魔法少女ノ魔女裁ば……なんか一人多くない? 作:ゴクチョー社畜賞
Qメルルちゃんの癒しは今作にありますか?
Aありがとうございます。ないです。
お話の内容などを考えた結果、11/28現在でタグを追加する事にしました。読んでくださってる方の苦手要素が含まれてしまった場合は申し訳御座いません。
大上ウルハがトレデキムを塗った剣で腹を切ってお詫びします。
手に持った剣で喉を突き刺す。顔が驚愕の色に染まる相手の瞳には恍惚とした笑みを浮かべる自分の姿があった。自分の姿しか映っていなかった。その事実が更に自身の頬の赤みを深くさせた。
喉から血の匂いを漂わせる赤い蝶が吹き出るように飛び出し、もがこうとした素振りを見せる相手に更に剣を振りかぶる。今度は胸部を刺し貫いた。肉を裂き臓物を潰す感触が先程よりも鮮明に剣の切っ先から伝わってくる。相手は悲鳴を上げること叶わずくぐもった声を漏らすことしか出来ずにただただ血の蝶を舞い散らせていく。
その光景はとても美しく可愛らしく……愛らしかった。今自分は相手の全てを見て、感じて、手に入れる事が出来ている。相手の瞳が生命の光を失う瞬間でさえ愛おしい。こんな姿誰にも見せたくない。自分のものだ。だってこんなにも
氷上メルルの命が尽きるその瞬間まで宝生マーゴは一時たりとも目を離さなかった。周囲の何も目に入らないほど夢中になっていた。
最期に心臓を貫いた剣を余韻に浸りながらゆっくりと引き抜き、音を立てないよう慎重に床へと置く。メルルを剣で刺した際に彼女が落としたビンが割れ、その音を咄嗟に自分の魔法で誤魔化したのですぐ新たに誰かが訪れることは無いはずだ。
命の温もりが急激に冷えていくメルルの顔を素手で愛おしげに撫でた後、気絶した二階堂ヒロの背中から監房内に足跡をつけぬように飛び降り外へと出る。
計画通りこれから偽装工作を図らなければならない。自分が犯人だと疑われない為に、二階堂ヒロを現行犯として犯人に仕立てあげる為に。
「……さて、と。何からしたものかしら……ねぇ?」
だからこそマーゴは平静を取り繕い……妖艶な微笑みを作りながら顔を向ける。そこに立っていたのはあまりにも早すぎた来客。全ての一部始終を見ていた部外者。事が終わるのを黙認するかのように立っていたその人物は……。
目深に被ったフードの下……蒼い瞳の中にある鋭い瞳孔を静かにマーゴへと向けていた。
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「……マーゴ……」
「同情はいらないわ。……私の負け、あなたの勝ちよ……ヒロちゃん♡」
犯人を示す明確な証拠が無い中でのマーゴとの信用勝負、それを制したのは私だった。二階堂ヒロへ向けられた皆の疑念は宝生マーゴへ一斉に移り変わりその空気を感じ取ったであろう彼女は自ら敗北を受け入れ……氷上メルル殺害の犯人であることを自供した。
彼女は重傷を負い治療を受けた後も暫く、メルルが真心をもって甲斐甲斐しく付き合ってくれた事に深く感謝し、それ故に殺した。愛を感じたからこそ愛し合う為に、殺す事こそが愛情表現であると歪な価値観のもとに。
マーゴはこの牢屋敷で過ごす中誰も信じていなかった。信じてもどこかで必ず裏切られる。ならばその前に騙してしまえばいい、などと自供する間際に語っていた彼女が歪んでいるとはいえそれだけの理由でメルルを殺したとはあまり思えない。
「……でも、ひとつ。たったひとつだけ……裏切られなかったって言えることがあるの。そんな今だからこそお礼を言うべきね」
処刑執行直前、僅かに残された時間の中で会話を交わしていればマーゴはふと顔をあげる。私は何だか嫌な予感がした。だが止めることなどもちろん叶わなかった。彼女は目を細めて一人の人物を見つめ、名残惜しそうに微笑む。
「ありがとう、最後まで私が犯人であることを黙っていてくれて。でも、貴方を騙す機会を得られなかったことは残念だわ……
「…………な、に?」
今、彼女は何と言った? 犯人であることを黙っていた? ウルハが?
マーゴの信じられない発言に皆が一斉にウルハへと顔を向ける。裁判の最中も一度視線が彼へ集中したことがあった。その時は怯えて証言台の陰へ潜っていたウルハは、フードへ手を掛け顔を隠しながら……ただ俯いていた。
……否定、しないのか。
思い返せば彼は裁判序盤こそ議論に参加していたものの、後半……特にマーゴを犯人だと指摘して以降殆ど口を開いていなかった気がする。また彼女を犯人と示す証拠が話題に挙がった時も最低限の反応しか見せてなかった。
「ウソ、だよね? ウルハくん。マーゴちゃんがメルルちゃんを殺した犯人だったって、初めから知ってたなんて……」
「んだよそれ……じゃあ宝生が犯人だって言ってりゃすぐ終わってた話じゃねえか。こんな胸糞悪い裁判も、無実の二階堂を追い詰めたり疑わず済んだ……何考えてやがる大上……!」
「マーゴくんの言っていることが事実なら……ウルハくん、君は故意に皆の命を危険に晒したとわかってるのかい? 魔女として誰かが誤って処刑されたかもしれない、その上本当の犯人は潜んだままで更に殺人を重ねてたかもしれない……そんな想像が出来なかったとは言わせないよ。到底許される行為ではないね」
「み、みんな……そう一方的に責めるのはおじさんあんまり良くないと思うよ……! ウルハくんにもなにか理由があったのかもしれないし……そうなんだよ、ね……?」
口々に彼を批難する声が上がる。言葉にしなかったものでさえ殆どの少女は彼を見る目が変わっていた。裏切り者を睨む様な、そんな視線。これから処刑を受けるのはマーゴだというのにウルハまで吊し上げる空気さえ醸していた。
当然、私もその一人だ。
「ウルハ。君は私が冤罪だと知っていたんだな? 懲罰房に訪れた時、君が私に掛けてくれた言葉は……」
──二階堂さんは強い人だから本当の【正しい道】を見つけられると思うんだ。
──それでも、
「【嘘】だったのか?」
「…………、それは……」
ウルハの顔が私へと向けられる。被ったフードの影に隠れた顔全てを見ることは出来ないが、その瞳が僅かに揺らいだのは見てとれた。何かを口にしようと開いた口元は、躊躇いがちに噤まれる。
「あらあら。疑心暗鬼に陥るあなたたちを見られるなんて最期の光景として悪くは無いわね……♡でもあまりウルハくんのことを責めないであげてね?」
剣呑な雰囲気へ口を挟んだのはそれを作り出した本人、マーゴだった。処刑直前にも関わらず彼女は口元を手で抑えくすくすと愉快げに妖しい微笑みを浮かべてみせる。
「擁護するつもりはないけれど、彼とは【取引】をしていたのよ。犯人であることを黙って貰う代わりにちょっとした、ね♡それにウルハくんはこう見えてそれなりに頭が回る子よ? 自分一人が与える発言力と皆から得られる信用を考慮していたんじゃないかしら」
「うーん、たしかに。仮に裁判が始まってすぐにウルハさんがマーゴさんの事を摘発したところで、それがウルハさんの虚言かどうか私達には判断出来ませんもんね」
シェリーは納得した様子で顎に手を添えてうんうんと頷く。確かに明確な証拠が無く一人一人の証言もそれが真実かどうか……裏付けでもない限りは疑わしい中で、犯人だと一方的に指摘してもそれを鵜呑みにする人物はそういないだろう。いたとすればそれはそれで問題になる。
「それに折角の殺人事件ですから犯人を即指名しちゃうよりも、筋道を立てて証拠を基に推理を組み立てていきながら犯人を追い詰めていく方がいいですしね! 実際楽しかったですし!」
「何が楽しかったですかっ、そんなの笑って言うことじゃねーですわよこのおバカ! わたくしは犯人として疑われた時もあったっていいますのに、こっちは気が気でなかったですわ!!」
シェリーとハンナがそう騒ぎ立て、ウルハの事を巡る話の中で唐突にゴクチョーの声が割り込んできた。
「あのぅ……話が脱線してきているようにも思えますので、時間も押してますしささっと進行しちゃってもよろしいでしょうか? 残業は困るんですよねぇ」
その言葉を耳にして私達の中に再び緊張が走る。そうだ、これから行われるのは犯人、【魔女】たるマーゴの……。
……
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「ふふ、困ったわ。一番最初から躓いちゃうなんて……存外、私も運がなかったということね」
「【取引】? ……私を見逃す、ですって……?」
「……一体何を考えているの? これから行われるであろう魔女裁判で魔女を特定出来なかったら、無実の人が処刑されて殺人犯と一緒にこれからも生活することになるのよ?」
「こんな私への情け? メルルちゃんにあなたも思うところがあったのかしら? それとも……犯人だと言わなくてもあの子達なら……そこで倒れてるヒロちゃんなら自力で真実に辿り着く、とでも?」
「信じている? ……ふふ、出逢って間もないのにそんな言葉を吐けるなんて……寒気がしてぞくぞくしちゃう♡」
「……でも不思議。あなたの言葉には【嘘】を感じられない。だからといって私があなたを信じる訳ではないけれど」
「──良いわ。【取引】をしましょう。望むものを言って頂戴。ああそれと、結果がどうなってももうまともに言葉を交わすことも無いでしょうから……一つだけ」
「……折角見付けてくれたんでしょう? それなのに、あなたから
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宝生マーゴが処刑された。いいや、私達が処刑ボタンを押し……私たち自身が彼女を処刑台送りにした。
私は彼女の言う愛を否定した、嘘だと強く言い放った。愛しているものを手放すことが愛情に繋がるわけがない、ましてや自ら手に掛けるなど尚更だ。そんなもの正しくない。
愛しているから殺したという動機。それは誤りだった。嫌いで消えて欲しくて仕方がなかったというマーゴ本人でさえ自覚していなかった心の奥底を私達は暴いた。
自身の信じる【愛】を否定された彼女は今までの余裕が嘘のように取り乱し、狼狽し……私達は彼女の【禁忌】へと触れていた。触れてしまった。
全身を隈なく悪趣味な矢で貫かれ、それでも死ぬことを許されず、獣のような苦しみに悶えた声を吐きながら異形の姿へと変わっていき……【魔女のなれはて】となったマーゴは処刑台ごと地下へと幽閉された。それが私達が見た彼女の最期だった。
おおよそ人の所業とは思えない処刑方法。マーゴの元の姿からは考えられない【なれはて】としての醜い末路。耳に残る断末魔の咆哮。それらを受けてショックを受けないものは殆どいなかった。
だが──エマはただ一人、笑っていた。私の視界に映る彼女は間違いなく……悪だ。
拳を握り締め冷静さを保つ為顔を小さく振る。その際、偶然にも別の人物の姿も視界に映った。くしゃりとフードを掴んで身体を震わせる彼、顔色を見ることは出来なくとも横顔はちらりと見えて、
ウルハは泣いていた。蒼い瞳から頬を伝う涙が一筋零れている。それでもマーゴの処刑を一度も決して目を背けること無く見続けたであろう彼は、その涙を右手で拭き取りそのまま手をポケットにしまい込む。
ゴクチョーが裁判の閉廷を宣下した後もしばらく他の少女達がが立ち尽くしたり崩れ落ちている中で、ウルハは一人踵を返し先に裁判所を出ていく。私の目は自然にもその背中を見送っていた。
……彼は正しくない人物だ。自分が重要な情報を持っているにも関わらず敢えて話さず、私が犯人でないと分かっていた上であんな色々な言葉を吐いていた。どんな気持ちで言っていたのか分かりたくもない。
それでも大上ウルハは悪か否か。その判断はつかなかった。どちらつかずなんて私らしくもない、正しくない考えだ。
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裁判が終わった後、私はマーゴの部屋へ向かっていた。彼女はメルルを殺す計画を立てた際にココの音声メモから情報を得ていたと発言していた……その内容や手掛かりを調べておきたい。そう考えて入口前へとやって来ると、中から音もなく人影が現れた。
「……な、っ」
まさか誰かが居るとは思わず気付くのが遅れてぶつかりバランスを崩してしまう。地下の冷たい廊下に身体をぶつける衝撃に備えて目を瞑るが、数秒経っても警戒していた痛みはやってこない。代わりに誰かに腕を捕まれ、引き寄せられる感触がした。
「……ごめん、二階堂さん。大丈夫?」
ゆっくりと目を開くと私の腕を掴んでいたのは、ウルハだった。薄暗い廊下内も相まって余計顔が見辛いながらも焦りを含んだ声からは心配と安堵が混じってるのが感じ取れる。だが私は反射的に掴まれた手を強引に振り払う。
「……支えてくれた事には感謝はしておく、ありがとう。でも気軽に触れないでくれるかな」
「……うん、……ごめん」
私からの冷たい目を浴びた彼はすぐに片手を引っ込めて萎縮した様子で肩を縮こませる。気まずい沈黙が一瞬だけ流れた。
今は色々な意味でウルハの顔を見たくない。しかし何故彼はマーゴの部屋に入っていたのだろうか。処刑の直前に言っていた、【取引】とやらが関係しているのか……?
「……えと……じゃあこの辺で」
「君は此処で何をしていたのかな?」
足早に立ち去ろうとする彼を語気を強めて呼び止め、問いかける。びくりと肩を震わせてからウルハは緩慢な動きで振り返り、控えめな態度で口を開いた。
「……二階堂さんが考えてる事とは関係ない、よ……多分。……宝生さんにお願いされてたものを、置きに来たんだ」
「マーゴに? ……今回の事件や君達の間にあった【取引】と何か──」
「関係ないよ。本当に、違う」
私が言いかけた言葉をぴしゃりと遮りウルハは否定する。その声色も見つめてくる瞳も真剣味のあるもので……懲罰房で二人で話した時の雰囲気と酷似していた。普段見せない空気に私は口を噤んでしまう。数秒間、再び静寂が流れた。
「……二階堂さんは聞いた? 宝生さんはね、占いが趣味だったんだ」
間を置いてからウルハはフードを深く被り、目元を伏せる。
「よく当たるって有名で……この牢屋敷内でも道具があったら自分の部屋でやってみたいって言ってた。……でもそれらしいものをまだ見つけられてなくて……もし見付けてくれたら一回だけタダで占ってくれるってさ。『こんな状況だもの、恋愛運なんてどう?』って揶揄われたりも、して……ああいや、そうじゃない……」
彼の語る内容は節々に感情のぶれを感じた。その時の会話を懐かしんでいるのか口端が上がった、ような気がする。上手く表情は読み取れない。脱線しかけた話をウルハは戻しながら再開する。
「牢屋敷の探索中……たまたまタロットカードを見つけたんだ。宝生さんならよく知ってるだろうから、それを渡す為に彼女を探した。一階や二階じゃ見掛けなくて地下にいるのかと思って、……そうしたら……偶然、現場を見てしまった。渡す機会は失われて……渡す人も居なくなって、行き場のない贈り物だけが残っちゃったんだ」
たどたどしく言葉を紡いで。彼は視線を監房の中へ投げ掛ける。私も釣られてその方向を見遣った。監房に置かれた机、そこには簡素な包装と紫色のリボンを模した布が巻かれたタロットカードのケースが置かれていた。
「……また。うん、そう。……自分の手がどれだけ汚れていて……手にしたものを本当に必要な人に返せない、なんて。分かってたはずなのに……な」
隣で語る彼の憂いを帯びた呟きが微かに私の耳に届いた。どういった意味か気になったが追及はしなかった。話を聞いていてそんな気分にはとても、なれなかった。
「……質問は何をしていたのかだったね。答えるならあのタロットカードを部屋に置いた、自己満足だよ。……この部屋のものには一切触れてない。信じるかどうかは、二階堂さんに……任せるしかないけど……ぼ、ボディチェックでもされちゃうかな……」
「……いや。私が此処へ来るまでの時間とウルハが裁判所を出たタイミングから考えて、部屋を探索する時間はそう無かったはずだ……必要無いよ」
「そう、ですか。……俺がいると落ち着かないだろうし用は済んだから早々に立ち去るよ。じゃあ……」
私の返答が意外だったのか目を丸くしたウルハは僅かに間を置いてから言葉通りその場を離れるために歩き始めようとして、直前にぴたりと止まる。深く被り直したフードの下、表情を隠したまま。
「あ……今言える内に言わないと。……色々とごめん、二階堂さん」
去り際に彼は謝罪を残して自分の監房の方へと戻っていった。
……ウルハの話を全て信じている訳じゃない。もしかすると彼は同情を誘う為に作り話をした可能性だってある。現にマーゴの言っていた【取引】や、現場を見た上ですぐ犯人を静止したり周囲に知らせたりしなかった理由等は明かしていない。ウルハはまだ、何かを隠している。それは絶対だ。
だがそれを今考えたところで何にもならない。結局他人の思考や本心なんて分かりはしないのだから。私が今するべきことに切り替えろ。余計な感情を持つだけ無駄だ。そう言い聞かせて、胸内で燻る形容しがたい感情を誤魔化した。
その後は予定通りマーゴの部屋を捜索した。直後にエマも部屋へとやってきてお互いに何も触れない空気の中、時間は過ぎていった。
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メルルとマーゴが居なくなった数日後、私は普段通りに朝食を取ろうと食堂へ訪れていた。当然その時間には他の少女達の姿もあった。その中にはウルハの姿も混じっている。
「ウルっち〜、はいこれも。あてぃしの嫌いなもん混じってたからあげる」
「これは……どろっどろに溶けたニンジン……かな? 食べるけど……沢渡さん、野菜とか嫌いなの?」
「ここのはどの飯も等しく嫌いだよ。酷い味だし見た目も最悪。けど当たりぃ、あてぃしここで食べる野菜が特に嫌。でもゴミ箱に捨てるよりもあげてるだけ感謝してよ?」
「うーん、貰えるだけでも確かに有難いといえば有難いんだけど……なんだかなぁ」
「じゃ、これとこれと……あとこれも。はい、ウルっちよりも嫌いなもんセレクションね。さっさと処理してくれる?」
「あ、嫌いな人に嫌いなもの喰わせてるやつですかこれ。あ、あっ、持ってかないで、なんでもないですいただきます」
食堂ではグループを形成してるものや一人で食べているもの様々だが、ウルハはココとミリアと同じテーブルを囲んで食事をしているみたいだった。
ウルハは裁判が終わった翌日も食堂へは皆と同じような時間で足を運んでいたが、一人とりわけ孤立していた。前と違って今回はマーゴのことを黙っていた然るべき理由がある。当然といえば当然だ。
そこに声を掛けたのがココとミリアだった。最初は気が引けていた様子のウルハも会話を交わす中で食堂でのグループには入ることに決めたようだ。
ミリアは誰にでも分け隔てなく優しく接する性格だということは裁判中でも垣間見えた。誰か一人が一方的に追いやられてる状況に敏感なのだろうとも。だから彼女がウルハを気にかける事は不自然ではない。
しかし、ココが彼を受け入れることは意外だった。彼女は少女達の中でもとりわけ厄介な性格をしている。ミリアと一緒に居たからなし崩し的にという可能性もあるが、それでもあの裁判を経てウルハと接触するのに抵抗が少ないのは性格柄違和感があった。
「おじさん、沢山食べる子を見てると何だか安心するなぁ。好き嫌いも無くてえらいね、ウルハくんは」
「佐伯さん……あの、生暖かい目で見られるのはちょっと恥ずかしいかも……食べる量控えめにしようかな……」
「我慢はあまり良くないよ? あ、まだ足りないならおじさんが取ってきてあげようか」
「大丈夫っ、大丈夫ですっ。そう子供じゃないからっ。というか佐伯さん同年代なのに大人っぽくてすごくすごいね!!」
「語彙終わってんぞ〜ウルっち。つーかおっさんは中身おじさんとかじゃないってウルっちも納得してたじゃん」
「だから余計にすごいと思ってるんですよね……佐伯さん、人を安心させる天才かな……」
「そ、そんな事ないよ。大袈裟だなぁ。ウルハくんはこう……お世話しがいがあるからつい、そう接しちゃうっていうか」
「遠回しに問題児って言われてるじゃん。反省しな?」
「面倒を掛けてごめんなさい。腹を切ってお詫びします…………」
「違うよ!? そういう意味じゃないからね!?」
裁判を経て以降の食堂は沈鬱な空気を醸していたものの、ココ、ミリア、ウルハのグループはウルハが加わってから少しだけ活気を取り戻した様に思える。全体的な重苦しい雰囲気も心做しか緩和されてる気がした。
ウルハは一旦置いておいて、ココには音声メモのことや彼女の得ていた情報のもと知った地下施設についてなど色々問い詰めたかったが……中々その機会は訪れていない。
それに私は今、悪を……エマを殺す為の計画を考えていた。誰にも犯人だとバレずに彼女を殺害する方法、それを見つける為に今日は様々な場所を見回りという体で探索するつもりだ。
参考の為に頭の中でマーゴがメルルを殺害した時の状況を思い出していれば、私の表情が強張っていたのかふいにレイアが近づいてきて話しかけてくる。私に対して気後れしてる様子の彼女へ突き放した態度で接していれば、突如食堂で大きく皿が割れる音と怒声が上がった。
「ふざけてんのかてめえ!」
それはアリサの声だった。咄嗟に見てみればアリサはナノカの胸倉を掴んでマスク越しでも分かるほどの怒気を放っていた。
「ウチは知らねえって言ってんだろ!」
「本当に?」
「しつこいんだよ! いきなり人を泥棒呼ばわりしやがって!」
尋常でない様子にすかさずエマ、シェリー、ハンナのグループが間に割って入る。
耳を傾けてみればどうやらナノカの持っていたリボンが無くなってしまったらしく、囚人の中にそれを盗んだ泥棒がいると判断したらしい。そして一番怪しく思えたのがアリサだった、と。
そう答えたあとにナノカは別の方向に顔を向けた。その視線の先には剣呑な空気を察して心配そうに場を伺うウルハが立っていた。
「もう一人怪しい人物はいるわ。大上ウルハ、あなたが泥棒ならリボンを返して。今すぐに。怪しい事に使われたくないもの」
「ご、ごめん。紫藤さんと同じで全く知らない……。良かったら特徴とか教えてくれない? 何色とか、どれくらいの長さとか……必要なら探すのも手伝う……」
「そうやって惚けるつもり? あの時の裁判みたいに──」
「──おい、いい加減にしろよてめぇ」
ナノカの言葉を遮ったのはアリサだった。彼女は先程よりもさらに険悪な顔で睨みつけ、拳を振り上げこそしてないものの強く握りしめていた。
「ウチが泥棒扱いされんのは当然腹立つけどよ。大上にも突っかかっておいて、そう問い詰めんのは違うだろうが!」
「……彼を庇うの? 意外ね、紫藤アリサ」
「んなわけねぇだろ! 別のやつ巻き込んだ挙句に筋が通ってねえって言ってんだよ!」
「──そこまで!」
段々とヒートアップしていく二人の言い争いに凛とした声が差し込まれる。全員の視線はよく通る声の主、レイアへと注がれていた。彼女の注意と堂々とした気迫によってアリサとナノカは睨み合いながらも互いに無言で相手から離れる。
こんな状況だ、何がきっかけでまた殺人事件が起きてしまうかも分からない。レイアもそれを察してか皆へ正気を保つように安心させるような微笑みを自ら浮かべながら話し出す。
今は皆で団結をするべき。せめて生き残った全員でここを脱出するべきだと。そして彼女は落ち着いてから皆でラウンジに集まって話し合いたいことがあると告げる。私にも参加を願う姿勢を見せた。
エマの殺害計画を練っている中、彼女達と馴れ合ったり下手な作戦に参加するつもりはないが……動向を把握しておくに越したことはないだろう。私が参加することを約束するとレイアは安堵したように微笑んでいた。
レイアは早々に朝食を終えて食堂を出ていく。恐らくラウンジに早くに向かって準備でもするのだろうか。一人、また一人と食堂で用を終えたものから立ち去っていく。どれだけ人が集まるかは分からないが……彼は、ウルハはどうするのだろうか。ふと気になって彼の方を見てみた。
「大丈夫? ウルハくん、顔色があまり良くないように見えて……」
「ありがとう佐伯さん、平気です。でも顔はあんまり覗き込まないで欲しいかも……」
「強がっちゃってさぁ、ほら男ならしゃきっとしろって」
「……しゃ、しゃき……」
「うわなんか口でいうやつ初めて見た。きもっ」
「あ、ココちゃんダメだよ……! ああ……ウルハくんしおしおになっちゃって……」
ウルハはショックを多少なりとも受けているようだったが、ミリアとココが二人なりに彼を励ましている様に見えた。何度も食事を一緒にしたのを繰り返して三人の仲も進展しているのだろうか。フードの獣耳ごと頭を垂れたウルハを連れながら彼女たちも食堂を出ていく。
最後に残った私も朝食を食べ終えると席を立つ。……レイアに脱出の目処がついたとみるか、はたまた別の目的があるのか。いずれにしても私にはエマを殺害するという指名がある。殺害しなければならない。溢れる殺意を胸の内に留め手で抑えながら、私も食堂を後にした。
・ヒロちゃん
ウルハに信頼されたと思ったらウルハに裏切られてた。なんだアイツ。
出会ったばかりの他人にそこまで思いが揺れることはない。ないんじゃないかな。
エマは悪。ウルハは悪かなどーかな。とりあえず悪は死ね。
・マーゴちゃん
タロットカードって実際何処で手に入ったんですかね。
今回は図書館に籠りウルハにカードをおまかせ。なお結果。
メルルを手伝ってたウルハにも愛判定はあったかもしれない。無かったかもしれない。
この世界線では一人だけ裏切らないと信じられた。処刑直前なのでだからどうという話。
・エマちゃん
ヒロに許されたと思ったら結局許して貰えてない。何も変わらない、変えられない。
・ココちゃん
ウルっちはどろどろのニンジンよりはマシ。カビたパン以下。
・ミリアちゃん
一人ぼっちは寂しいもんな救済聖人少女おじさん。
・ウルハ
未成年の少女に怪しい取引を持ちかけた犯罪者。ヒロを弄んでいいのは私だけですよ。死刑。