エタった小説のラスボス邪神に転生したが、過去の俺の性癖が痛すぎて死にたい 作:超とんでもなくムッチリしたインコ
炎の魔神討伐から二日が過ぎた。
王都の復興は驚くべき速さで進んでいた。
氷漬けにされた魔神は、今や聖なる氷像として観光名所になりつつあるらしい。解せぬ。
俺はというと、エリスの家のベッドでふて寝していた。
いや、正確には動くのが面倒くさいだけだ。
あの後、魔力を使いすぎた反動か、幼女ボディが悲鳴を上げて筋肉痛になったのだ。
「……暇だ」
俺が天井のシミを数えていると、ドアが静かに開いた。
「あ、起きたの? 邪神さま!」
リナだ。
完全に回復した彼女は、頬に赤みを差し、パタパタと駆け寄ってくる。
その手には、湯気を立てるマグカップと皿が乗ったお盆。
「お姉ちゃんがね、邪神さまがお目覚めになったらこれを食べさせてあげてって」
「ん……?」
皿の上には、プルプル震える黄色い物体。
プリンだ。
しかも、市販の安物じゃない。手作りっぽいやつだ。
「あいつ、料理できたのか……」
「うん! お姉ちゃん、お料理上手なんだよ。はい、あーん」
リナがスプーンでプリンをすくい、俺の口元に突き出してくる。
満面の笑顔。断れるはずがない。
俺はマスクを付けたまま、パクりと食べた。
「……うまっ」
濃厚な卵の味と、焦がしカラメルの苦味。
コンビニスイーツばかり食べていた前世の俺の舌には、衝撃的な美味さだった。
ふと、俺は感動と同時に感心していた。
本来なら、中世レベルの文明にプリンなんてあるわけがない。冷蔵庫もゼラチンも貴重品だ。
だが、この世界にはある。
なぜなら、当時の俺が設定したからだ。
『この世界は、食文化だけはやたら発展している。プリンもケーキも普通にある。なぜなら、俺が書きたい時にスイーツ描写ができないとストレスが溜まるから』
……という、作者の職権濫用によるご都合主義設定。
戦闘力とか魔法の設定は黒歴史だが、この点に関してだけは、当時の俺を褒めてやりたい。
ナイスだ、昔の俺。おかげで俺は今、極上のプリンにありつけている。
「えへへ、よかった! もっと食べる?」
「む、無限に食える…!」
こうして俺は、リナに餌付けされた。
平和だ。
魔神も倒したし、リナも元気になった。
もう俺の仕事は終わりでいいんじゃないか?
このままエリスの家で、ヒモ……いや、居候の邪神として、プリンを食べながら余生を過ごすのも悪くない。
そんな現実逃避をしていた時だった。
「ただいま。……おい邪神、起きているか」
エリスが帰ってきた。
だが、その表情は険しい。いつもの凛とした顔ではなく、何か言い出しにくそうな、バツの悪そうな顔をしている。
「どうした? また魔物でも出たか?」
「いや、魔物なら剣で斬れば済むのだが……」
エリスはため息をつき、懐から一通の封筒を取り出した。
金色の縁取りがされた、やたらと豪華な封筒。
中央には、王家の紋章が蝋で封印されている。
「王城からだ。……国王陛下が、今回の『王都救済の英雄』に謁見を求めている」
「……へえ、英雄ね。誰だそいつ」
俺は他人事のようにプリンを頬張った。
騎士団長とかが上手く手柄を持って行ってくれたんだろう。
だが、エリスは無言で俺を指差した。
「……ん?」
「お前だ」
ブーッ!!
俺はプリンを噴き出した。
「はあ!? なんでだよ!『通りすがりの幼女』ってことで処理してって頼んだだろ!」
「押し通せるか!無理に決まってるだろうが!! それにな……」
エリスは頭を抱えた。
「『空飛ぶマスクの幼女が、謎のポエムと共に絶対零度の魔法を放ち、魔神を氷漬けにした』……そんな目撃情報が、王都中で噂になっている」
「うわあああああ!!」
俺は枕に顔を埋めて絶叫した。
やめろ。その情報の羅列はやめろ。文字にするだけで死にたくなる。
「しかも、信者たちが余計なことを広めて回ったらしい。『あれぞ我らが邪神様!』『マスクは慈悲の証!』とな」
「ガリウスゥゥゥゥ!! あいつ、後でシメる!!」
「で、国王陛下が『ぜひその高潔なる英雄に、褒美を取らせたい』と仰っている。……断れば、騎士団の面目が潰れる」
エリスが申し訳なさそうに俺を見る。
彼女の立場を考えれば、断るのは難しいだろう。
副団長であるエリスが保護した「幼女(という設定)」が、実は英雄でしたなんてことになれば、始末書の山じゃ済まない。
「……分かったよ。行けばいいんだろ、行けば」
俺はあきらめた。
まあ、褒美がもらえるなら悪くない。
当面の
「だが、マスクは外さないぞ。絶対にだ」
俺が念を押すと、エリスは真剣な顔で頷いた。
「分かっている。貴様の『吐息』のことだろう?」
「……え?」
「万が一、謁見の最中にマスクが外れて、陛下や大臣たちが毒ガスで全滅したら国が亡ぶ。……そのマスクは、貴様なりの安全装置なのだろう?」
「あ、ああ……まあな。俺の力が漏れるとヤバいからな(震え声)」
「それと、言動には気をつけろよ。貴様のその……独特な言い回しは、誤解を招きやすい」
中二病ポエムのことか。善処する。
翌日。王城、謁見の間。
赤絨毯の先に、国王が座っている。
左右には大臣や将軍たちがズラリと並び、物々しい雰囲気だ。
俺はエリスに先導され、王の御前へと進み出た。
(うわ、すげえ視線……)
貴族たちがヒソヒソと噂している。
「あれが英雄?」
「幼女ではないか」
「あの仮面は……何かの呪いか?」
俺は極力気配を消し、借りてきた猫のように縮こまっていた。
さっさと褒美をもらって帰ろう。
「面を上げよ」
王の重々しい声が響く。 俺は顔を上げた。
「……ふむ。変わったなりをしておるな」
「は、はい。……これは、その……色々ありまして」
「うむ。……して、そなた。自らを『邪神』と名乗っているそうだな?」
ギクリとした。ついに突っ込まれた。
そうだ、俺は邪神だ。人類の敵だ。
やっとここで「討伐対象」として認定されるのか? 俺は身構えた。
「そ、そうです。俺は邪神アルテ・イリヤ。世界を……」
「……なんと、痛ましい」
「へ?」
王が涙を拭った。なぜ泣く。
「宰相よ。余の見立て通りではないか」
「はっ。……陛下のおっしゃる通りでございます」
宰相が進み出て、解説を始めた。
「この者は、圧倒的な力を持ちながら、あえて『邪神』という汚名を被っているのです。それはなぜか? ……民衆が自分に依存し、堕落するのを防ぐためでしょう」
「は?」
「『神』として崇められれば、人は祈るだけで努力をしなくなる。だからこそ、あえて恐怖の象徴たる『邪神』を名乗り、『人としての自立』を促しつつ、影から世界を救っているのです!」
「な、なるほど……!?」
貴族たちがざわめく。
「なんという深慮遠謀……」
「自らを悪と定義する、究極の自己犠牲……!」
「まさに、真の英雄のみが到達する境地だ!」
(……買いかぶりすぎだろ!!)
俺は絶句した。 違う。
俺の設定では、単に「響きがカッコいいから」邪神って名付けただけだ。
だが、この空気の中で「いや、ただの中二病ネームです」とは死んでも言えない。
「……苦労しておるのだな」
王は慈愛に満ちた目で俺を見た。
「良い。そなたがその名を背負う覚悟というなら、我らはそれを尊重しよう。……だが、公式な記録には、その功績を称える名を残させてくれ」
王は鷹揚に頷き、大臣に目配せをした。
大臣が一歩進み出て、巻物を広げた。
「これより、救国の英雄に対する論功行賞を行う! ……えー、まずはその功績を称え、陛下より『二つ名』が授与される!」
(二つ名? い、いらねえ……)
嫌な予感がした。
俺の黒歴史ノートには、『二つ名メーカー』みたいなページがあった気がする。
まさか、そこから引用されたりしないよな?
大臣が高らかに宣言する。
「その漆黒の仮面と、冷徹なる氷の魔法に敬意を表し……今日より貴殿を、こう呼称する!」
溜めが入る。
全貴族が固唾を飲んで見守る。
「『
「ぶふっ!?」
俺は吹き出しそうになった。
ダサい! 死ぬほどダサい!
しかもそれ、俺が叫んだ技名(コキュートス・エクスキューション)と微妙に被ってる!
誰だそのネーミング考えたやつ!センス中学生かよ!
「おお……! なんと勇ましく、かつ恐ろしい名か!」
「仮面の氷結処刑人……!」
貴族たちが感嘆の声を上げている。この国のセンスはどうなってるんだ。
「さらに! 宮廷魔導師団による解析の結果、貴殿が使用した魔法は、古代語で記された『失われた聖句』であることが判明した!」
(えっ?)
大臣が続ける。
「『騒がしい、少し頭を冷やせ』……これは一見、ただの独り言に見えるが、その実、大気中のマナを強制停止させるための『起動キー』であると推測される!」
「えっ!?」
「そして極めつけは『永遠の棺に抱かれて眠るがいい』! これぞ、対象を永遠に封印するという慈悲と残酷さを併せ持った、最強の呪言!」
やめてくれ。
いちいち解説しないでくれ。
それはただ、俺がカッコいいと思って言っただけのポエムだ。深い意味なんてない。
だが、大臣の熱弁は止まらない。
「よって、これらの聖句を『英雄語録』として編纂し、騎士団の必修科目とすることを決定する!」
「やめろォォォォォ!!」
俺は思わず叫んでいた。
王の御前であることを忘れ、絶叫した。
「必修科目にするな! テストに出すな! そんなもん暗記させられる騎士たちの身にもなれよ!」
シン、と静まり返る謁見の間。
やってしまった。
王に向かって暴言を吐いた。これは不敬罪で処刑か?
恐る恐る王の顔を見る。
王は……震えていた。
「……素晴らしい」
「へ?」
「『騎士たちの身になれ』と申したか……。自分の功績を誇るどころか、部下となる者たちの負担を案じるとは……! なんと謙虚で、慈愛に満ちた精神か!」
王が涙ぐんでいる。
周りの貴族たちも、「おお……」「器が違う」と感動している。
(……なんでだよ!!)
俺は心の中でツッコミを入れた。
この世界の住人は、どうしてこうも都合よく解釈するんだ。
横を見ると、エリスだけが「こいつら全員バカなんじゃないか」という冷めた目で天井を仰いでいた。
助けてくれエリス。俺のSAN値が持たない。
「褒美として、王都の一等地に屋敷を与える! そして、いつでも城に出入りできる『名誉騎士』の称号を授ける!」
王が宣言した。
断る隙もなかった。
こうして俺は、望みもしない「二つ名」と「屋敷」と「地位」を手に入れてしまった。
帰り道。
エリスにおんぶされながら、俺はぐったりとしていた。
「……殺してくれ。もう俺を殺してくれ」
「諦めろ。『仮面の氷結処刑人』殿」
「その名前で呼ぶな!」
エリスが背中でクスクスと笑った。 こいつ、面白がってやがる。
「……じゃあ、なんと呼べばいい?」
「え?」
「いつまでも『邪神』や『貴様』では、名誉騎士殿に失礼だろう。それに、リナも懐いているしな」
エリスの声は穏やかだった。 俺は少し考えて、答えた。
「……アルテでいい。邪神アルテ・イリヤの、アルテだ」
本当は中身はおっさんだが、この世界での俺の名前はそれしかない。
「分かった。……よろしく頼むぞ、アルテ」
背中越しに聞こえた名前は、今までで一番自然に響いた。
俺はマスクの下で、少しだけ口元を緩めた。
「……おう。よろしくな、エリス」
だが、俺はまだ知らなかった。
この屋敷が、次のトラブルの火種になることを。
そして、そこに『原作の主人公』が訪ねてくるという、最悪のイベントが待ち受けていることを。
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