エタった小説のラスボス邪神に転生したが、過去の俺の性癖が痛すぎて死にたい 作:超とんでもなくムッチリしたインコ
「フッ……。深淵の闇に還れ……!」
シュッ!
カイが
その切っ先が、庭に迷い込んだモンスター「プッチン・スライム」を小突いた。
ぷにゅん。 スライムはノーダメージでぷるぷるしている。
つぶらな瞳が「遊んでくれるの?」と言いたげだ。
「……俺の剣速に反応すらできないか。罪な剣だ」
カイが前髪をかき上げてドヤ顔をする。
スライムは飽きたのか、どこかへ跳ねていった。
「……おい」
俺はマスク越しに声をかけた。
「うわっ、師匠!?」
カイが素っ頓狂な声を上げて飛び上がった。
俺の姿を確認すると、慌てて咳払いをし、斜に構えたポーズを取り直す。
「……こほん。……今の『神速の剣技』、見てしまったか?」
「見てたよ。スライムがつっつかれて喜んでたな」
俺はジト目で言った。
「お前、何やってんの? レベル上げか?」
「これは……イメージトレーニングだ。眼前の敵ではなく、己の中の『闇』と戦っていたのだ」
ダメだこりゃ。 俺は天を仰いだ。
設定では、カイは覚醒すれば最強キャラだ。
だが、例の「覚醒イベント」までは徹底して弱いように設定してしまった。
レベルは現在5。村人よりマシな程度だ。
しかも本人は、その弱さを力を封印しているせいだと思い込もうとしている。
「あのな、カイ。強くなりたきゃ実戦だ。汗を流せ、血へど吐け」
「血!? い、いや、俺の右腕が暴走すると世界が危ないので……」
「言い訳すんな。このままじゃお前、ヤバいからな」
「や、ヤバいってなにがだよ…?」
『王立学園編』第3章 ヒロイン 「アリス・リドル」。
転校してきたアリスは陰湿ないじめと孤立の果てに、第3章のクライマックスで精神が
だが、王都大火災から1年後の話だ。
フラグも折ったし、時間は十分あるはず。
このままじゃ、次の章でカイは死にかねない。
作者として、主人公を鍛え直す義務がある。
「ちょうどいい相手がいる。……おい、出てこい」
俺は指パッチンをした。
ズズズズ……。
庭の土が盛り上がり、巨大な影が現れた。
全身トゲだらけの鋼鉄の巨体。右腕には巨大なギロチン。
俺が従えた眷属。
ダンジョンの守護者、『煉獄の処刑人』だ。
「ひっ……!?」
カイが腰を抜かす。
「な、なんだこいつは! プレッシャーが桁違いだぞ!」
「紹介する。今日からお前のスパーリングパートナーだ」
ゴーレムが赤い目を明滅させ、カイを見下ろした。
『……オ花……踏ンダラ……ダメ……』
「え?」
ゴーレムの手にはジョウロが握られており、足元には綺麗に植えられたパンジーの花壇があった。
そう、庭のガーデニング担当だ。
「ご、ゴーレムが喋ったっ!?」
エリスがテラスから出てきた。
ゴーレムを見ると、バツが悪そうに視線を逸らした。
「あっ……。その、すまない。以前は腕を切り落として」
そう。エリスはこいつの腕を一撃で切断している。
だが、ゴーレムの右腕は完全に再生していた。
『……アレ……イタカッタ……』
「うっ……。悪気はなかったんだ。任務でな……」
エリスがガチで凹んでいる。
『……イイヨ……』
ギロチンアームの側面で、器用にエリスを撫でた。
「……優しいな、お前」
エリスは小さく笑い、そして真剣な顔をした。
「だが、私の気が済まない。……その、よかったら、この花壇の手入れを手伝わせてくれないか?」
『……テツダイ?』
「ああ。花には詳しいつもりだ。……償いにはならんかもしれんが」
エリスがしゃがみ込み、雑草を抜き始める。
その横顔は、ただの花好きな少女のものだった。
ゴーレムの目がピカッと光った。
『……ナカマ……』
ゴーレムが嬉しそうに、エリスの隣に新しい花を植え始めた。
「な、なんだこの癒し空間は……」
カイが呆然としている。
「さて、こいつにも名前がないと不便だな」
俺は腕組みをした。
こいつの設定名は『煉獄の処刑人』だが、普段呼びするには長すぎるな。
「よし、命名しよう。……ポチでいいか」
「お、お待ちくだされ邪神様ァ!!」
ガリウスが血相を変えて飛び出してきた。
どこから湧いたんだこの爺さんは。
「邪神様の眷属に、そのような俗な名は相応しくありませぬ!もっとこう、魂を震わせるような、禍々しくも高貴な御名を!」
「えー……面倒くさいな…」
「では、私にお任せを!」
ガリウスは天を仰ぎ、朗々と宣言した。
「『
「……頭痛が痛いみたいな名前だな」
俺はツッコんだが、ゴーレムは気に入ったらしい。
目がピカーッと光った。
『ジェノ……サイド……カッコイイ……』
「そうか。じゃあジェノ君な」
こうして、心優しき園芸ゴーレム「ジェノ君」が誕生した。
「さて、カイ」
俺はカイに向き直った。
「ジェノ君と遊んでこい」
「えっ? あ、遊ぶって……」
『アソブ? アソブ?』
ジェノ君が嬉しそうにカイに近づく。
その歩みだけで地面が揺れる。
「ひ、ひいい!ま、待て!俺の右腕がまだ準備運動を――」
「問答無用!」
俺はカイの背中を蹴っ飛ばした。
カイがジェノ君の足元に転がる。
『タカイタカイ、スル?』
ジェノ君がカイの足を掴み、軽々と持ち上げた
そして、ブンブンと振り回し始めた。
「ギャアアアアア!! 高い!高いというか遠心力で死ぬゥゥゥッ!!」
「いいぞジェノ君!次は『崖落とし』だ!」
俺は屋敷の裏にある断崖絶壁を指差した。
獅子は我が子を千尋の谷に落とすという。
俺は獅子じゃないが、作者だ。
主人公を強くするためなら鬼にもなる。
『ガケ……オトス……ワカッタ』
ジェノ君がカイを振りかぶる。
「ちょ、ま、本気で死ぬ!助けてくれーーッ!!」
ヒュンッ!
カイが星になった。
断崖の底から、情けない悲鳴が反響する。
「……大丈夫なのか?」
エリスが心配そうに覗き込む。
「平気だ。あいつは『悪運』のステータスだけはカンストしてるからな」
「『悪運』のステータス? アルテ、またお前はよく分からん事を…」
数十分後。
ボロボロになったカイが、崖の下から這い上がってきた。
服は破れ、顔は泥だらけだ。
「し、死ぬかと……」
俺が見下ろすと、カイは震える手で前髪をかき上げた。
「ふっ…。中々のスリルだったな……。俺の中の『暗黒龍』が、目覚めかけたぜ……(足ガクガク)」
「お前、その状況でまだカッコつけるのか。ある意味すげえよ」
こいつのメンタル、アダマンタイト級かもしれない。
「よし。次は『魔物の巣窟への放り込み』だ」
俺は用意していた魔物誘引の香水をカイにぶっかけた。
「な、何するんだ!?」
「行ってこい。近くの森にオークの群れがいるはずだ。……レベル10になるまで帰ってくるなよ」
『イッテラッシャイ』
ジェノ君が優しくカイを森の方へ放り投げた。
「アアアアアアア……!!」
森の奥から、オークの雄叫びとカイの絶叫が聞こえてくる。
俺はテラスで紅茶を啜りながら、そのBGMを楽しんだ。
夕方。 ぼろ雑巾のようになったカイが帰還した。
「……フッ……」
カイはボロボロのコートを翻し、ふらりと玄関に立った。
顔にはオークの足跡がついているが、その目は死んでいない。
「地獄の淵も……住めば都、だな……」
髪をかき上げようとして、手が空振りバタリと倒れる。
「きゃー! カイさんだいじょうぶ!?」
リナが悲鳴を上げて駆け寄る。
その横で俺は、例のポエム詠唱付き回復魔法を発動。
柔らかな光がカイを包んだ。
俺の
カイのステータス画面に表示された数字が。
【カイ・シュヴァルツ】
レベル:5 → 11 スキル【裁縫 Lv.21】【ピッキング Lv.10】
スキル習得:【逃げ足】【悲鳴 Lv.5】【不屈の闘志】
「……ふむ」
俺は顎に手を当てた。
レベルは爆上がり。スパルタこそ正義だ。
だが肝心の『闇魔法』が生えていない。
防衛本能で覚醒するかと踏んでいたんだが……。
「ま、いいか」
俺はニヤリとした。
魔法は覚えなかったが、しぶとさは手に入れたようだ。
『タノシカッタ?』
ジェノ君がカイをつっつく。
「た、楽しかったわけあるかぁ……!」
カイは泣きながら叫んだが、その目には微かに「強者の光」が宿り始めていた…ような気がする。
こうして、俺たちの屋敷の戦力は着実に増強された。
・俺(作者・知識チート・かわいい)
・エリス(ツッコミ役・女騎士)
・リナ(癒し・妹枠)
・ジェノ君(園芸・タンク)
・カイ(中二病・成長枠)
役者は揃った。 そして、そんな俺たちの耳に、新たなトラブルの足音が近づいていた。
「報告!報告でございます邪神様ァ!」
ガリウスが、またしても血相を変えて飛び込んできた。今度はなんだよ。
「王都の一等地に『邪神教団・王都総本部』を建設したところ……」
「は?勝手に建てるなよ!」
「入信希望者が殺到してパンク寸前です!しかも……」
ガリウスが真っ青な顔で言った。
「国教である『聖光教会』から、正式な抗議文が届きました!」
俺は紅茶を吹いた。聖光教会のお出ましかよ!
なんでだ!?
「内容は!?」
「えーと、『邪神教団の活動は公序良俗に反する』云々……そして最後に、こう書き添えられています」
ガリウスが文面を読み上げる。
「『――光を乱す害虫には、相応の清掃が必要ですね。近々、ご挨拶に伺います。 聖女ルミナ』」
ドクン。
俺の心臓が跳ねた。
(……清掃? 挨拶?)
文章からは、聖職者らしい慈愛は微塵も感じられない。
あるのは、冷徹な殺意と、粘着質な執着の気配だけだ。
カイが青ざめる。
「……絶対にあいつだ。あの『目が笑ってない笑顔』で書いてるのが目に浮かぶ……」
俺はすぐさま行動に移った。
敵を知るには、まず設定からだ。
俺は虚空に手を突っ込み、
「なにっ!? 虚空から書物を……!? 師匠カッケェェ……!」
カイが目を輝かせて食いついてくる。
だが、今は中二病患者に構っている暇はない。
俺はスルーして、ルミナのキャラクター設定欄を高速でめくった。
あった。これだ。
『聖女ルミナ』
『性格:慈愛の化身。傷ついた者へ無償の愛を注ぐ。幼馴染カイへは献身的な愛情を捧げており、彼女の瞳は常に彼だけを見つめ、彼女の心は常に彼と共にある。たとえ世界の果てへ離れようとも、彼女は決して彼を見失わない』
『能力:神聖魔法の才能は歴代最高。その祈りは奇跡を顕現させる』
『備考:彼女の正義は太陽の如く、闇を照らし悪を溶かす。その信念は鋼鉄よりも固く、炎よりも熾烈に燃え上がる。愛する者を守るためならば、彼女の双腕は神の鉄槌と化し、いかなる障壁をも打ち砕くであろう』
(……相変わらずポエム全開だな。今読むと恐怖でしかない)
俺は冷や汗を流しながら、ページの下部にある最後の一文に目を落とした。
『補足:ルミナは邪神との戦いで命を落とす』
文字が、目に焼き付く。
そうだ。俺のシナリオでは未熟なカイを庇って、邪神に立ち向かい――そして、悲劇的な死を遂げる悲劇のヒロインだ。
パタン、と俺はノートを閉じる。
(……ふざけるなよ)
腹の底から、熱いものがこみ上げてくる。
それは恐怖ではない。かつて、安易にキャラを殺して感動を作ろうとした、過去の自分への怒りだ。
シナリオ通りなら、俺がルミナを殺すことになる。
だが、断じて否だ。
俺はもう、誰も死なせないと決めた。カイも、エリスも、リナも、ジェノ君も。
例え、俺を殺しに来る聖女であってもだ。
「上等だ……」
俺はノートを握りしめ、ニヤリと笑った。
来るなら来い、聖女。
俺が書いた『死亡フラグ』は全部まとめてへし折ってやる。
俺たちの平和と、ルミナ自身の命を守るために。