魔法少女ノ魔女裁ば……なんか一人多くない?   作:ゴクチョー社畜賞

4 / 7

Q.全体的に話が重たいと思いますが軽い雰囲気もありますか?

A.極力酷い目を見せられる作品になるようにします。

こういうのでいいんだよこーいうので……、いいんですかね……。

拙作への閲覧や感想、評価等誠にありがとうございます。励みになります。


皆で劇を作り上げよ……なんかあの人混じってない?

 全員がラウンジに集まったところでレイアが提案したのは脱出に関する案などではなく、これから殺人事件を起こさない為の対策を話し合う為だった。

 

 曰く自分達の結束を深めることで、完全に払拭することこそ出来ないかもしれないが衝動的な殺人については抑えられるはずだと。簡潔に言うなら暫くは皆仲良く牢屋敷で生活してみよう、ということか。

 

 ココの情報によって最近発見された地下の冷凍室等、牢屋敷や周辺について調査出来る部分は既に終えている。脱出の糸口を掴む手段が限られている今、別の方向から生存への道を模索する案自体は正しいものだ。

 

 レイアは仲を深める為の具体的な案として、全員で一つの劇を作り上げるという彼女ならではの提案を皆に持ちかけた。それを快く受け入れ相談する少女もいれば、冷ややかに拒絶してラウンジを出ていく少女もいる。

 

「私も遠慮しておく。君たちと仲良く何かをする気にはなれない」

 

 計画を立てている私もこの案に乗る訳にはいかない。先の裁判で犯人だと真っ先に疑われた件もあるだろう、冷たく突き放せば眉を下げて残念がるレイアに少し申し訳ない気持ちを抱きながらもラウンジを後にした。

 

 

 

 ──私は魔女を、エマを殺す。その為に皆と仲良く振る舞う訳にはいかない。

 

 

 

 

 ██████████████████

 

 

 

 翌日、私はエマ殺害の計画を立てるためにこの牢屋敷で利用できそうな場所を改めて調査していた。

 

 各場所を回っていれば各々の理由から単独行動をしている人物、劇に向けて準備に取り掛かっている人物に別れていて少しの会話を経つつ計画を実行するのに有用な情報も並行して得ていく。

 

 ある程度の人物と顔を合わせた後、私はノアのスタジオへ足を運んだ。そこには今最も逢いたくない人物の顔もあった。

 

「あ、ヒロちゃん……」

 

 部屋の入室に気付いたエマが私へ顔を向けてくる……裁縫道具を手に布を縫っているハンナも一度手を止めてこちらを見ていた。

 

 どうやらエマ達のグループはレイアの提案した劇に参加することに決めたらしい。エマは役者として、ハンナは衣装製作担当として手を貸しているそうだ。この場所で作業をしているのも広く使いやすく、物も置きやすいことから作業に適した空間だからとのこと。

 

 室内を軽く見渡して見れば何度か巡回で訪れた時よりも小物は増え全体的な汚れもあるものの、大きな机や広い室内からたしかに作業には適した場所だと納得する。

 

「劇の演目は【ピーター・パン】に決まりましたの。エマさんはウェンディ役ですわ! 気合いの入った衣装を作りますので、楽しみにして下さいまし!」

 

「う、うんありがとう。こんなことしてていいのかなって思うけど……」

 

 会話に花を咲かせるエマとハンナ、しかし私はエマの無知を装う様な態度に内心苛立っていた。これ以上彼女達の話に付き合っていてもストレスが溜まるだけだろう。

 

 一度距離を置きながらスタジオ内を改めて調べていく。日当たりの良いこの場所はその分、整理されていないものや傷の多い箇所、散乱した紙に道具類他、室内は荒れている部分が多かったはずだが……。

 

「……やけに綺麗になっているな」

 

 私が最初に巡回していた時よりも目に見えて室内は整頓が行き届いていた。よく利用しているノアやアンアンが確り欠かさず掃除をしている……とは正直あまり考えられない。

 

 本来なら床には無造作に不要な紙が幾つも捨てられてたのではないかとイメージが浮かぶ程度には彼女たちの習慣は推測出来る。となれば他の第三者が代わりに清掃を請け負っているのだろうか。

 

 そんな思考に耽りつつスタジオ内から外の中庭まで覗いていると後方からスタジオへ騒がしい足音を立てて入ってくる人物がいた。そのすぐ後に続く形で、もう一人も。

 

「エマさん、ハンナさん! お待たせしました! はいどうぞ、緑色の布をきちんと集めてきましたよ!」

 

「ぜぇ……ふぅ、これくらいあれば大丈夫だよね……不足してることはないよね……」

 

「ありがとうシェリーちゃん、それにえっと……ウルハくん、大丈夫? なんだか凄く疲れてるみたい……」

 

 両手に抱えた緑色の布を満面の笑顔で自慢げに披露し作業台へと置く橘シェリー、そして彼女と裏腹に壁に右手をついて肩で息をしている大上ウルハ。彼についてはフードで隠れてるため顔の全貌は見えないが、いかにも体力が切れているといった様子だ。

 

「はぁ……はぁ……。その、橘さんが……色んな部屋のカーテンとかテーブルクロスを引きちぎってまで集めようとしてたからそれを追い掛けたり止めたりで……」

 

「それは、……なんというかお疲れ様ですわ」

 

「大変だったねウルハくん……」

 

「ウルハさんが羽交い締めして止めてくれなかったり、倉庫にある布を案内してくれなかったらそうしてたかもしれませんね〜」

 

「さすが、行動力の化身……ゔっ」

 

 そしてウルハは胸を抑えてからばたりとうつ伏せでその場に倒れてしまった。

 

「きゃぁぁ〜!? ウルハさんがぶっ倒れましたわ! 救護、誰か救護を〜!」

 

「大丈夫ですよハンナさん。こんな時もあろうかと探偵の嗜みで蘇生術もばっちり心得てます!」

 

「シェリーちゃん本当に? 何だか嫌な予感がするけど……」

 

「ふっふっふ任せてください〜。シェリーちゃん全力の心臓マッサージで一発で蘇生させちゃいます!」

 

「それ一発で昇天の間違いじゃないですか??」

 

「あ、生き返りましたわ」

 

 一瞬何だか慌ただしくなり掛けたが、自信満々に袖を捲り始めるシェリーを見て勢いよく上半身を起こしたウルハに二人も色々な意味でほっとしていた。とんだ茶番を見ている気がする。

 

 ……一度目の裁判の件こそあったものの、あんな風に冗談を交わせる程度にはウルハも受け入れられているようだ。レイアの案あってこそ、だろうか。私は無意識に自身の胸に手を置いていた。その行動に我ながら驚いてしまう。

 

「……安堵しているのか、私が……?」

 

 ウルハが孤立する事無く輪に入っていられることに? そんな他者を気遣う余裕なんて今は無いだろう。自分の行為と思考に戸惑い立ち尽くしていれば四人は話題を変えて話を続けていた。

 

 どうやら私達が普段身につけているこの衣装について、規則では毎日ダストシュートへ棄てそこから繋がる焼却炉で燃やされてることにハンナが憤っているようだ。

 

「お洗濯すれば、まだ着れますのに……勿体ないですわ!」

 

「それだけ【魔女】が禁忌とされているんでしょうね〜」

 

「別に【魔女】だからって衣服に菌が付いたりとか、着ていたものを身につけたら呪われるとか……そんな事は無いのにね。……いや、もしかして……」

 

「ウルハくん、神妙な顔になってどうしたの? 何か心当たりが……?」

 

「うん、分かったよ。きっと【魔女】が身に付けてた衣装としてその服は高い価値がつくんだ。それだけじゃなくて所謂魔力だって宿るのかもしれない。それに男物ならまだしも女物の方が衣服の価値は高くなり易いし、つまりそういった意味でも悪用されない為の──」

 

「あ、ごめんウルハくん。聞いたボクが間違いだったかも。それ以上は話さなくていいよ?」

 

「えっ。いや待って桜羽さん、割と的を得た意見を言ってるつも──」

 

「ウルハくん。話さなくていいよ」

 

「はぃ……すみません……」

 

 ウルハは肩を縮こまらせて萎縮していた。あのエマにさえ言葉で負けている様ではこの先も思いやられる。……本当に彼はよく分からない人物だ。

 

 エマがいて集中も出来ないしシェリーとハンナの騒がしさ、それに加えてウルハを見ていれば気力が無くなってきてしまう気がしてこの部屋にいても立っても居られずその場を後にした。

 

 

 

 ██████████████████

 

 

 

 自分が犯人だと露見することなくエマを殺す方法。牢屋敷の中を一通り回って思いついたそれは、エマを防音性の高いシャワールームで殺した後にダストシュートからエマをき落とし焼却炉で死体ごと焼き尽くす……死体の発見を困難とすることで事件自体を起こさない様にするというものだった。

 

 しかし焼却炉が作動するのは毎週月曜日の十五時。時間はもう少し先で同室のエマと嫌でも顔を会わせ続けながら流行る気持ちを抑える中、気分転換も兼ねて私は湖の方へと足を進めていた。

 

 あの湖にはウルハが言っていた通り魚やその他の生き物がいる気配は感じない。それでも穏やかな自然と暖かな陽の光に包まれながら過ごす環境は少なからず私の心を落ち着かせてくれる。

 

「うるっせえな……! どうしようがウチの勝手だろうが!」

 

 だが、気分転換をするにはあまりに似つかわしくない怒声が耳へと入ってきた。聞き覚えのある声にまた囚人同士でトラブルを起こしてしまっているのではないかとそちらへ慌てて駆けつける。

 

 そこには居たのは予想通り声を荒らげるアリサ、それに焦った様子ながらも対話の姿勢を見せているウルハの姿がある。またアリサの手には黒いリボンが握られていた。

 

 あれは……ナノカが無くしたと言っていた髪リボンではないだろうか。間に割って入ることも考えたが二人はまだ私の存在に気がついていないようだ。アリサは私をあまり快く思っておらず話が拗れてしまう事も恐れて少し離れた場所で様子を見てみることにした。

 

「アイツはウチのこと何の根拠もなく疑って来たんだぞ、タダで返す気持ちになんてなれるかよ」

 

「うっ、ご最もです。……でもその……それは黒部さんがそれだけ探してたもので……」

 

「んなこと分かってる。けど、今更うちがこれをアイツに渡しに言ってなんて言われるかは想像つく。やっぱり盗んでたとか泥棒だったとか……そんなこと言われるに決まってる。うちはただ偶々、拾っただけだってのに……」

 

「いや、そんなことは……話せばきっと分かってくれる……はず」

 

 どうやらアリサが拾ったリボンをどうするのか話し合っているようだが、彼女は素直にナノカへとリボンを返すつもりは無さそうだ。そんなアリサにウルハは説得を試みているようだが成果は芳しくない。

 

「絶対そうだって言いきれねえだろ。それに大上、おめえだってウチとおんなじで黒部に疑われてたろうが。腹立たねえのかよ」

 

「それ、は……。……裁判で故意に情報を隠していたから、ね。紫藤さんとは別で疑われるのに正当な理由はあるし……」

 

「それとこれとは話が別だろ。……てか、そんなに言うんなら大上がこのリボン返しにいけよ。ウチはもう関係ねえ、さっさとこれ持ってどっか──」

 

「──それはダメだ」

 

 高圧的な態度で話し続けるアリサに気弱な雰囲気で今にも折れそうなウルハ。遠くから眺めていたがそろそろ助け舟を出すべきか迷っていた時、突然ウルハの纏う空気が変わる。

 

 対面していたアリサもそれを感じ取ったのだろう、彼女は目を丸くしてから対抗するようにウルハを睨んだ。

 

「……なんだよ急に。何がダメだってんだ? はっ、分かってくれるとか言っといて結局大上も自分で持ってったら黒部に疑われると思ってんじゃねえのか?」

 

「ううん、黒部さんはそんな人じゃないよ。ダメなのは……紫藤さん自身がそれをすぐ黒部さんに返さないことだ」

 

「はぁ……? 誰が返したって同じだろ。それに、別に返すのも何時だって……」

 

「黒部さんは今もそのリボンを探してる。彼女にとって他人に迫るほど焦っていて……きっと大切だから。もし、紫藤さんがそれを持ったまま……仮に黒部さんがいなくなってしまったり、返す機会を失ってしまったら……きっと紫藤さんは後悔してしまうと思う」

 

 ウルハは緊張を誤魔化してるのかコートの襟を両手で掴み、僅かに身を震わせながら話を続ける。諭すように冷静に、困惑してたじろぐアリサから視線を離すことなく。

 

 ──裁判直後、ナノカとマーゴの監房前での彼との会話を思い出す。ウルハはマーゴへ贈るはずだった代物を本人に手渡せなかったことを悔いている様子だった。そんな自分と重ねているのだろうか。彼の事情を知る由も無いアリサであっても哀愁が漂う雰囲気に強く出られないでいるようだ。

 

「……んだよ。仮にアイツにこれを返せなかったとして、ウチが後悔するかなんてお前に分かる訳ないだろうが」

 

「うん、分からない。あくまで推測だよ。でも紫藤さんは優しい人だから……自分のことをきっと、追い詰めてしまう」

 

「はぁ? ……ウチのこと知ったような口聞くんじゃねえよ、どんな人間かろくに知りもしねぇ癖に」

 

「……そう、だね……ごめんなさい。でも……少なくとも今、黒部さんにそのリボンを渡せる機会があなたにはある。出来れば他の誰かじゃなくて紫藤さんの手で返してあげて欲しい。ちゃんと必要な人に必要なものを返せたんだって、紫藤さんも思えるように」

 

 彼は手袋に包まれた右手を自身の目の前でゆっくりと握りアリサへ改めて向き直る。震えることなく真っ直ぐなその声音にアリサも思うところがあったのか、額に手を当てて間を置いた後に自身の懐へと黒いリボンを仕舞い込んだ。

 

「……考えとく」

 

「……うん、そうしてくれると嬉しい。あ、そうだ……食堂で疑われた時も庇ってくれたこともまだ御礼言ってなかったね。ありがとう紫藤さん」

 

「あ? あの時黒部にも言っただろうが、別に大上を庇ったつもりなんてねぇよ。勘違いすんな」

 

「あ、そ、そこは本当なんだ……ご、ごめんなさい……」

 

「別に謝れとまで言ってない。……はぁ〜……なんか大上と話してると調子狂っちまう。ウチはもう暫く此処に一人でいるからおめえはさっさとどっかいけよ」

 

「うん…………」

 

 先程までのウルハの真剣な態度は一気に霧散してしまい、アリサも気が削がれたのか鬱陶しそうに手で彼を追い払う。とぼとぼと肩を落として歩き出したウルハは近くの森へと姿を消していった。

 

 一部始終を見ていた私はアリサがリボンを持っている事をナノカに伝えるべきか一考する。彼女とは無くしたリボンを見つけたら報告する約束もしている。普通に話せばアリサが懸念してる通り余計に拗れてしまう可能性もある、内情を知っていて勘違いさせるのは正しくない。

 

 ゴクチョーから逃げ隠れしているナノカにまた偶然会えるかどうかは分からないが、出逢えた時には多少話を変えてアリサと会うように仕向けてしまえばいいだろう。

 

 私は彼女達と仲を深めるつもりは無い。だがわざわざ対立を煽る必要は無いはずだ。……そんな自分への言い訳を心の中で留めつつ、先客のいる湖から立ち去った。

 

 

 

 ██████████████████

 

 

 

 計画決行の日が明日に迫る中、皆の様子を観察していれば劇に参加する面々の準備が進んできているのが分かった。

 

 娯楽室で映画を見ながら演技を学習するもの、中庭にて台本を手に台詞を練習するもの、ノアのスタジオで背景や衣装等を手掛けるもの……殆どの少女には裁判以降にはあまり見られなかった明るい顔色が戻りつつあり、レイアの案は結果として良い方向に働いているのが見て取れた。

 

 もう一つの変化はナノカの髪に例の黒リボンが結ばれてるのを見掛けるようになったことだ。無事にアリサは彼女へ落とし物を返すことが出来たらしい。二人がばったり顔を合わせた時も以前より剣呑な雰囲気にはならなくなっていた。

 

 牢屋敷の空気は全体的に和らいできている、殺人事件など起こりようもないほどに。……だからといって私がエマを殺す決意が揺らぐ訳ではない。

 

 彼女達の平穏を明日、私が崩すのだ。そう考えれば考えるほど日に日に掌には嫌な汗が滲むようになった。

 

 今日も私は朝食後、牢屋敷の中を一通り歩き回っていた。日課だからなのか、それとも気を紛らわす為なのか。どちらつかずな気持ちで牢屋敷の二階を歩いていればノアのスタジオで人の気配を感じ取る。

 

 ……居るとすればノア、だろうか。彼女は何よりも絵を描くことを優先するだろうから。もしそうなら……。

 

 覗いてみればそこに居たのは一人だけ。箒を手に取って床を掃除している……ウルハだった。埃の舞う室内をフードを被ったまま俯き気味に掃いてはちりとりで回収し、適当な袋へ捨てて縛っている。此処で無造作に捨てられたであろう雑紙も一つ一つ束ねられており全て一箇所に纏められていた。

 

 掃除していたのは彼だったのかと見つめていれば、視線に気がついたのかウルハがこちらへと振り向き小さく頭を下げてくる。

 

「おはよう、二階堂さん」

 

「……ああ。おはよう、君だったんだな……ウルハ」

 

「……え、なんか微妙な反応されてる……?」

 

 無意識下に力の籠ってない声を発してしまい彼から心配気味に指摘を受ける。ここに居たのがノアじゃなかったからといって残念がってる訳ではない。決して。

 

「いや、……それよりも君がこの中を掃除していたんだな。道理で皆が集まって作業する割に小綺麗になっていると思ったよ」

 

「あ、うん……作業するにも綺麗な環境の方がやり易いだろうし、部屋を整えたりするのは得意だから。それに整理してると色んな発見もあるからね」

 

「発見というと……?」

 

「例えば部屋の変わった構造や誰かが使った跡のある道具、どうしてこんなものがあるのかって不思議な部分もあったり……でも一番はこういうのを見つける時かな」

 

 膨らんでいたポケットに右手を突っ込んだ彼はごそごそと中を探った後に中身を取り出す。指に摘んで見せつけてきたのは一枚の硬貨だった。

 

「ここの机と壁の間に挟まっていたんだ。ふふ、お金を拾う事が出来るなんて幸運だよ。基本的に牢屋敷には何も持って来れないはずだし、誰かが魔法で手に入れたんだろうね」

 

 コインを右手で弄び語るウルハは何時になく楽しげだ。彼は宝物の類が好きなのだろうか。私はにやりと口端を吊り上げて告げてみる。

 

「落とし物を自分の懐へ仕舞い込む事は感心しないな。正しくない」

 

「う、ぐっ。……それはそう……ですね。此処は交番もないし……もし届けるならゴクチョーとか? いやでも……」

 

「……冗談だ、そう気を落とさないでくれ。こんな状況なんだからウルハが見つけたものは君の自由に扱っていいだろう。余程大切なものや、誰かの所有物でもない限り責めたりなんてしない」

 

「そう言ってくれると安心するよ……。あ、もしかして二階堂さんもこういうのが欲しかったりするの? 似たような感じのものは幾つか手元にあるから良ければあげよっか……!」

 

「いらない。この場所で金銭に価値があるとは思えないからね」

 

「あ、そですか……」

 

 きっぱり断ればウルハはおずおずとコインをポケットへ仕舞い直す。それから軽く部屋の周囲や私の後方へ視線を投げかけた後に彼は改めて話を切り出してきた。

 

「……誰も居ない内に聞きたいんだけど、二階堂さんは…………えと。……あ、そう! 蓮見さんの劇、やっぱり手伝ったりはしないの?」

 

 相変わらず顔色までは見えないもののその声色には此方を心配するような気遣いが見え隠れしていた。本当は何か別の質問をしたがってたように見えたが私は敢えて気付かないふりをして問いかけに答える。

 

「ああ、あの時レイアにも言ったが今は君達と仲良くしたい気分じゃない。私も私で考えがあって行動しているから手を貸すつもりもないよ」

 

「……そう、だよね。ごめんしつこく聞いてしまって」

 

「気にしてないから大丈夫だ。私としてはウルハが参加しているのが意外だな、君はどちらかといえば一人で過ごしている方が好きな部類の人間だと思っていた」

 

「二階堂さんはよく人のことを見ているね。うん……積極的に人と関わるのは好みじゃなかったし、最初は参加しないつもりだったけど……城ケ崎さんと夏目さんに誘われて……」

 

「……ノアとアンアンが君を誘ったのか? 君達は仲が良いんだな」

 

「どうだろう……ね。正確には腕を買われたって感じかも。二人に牢屋敷にある素材で自作した小物を作ってみせたことがあってね、その時のことを蓮見さんの前で話したものだから……」

 

 

 

 

 ──それは素晴らしい才能だよウルハくん! 是非私達の劇を手伝ってほしい。背景や衣装の他に小道具等だって劇を構成する重要な要素だ、細部に拘れば拘るほど尚良い! 

 

 ──君が裁判の件、尾を引いてる事は分かっている。私もウルハくんへ厳しい言葉をぶつけたと自覚しているからね。ただ君とも一緒に仲良くしていきたいと思ってることも事実だ。

 

 ──結束を深めることができれば、私たちの間にある不安や隠し事が無くなる可能性は高くなっていく。私はそう信じてる。だからどうか、力を貸してくれないだろうか? 

 

 

 

 ウルハが語る場面が頭の中で容易に想像出来る。大方、目を付けたレイアの熱烈な誘いとノアやアンアンに誘われた手前断り辛くなってしまい、あれよあれよと流されて圧されるがまま承諾したといった感じだろう。

 

 傍目で見てれば心配になるし、私が頼む立場なら簡単に御せる押しに弱い少年。言葉を選ばないなら何かと都合の良い人物だ。

 

「……何か失礼なこと考えてない……?」

 

「こほん、……別になにも」

 

「それならいいけど……。まあそういうわけで今は劇に使う小道具の製作係をしてるんだ。牢屋敷にある材料で帽子だったり羽根だったり、剣を模したものなんかも作ってる途中でね。廃棄品が案外揃ってるから作りやすいし」

 

 そう言ってウルハは壁に立てかけられた小道具へ視線を向ける。私もそれを追って確認してみれば、森で拾ったであろう木の枝を骨組み代わりに薄い布を張った羽根であったり、廃材を組み立て歪ながら一種の形として成っている剣に似た代物であったりと思ったよりもクオリティの高いものが並んでいた。

 

「なるほど。意外と器用なんだな、君は」

 

「お眼鏡に叶ったなら嬉しいよ。その場にあるもので何かを作ったり、修理したりするのは小さな頃からしてるから得意な方なんだ。もし二階堂さんも必要なものがあれば言ってくれたら、可能な限り手伝うからね」

 

「……機会があったら頼むとするよ」

 

 そんな機会、もう訪れないかもしれないが。私は表面上は薄く笑みを作ってウルハへと返答する。彼と話していると何時の間にか時間も過ぎていたので、話に区切りがついた辺りで私は部屋から出ようとする。

 

「二階堂さん」

 

 廊下に片足を出したあたりで不意に声を掛けられる。ウルハはフードを目深に被り直し、言い辛くも言葉を振り絞る様にして口を開いた。

 

「…………二階堂さんは今、……正しい道を歩む為に……動いているんだよね」

 

「……。私は正しくないことをしているつもりは無い。何故そんなことを?」

 

「え、と。最近の二階堂さんが……何だか余裕があまり無いように見えて、っていうか。……気の所為だよねごめん、変なこと聞いて……気にしないで」

 

 まさか私が何か企んでいる事がバレたのではないかと焦りかけたが、現状は犯行に繋がる行動は何もしていない。冷静を取り繕い言葉を交わせばウルハは段々と発言に自信が無くなっていき、やがて自分から下がっていった。

 

 私は数瞬彼を見つめた後に今度こそ部屋を後にする。そんなにも私の態度に焦燥が垣間見えていただろうか。いや、私はそう簡単には内心を表に出さない。出さないように振舞っている。ウルハの単なる思い違いに過ぎない。

 

 万が一、勘繰られていたとしても実行日はすぐ翌日だ。止まる訳にはいかない。計画を建てた以上果たさなければいけない。

 

 それが正しいのだから。私は正しい道を歩めている、はずだ。……いや、私の歩んでいる道こそ正しいのだ。エマを殺すというこの道が。

 

 

 疑問を抱く必要は無く、躊躇をする理由もない。

 

 

 そう、自分に言い聞かせた。

 

 

 

 

 ██████████████████

 

 

 

 

 

 屋敷全体から漂う湿り気。窓を叩きつける激しい豪雨。室内にまで響き渡る雷の音。

 

 

 その日、その時間。牢屋敷がゲリラ豪雨に見舞われていたことに気がついたのは少し遅れてからだった。

 

 

 悲鳴を聞いて駆けつけた時には既に雨の勢いは収まっており、小雨が降りつける中庭で仰向けになっている少女がいた。

 

 

 沢渡ココ。瞳孔を大きく開き無造作に倒れている彼女の額からは赤い蝶の群れが待っており、頭を撃ち抜かれたのだろうと直感する。その傍らには拳銃を手にした桜羽エマ、それに激情に駆られた顔で迫る二階堂ヒロの姿があった。

 

 

 続々と集まってくる少女達は悲嘆を、驚愕を、絶望をその顔に浮かべる。自分は今どんな顔を浮かべていられてるだろうか。

 

 

「……また。……また、なんだ」

 

 

 目の前にある死体やその前で言い争う二人。一人の微かな呟きは誰の耳にも届くこと無く、小さな雨音にさえ掻き消された。

 





・ヒロちゃん
ウルハがよく分からない、なんだアイツ。
殺すと決意した日から実行日までどんな気持ちで過ごしてきたんでしょうね。取り敢えずエマを殺せるならいっか精神かも。
正しい道とはつまり自分の立つこの道なのだ。しかし、本当にそうでしょうか?

・アリサちゃん
ウルハが苦手。男なら堂々としやがれ、フードキャラも被ってんだ。
無事にナノカにリボンを返すことに成功。泥棒扱いされなかったことに驚き。
誤解が解けて良かった。これからナノカちゃんとも仲良くなっていってほしい。

・ナノカちゃん
ウルハが好きじゃない。唯一の男、怪しい、黒幕かと思ったけど黒幕は死んだでも警戒しなきゃ。
ヒロと少し会話をした後にアリサからリボンを返され無事に平和的解決を果たした。良かった。
これからアリサちゃんとより仲を深めてほしい。

・ハンナちゃん
ウルハに色んな意味で親近感を湧いてる。
不憫可愛い。ツッコミ役の素質を感じてるのかも。

・シェリーちゃん
ウルハは他の人と比べて雑に扱っても良い。
天才可愛い。ストッパーがいると勢いを付けても大丈夫。

・ウルハ
人一人まともに止められない軟弱者。許可なく乙女の身体に触れてましたね。死刑。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。