魔法少女ノ魔女裁ば……なんか一人多くない? 作:ゴクチョー社畜賞
Q まのさばロスに聞く薬は無いんですか。
A そこに無いなら無いですね。
俺、悔しいよ……!(見切り発車で二次創作に手を出してしまう指)
設定集無所持なので設定ガバがあったら土下座します。無遠慮に【反論】してください。【偽証】でもいいよ。
【同意】してくれる方は是非お進みください。
基本的にはヒロちゃん目線で話は進んでいきます。問題あればオリ主タグ等修正しますね。
悪は死ね。死ね、死ね、死ね──!
視界を埋め尽くす赤。飛び散る肉塊。凶器から伝わる人体を叩き潰していく重く生々しい感触。
何度も。何度も。【正しくない】存在をこの世から消す為に振り下ろす。内に渦巻く殺意をあらん限りにぶつける。
然し目の前の存在は斃れない。人外じみた速度と力で腕が振るわれたかと思えば首元に焼けるような痛みが走る。気付けば宙に頭が浮かんでいた。
最期に私が見た光景は、首から上を無くし倒れていく自らの肉体。そして此方を大きく目を見開いて見つめる、最も【魔女】に近い──。
「──戻った、ということか」
二度目の見慣れない天井、湿気めいた空気が漂う監房で目を覚ます。顔には幾筋かの冷や汗が流れており、胸元が上下する間隔は激しく高鳴る動悸がいやに鮮明に感じ取れた。
つい先刻、私……二階堂ヒロは死んだ。牢屋敷と呼ばれるこの場所で、これから案内されるラウンジで、集められた少女達の目の前で……我を失った自身は看守によって首を落とされ命を奪われたのだ。
【死に戻り】──それが私の魔法。死んでしまった場合その日の目覚めた瞬間に巻き戻る。だからこそ常人ではありえない死の体験をありありと理解することが出来た。
このような不思議な力を持っているのは私だけではなく一定の年齢までの一部の少女達は皆、独自の魔法を所持している。私も例外ではなかった。
現状を改めて理解したところでこれから起こる事に溜息をつく。最も耳にしたくない人物の声を、顔を、存在を……受け止めなければいけないからだ。
「え、な、なに……ここ……? ……ろ、牢屋……!?」
自身が寝かされている二段ベッドの下段側、そこで眠っていた彼女が目覚めた。自分の置かれた状況をすぐに理解出来ず困惑した声色で、監房の鉄格子を掴み周りを伺っている。
その騒がしさに胸がざわめくが両手を前に組んだ状態を維持してゆっくり呼吸を整え精神を落ち着かせる。
大丈夫。この光景を見るのは二度目だ。彼女が何者かも私が一番良く分かっている。顔を見ても声を聞いても私は動揺しない。正しく振る舞える。己を静かに鼓舞して私は上段のベッドから降り、自然体に声を掛けた。
「──ああ、エマ」
「……え、え? ……ヒロちゃん……?」
緊張した様子で肩を震わせ振り返る彼女。驚愕に見開かれた赤い瞳、見間違うはずも無いその顔。一つ一つの動作に心がざわめく。
桜羽エマ。最も忌み嫌う正しくない存在に私は作った微笑みを浮かべながら正面から向かい合った。
██████████████████
同室で再会した私と桜羽エマを含め牢屋敷に連れて来られた
出入口を塞ぐ形で佇む看守、訳もわからず連れてこられて困惑と不安、混乱を隠せない少女達……いや、一部の人物はラウンジの中を見て回ったり周りを観察する様に伺ったりとさほど動揺してないようにも見えるが。
私以外状況が上手く把握出来てないことは間違いないだろう。既に自分が体験した事に再度大きく時間を掛ける必要もない、私と彼女達の為にも。そう考えるや否や部屋の中央へと立ち皆の顔が見えるように振り返る。
「みんな初対面だし、自己紹介をしていこう! 私の名前は二階堂ヒロ。以後よろしく」
全員に行き渡る程度に大きめの声と警戒させない程度の柔和な表情を意識して簡潔に自己紹介をする。前回、看守に殺される前に皆の名前や顔は殆ど記憶しているが私と彼女達の間で齟齬を生まない為にもこの自己紹介をしていく流れは必要だ。
皆の視線を集めた所で訝しげな目を向けながら近寄ってきた少女、蓮見レイアを皮切りに一人一人を滞りなく紹介させる。
無駄な時間を費やしたり紹介に手間が掛かりそうな人物については仕方なく私の口から名前を告げる。当然その少女達からは驚きの目を向けられるが今はそんな事に構ってる時間は無い。
そうして残る最後の一人。私達からやや距離を置いた位置、ラウンジの壁にもたれ掛かっている相手へ視線を投げ掛ける。
私よりも少し高い程度の身長。くすんだ色合いな灰色基調のロングコートにポケットが多く着いた黒ズボン、獣耳を模した様な飾りがあるフードを目深に被っている人物。顔が見えない訳ではなく、その影で此方を覗く瞳の色が深い蒼色であることやフードの縁から零れる長さの黒髪等から人物を見分ける要素は問題なく垣間見えた。両手には厚めの黒手袋を装着しており足元も革製のロングブーツを身につけている、肌の見える部分は殆ど無い。
一見すれば謎めいた印象を受けるが私の前回の記憶が正しければ、わざわざ此方から名を告げなければいけないほど手間の掛かる雰囲気ではなかったはずだ。
その推測通り私に沿う形で皆の視線が自然と集まり紹介を促されたと察知した相手は、コートのポケットに手を突っ込んでからその口を開いた。
「……
女子にしてはやや低い声色で名を告げたウルハは促された事はやったと言わんばかりに言い終わるやフードに手をかけて目元を隠し軽く俯く。
素直に指示に従う辺り協調性が無いことは無いが、さっさと話を終わらせる辺り人と関わるのをあまり好まないタイプなのだろう。こちらとしては有難いし私が抱いていた前回の印象とも相違は無かった。
全員分の自己紹介が終わる。自己紹介前に私が一部の少女の名前を言ってしまった事について怪しまれてしまったものの、いつの間にか全員に行き渡っていたスマホに搭載された【魔女図鑑】の情報で誤魔化す事が出来た。
そうして定刻、記憶通りに小さな通気口からラウンジへ不気味な姿のフクロウが飛んでくる。
「あっ……人がいっぱい。えっと改めまして……この屋敷で管理を任せているかわいいフクロウ、ゴクチョーと申します……」
ゴクチョー、そう名乗るフクロウは周囲の混乱を他所に何故私達がこの牢屋敷へと集められたのかその理由や目的を語り出す。
──【魔女】になる因子。【魔女】。絶対的な悪。正しくない存在。私は、間違ってなどいないのに。これは何かの誤りだ。悪者等では決してない。【魔女】は、正しくないのは……!
同じ話を死の直前に聞いたにも関わらず激しい動悸に襲われる。前回の死因は明確だ。然し理性が蝕まれ衝動的に、ラウンジに備え付けられていた火かき棒へ手を伸ばしかけてしまう。
本来の自分では考えられない行動、本能が理性を上回り静止が利かず感情の本流に身を任せ掛けた矢先、
「……っ!?」
ぐん、と。誰かに肩を強く引き寄せられる感触がした。反射的に素早く振り向くもののそこにはゴクチョーからの話を聞いて戸惑う少女達が一定の距離を保って立っているだけだった。
私に最も近い場所で立っているエマでも、自身の胸の前に手を当て現実離れした話に青ざめた顔をしているだけで私へ手を伸ばしていた様子は無い。
「あのぅ……どうかしましたか、ヒロさん。まだお話の途中なのですが」
「ああ、いや……なんでもない。気にせず話を続けてくれ」
「そうですか。ではささっと話を続けちゃいますね」
咄嗟に動いた私へゴクチョーが不思議そうに尋ねてくるのを首を横に振って答えた。特段言及されることも無くゴクチョーは再び話し始める。
気の所為だというには嫌に実感のある感触だった。ただ、結果的にそちらに気を取られたお陰で頭が冷えて胸に渦巻いていた衝動も一旦抑える事が出来て話が終わるまで耐えられる程度には自我を取り戻せた。
大魔女や救済といった引っ掛かる単語に、私の命を奪った看守……【なれはて】という存在。魔女になりつつある人物が抱く抑えきれない殺人衝動や妄想、それに伴う囚人間での殺人事件。事件が起こった際に開かれる犯人、魔女を裁くための【魔女裁判】。
「あ〜……あとひとつ何か今回は伝達事項があった気がしますが……。まあいいでしょう。思い出した時に改めてお伝えします。それでは」
私が死んで以降されたであろう話に耳を傾け、説明を終えたゴクチョーが意味深な事を言い残してから羽ばたいて去っていく。看守も特にすべき仕事は無いのか出入口から静かにラウンジを出ていった。
彼らを眺め、特に看守が離れたのを見て胸を撫で下ろすと手元のスマホで【魔女図鑑】を開きそれぞれの情報についても確認しようとする。
その折ふと、視界の端で人影が揺れ動いた。一瞬だけ顔を上げればラウンジの中にいる少女達の人数が一人減っているのに気がつく。各々が様々な表情を浮かべ特に親しげな会話もなく佇んでるのを一瞥した後居なくなった人物の名前が口から漏れた。
「……大上ウルハ。妙に行動が早いな」
壁にもたれかかっていたウルハは忽然と姿を消していた。足音らしきものは聞こえなかった様に思えたが……単に意識がスマホに向かっていて聞き逃しただけだろうか。少し気がかりはあるものの、自身の現状を理解する事が何よりも優先だ。私は一旦ウルハの事を思考の隅へと追いやり改めて【魔女図鑑】を確認することに集中した──。
██████████████████
「へぇ〜っ。ふぅ〜ん。ほぉ〜……」
「な〜るほどね〜! こりゃひで〜! ふーん……黒幕がいて? あてぃしが化け物になって? ……サイテー!!」
「それにぃ〜〜……【アイツ】、あの事黙ってるじゃん。まぁあの場で話すような事じゃ無いし言えなかったんだろうけどさぁ? これからの生活にちょ〜っと支障も出てくるんだよねぇ」
「だからあてぃしでも多少悪いとは思うけど〜……全部ひっくり返すついでに、さくっとバラしちゃお〜っと」
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ゴクチョーからの話があった翌日、私は早々に食堂へとやってくる。目的は二つ。一つ目は用意されている食事に毒等が無いかの確認、二つ目は食堂へこれから朝食を取りに来る少女達の点呼を取るためだ。こんな状況下だ、警戒は怠らず正しい生活を送る為に必要な事は欠かさない。
食堂へやってくる道中、紫藤アリサが看守へ抱えられて懲罰房の方へ連れていかれたのを目撃している為アリサを除いた十二人がもうすぐ此処へやってくるはずだ。そんな考えを抱いて足を踏み入れるとそこには──既に先客がいた。
「────大上ウルハ」
片手にトレイを持ち、もう片手で掴んだトングで並べられた食事らしきものを取ろうとしていた様だ。入室し声を掛けた私に気がついたウルハはぴたりとその動きを止めて、被ったフードの下で見え隠れする蒼い瞳を此方へと向けている。
「…………」
「…………」
名前を呼んで以降お互いに口を開かない気まずい沈黙が流れる。ウルハは彫刻になったかのように一ミリのブレもなく静止していた。ある意味優れた体幹を披露しながらも話が進む様子が無いため、私の方から再度口を開く。
「まさか一直線に来た私よりも早く食堂に人がいるとは思わなかったな」
「…………まぁ、うん。その……まずはおはよう。二階堂……さん」
「……ああ、おはよう 」
目覚めて一番に顔を合わせたのが物言わぬ看守と反抗的な目を向けていたアリサだったからだろうか。控えめな声量にどこか素っ気ない態度ながらも確り受け答えをした上、あちらから挨拶を交わしてくる姿勢にほんの少しだけ気が緩まる。
正しい行為から始まる会話は私としても悪い気分では無い。
「……勘違いしないで欲しいんだけど」
ほんの少し間を置いてウルハが話を切り出す。一体何をと思ったがおそらく私の表情を見て、だろうか。もしかすると頬が無意識のうちに緩んでいたのかもしれない。
トングとトレーを規定の位置へと戻し向かい合う形で姿勢を正したウルハに緩まった緊張が再び身体を走る。
この牢屋敷に監禁された理由や囚人間で殺人が起きる胸の話も告げられたばかりだ、朝方とはいえ二人きりの状況に思うところはあるのだろう。
次にくる言葉はなんだろうか。一部の少女の様に非協力的な発言を想像して頭の中でどう返したものか考えを巡らせる。そして続く言葉は、ウルハが深くフードを被り直したと同時に放たれた。
「す……すごく、お腹がぺこぺこだったからとか……食いしん坊なんかじゃない……から。……違うよ? 違うけど皆にはその……食堂へは二階堂さんの次に来た事とかにして……くれませんか、ね……」
「………………は?」
「ひっ、ごめんなさい……」
唖然としてつい漏れた私の声、にも関わらずびくりと肩を跳ねさせたウルハは自身の衣服の襟を両手で掴んで顔を隠すように背を向ける。その身体は丸まり僅かに震えていた。私に怯えてるのは目に見えて明らかだった。
「……いや怒ってなどいないし謝る必要も無い。それよりも、勘違いしないで欲しいというのは……ウルハが食堂へ一番早く来たのは空腹が理由では無いということか?」
「う。……そ、う……。いややっぱり遠からず近からずとも言いますか……」
「はっきり言うんだ。無駄な誤魔化しは時間の無駄だ」
「すみませんお腹も空いてて早く食事を取りたかったんですごめんなさいっ」
ばばっと正面に向き直った相手は早口で言葉を並べ頭を下げる。フードの飾りの獣耳が反動でぺたりと垂れるように揺れ動き、本物の獣さながら目に見えて気落ちした様子を見せていた。
今私の胸に渦巻くこの感情を何と形容すれば良いだろうか。出逢ったばかりで何も知らないとはいえ、容姿や立ち振る舞いから他者を寄せ付けないような雰囲気を醸し出していた人物が思いのほか小心者に見えて……そう、肩透かしを喰らった気分だと表現するのが正しいかもしれない。
呆気に取られて何も動かない私を不思議に思ったのかウルハはおずおずと顔を上げる。
「でも……二階堂さん、意外……だね」
「意外? 何がかな」
「いや、なんというか……あんな状況でも殆ど姿勢を崩さず凛としてて……いかにも皆をまとめる委員長、みたいな人なのに。……朝早くから食堂に来て食事を摂る程の食いしん坊だなんて……」
「……君こそ何か勘違いをしている様だが、私は空腹に耐えかねて早くに食堂へ来た訳じゃない。君と一緒にしないでくれ」
「あ、違うんですね……はっ。このままだと一方的に食い意地を張ってる人だって思われ……」
少なくとも私の中では、ウルハはもう食事については恐らく誰よりも貪欲な人物なのだろうと考えているが。そんな訂正をするのも馬鹿らしく思えてきて軽くため息をついてから食堂に用意された食事へと目を向ける。
ビュッフェ形式で揃えられた食料は見る限り、凡そまともな料理とは言葉にしづらい形のものが殆どだ。林檎等の果実はそのまま丸ごと用意されているが……調べるに越したことは無い。
食器を手にしながら並べられた料理へ近づくとフードを目深に被り直したウルハが声を掛けてくる。
「あ、二階堂さん。ここに用意されてる料理なんだけど……毒とか人体に有害な物質は入ってないみたいだから安心して食べていいと思う。味は……皆の口には合わないかもだけど」
「……何? ウルハ、既に
これ以上無駄な会話に時間を割かない様にと適当な返事を考えていた私の耳に入ってきたのは、これから私が行おうとしていた毒見の結果だ。私が思い立つ行動が他の誰かも思いつく事自体に驚きは無いが、その誰かが先程自ら醜態を晒したばかりの相手とは思わなかった。
「うん。……食堂にある食料や飲み水、食器とかも有害なものは無かった。少なくとも食事について安全性は確保されてるかな……満足度は低いけど」
自信なさげな声色はなりを潜め、ウルハは淡々とした物言いでそれぞれに視線を移し黒手袋の上から指で一つ一つを指していく。一片の迷いも無く確信めいた表情、その姿勢には誰かを貶める意図の無い正しさを感じ取れた。
「……といってもこれは一個人の意見だし……こんな状況だから信用するかどうかは二階堂さん次第……です、けど」
手癖なのだろうか、話を終えたウルハは落ち着きのない様子でフードの位置を調節するかのように弄り出す。この状況下で他人を鵜呑みにする危険性も理解している様で真偽の判断も私に委ねた。
大上ウルハの評価を私は再度改める。立ち振る舞いや態度に不安定な部分はあるものの思考や行動は理知的な人物のようだ。この僅かな会話だけでもそれとなく人物像を掴めたような気がした。
「……君が今ここで私に嘘をつく理由が無い。だからその調査結果については信じようと思う」
「そういってくれると嬉しいよ。よし、じゃあ早速食事を……」
「待て。牢屋敷でも規律は正しくあるべきだ。食堂にやってくる全員の点呼を済ませ諸々の説明をした上で、皆一同に食事を摂る。だからウルハはもう少し待機していてくれ」
「え゙っ」
ウルハが再び固まった。いの一番に食堂に来たのは確認目的以外に早く食事にありつきたかったというのもまた事実なのだろう。然し一人の例外を見逃してしまえば規律は乱れるものだ、正しくない事は避けるべきだ。
「その代わり君が言った通り、ここにやって来たのは私が最初でウルハが二番目……君がこの状況下でも中々我慢出来ない食いしん坊でがめつい人間であるという不名誉な事実は隠してあげよう」
「そこまで酷い人間ではないと思うんですけど!?」
脅しに似た交換条件を提示すれば渋々といった様子ながらも受け入れた。心做しかしょんぼりとした様子で腕を組み壁にもたれ掛かるウルハを眺めながら私は内心ほくそ笑む。
そうしてこの牢屋敷に囚われた少女達が一部を除き食堂へ集まってくるのにそう時間は掛からなかった。
██████████████████
食堂には看守に連行された紫藤アリサ、食事を要らないと断ったらしい城ケ崎ノアの二名を除いた十二人が揃う。ウルハから聞いた調査結果をもとに食事について皆へ説明する。
一同も特に不審がる様子は見られない。案内した通り、各々が食事を取り分けテーブルへと腰掛けていく。私が一人席に着くと同席してきた蓮見レイア、黒部ナノカと会話を少し交わした後静かに料理を口へと運んでいく。
各テーブルでも自然とグループは形成されていたが一人だけ……大上ウルハは隣に誰も居ないテーブルの端側で黙々と食事を進めていた。しかもペースが早い。
私も失礼だからこそ表情に出していないだけで用意されていた料理は決して良いとは言えない味だと正しく感じている、少なくとも箸が進む様な代物とは思えない。にも関わらず、ウルハはあっという間に皿を平らげると席を立って再び食事を盛りにいった。
……本当に空腹だったのか、或いは胃袋が常人よりも強いのか。私を含めた殆どの少女が驚愕の目で眺めているとどろりとした食べ物を皿に盛り終え振り返ったウルハが、集中する視線に気がついたのかほんの一瞬硬直する。然し何事も無かったかのように元の席へと着いた。
「……ウルハくん、よくおかわりまで出来るね」
隣で呆然と見ていたレイアが呟く。こんな状況下でといった意味なのか、単純に味の酷さを指したものなのか……はたまた両方か。私も同じ思考を抱いてたが口にはしなかった。
何とも言えない空間の中、そんなウルハに周囲に聞こえる声量で声を掛けたのは意外な人物だった。
「ねぇ〜ウルっち。ちょっち聞きたいことあんだけどさぁ」
背中を向ける形で席に着いていた沢渡ココ、彼女は驚いた様子もなくにやりと口端を吊り上げてウルハへ話しかける。振り向くウルハの表情は変化こそ見えないものの不思議げにココの顔を見ていた。私達が疑問に抱いた件でも追及するのだろうか。
「ウルっち、女の子じゃないんっしょ? あてぃしら女子の中に一人だけ混じってる男子の気持ちってどんな感じなん?」
………………、なに?
「……。別に何とも」
「え〜、何それ。反応つまんな〜い」
動揺した様子なく答えるや否や食事に戻るウルハ。聞きたい事は済んだと言わんばかり面白くなさそうに姿勢を戻すココ。食堂内が数秒沈黙に包まれてから、がたっと席を立ち声を上げたのはハンナだった。
「だ……だだ男性!? ウルハさんは男だったんですの!? 全く気が付きませんでしたわ!!」
この場にいるほぼ全員の心の声を代弁してくれたに違いない。確かに女子にしては少し声が低く感じられたもののまさか異性だったとは……男子にしては顔も小柄で整っているように見えるし。
この場にいる全員が少女であるという先入観と身につけてる衣装が尽く肌を隠す厚いものであった為に体格や顔つきでも気付くことが難しかったというのに、ココはよく一目で男子だと見抜くことが出来たものだ。
「ココちゃんよく気付けたわね、私は分からなかったわ。でもそう……女子と男子が同じ屋根の下暮らすなんて……。ふふ、何も起きないはずも無いわよね?」
「変な事言っちゃダメだよマーゴちゃん! ……あ、お、おじさんは別に気にしないからね。むしろ心配というか……」
『確かメルルはウルハと同室だっただろう。何か違和感等を感じたりはしなかったのか?』
「い、いえ……! 昨晩はこれといった会話も無くウルハさんもすぐに休んでいらしたので……気がつく暇も無かったというか……」
「ははぁ〜、何だか面白くなって来ましたね! ミステリーでも周囲と異なる人は何か鍵を握ってる事がお約束ですし!」
「ぼ、ボクにはそう見えないけどなぁ……」
ぎこちない空気が漂っていた食堂は各々の反応であっという間に騒がしくなる。私もウルハについて言及したい気持ちは山々だが、食事の席でこうも慌ただしくなるのは正しくない。
故意に音を立て席を立ちながらぱんぱんと大きく手を叩き此方へ注目を集める。
「皆思う事はある様だが一先ずこの場では置いておこう。私達が置かれている現状も未だ把握しきれてない今、余計な混乱は避けるべきだ」
「ヒロくんの言う通りだと思う。ウルハくんが男性だったからといって何が変わる訳でもない。多少日常生活や牢屋敷での規則面で配慮しなければいけない所はあるかもしれないが……そこはまた追々話し合おうじゃないか」
追従してきたレイアの言葉もあって場は次第に収束していく。渦中にいたウルハ本人は自分が話題の中心になっていたにも関わらず食事を続けていた様で、皿に盛られていた料理を既に食べきっていた。
「……ご馳走様」
平然とした様子で手を合わせてはトレイや食器を片す。そのまま私たちを一瞥することも無くやや早足で食堂を去っていった。殆どの少女達がその後姿を様々な視線で見送った後、ぎくしゃくとした空気が残る中食事へと戻る。
状況が状況とはいえ見方によっては私達の方からウルハを外へ追いやった風に思えるかもしれない。それは正しくない……が、彼も自分だけが男性だと言うことを打ち明けずに居たこともまた事実。初日からこんな雰囲気では先が思いやられるとつい溜息をついてしまう。
「……大上ウルハ」
隣に座っているナノカは最後までウルハの姿を眺めていた。横目で見ればその視線には警戒色が濃く宿っている。敵視とも捉えられるそれに何か思う所でもあるのかと疑問に思ったが……今尋ねるほどの事では無いだろう。
その後ハンナとシェリーがエマに向けてお披露目という形で自身の魔法を明かしていたが、それ以外食堂で何か起こることは無かった。食事を終えた私は城ヶ崎ノアへ食事を届ける為に一足先に食堂を後にした。
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「あ……言い忘れていた事をちょうど思い出したのですが、どうやら皆さん既にご存知のようで……」
「今回お一人だけ男性の方も混じっておりまして、一部規則を修正および追加しております」
「伝えるのが遅い? それは申し訳ありません。でもかわいいフクロウなので少しお茶目なところもあって然るべしといいますか……そういうことで、許してください」
翌朝。昨日と同じメンバーにノアも加えたグループで朝食を終えこれからについて話をする為に食堂に残っていると、モニターに映ったゴクチョーからはそんな話が垂れ流されていた。
反省の色が全く感じられなかったがそんな事を言っても無駄だろう。放送のタイミングを見るに本当に忘れていただけだったのかすら疑わしく思える。
「ウルハちゃん、やっぱり男の子だったんだね」
「おや、ノアくんも気づいていたのかい?」
「うん。みんなが集まってた最初の日から、なんだかのあたちと違うなぁ〜って思ってたんだぁ。……そういえば今日は食堂で見てないね?」
「昨日の昼食以降、食堂に来た時点でいつも食事を取り分けた跡と人数分のトレーの内一つが失くなっているわ。恐らく大上ウルハは誰よりも早く食堂に来て自分の分を確保してから別の場所で食べているんじゃないかしら」
「間違いないだろう、ウルハが食事を抜くのは……あまり考えられない。メルルの話からもその可能性は高いな」
ナノカの言う通りウルハが男性であることが周知の事実となった昨日の朝食以降、食堂で姿を見掛けることはなかった。
同室のメルルが言うには時間割に沿って監房の鍵が開くと颯爽と部屋から飛び出ていき、鍵が閉まる間際に帰って来てはそそくさと自分のベッドへ戻り横になっているらしい。
──私、心配で何度か声を掛けたりもしてみているんですけどどうやら初日から自分が男性であったことを気にかけていたみたいで……。
──出来るだけ関わらないようにとか、物理的にも精神的にも触れない方が良いかもしれないなんてご自身で言っていて……うぅ、心配です。
──あ、でも。会話はきちんとしてくれて昨日監房で過ごしていた時は楽しくお話したんですよ! 悪い人じゃないのは間違いないんです……!
メルルはそんな風にウルハの事を語っていた。接した時間は少ないがそれでも彼の人間性は共同生活を送るにあたって、恐らく問題ないであろうことは私も同意見だ。昨日混乱こそ招いたものの他の少女達も男性不信と見られる人物は居らず、輪に加わったとしても不和を生むことはないだろう。
出逢ったばかりの彼を気に掛けている訳では無い。まるで仲間外れにしてしまったような今の状況は正しくないと考えているだけだ。今さっきだって懲罰房にいたアリサと彼を除いてスマホの連絡先を皆で一斉に交換していた。こういった時に連携が取れないのは大変困る。
「規則以外にも私達の中できちんと決め事をしておく為にウルハくんとも確り話し合いたいね。ただ昨日ヒロくんの言った通り、私達が今置かれている現状に目を向ける事も重要だ」
「現状というと……」
「率直に言うなら──君たちは今後、【殺人事件】が起こると思うかい?」
真剣な表情でレイアが語り出したのはこの牢屋敷で起こりうる可能性。私とナノカ、ノアはそれぞれ意見を述べる。その上で万が一起きてしまった時に私達四人は互いに犯人として投票しない事を誓う……レイアはそんな提案をしてきた。
良い案ではあるが賛成は出来ない。例え友人であったとしても犯人となった正しくない人物への姿勢と自身の考えを述べた私に、レイアは驚きこそすれ見る限りでは素直に引き下がった。彼女が高らかに公平な関係を宣言したところで、
──食堂の外から少女の絶叫が響き渡った。
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エマ達の稚拙な脱獄計画に巻き込まれマーゴが看守に重症を負わされた翌日。私はノアと芸術活動を自由に出来る場所を探していた。その途中、マーゴの様子が気になったのもあり医務室へと足を運ぶ。
そこにはメルルの看病のもと療養しているマーゴと貧血を起こしているらしいアンアンがベッドで横になっていた。そしてそこにもう一人、意外な人物の姿もあった。
「ウルハ、君も此処にいたのか」
「……うん。こんにちは……二階堂さん、城ケ崎さん」
「こんにちは〜、ウルハちゃん」
「…………ちゃん?」
大上ウルハ……彼はどうやらメルルの仕事を手伝っている様だ。幾つかの薬品を彼女の指示のもと扱いやすく並べてたり渡したりしている。その上で看病に付きっきりのメルルを気遣ってか彼女に向けてお茶を煎れたりもしているようだった。
昨日廊下で看守が暴れていた時、騒ぎを聞きつけた彼も廊下に居たことは確認している。看守の想像以上の凶悪さやノアの魔法で血が蝶となって舞い上がる光景も目にしており、医務室へ運んだマーゴの手当に同行する事こそ無かったが後で聞いた話によれば恐怖で動けずにいた他の少女達をケアしていたらしい。
「君には色々話したい事があったんだが……怪我人が居る場では長話は慎んだ方がいいだろう。落ち着いた頃合で私に連絡をして欲しい。その為に連絡先を交換しておこう。構わないな?」
「え。……あー……了解、です」
「あ、のあもしておきたいな。良〜い? ウルハちゃん」
「もちろん大丈夫だよ。……ちゃん……」
途中断る気配を見せたウルハへ断りきれない様に捲し立てスマホからIDを見せ合い登録を終える。これで漸くまともに彼と話が出来そうだ。
マーゴの容態は安定していて傷口も塞がり顔色も良くなっているとのことだった。上半身を起こした彼女はエマ達への気遣いや私達への感謝を述べつつ少し会話を交わした後、服用した睡眠薬に従って眠気に誘われていく。
「ウルハくんも、ありがとうね。……でも……年頃の女の子の肌は安易に見ちゃダメよ……♡」
「見てない、見てないです、見てませんから。眠る直前にそんな誤解うむこと……あっ、おやすみなさい……」
マーゴは人を揶揄うのが好きらしい。彼女がまぶたを閉じる直前に見たのは僅かに顔を赤らめ焦るウルハの姿だったからか、安らかな寝顔を晒していた。
メルルの話ではもう少しでも鎌の角度がズレていたら日常生活に支障をきたすほどの傷になっていたらしい。それでも世話焼きの彼女は念の為暫くマーゴの傍に居続けて居たいそうだ。
「その、ウルハさんも無理しないでくださいね……手伝ってくれるのは嬉しいんですけど、あなたのことも心配で……」
「ありがとう。医務室に規定時間外も付き添えるのも一人だけだし……適度に離れたりするよ」
睡眠薬の瓶を片付けているウルハへとメルルが口を開けば彼はこくりとフードを掴みながら頷いていた。素直に言うことを聞いてくれてメルルもほっと胸を撫で下ろしていた。
そしていつの間にかアンアンに絡んでいたノアが不自然な挙動で医務室外へと歩き出していた。明らかな異常にアンアンを問い詰めると彼女が持つ【洗脳】の魔法によるものだと説明を受ける。実際に試して見せた時にはノアが持つ【液体操作】の魔法の性質上上手くいかなかったが、私はみだりに扱う魔法では無いと注意した。
「まあまあ二階堂さん。そう詰め寄らないであげて」
『ウルハはわがはいに優しいな。下心か?』
「なんて直球なこと書くの、違うからやめようね。ほらお茶なら代わりに煎れて上げるから……」
『一番いいのを頼む。薄めで』
「注文の多い夏目さんはこちらですか……?」
この医務室で多少なりとも関わったのだろう、アンアンのウルハへの態度は想像より軟化しているように見える。見る限りはここに居る皆、ウルハに対して悪感情を抱いたりなどはしておらず彼も居心地悪そうにはしていない。こんな状況ではあるが良い兆しだ。
やり取りを眺めて考えていればノアが足を止められず医務室から退室しかけており、私も追いかける形でこの場所を後にする。
──そういえば、と。私は昨日起こった廊下の惨劇をふと思い出す。
マーゴは【モノマネ】の魔法でゴクチョーの声を真似てエマ達を襲っていた看守を止めようとしたが、それが逆に看守の気を惹いてしまった。
壁も金属も容易く両断する鎌が彼女へ振り抜かれる瞬間、ほんの一瞬だけ看守が静止したように見えた。そのせいで姿勢が崩れたのか鎌の軌道がズレたようにも。
確証は無いが違和感のある挙動だった。看守が偶然バランスを崩したり何かを思い立ち踏みとどまりかけた等が理由としては考えられるが、あの恐ろしい存在がそんな不安定な体幹や情を持ってるとは思えない。
であればあの時、誰かがマーゴのように魔法を使って看守を留めたのかもしれない。現状分かっている各人の魔法にそれらしいものは見当たらないが、情報を集めていけば自ずと答えは出るだろう。
「ヒロちゃ〜ん、どうしたの?」
「すまないノア、考え事をしていた。自由時間はまだ残っているから他の場所も見て回ってみようか」
医務室の扉のすぐ近くで身体を揺らして待っていたノアに急かされ、私は誤魔化しながら彼女が自由に絵を描ける場所を見つける為にも再び歩き出した。
「俺にはその、あまり触れない方がいいよ。話的にも物理的にも……」
囚人番号671:大上 ウルハ
読み:オオガミ ウルハ
普段は落ち着いているが素は気弱な少年。
一人で行動している事が多いものの困っている事があれば何かと手助けはしてくれる。膨らんだポケットの中には牢屋敷や敷地で拾った色々なものを入れてるようだ。
周囲とは一定の距離を保とうとしているが、その理由は性別以外にもあるらしい。
身長:162cm 体重:57kg
魔法:【???】 原罪:不可逆的蒐集家
トラウマ:【???】