その鬼は、日本を離れていた。
大陸。
風が血と砂を運び、古い神話と怪異が混じり合う土地。
そこに、武に生きる鬼がいた。
かつての主――鬼舞辻無惨との繋がりは、すでに存在しない。
否、断たれたのではない。
解析され、上書きされた。
究極生命体・カーズ。
その意志により、鬼の在り方そのものが再定義された。
(……無惨は、もう俺が死んだと思っているだろう)
鬼は笑う。
繋がりが切れた瞬間、存在が消えたと信じ込むだろう。
だが実際には、鬼は“次の段階”に進んでいた。
「お前の可能性を見せろ」
それが、新たな主の言葉だった。
命令ではない。
支配でもない。
ただ、武に生きる者へ向けた、静かな期待。
鬼は、カーズの視線を思い出す。
一瞬だけ、そこに重なった“かつての戦士”の影。
嵐のように闘い、誇りを貫いた、懐かしい何か。
鬼は旅を続けた。
人と出会い、
怪異と戦い、
殺し、
救い、
選び続けた。
それらすべてが、鬼を研ぎ澄ませていく。
ある村で、少年に声をかけられた。
「兄ちゃん……強いだろ?」
怯えを隠しきれない目。
それでも前に出ようとする、未熟な勇気。
「姉ちゃんが……化け物に攫われたんだ。
お願いだ……手伝ってくれ」
鬼は、低く笑った。
「化け物に、化け物退治を手伝わせるか」
少年は意味を理解せず、ただ必死に頷いた。
鬼は断らなかった。
そして今。
夜の岩場に、“怪物”が立っている。
歪んだ四肢。
常識を拒む膂力。
この地に根を張る、古き異形。
強い。
鬼は、即座に理解した。
怪物が一歩踏み出した瞬間、鬼は少年の肩を掴んだ。
「下がれ」
低く、しかし確かな声。
「……え?」
戸惑う少年を、岩陰へ押しやる。
「そこから動くな。
俺の背中だけを見ていろ」
少年は、息を呑んだ。
「で、でも……!」
「邪魔になる」
冷たい言葉。
だが、その背中は不思議と揺るがなかった。
戦いが始まる。
激突。
衝撃。
岩が砕け、夜気が裂ける。
鬼は押されているように見えた。
怪物の一撃が、鬼の身体を吹き飛ばす。
地面を転がり、血が散る。
「兄ちゃん!!」
少年の叫び。
鬼は、ゆっくりと立ち上がった。
口元に、笑みを浮かべて。
「……小手調べだ」
声音は、落ち着いていた。
「心配するな」
そして、怪物を真正面から見据える。
武に生き、
武に殉じる者の核心が、そこにあった。
鬼は、静かに宣言する。
「――術式展開」
世界が、収束する。
「破壊殺・羅針」
完。
――――
それは、何処からか紛れこんだ。
再生もせず、修復もされず。
ただ、眠るように沈黙していた。
その夜までは。
――
鬼殺隊の少年は、独りだった。
仲間は死んだか、逃げたか。
どちらにせよ、ここにはいない。
目の前の鬼は、遊んでいた。
「いいねぇ……まだ息がある」
朝までに殺せばいい。
それだけの余裕。
少年は何度も転がされ、岩に叩きつけられ、吹き飛ばされた。
気づけば、日輪刀は ⋯⋯どこかへ飛んでいた。
それでも立ち上がる。
「しつけぇなぁ」
鬼が笑う。
最後の一撃で吹き飛ばされ、少年は小さな川へ落ちた。
冷たい水。
指先に、何かが触れる。
――鉄。
拾い上げると、それは刀だった。
だが、刀身は途中で断ち切られており柄がない。
使い物にならない。
普通なら、そう判断する。
その瞬間。
(……俺を使え)
声が、頭の内側で響いた。
少年は考えるより先に、刃を握りしめ、鬼へ斬りかかる。
不思議なことに手は切れなかった。
――カン。
手応えは、ない。
鬼の皮膚を弾くだけ。
鬼は一瞬驚き、すぐに腹を抱えて笑った。
「なんだそりゃ!
日輪刀じゃねぇし、折れてるじゃねぇか!」
少年は転ばされる。
それでも立ち上がり、また斬る。
――カン。
――カン。
効かない。
まるで意味がない。
嘲笑。
「無駄だよ。そんなもん――」
少年の口が、勝手に動いた。
「……覚えたぞ」
次の瞬間。
鬼の首が、落ちた。
笑顔のまま、宙を舞い、
理解が追いつかないまま、
鬼は塵となって消滅した。
少年は、その場に立ち尽くす。
「……俺が……倒したのか?」
震える手。
折れた刃を見つめる。
(完全には……乗っ取れねーか)
頭の中で、声が笑った。
(まぁいい。
ゆっくりいくとするか)
川のせせらぎの中、
折れた神の刃は、再び静かに息づき始めていた。
俺たちの戦いはこれからだ! 完。
鬼滅とジョジョの短編だったんでこちら側に載せました 文字数制限で合体してます ジャンプぽい打ち切りEND ⋯⋯