エタった小説のラスボス邪神に転生したが、過去の俺の性癖が痛すぎて死にたい 作:超とんでもなくムッチリしたインコ
俺は夜空を飛んでいた。
恥ずかしい詠唱の対価として得た飛行能力は快適そのものだ。
重力を無視し、風を切って王都の中心へ急行する。
だが、眼下の光景を見た瞬間、俺の心は冷え切った。
王都が、燃えている。
中心部の広場から放射状に広がった炎が、街路を舐めるように焼き尽くしている。
逃げ惑う人々。崩れ落ちる家屋。
そして、その中心で暴れまわる、体長10メートルを超える巨大な人型の炎。
『王都大火災』の元凶、炎の魔神ヴォルカヌスだ。
「……間に合わなかったか」
俺は唇を噛んだ。
被害はすでに出ている。俺がリナを救っている間に、シナリオは進行していたのだ。
だが、まだ終わっていない。
王城の前では、銀色の鎧を纏った一団――王国騎士団が、必死に防衛線を張っていた。
「水魔法部隊、放水! 魔神を城に入れるな!」
「ダメです! 火力が強すぎて水が蒸発します!」
「くそっ、なんて熱量だ……!」
騎士たちが絶望的な声を上げる。
俺の設定では、彼らはここで全滅する。
かませ犬として、魔神の強さを引き立てるためだけに焼死する。
(させるかよ!)
俺は急降下した。
魔神の頭上を取り、魔法を叩き込む。
狙うは一撃必殺。
だが、その時だった。
魔神ヴォルカヌスが、燃え盛る腕を広げ、空に向かって咆哮した。
『うおぉぉぉぉ!燃えろぉぉぉぉぉッ!!』
ビリビリと空気が震える。
そして、魔神は続けて叫んだ。
『愛も! 希望も! 聖夜の誓いも! この紅蓮の炎が全てを焼き尽くすのだぁぁぁッ!!』
「ぐふっ!?」
俺は空中で吐血しそうになった。
物理的なダメージじゃない。精神へのクリティカルヒットだ。
(やめろ! そのセリフは!)
俺は顔を覆いたくなった。
あれは、初めてできた彼女に、クリスマス前に三日でフラれた夜に、泣きながらノートに書き殴ったセリフだ!
『愛なんて燃えてしまえ』という怨念が込められた、恥ずかしさの結晶!
魔神は止まらない。
周囲の家屋を焼き払いながら、俺の黒歴史ポエムを大音量で垂れ流す。
『孤独こそが炎! 温もりなど偽りだ!』
『「返信不要」という名の拒絶を! 「ブロック」という名の断絶を! 貴様らも味わうがいいぃぃぃッ!!』
『二度と繋がらぬ「タイムライン」の如く、灰となれぇぇぇぇッ!!』
「やめろォォォォ!! 具体的に言うなバカヤロウ!!」
俺は絶叫した。
公開処刑だ。王都中の人々に、俺のトラウマが放送された。
騎士たちもドン引きしている。
「な、なんだあの魔神は? タイムラインとは何だ?」
「分からんが、物凄く個人的な恨みを感じるぞ!」
(殺す。今すぐ殺す。あいつを生かしておいては、俺の尊厳が死ぬ)
俺の殺意が限界突破した。
俺は魔神の正面に降り立った。
ドォォン!
着地の衝撃で石畳が割れる。
『……あ?』
魔神が動きを止め、俺を見下ろした。
燃え盛る眼光。
『貴様は……何者だ……? 我の邪魔をするか……?』
「通りすがりの邪神だ。……あと作者だ、バカヤロウ」
『……作者?』
魔神が鼻を鳴らし、嘲笑うように炎を揺らめかせた。
『何を世迷い言を。我を創りしは偉大なる混沌のみ! 貴様のようなか弱き幼子が、この破壊の化身を創っただと? 笑わせるな!』
「……フン、そうかよ」
俺は冷めた目で魔神を見た。
知ってる。お前はそういうキャラだ。
「傲慢かつ、絶対的な力を持つ邪悪な存在」
俺がそう書いたから、お前は俺の言葉なんて聞く耳を持たない。
悲しいね、自分の設定に首を絞められるのは。
本来なら、こいつは『強敵』だ。
炎属性無効、物理耐性・極。生半可な攻撃は通じない。
だが、俺はコイツの最大の弱点を知っている。
設定ノート128ページ。
『ヴォルカヌスは炎の塊であるため、急激な温度変化に弱い。特に、絶対零度の冷気を受ければ、その存在を維持できずに崩壊する』
(要するに、めちゃくちゃ冷やせば死ぬ!)
単純明快な攻略法だ。
だが、問題が一つある。
俺が使える最強の氷魔法。その詠唱が――炎魔法以上に痛い。
『消え失せろ、不敬な小娘が! 我の炎で王都もろとも消し炭にしてくれるわ!』
魔神が右腕を振り上げる。
巨大な火球が生成される。
騎士たちが悲鳴を上げる。
「逃げてくれぇぇぇ! あんなの受けたら!」
俺は逃げない。
いや、『不動の王』のせいで逃げられないんだが。
俺は両手を掲げた。
背に腹は代えられない。このまま俺の失恋ポエムを垂れ流されるよりはマシだ!
俺は深呼吸し、覚悟を決めた。
「《
俺が呟くと、周囲の気温が急激に下がった。
魔神の炎が揺らぐ。
『な、なんだこの冷気は……!?』
俺は続ける。
かつて俺が「クールでニヒルなキャラ」に憧れて書いた、極寒のポエムを。
自分に酔いしれた声音で、たっぷりと溜めて!
「《……騒がしい。少し、頭を冷やせ》」
その瞬間、詠唱が余計な仕事をした。
《……を冷やせ……冷やせ……やせ……》
王都の空に、俺のイキった声が朗々と反響する。
(やめろォォォ! 無駄にエコー掛けるな! 王都中に響き渡ってるだろォォォ!!)
「《凍てつけ、時の流れすらも。……
俺の足元から、青白い冷気が爆発的に広がる。
地面が瞬時に凍結していく。
『バ、バカな! 我が炎が……消えるだと!?』
魔神が火球を投げつける。
だが、その火球すらも空中で凍りつき、氷の塊となって落下した。
「
俺は両手を振り下ろした。
カッ!!
世界が白く染まる。
王都の広場一帯を、巨大な氷の柱が貫いた。
魔神ヴォルカヌスは、断末魔を上げる暇もなく、そのポエムごと一緒に氷漬けにされた。
キンッ……。
静寂が戻る。
燃え盛っていた炎はすべて消え、代わりに美しい氷の彫像が、月明かりに照らされていた。
氷の中に閉じ込められた魔神は、どこか間抜けなポーズで固まっている。
「……はぁ、はぁ……」
俺は荒い息をついた。
終わった。勝った。
だが、心に負った傷(羞恥心)は深い。
「……す、すごい」
背後から声がした。
振り返ると、防衛線を張っていた騎士たちが、腰を抜かして俺を見ていた。
「一撃で……あの魔神を……?」
「しかも、街への被害を最小限に抑えて……」
騎士たちがざわめく。
「あの子は何者だ……?」
「マスクをつけた幼女……?」
「もしや、伝説の……?」
(やめろ。伝説にするな)
俺は気まずさMAXで顔を逸らした。
「はぁ……はぁ……! 邪神!!」
その時、背後から荒い息遣いが聞こえた。
振り返ると、肩で息をするエリスが走ってきたところだった。
汗だくで、髪も乱れている。
俺が空を飛んでいる間、死に物狂いで走ってきたのだろう。
「エリス……」
「無事か……!? 炎は……」
エリスは顔を上げ、言葉を失った。
目の前には、月光に輝く巨大な氷の彫像。
そして、無傷で佇む俺の姿。
「……終わったのか? 一撃で……?」
「……ああ。ちょっと、うるさかったからな」
俺はカッコつけて答えたが、内心はポエムを聞かれたくなかっただけだ。
エリスは氷漬けになった魔神を見て、それから俺を見た。
その目には、畏敬の念が宿っていた。
「礼を言う。……貴様がいなければ、我々は全滅していた」
エリスが、呼吸を整え、騎士の礼をとる。
それを見て、他の騎士たちも「副団長のお知り合いか!?」と驚きつつ、一斉に跪いた。
ジャラッ、と鎧の音が重なる。
「王都を救っていただき、感謝いたします!」
「名もなき英雄よ!」
(いや、邪神なんだけどな……)
俺はポリポリと頭をかいた。
悪い気はしない。
俺が書いたモブ騎士たちが、俺のおかげで生き残り、俺に感謝している。
それは、作者冥利に尽きる光景だった。
「……礼には及ばん。俺が蒔いた種だ」
俺は小さく呟いた。
そう、これはマッチポンプだ。俺が書いて、俺が消した。
だが、彼らの命が助かった事実は変わらない。
「…………」
ふと、胸騒ぎがした。
俺は懐から『黒歴史ノート(聖典)』を取り出した。
ガリウスたちの前で見せた時と同じように、ノートが淡く明滅している。
勝手にページがめくれた。
ジジジ……。
静かなノイズと共に、赤い文字が浮かび上がる。
『炎の魔神により、王都は壊滅した』
↓
『邪神の氷結により、魔神は沈黙。王都は守られた』
(……書き換わった)
俺は安堵の息を吐いた。
確定した未来が、また一つ回避された。 これで王都は平和に――
ジジッ。
不意に書き換わった文字の下、イントロダクション部分に、当時の俺が走り書きした「設定メモ」が浮かび上がった。
『光あるところ、影は必ず寄り添う』
(……ん?)
俺は眉をひそめた。 なんだこれ。ただのポエムだ。
「正義と悪は表裏一体」みたいな、よくあるカッコつけの比喩表現。
ノートの隅の落書きだ。
だが――
ジワリ。
その文章の中の、『寄り添う』という文字だけが、黒く滲み出した。
まるで、そこだけインクの量が増えたように、ねっとりと太く、濃くなっていく。
『寄り添う』 『寄り添う』 『――離れない』
「……っ!?」
俺が息を呑んだ瞬間、その幻覚のような変化はフッと消え失せた。 ノートは静まり返っている。
(今の、なんだ……?)
警告文なんて出ていない。
だが、あの『寄り添う』という文字から感じた、湿度の高い粘着質な気配。
あれは比喩じゃない。
まるで物理的な距離をゼロにするという、確定した意志のように見えた。
俺は背筋が寒くなるのを感じながら、ノートをパタンと閉じた。
(考えすぎだ。……そう思いたい)
だが、俺の直感(作者としての勘)は告げていた。
俺が書いた何気ない言葉が、次は俺の首を絞める鎖になるかもしれない、と。
「邪神? どうした、顔色が悪いぞ」
エリスが心配そうに覗き込んでくる。
「……いや、なんでもない」
俺はニヤリと笑ってみせた。虚勢だ。
「帰ろうぜ、エリス。……リナが待ってる」
エリスが微笑む。初めて見る、彼女の心からの笑顔。
その笑顔を見れただけで、あの痛いポエムを叫んだ甲斐があったというもんだ。
俺たちは氷の広場を後にする。
その背後では、遅れて到着した信者たちが「氷の祭壇だ!」「聖地巡礼だ!」とはしゃぐ声が聞こえていた。
続き気になる!
と思ったら高評価くれるとモチベに繋がるからお頼み申す