エタった小説のラスボス邪神に転生したが、過去の俺の性癖が痛すぎて死にたい   作:超とんでもなくムッチリしたインコ

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第8話 原作主人公(黒歴史の結晶)の来訪と、シンクロ

王城から賜った屋敷での生活が始まった。

エリスやリナたちも一緒だ。

屋敷といっても、元は没落貴族の別荘だったらしく、手入れは行き届いているが無駄に広い。

 

「……掃除が大変そうだな」

 

俺は広すぎるホールを見渡して呟いた。

だが、同居人たちはやる気満々だった。

 

「凄いです邪神さま! お庭にお花がいっぱい!」

 

リナがはしゃいで走り回っている。

 

「防犯設備はザルだな。私が罠を仕掛けておこう」

 

エリスは早速、侵入者を殺す気満々だ。

そして、ガリウスたち信者はというと。

 

「ここを教団の『聖地』とする!」

 

「地下室を改造して祭壇を作ろう!」

 

勝手にリフォーム計画を進めていた。

まあ、家具や食費もあいつらが(胡散臭い寄付金で)賄ってくれるので、文句は言えない。

 

こうして、奇妙な共同生活がスタートした。

俺の仕事は、毎日リナと一緒にプリンを食べ、エリスに呆れられ、信者たちに拝まれることだけ。

平和だ。 このまま隠居生活に入りたい。

 

だが、世界は俺を放っておかない。

 

「報告! 報告でございます!」

 

屋敷のドアがバン!と開かれ、ガリウスが転がり込んできた。

俺はソファでくつろいでいた姿勢を正す。

 

「なんだ騒々しい。プリンの在庫が切れたか?」

 

「いいえ! 客人が……とんでもない客人が参られました!」

 

「客人?」

 

「はい! なんでも、先の戦いで活躍された『仮面の氷結処刑人』に、ぜひ弟子入りしたいと!」

 

弟子入り? 面倒くさい。断れ。

そう言おうとした瞬間、ガリウスが続けた言葉に、俺は耳を疑った。

 

「奴はただ者ではありません、名を『カイ・シュヴァルツ』と名乗っております!」

 

「……ぶふっ!?」

 

俺は紅茶を噴き出しそうになった(マスクが汚れるので耐えた)

 

カイ・シュヴァルツ。

その名前は、忘れもしない。

この小説『混沌クロニクル』の、正真正銘の「主人公」だ!

 

(来たのか……!? もう!?)

 

俺は慌てて記憶を探る。

カイの設定。

それは、当時の俺が「俺がなりたい最強の男」を詰め込んだ、欲望と痛みの結晶体。

 

『究極の闇魔法使い』

『銀髪クール系イケメン』

『漆黒の装束、腰に己を縛る為の鎖』

『右腕には竜の力が封印されており、常に包帯を巻いている』

『ヒロインを殺されたトラウマにより感情を失っている』

『口癖は「……くだらない」』

 

(うわああああああ!!)

 

少し思い出しただけで死にたくなってきた。

なんでそんな奴を作ったんだ俺は! しかも「シュヴァルツ()」って! 安直すぎるだろ!

 

「ど、どうなさいますか邪神様? 追い返しますか?」

 

「……いや、通せ」

 

俺は震える声で言った。 追い返しても、あいつは原作主人公だ。

何らかの強制力で関わってくるだろう。なら、ここで会って釘を刺しておく方が安全だ。

 

数分後。 応接間に、一人の少年が通された。

 

黒いロングコート。 銀髪のアシンメトリーな髪型。

そして右腕には、意味深な包帯がグルグルに巻かれている。

 

(……実物を見ると、破壊力がすげえな)

 

立ち方からして斜に構えている。

視線は合わせてくれない。常に斜め下45度を見ている。

 

「……あんたが、『仮面の氷結処刑人』か」

 

カイが口を開いた。 声が無駄にいい。低音ボイスだ。

 

「……ふん」

 

俺はソファに深く腰掛け、足を組んだ。

精一杯の邪神ムーブでマウントを取る。

 

「如何にもだが? ……して、小僧。我に何用だ?」

 

「……ふっ…用なんてないさ」

 

カイは鼻で笑った。

 

「ただ……あんたの戦いを見て、少しだけ『共鳴(シンクロ)』しただけだ」

 

(出た!意味不明な専門用語!)

 

「共鳴……だと?」

 

「俺の中の……『黒き衝動』とな」

 

カイが右腕(包帯)を左手で押さえた。 苦しそうな顔をする。

 

「くっ……静まれ……! こんな所で暴れるんじゃない……!」

 

「…………」

 

応接間に、痛々しい沈黙が流れた。

エリスが、ゴミを見るような目でカイを見ている。

 

「おいアルテ。……こいつ、病気か?」

 

「ある意味な。……触れるな、伝染(うつ)るぞ」

 

俺は必死に堪えた。いや、笑いにじゃない。

これは古傷が疼く痛みだ。

あれは当時の俺が「こうすればカッコいい」と本気で信じて書いていた演出だ。

 

つまり、あいつは過去の俺の鏡像なのだ。

 

「……ふぅ。すまない、少し疼いた」

 

カイが顔を上げ、流し目で俺を見た。

 

「あんたの氷魔法……あれは『絶対零度』の領域に達していたな。俺の『邪炎』と、どちらが上か……試してみたくなった」

 

(お前、まだレベル5くらいだろ!)

 

俺は知っている。 序盤のカイはクソ弱い。

もちろん邪炎なんて使えない。

右腕の力(という妄想)に頼りすぎて、基礎ステータスが低いのだ。

そんな状態で俺に喧嘩を売るとか、自殺志願者か?

 

「断る。我は無益な殺生を好まぬ」

 

「……逃げるのか?」

 

「違う。小僧、お前とでは話にならんと言っている」

 

俺は冷たく突き放した。

これ以上関わると、俺の精神が崩壊する。

だが、カイは引かなかった。

彼はニヤリと笑い、腰の剣に手をかけた。

 

「いいだろう。……なら、実力で認めさせてやる。俺の『真の力』をな!」

 

抜剣。 漆黒の刀身を持つ剣だ。名前は確か『魔剣グラム(模造品)』。

カイが俺に斬りかかろうと踏み込んだ、その時。

 

「だめぇぇぇぇぇ!!」

 

廊下から、悲鳴のような声が響いた。リナだ。

 

ドタドタドタ! リナが手にお盆を持って走ってくる。

上には、俺に出すはずだったプリン。

 

「ケンカはだめーっ!!」

 

リナが叫びながら、俺とカイの間に割って入ろうとする。

だが、勢いがつきすぎていた。カーペットの端に足を取られる。

 

「あっ……!」

 

リナが前のめりに転びそうになる。

するとお盆が手から離れ、宙を舞った。

黄色いプルプルの物体が、美しい放物線を描いて飛んでゆく。

 

ベチャッ。

 

湿った音が響いた。

プリンは見事なコントロールで、カッコつけて剣を構えていたカイの顔面に直撃した。

 

「……あ」

 

カイの動きが止まる。

漆黒のコートにも、銀髪にも、右腕の包帯にも、カラメルソースがべっとりと付着し、甘い匂いが漂う。

クール系イケメンが、一瞬でプリンまみれの残念な少年になった。

 

「あわわ! ご、ごめんなさい!」  

 

リナが慌ててタオルで拭こうとする。

 

「わ、わああっ!?」

 

カイが裏返った声で叫んだ。 さっきまでの低音ボイスはどこへやら。完全に素の声だ。

 

「お、俺の……俺の『漆黒の装束』が!これ、特注なんだぞ!徹夜して縫ったのに!」

 

(お前の手作りかよ!家庭的すぎるだろ!)

 

「うう……ベタベタする……」

 

カイが泣きそうな顔で自分の顔を拭う。

 

「くそっ、前が見えない……!これじゃ『邪眼』が開けないじゃないか!」

 

(まだ、設定守ろうとするのか!)

 

俺は呆れを通り越して感動していた。

そうか。こいつ、カッコつけてるけど、中身はただの背伸びしたい年頃の少年なんだ。

俺と同じだ。 必死に自分を大きく見せようとして、空回りして、恥をかいて。

 

「……ぷっ」

 

俺は吹き出した。マスクから、笑いが漏れる。

 

「な、何がおかしい!」 カイが涙目(とプリンまみれ)で睨んでくる。

 

「いや……悪かった。お前の『真の力』とやらは、プリンには勝てなかったようだな」

 

俺はソファから立ち上がり、カイの前に立った。 そして、汚れたコートの肩をポンと叩いた。

 

「風呂を貸してやる。……ついでに、その包帯も洗っておけ。臭うぞ」

 

「なっ……!?」

 

カイが自分の腕を嗅ぐ。

 

「く、臭くねーよ! ちゃんと毎日巻き直してるし!消臭魔法ファ○リーズだってかけてるし!」

 

「……おい」

 

俺は真顔で聞いた。

 

「この世界……ファ○リーズあんのかよ?」

 

「あ? あるけど……除菌もできるが?」

 

(あるのかよ!!)

 

俺の設定の甘さが、また一つ露見した。 当時の俺、生活感出しすぎだろ。

 

エリスがやれやれと溜め息をつき、リナが「お風呂沸かしてきます!」と走っていく。

 

俺は確信した。こいつは敵じゃない。

俺が守ってやらなきゃいけない、「過去の俺(黒歴史)」そのものだ。

 

「風呂から上がったら、話を聞いてやる。……弟子入りでも何でも、好きにしろ」

 

「……ふん。勘違いするなよ。俺はただ、あんたを利用して強くなるだけだ」

 

カイは捨て台詞を吐いて、顔を真っ赤にしながら浴室へ向かった。

 

(……やれやれ)

 

俺はソファに沈み込み、天井を仰いだ。 数十分後。

風呂上がりのカイ(スウェット姿)が、応接間に戻ってきた。

プリンの汚れは落ちているが、目はまだ少し赤い。 俺は改めて彼に向き合った。

 

「で、なんで俺なんだ? 王国にはもっとマシな師匠がいるだろう。例えば……『聖女ルミナ』とかな」

 

俺がカマをかけると、カイの表情が一瞬で曇った。

彼はバツが悪そうに視線を逸らし、ポリポリと頬を掻いた。

 

「……あいつは、なんというか……最近、ちょっと『重い』んだ」

 

「重い? 愛がか?」

 

俺はニヤリとした。

設定では、ルミナはカイに淡い恋心を抱いているはずだ。爆発しろ。

 

「いや、そういうんじゃなくて……。なんというか、『圧』がすごい」

 

カイは身震いをした。

 

「この前の大火災以来、あいつはずっとブツブツ言ってるんだ。『私の出番が奪われた』とか、『秩序が乱れている』とか。……あと、笑顔なんだけど目が笑ってない」

 

「……は?」

 

「俺の怪我の治療をする時もさ、普通なら『大丈夫?』とかだろ? なのにあいつ、『貴方の弱さは私が管理しなきゃ』って言いながら、すげー力で包帯を巻いてくるんだよ。……血の流れが止まるかと思った」

 

(……おい、待て)

 

俺は心の中で冷や汗をかいた。

俺の書いたルミナは、もっとこう、献身的で控えめな大和撫子タイプだったはずだ。

管理なんて言葉を使うキャラじゃない。

 

(……まさか、俺が設定に書いた『献身』という言葉が、世界に『管理』と解釈されたのか?)

 

ありえる。

彼に尽くすと彼をコントロールするは、紙一重だ。

俺がポエムっぽく書いた曖昧な愛の定義を、世界がヤンデレ的な支配としてしまった可能性がある。

 

(俺の文章力のなさが、ヒロインをモンスターに変えたって言うのか……!?)

 

「正直、今のあいつと一緒にいると息が詰まるんだ。……だから、ここに来た」

 

カイが俯く。 なるほど。幼馴染の管理に耐えられず、逃げ場所を探していたわけか。

だが、俺は気づいてしまった。

カイが時折、俺の「マスク」や「ゴシックドレス」をチラチラ見ては、目を輝かせていることに。

 

(……いや、理由はそれだけじゃないな?)

 

こいつ、さっき「共鳴した」とか言っていた。

要するに、俺のあの痛々しいポエム詠唱と、この怪しいマスク姿を見て――

 

「かっけえ!!(ズキュゥゥン)」

 

となっちゃったんだ。

ルミナから逃げたいのも事実だろうが、あわよくば俺のセンスを学ぼうとしている。

 

(……可愛い奴め)

 

俺はマスクの下でニヤリとした。

中二病患者は、中二病患者に惹かれ合う。悲しい引力だ。

 

「いいだろう。……その悩み、俺が引き受けてやる」

 

「ほ、本当か!?」

 

カイが顔を上げた。

 

「ただし、修行は厳しいぞ? プリンくらいで泣き言を言うなよ」

 

「ふ、ふん! 勘違いするなよ。俺はまだ、あんたを認めたわけじゃないからな! ……ただ、あんたのその『漆黒の仮面』のセンスだけは、多少評価してやるってだけだ!」

 

カイは顔を赤くして、そっぽを向いた。 図星だったらしい。

 

「部屋は余ってる。好きに使え」

 

「……ああ。恩に着る」

 

カイは短く礼を言い、案内された客室へと去っていった。

その背中を見送りながら、俺はマスクの下で苦笑した。

 

(手のかかる弟ができた気分だ……)

 

原作主人公、カイ・シュヴァルツ。

こいつも、俺の書いた残酷なシナリオ、そして解釈違いを起こし始めた世界に翻弄される被害者だ。

本来の運命なら、カイはルミナを殺され、闇落ちし――闇魔法に覚醒する。

最後は邪神(俺)と刺し違えて死ぬはずだった。だが、その歯車は既に狂い始めている。

 

「……させるかよ」

 

俺は誓った。

コイツのその痛々しい中二病も、歪み始めたヒロインも、全部ひっくるめて守ってやる。

俺たちの黒歴史は、俺たちの手でハッピーエンドに変えるんだ。

 

こうして、屋敷にまた一人面倒な、でも愛すべき同居人が増えた。

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