目覚めしものは   作:猫太鼓

1 / 5
前篇

果てなき虚無。

冷たさも熱さも意味を失い、ただ“思考だけ”が漂う世界。

 

それは考えていた。

仲間と呼べる者たち──いや、かつての同胞たちを失い、

なお“究極”へと至った自分が、なぜ敗北を喫したのか。

幾千、幾億の反芻を繰り返しても答えは出ない。

自らの完全性を揺るがす矛盾。理解不能の敗北。

 

やがて思考は摩耗した。

それは考えるのをやめた。

 

沈黙だけが続く。

宇宙が一度崩壊し、再び形を取り戻すほどの時が流れても、ただ漂い続け──

ついに、小さな星の重力井戸に捕らえられ、

落下し、地の底へ封じられた。

しかし、目覚めることはない。

完璧ゆえに壊れず、永遠ゆえに動かず。

 

――その星で、“炎”が吠えていた。

 

◆ ◆ ◆

 

「うおおおおおおおッ!!」

轟く炎の咆哮。煉獄杏寿郎は、猗窩座の拳を受け止めながらさらに前へ踏み込む。

砕ける大地。裂ける夜気。

炭治郎たちは参戦したいのに、身体が動かない。

あまりに高次の戦闘の気配が、彼らの筋肉を縛りつけていたのだ。

 

その血の匂いが、地中深くへ染み込む。

ほんの一滴。だが、地に埋もれた“それ”には充分だった。

 

──反応。

遥か太古で止まったはずの細胞が、わずかに蠢く。

 

だが、まだ目覚めない。

炎も呼吸も届かぬ深淵で、極微の兆しだけが灯る。

 

「お前も鬼になれ、杏寿郎……!」

猗窩座が吠える。誘う声は甘美で冷酷。

煉獄は歯を食いしばり──そして笑う。

 

「ならん!!

俺は俺の責務を全うする!!

ここにいる者は──誰も死なせない!!」

 

最後の雄叫びが、天地を震わせた。

 

その“声”が届いた。

 

◆ ◆ ◆

 

ズ……ッ。

地に眠る何かが動いた。

長い永い忘却の中で凍りついていた思考が、微かに火を灯す。

 

(……熱い。声……?)

 

ボロッ……と岩が崩れ、地面が盛り上がる。

 

猗窩座も煉獄も動きを止めた。

炭治郎たちは息を呑む。

大地が、何か巨大な生き物の呼吸のように脈動している。

 

そして──割れた。

 

地割れの中から這い出たのは、肌の色も生命の規格も、この世界の理から逸脱した“何か”。

 

炎も風も、生温い空気も、

その存在の前ではまるで意味を持たなかった。

 

「な、なんだ……あれ……?」

炭治郎の声は震えていた。

 

「気をつけろ、炭治郎……!」

伊之助でさえ腰を引いた。

 

煉獄は、血を滴らせながらもその存在を正面から受け止める。

 

禍々しくも美しい。

おぞましくも神々しい。

血と遺伝子の頂点に立つ存在。

 

長い眠りから覚めた“それ”は、ゆっくりと天を仰ぎ──

静かに微笑んだ。

 

「……フフ。ようやく、退屈が終わったか。」

 

その名は── 究極生命体カーズ

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。