エタった小説のラスボス邪神に転生したが、過去の俺の性癖が痛すぎて死にたい   作:超とんでもなくムッチリしたインコ

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第4話 孤独な連載の記憶と、ツッコミ役の女騎士

ダンジョンを出て半日。

俺たちは王都へと続く街道を歩いていた。

 

マスク越しの呼吸にも慣れてきた頃、俺はふと、後ろをついてくる信者たちを見た。

彼らは俺が石につまずいただけでも「大地の脈動を確認された!」と涙ぐんでいる。

チョロすぎて怖いが、彼らのボロボロの服を見ていると、胸が痛む。

俺が悪役モブとして書き捨てた彼らにも、人生があるのだ。

作者として、この世界のケツは俺が拭く。そう決めたはずだ。

 

「邪神様、前方をご覧くだされ!」

 

ガリウスの声で我に返る。

街道の先、峡谷にかかる大きな吊り橋が封鎖されていた。

銀色の鎧を纏った一団。王国騎士団だ。

 

俺の脳内データベースが検索をかける。

ここは第2章の冒頭イベント。

 

『王都へ向かう邪神を阻止すべく、騎士団の精鋭部隊が立ちはだかる。しかし、邪神の圧倒的な力の前に、彼らは虫けらのように蹂躙される』

 

いわゆる噛ませ犬イベントだ。

本来なら、俺が指一本で彼らを吹き飛ばして終わるはずだ。

 

「止まれ! 通報があった。貴様らが『邪神教団』だな!」

 

先頭に立つ騎士が声を張り上げた。

長い赤髪をポニーテールにした、凛とした佇まいの女騎士だ。

腰にはレイピア。鋭い眼光。

 

(……ん? 誰だ?)

 

俺は記憶を探る。 あんなキャラ、ノート(聖典)に書いただろうか?

モブ騎士は全員、顔の見えない兜を被っていたはずだ。

女騎士は、俺を見て、隠しきれない義憤を露わにした。

 

「……なんだ、その姿は」

 

視線は、小さな幼女(俺)に釘付けだ。

 

「貴様らが祭り上げている『銀の邪神』とは、このいたいけな子供のことか? こんな幼女に、気味の悪いドレスと仮面を着せ、何を企んでいる!」

 

まともだ。

この世界に来て初めて、まともな感性の人間に会った。

でもヤバい、児童虐待に見えている!

 

「無礼者! 慈悲深き邪神様の御姿を侮辱するとは、命知らずめ!」

 

「私は王国騎士団副団長、エリス!その子を解放しろ!」

 

エリス?

知らない名前だ。ノートには書いていない。

……いや、待てよ。

俺は薄れかけた記憶の底をさらった。

 

そうだ。ノートには書いていない。

だが遥か昔、ノートの内容を元にネット小説サイトで連載を始めた際――「PV数ゼロ」の現実に焦った俺が、テコ入れのために急遽追加したキャラだ!

 

(ヤバい、こいつは『改稿後』のキャラだ!)

 

俺の背中に冷や汗が流れる。

当時の俺は、誰にも読まれない孤独に耐えかねて、後付け設定を盛りまくった。

エリスもその一人。「強気な女騎士って需要あるだろ?(笑)」という安直な理由で追加された、ノートには存在しないイレギュラーだ。

 

「黙れ、狂信者ども! この場で邪神教団を制圧し、この子を保護する!これは戦闘ではなく、救助だ!」

 

(いや、待て!騎士団に保護されたら、ガリウスたちは『子供を邪神と祭り上げる狂信者』として処刑されかねない!)

 

俺は信者たちを守るため、対話で状況を打開する必要を感じた。

 

「フン……救助だと? 貴様には、我の慈悲は理解できぬか」

 

俺は一歩前に出た。

マスク越しに、冷静な声で告げる。

 

「我は邪神、アルテ・イリヤ。貴様らと無用な戦をするつもりはない。話がしたい」

 

エリスは警戒を解かない。

 

「話だと…? この幼女に邪神のフリをさせて時間を稼ぐつもりか。企みは何だ!」

 

(対話を求めているのに、全く信じてもらえない……!)

 

俺は決断した。対話の場を作るには、圧倒的な『本物』の証を示すしかない。

 

「……ならば見せてやろう。貴様らの理解を超越した、我が存在の証を」

 

俺は、左手を軽く掲げた。

当時の設定で魔力が高まりすぎた時のクールな仕草としていた動作だ。

 

その瞬間、俺の全身から、紫と黒が入り混じった粘性の魔力が噴き出した。

 

ゴゴゴゴ……。

 

大気が重みを持ち、エリスの周りの騎士たちの鎧がキシリと軋む。

 

「な、なんだこの圧は……!?」

 

騎士団の隊列が、ざわりと揺れる。

数名の騎士は思わず剣を取り落とし、顔を覆った。

エリスの顔から血の気が引いた。彼女は、その身をもって理解した。

 

「……これが、邪神の魔力……。まさか、本当に……この幼女が……」

 

彼女の凛とした瞳に、明確な恐怖が宿る。

だが、彼女は騎士としての誇りを胸に、深く息を吐いた。

 

「……ふざけるな」

 

エリスは小さく呟くと、一瞬で瞳の迷いを消し去った。

 

「貴様が本物だろうと、この橋は通さん!王国騎士団副団長、エリス!貴様を討伐する!」

 

彼女の覚悟が決まったのを感じた。

 

「待て! エリス、俺は戦うつもりはない。王都の危機について——」

 

俺は、マスク越しに対話を試みた。

しかし、その言葉は届かない。

 

「問答無用だ!」

 

エリスが剣を抜く。速い。

話を聞け!と叫ぶ間すら与えられないまま、瞬きする間に間合いを詰められ、切っ先が俺の喉元に迫る。

 

(くそっ! 対話の機会は、もう潰えたか!)

 

『ハイジョオオオオォッ!』

 

俺の背後から『煉獄の処刑人』が飛び出し、巨大なギロチンアームを振るう。

だが、エリスは不敵に笑った。

 

「遅い!」

 

『ア゛ッッッ!!』

 

閃光。

エリスのレイピアが、ゴーレムの関節を正確に貫いた。

一撃で、巨大なゴーレムの腕が空を舞う。

 

「な……ッ!?」

 

俺は絶句した。 あのレベル60のゴーレムが、一撃で?

 

エリスが着地し、冷たく言い放つ。

 

「鈍重な鉄塊だな。……我が『雷光の剣技』の前では止まって見える」

 

(雷属性!? しかも素早さ特化型かよ!)

 

思い出した。

「主人公最強TUEEE」をするために、「最初は強敵っぽく出して、後で主人公に瞬殺させるために盛ったキャラ」だ。

いわゆる「インフレの象徴」だ。

 

「終わりだ、邪神!」

 

エリスの刃が、今度は俺に向く。

俺は避けようとした。

思考では分かっている。右にステップして躱せばいい。

 

だが――体が動かない。

恐怖で竦んだのではない。俺の足が、地面に根を張ったように、微動だにしないのだ。

 

(な、なんで!? 動けよ俺の足!)

 

その瞬間、脳裏に設定資料が過ぎる。

 

『邪神アルテ・イリヤは、下等生物の攻撃を避けない。王とは、常に堂々と受けるものである』

 

『パッシブスキル:イムーバブル・ロード(不動の王)――敵対行動に対して、一切の回避行動が不能になる』

 

(バカか昔の俺ぇぇぇぇ!! 死ぬわそんなもん!!)

 

思い出した!

当時の俺は『ラスボスがチョコマカ動いて避けるとかダサくね? 棒立ちで受けて、魔法一発で消し飛ばすのが最強だよな!』という歪んだ美学を持っていたんだ!

 

刃が迫る。

なら、迎撃するしかない。魔法か?

 

ダメだ!大技は発動に「長くて恥ずかしい詠唱(ポエム)」が必須だ!

「我は拒絶する……」とか言ってる間に刺される!

 

なら、物理で殴るか?

それもダメだ!この体のステータスは『筋力:9999』。

加減の仕方が分からない。

下手に拳を振るえば、エリスの上半身が「ごめん、間違えた」では済まないレベルで消し飛んでしまう!

 

俺の攻撃手段は、「大惨事」か「尊厳破壊」の二択しかないのか!?

息が荒くなる。マスクが顔に密着する感触。フィルター越しの呼吸音。

 

(そうだ……このマスクには……!)

 

脳裏に当時の設定が蘇る。

 

『食事中も仮面を外さないクールな邪神』を演出するために、俺が後付けした吸排気システム。

吸気と排気を分離制御する魔導機構――本来は飲食用だが、これを応用すれば!

 

(切り替えろ……排気モード!)

 

俺は思考を集中させた。

カチッ。

マスクが脳波に反応し、内部機構が作動する。

 

当時の俺は更に調子に乗って『念じるだけで操作とか超クール』と、思考同調システムまで組み込んでいたのだ。

まさかの伏線回収。

 

(死ぬ気で出力を抑えろ! 0.01%! それ以上は殺してしまう!)

 

フィルターがバイパスされ、極限まで絞り込まれた毒ガスが放出口へ集約される。

 

「うおおおおおッ!!」

 

プシュッ!

 

出力0.01%――本来の威力の一万分の一に抑えた「邪神の吐息」が、エリスへ向けて噴射された。

これは魔法じゃない。生体機能だ。だからノータイムで出る!

 

「うわっ!?」

 

エリスがたじろぐ。

 

(くっ、制御が難しい……! ちょっとでも気を抜いたら出力が跳ね上がる!)

 

俺は必死に思考で出力を抑え続けながら、催涙ガス程度の威力を維持した。

プシュウウウゥゥ……!

 

「げほっ、ごほっ……! き、貴様……騎士道精神はないのか!」

 

エリスがバックステップで距離を取り、口元を押さえて膝をつく。

さすがはネームドキャラ、この程度で済んで良かった。

 

「ねえよそんなもん!こっちは必死なんだよ!」

 

俺はゼーハーと息を切らしながら叫んだ。

かっこ悪い。

 

圧倒的な力で蹂躙する邪神の面影はゼロ。

ただの、ガスを撒き散らす不審者だ。だが、これでいい。

 

「エリス! 俺の話を聞け!」

 

「お前らが守ろうとしてる王都には、『本物の怪物』が現れる! こんなところで俺と遊んでる場合じゃないんだよ!」

 

「はあ? 何を言って……」

 

「お前の妹! 病気で寝たきりだろ!?」

 

エリスの動きが止まった。

その顔に驚愕が走る。

 

「な、なぜそれを……」

 

「知っているさ。……俺は、お前たちのことを全部知っている」

 

「……全部?」

 

「ああ。お前が妹の治療費のために騎士になったことも、毎晩こっそり妹に絵本を読んでいることもな」

 

エリスが顔を真っ赤にして、後ずさった。

 

「き、貴様、ストーカーか!? 気持ち悪いぞ!」

 

「ち、違う! ……いや、ある意味合ってるけど!」

 

俺は慌てて否定したが、状況は悪化していた。

これはノートの隅にすら書いていない。世界で俺しか知らない情報。

 

「貴様……どこからその情報を……。まさか、教団の諜報網か?」

 

エリスの目に警戒の色が強まる。剣を握る手に力がこもる。

 

「妹に指一本でも触れてみろ。刺し違えてでも貴様を殺す」

 

「落ち着け! 俺は敵じゃない!」

 

「信用できるか! 個人のプライバシーを覗き見る、変態邪神幼女など!」

 

ごもっともだ。ぐうの音も出ない。

だが、ここで引くわけにはいかない。

 

「俺は、お前の妹を治す方法も知っている」

 

エリスの動きがピタリと止まった。

 

「……なに?」

 

「嘘だ。妹の病は「魔力不全症」。不治だと言われた。国一番の治癒術師でさえ匙を投げたんだぞ!」

 

「嘘じゃない。治療法はある」

 

俺は言い切った。

正確には、治療法の解明までの設定がない。

だが、作者として、絶対に治せるはすだ。

不治の病なんて設定、俺がボツにしてやる。

 

「お前には二つの選択肢がある。ここで俺を斬って、妹が死ぬのをただ待つか。……それとも、この『不審者』に賭けて、妹が助かる可能性を掴むか」

 

俺は真剣な眼差しを向けた。

 

「俺を利用しろ、エリス。嘘をついていると思ったら、その瞬間に俺の首を刎ねればいい」

 

エリスは唇を噛み締め、俺を睨みつけた。

葛藤している。騎士としての誇りと、姉としての愛情の間で。

数秒の沈黙が、永遠に感じられた。

 

やがて、彼女は剣をゆっくりと下ろした。

 

「……貴様の首一つで、妹が助かるなら安いものだ」

 

彼女の声は震えていた。

信頼などしていない。これは、溺れる者が藁をも掴む、悲痛な賭けだ。

 

「案内しろ、エリス。……お前の妹も、この国も、俺がまとめてハッピーエンドにしてやる」

 

俺たちは吊り橋を渡る。

前方には王都。

そこでは、俺が書いた最大の鬱イベント――『王都大火災』のフラグが、着々と進行しているはずだ。

 

俺の戦いは、過去の記憶と、融通の利かない自分の設定との戦いへとシフトしていた。

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