灼熱の闘気がぶつかり合う無限列車の夜。
煉獄の日輪刀が、炎の咆哮が、猗窩座の破壊と再生の拳と激突する。
猗窩座の拳が煉獄の胸を貫こうとした瞬間。
地が揺れ、闇が割れた。
煉獄も、炭治郎たちも、そして猗窩座さえ一瞬だけ動きを止める。
瓦礫の奥から歩み出た“それ”を見た瞬間──
猗窩座の思考が爆ぜた。
(な……んだ……これは……ッ!?
こんな存在……あり得ない!
これは“鬼”か? いや違う……!
違う、違うッ……!)
恐怖。
そして、そんな恐怖を抱く己への怒り。
その二つが猗窩座の脳を引き裂くように走った。
「聞きたいのか?」
その男は、猗窩座を一瞥することもなく、煉獄へと視線を向けた。
「強き者よ……“人のために己を燃やす覚悟”。
……タイプは違うが、どこか似ている。
かつて、私を打ち破った“何か”に……な。」
煉獄はわずかに眉を上げる。
その言葉に、炭治郎の胸の奥で何かが暴れた。
──人間讃歌。
彼が遠い星で敗れた理由。
「……ふむ。これが“敗北”の根か。」
男がひとりごとのようにつぶやく。
⸻
「貴様ァ! 何をわけのわからぬことを……ッ!」
焦れた猗窩座が叫ぶ。
その声にようやく、男はゆっくりと顔を向けた。
「お前は……何者だ!」
猗窩座は吠えるが、足は震え、動かない。
胸の奥で本能だけが警鐘を鳴らしている。
(近づいてはならない……! これは“死”そのものだ……!)
「……お前の目的は?」
男の声は静かだった。
だが、その静けさが逆に猗窩座の心臓に刺さる。
「……は、柱の……男を……殺すことだ……」
思わず漏れた答え。
己の意思とは関係なく唇が動いた。
それほどまでに圧が強かった。
「……俺を、殺す……?」
男は小さく呟いた。
だが、すぐに何かに気づいたように眉をひそめた。
次の瞬間。
光のような速度で猗窩座の懐に入り──その頭を鷲掴みにした。
(う、動けない……ッ!!?)
猗窩座が震える。
男は猗窩座ではなく、その奥を見ていた。
男は “猗窩座の瞳を、視線の先にある何者か” を射抜くように言った。
「……キサマ。
見ているな?」
その声が響いた瞬間──
“遠く離れた場所”で何かが悲鳴を上げた。
見えない“何か”が砕け散るような音が夜に広がる。
煉獄も炭治郎も、その意味を知ることはできない。
ただ“恐ろしく静かな悪意”だけがそこに満ちていた。
男は手を放し、猗窩座を地に転がす。
「……さて。
やっと少しは、目が覚めた気がする」
ゆっくりと夜空を仰ぎ、最後に名乗った。
「我が名は── カーズ。」