な判断として……!」

 

学園長は最後の保身とばかりに、アッシュに縋りついた。

だが、アッシュは冷ややかな目で見下ろす。

その瞳の奥には、100回のループで積み重ねてきた、静かだが苛烈な怒りが渦巻いていた。

 

「……勘違いするなよ。私が認めたのは、生徒を守るための必要経費だ」

 

「ひっ……」

 

アッシュの声には、底冷えするような威圧感があった。

この男の保身のせいで対応が遅れ、多くの生徒が犠牲になった事もあったそうだ。

その光景を、彼は決して忘れていない。

 

「二度目はないぞ、学園長。……今度こそ、正しい選択をしろ。さもなくば、その黄金がお前の棺桶になる」

 

「は、はいぃぃっ! 肝に銘じますぅぅっ! 直ちに全校休校の手続きを! 理由はどうとでもでっち上げますからぁぁっ!!」

 

「……それと、もう一つだ」

 

俺は何でもないことのように付け加えた。

 

「ジェノ君も、この学園の用務員として雇え」

 

「……は?」

 

学園長は、思考が一拍遅れたような間の抜けた声を出した。

 

「ま、待ってください!こ、こんな……こんな凶悪そうなゴーレムを、用務員に!?む、無理です! それは絶対に無理です!!」

 

必死に首を横に振る学園長。

その視線の先では、巨大な鉄の身体が窓枠を軋ませながら、じっとこちらを見下ろしている。

 

「えー ?そうか?ジェノ君、かわいいだろ?」

 

「かわ……!?ど、どこがですか!? 全身、殺意の塊じゃないですか!!」

 

「失礼だな」

 

俺は窓へ手を伸ばした。

ジェノ君の装甲を、撫でるようにトントンと叩く。

 

「ほら見ろ。えっと……このトゲトゲのツヤもいいしさ」

 

「ツヤ!?それでかわいい判定は無理ですよ!!」

 

『……ワルグチ……?』

 

その時、窓の外で。

ジェノ君のモノアイが赤く、鋭く、ピカーッと光った。

 

「あーあ、ジェノ君が怒っちゃったよ」

 

グォォォォン……。

 

ギロチンアームが、ゆっくりと回転を始める。

まるで用務員にしないなら、お前を血でかわいく染めてやるぞ、と言わんばかりのデモンストレーションだ。

 

「ひっ……!!?」

 

「な? やる気満々だろ」

 

「ち、違うでしょ!? 殺る気満々じゃ……!!」

 

『ヨウムイン……?』

 

ギロチンアームが、回転数を上げる。

 

グォォォォン……!!

強烈な風圧が学園長室の書類を巻き上げ、学園長の僅かに残った毛髪を激しく揺らした。

 

「ひぃぃっ!? わ、分かりました!や、雇います! 雇いますから止めさせてください!!」

 

『……リョウカイ……』

 

ジェノ君が満足したように、ギロチンアームを停止させた。

 

「ほらな。話の分かる、良い用務員だろ?」

 

俺は学園長に向き直る。

 

「あと休校明けに生徒に配るものがあるから、手配させておく。忘れんなよ。いいな?」

 

「は、はいぃぃっ! 喜んで手配いたしますぅぅぃ!!」

 

学園長は、泡を吹きそうな顔で何度も頷くことしかできなかった。

完全に心が折れた学園長を後に、俺たちは中庭へ戻った。

そこには、『キリングドール』たちが、ジェノ君を囲むようにして整列していた。

 

「……ジェノ君、調子はどうだ?」

 

問いかけると、ジェノ君は一拍置き、ゆっくりと首を横に傾けた。

 

『マスター・アルテ、ノ、タメニ、ハタラ、コウネ……?』

 

するとキリングドールたちが、まるでアイドルの出待ちのような熱量でこちらを見ている。

 

『勿論デス! デモ……』『アノ、ポーズ……モウ一回ダケ……』

 

まさかジェノ君たちを屈服させた、あの邪神のポーズか。

なんであんな羞恥心の塊を。まあ、やる気が出るなら別にいいんだが。

俺は右手を高々と掲げ、左手で右目を覆い、片足立ちで背中を思い切り反らす。

 

「しかと目に焼き付けよ……邪眼開放の儀!」

 

ドォォォォォン!!

 

『『『シテ……ユルシテ……』』』

 

キリングドールたちは衝撃音と共に、ド派手に土下座をキメた。

ついでに、ジェノ君も綺麗に土下座している。

ジェノ君まで巻き込んでしまった、なんかすまん。

 

『ハァハァ……コノ屈服サセラレル感覚……忘レラレナクテ……』

 

『任務セイコウ、シタラ、モウ一回……』

 

「あ、ああ……。まあ、頑張れよ……」

 

なんかハァハァ言ってる……。

世界で一番いらない性癖を目覚めさせてしまったか。

俺は引きつった笑みを浮かべ、這いつくばる破壊の自動人形に激励を飛ばした。

 

「よし。俺たちは一旦帰るぞ。まだまだやる事が山積みだからな」

 

俺は邪神像を運び込んでいる黒ローブの集団――教団の建築部隊へと視線を向けた。

彼らの目は、信仰という名の狂気でギラギラと輝いている。

 

「さて、お前の技術力を世界に見せつけるチャンスだぞ。ガリウス」

 

「お任せください、邪神さま!! 我が教団の誇る建築部隊『バベル』にかかれば、この程度の校舎のリフォームなど容易いこと! 二日以内に完遂させてご覧に入れましょうぞォォォ!!」

 

「……よし、頼んだ」

 

ガリウスの号令と共に、教団員たちとキリングドールが一斉に動き出す。

俺たちはその喧騒を背に、学園の門をくぐった。

本格的な決戦は三日後、それまでぎりぎりまで調整しなければならない。

 

「勝負はここからだ……」

 

俺は次なるリライトの構想を練り始めた。

対策は打った。だが、相手は俺自身が生み出した絶望だ。

さあ、まだやる事が山積みだ。

これくらいの手間暇をかけなければ、ハッピーエンドなんて掴み取れないのだから。

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