魔法少女ノ魔女裁ば……なんか一人多くない?   作:ゴクチョー社畜賞

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Q.主人公は長生きしそうですか?

A.明確にお答えは出来ませんが、いなくなっても困らない人を目指します。

ご覧頂いてる上、ご感想、評価等も誠にありがとうございます。励みになります。

裁判パートは誤った選択肢も醍醐味ですよね。ただ前回裁判も書いてて思ったのは、拙作には残念ながらその要素は殆ど無いかもしれません。期待してくださってた方は申し訳ないです。

それでも宜しければこのままお目通し下さると幸いです。


二回目の裁ば……なんか容疑者増えてない?

 沢渡ココが殺害された。【事前投票】によって選ばれたのはラウンジに集まって尚言い争いを続けていた私とエマだ。

 

 同票で疑われるのに納得いかなかったが看守により強制的に拘束され、二度目の懲罰房に入れられることとなった。今回は私一人でなくエマも一緒だが、尚更気分が悪い。

 

 彼女が犯人なのは明確だ。何故私が疑われなければならないのか。正しくない。間違っている。間違っている存在は彼女だ。エマが魔女に他ならない。私は正しい、正しいはずだ、正しい道を歩んでいるはずなのに。

 

 焦燥と怒りが思考を妨げる。私はそれを何とか押し込んでいく。この後の裁判を切り抜ける為にも今は少しでも情報を手に入れなければいけない。今すべきことを冷静に判断するんだ。

 

 懲罰房には今、私とエマを心配してるであろう憂いを帯びた顔をしているレイアと、フードを深く被りいつものごとく表情が上手く伺えないウルハの二人が様子を見に来ていた。

 

 ──つい先日、アトリエでウルハと会話した場面が頭に過ぎる。私は正しく動いているはずなのに、彼にもそう断言したのにウルハと顔を合わせるのが気まずく感じた。後ろめたいことなどあるはずもない。それでも声を掛けるのを躊躇した。

 

 

「レイア、少しいいかな」

 

 

 私は近くにいたレイアと会話を試みた。協力的な姿勢を見せてくれる彼女へ、エマには聞こえないように至近距離で頼み事をする。快く頷いたレイアは急ぎ足で懲罰房から出ていった。時間を考えればきっと間に合うはずだ。

 

 私とレイアが話している間、ウルハはエマと話をしていたようだ。レイアとの会話に集中して内容は詳しく聞き取れなかったが声量を落としていないあたり秘密裏に何かしている訳では無いらしい。

 

 

「ありがとう、ウルハくん」

 

「ううん。それじゃ……」

 

 

 話したい事は済んだのかウルハも踵を返して懲罰房の扉へ向かっていく。その際に一瞬だけ彼の蒼い瞳が私へ向けられた。私は反射的に目を逸らしてしまう。

 

 ウルハがどんな顔を浮かべてたか確認する間もなく、扉が閉まる音を最後に彼の姿は無くなっていた。

 

 ……何故、視線を外してしまったんだろうか。その理由は私にも分からない。

 

 

「……レイアちゃんと何を話してたの?」

 

 

 エマが慎重に声を掛けてくる。私は余分な思考を振り払い、彼女を睨みながら返答する。

 

 

「君に答える義理は無い。そういう君こそウルハと何を?」

 

「別に何も……ウルハくんはただ心配してくれただけで……」

 

 

 エマはそれきり目を伏せて口を閉ざした。こう言ってるものの彼女の言葉は信用出来ない。もしかすると私と同じようにウルハへ何か頼み事をしたのかもしれない。

 

 それからも少しでも私が心を許したと勘違いしているエマを拒絶して、それ以降はお互いに一切口を開かないまま懲罰房の中は居心地の悪い沈黙が続いた。

 

 破られたのはしばらくして、鐘の音と共に看守が部屋に入ってきた時だった。

 

 

 

 再び魔女裁判が始まる。だが今回は前回とは違い犯人は明確だ。

 

 

 

 これは彼女を、エマを断罪(処刑)する為の裁判だ。

 

 

 

 

 

 

 ██████████████████

 

 

 

 

 

 

 裁判場で議論が始まってからは概ね予想通り、容疑者である私とエマどちらが犯人かをお互いに主張する展開となった。

 

 沢渡ココの配信には殺害直前までシャワールームの壁が撮影されていた。よってその時刻にシャワールームに居た桜羽エマが怪しい。そう主張する私。

 

 そもそもその時間にシャワールームに呼び出したのは二階堂ヒロ。状況が整いすぎていて全ては罪を擦り付ける為に行った工作である。そう主張してくるエマ。

 

 私達の知らない証拠や現場状況を交えながら議論を続けていくも大きな方針は両者譲らなかった。

 

 

「──本当の殺害現場は焼却炉室。ココは地下室で撃たれたんだ。エマによってね」

 

「──でもそれなら、【ボク以外にもできる】ってことになるんじゃないかな」

 

「……なに?」

 

 

 それが歪み始めたのはココが焼却炉室で殺された事実が判明してからだった。シャワールームで殺されたので無いならば、そこに居たエマが確実に犯人だとは言えない。

 

 焼却炉室は誰でも出入りが可能。私でさえ容疑者として認められてしまう。もちろん、エマが殺した可能性も十分にある。

 

 それは同時に他の人物が手に掛けたという可能性も引き連れて。だがこの状況はエマを攻める絶好のタイミングだ、それを逃すのは……。

 

 

「……沢渡さんの死は」

 

 

 ぽつりと、裁判場に声が響いた。この裁判が始まってから一度も聞かなかった声色、その声の主はフードを手で抑えて顔を隠したまま言葉を続ける。

 

 

「彼女の死は、利用されるべきものじゃない。誰かを魔女に仕立てあげる装置にしないであげて……欲しい。()()()()()()()()()()()んじゃなくて、()()()()()()()()()()()のが、……魔女裁判だったはずだ」

 

 

 ウルハは陰のある蒼い瞳で裁判場を一瞥した。普段の彼からは想像がつかない感情を殺したかのような冷えきった声色は、ほんの一瞬この場を支配されたと錯覚してしまうほどに緊張感を走らせた。

 

 

「……ウルハの言う通りだ、皆のもの」

 

 

 その空気をいち早く打ち破ったのはアンアンだった。瞠目し心を十分に落ち着かせた彼女も珍しく、語気を強めて言葉を並べる。

 

 

「この牢屋敷の秩序を守るため……。議論を【続けよ】。【真犯人を見つけ出せ】」

 

「先入観や怨恨は人の目を曇らせてしまう。完全に晴らすことは難しくても……手探りででも少しずつ、正しい道を見つけてほしい」

 

 

 アンアンの言葉に続いてウルハも口を開く。アンアンの魔法、【洗脳】は相手をどれだけ納得させられるかによって効果を発揮する。

 

 私は彼女たちの発言を【間違ってない】と少なからず感じてしまった。頭に妙な力が作用するのを感じ、脳内にまで響く声につい額を抑えてしまう。

 

 精神干渉の魔法、味わったことは初めてだが中々に厄介だ。万が一アンアンが敵に回ろうものなら苦戦することこの上ないだろう。

 

 

「……ありがとう夏目さん。言いたかったこと、伝えてくれて」

 

『ウルハの為ではない。わがはいは秩序の為に行動したまでである』

 

「ちなみにわがはいとレイアはお互いのアリバイを立証できる。完全なる潔白な立場だ。つまりウルハも容疑者の一人となるが無論文句はないな?」

 

「えっっ。……や、やってないですっ。無罪です! 弁護士を呼んでください!」

 

「私の経験上、劇でそういう台詞を充てられた役者は決まって犯人だと決まってるんだけどね。まあウルハくんがそんなことをする人だとはあまり思わ……おも……」

 

「……蓮見さん? 何でそこで言い淀んで……?」

 

「さて、議論を続けようじゃないか!」

 

「蓮見さん??」

 

「お、おじさんで良ければ弁護するからね。元気だしてウルハくん」

 

 

 ……。一瞬場を掌握したはずのウルハの雰囲気はあっという間に何時も通りの……いや、普段よりも情けない面を見せる様子に様変わりしていた。

 

 他の皆も急な落差に困惑や落胆を隠せないでいる。あのエマでさえウルハに対して呆れた表情を浮かべていた。

 

 周囲の状況を改めて視野に入れられるくらいには冷静になれる時間を設けられたと考えよう。感謝は……うん、しなくてもいいだろう。

 

 

「……兎も角。我々の立場や各々の好悪など排除し、【殺人という罪を犯した人物を見つけよ】!」

 

 

 再び頭へ直接声が響き渡る。エマが容疑者の一人である事には変わりない、その上で犯行が可能な人物がいるのならその全員を疑って掛かる。

 

 それは当然のことで、その先はきっと正しい道に繋がっているはずだ。道を進んだ先でエマが犯人だと判ればそれに越したことはない。そうでなかったとしたなら……。

 

 

「──では改めて、もう一度状況を整理してみましょうか!」

 

 

 シェリーの言葉を合図に、私達は犯人特定の為に再び議論を交わす。

 

 

 

 

 

 

 ██████████████████

 

 

 

 

 

 

 話を整理する中で話題に上がったのは、地下の焼却炉室でココが殺されていた場合に何故一階中庭に彼女の死体があったのかという矛盾だ。

 

 地下から殺害したココを抱えて中庭へ運んだとしても、そんな人物誰も遭遇していなければ誰も見ていない。運搬など不可能だということだ……それが通常の方法なら。

 

 

「犯人はある場所から中庭に侵入したんだ。その場所は……それはもちろん、【空】だ」

 

 

 中庭は三方が壁に囲まれ出入口は正面の廊下からのみ、だが中庭は植物が茂る場所であり【日光】が必要となる……つまり、吹き抜けとなっている。

 

 屋根がなく空と繋がっているならばそこは密室的な空間とは言えない。第三者が介入した可能性は確かにある。

 

 

「……【空】? ……でもそれって……」

 

 

 ウルハが疑問を含んだ声で呟いていたが、俯き気味に思案してからは言葉が続くことはなく誰も気に掛けなかった。そのまま議論は進み一人の容疑者が新たに浮かび上がる。

 

 

「なるほど……! ココくんは空を飛んで中庭に……!」

 

「つまり犯人は空中を浮いてココさんの死体を運んだということですね! そんなことができたのは──空を飛ぶ魔法が使えるハンナさん! あなたが犯人だったんですねー!」

 

「なっ……!? なんですっての──!?」

 

 

【浮遊】の魔法を持つ遠野ハンナ、この手段で死体を中庭へ捨てられるのは彼女くらいだろう。ほとんどの少女達は疑いの目をハンナへ向けるが本人は慌てた様子で弁解していく。

 

 

「遠野さん、また疑われて可哀想……」

 

「またってなんですの! 同情するならウルハさんからも何とか言ってくださいましー!!」

 

「そう言われても……、あ! そうだ、遠野さんの【腕力】だと沢渡さんの身体を運ぶには無理があると思うよ! 体格差もあると思うし」

 

「うーん、殺害した犯人で【魔女】になってるならココさん一人を担ぐくらいは力に余裕はありそうですけどね。ほら、看守さんも【ものすごいパワー】でしたから。あのハンナさんでも流石にいけますよ!」

 

「あ、あんたら……わたくしのこと非力だと馬鹿にしてますの? ウルハさん、シェリーさん諸共あとで覚えてやがりなさいまし……」

 

「どうして……どうして……」

 

 

 ……ウルハが因縁をつけられてしまっている。だが確かに今のは彼が失礼だったから仕方がない。

 

 

 

 そうして議論を続けていけば、ハンナのアリバイからは犯行を行える時間が無いことや、当時ゲリラ豪雨に見舞われた屋敷の空で濡れた形跡や血痕がついていない等の状況から彼女は逆に犯人ではないと裏付ける形となった。

 

 議論は振り出しに戻り掛けていた。空からの侵入が不可能な以上、結局犯人は私かエマのどちらかしか有り得ない。ここまで探ってもここに戻ってくるのならやはり、エマが魔女なのか……。

 

 

 ……いや。なにか、()()──。

 

 

「──()()……他の可能性は残されていると思う。犯人がボクでも……ヒロちゃんでもない可能性が!」

 

 

 いつの間にか俯きかけていた頭が、聞き馴染みのある声にはっと持ち上がる。容疑者が固まりつつある議論の空気を割いて発言していたのはエマだった。

 

 彼女が語ったことは犯行が出来なかった論理を説明するものではない。【二階堂ヒロが誰かを殺すのだとすれば、それは桜羽エマ自身である】。だから私は犯人とは考えられない……等と、根拠も何も無い滅茶苦茶な主張だ。

 

 自分に【敵意】が向けられていると気付いていた癖に行儀よく約束を守ろうとするところも、そんな相手を庇おうとするところも、何もかも破綻している。感情論なんてこの場で最も力のない証言だろうに。

 

 

 

 ……そういう愚かなところが大嫌いだよ、エマ。

 

 ……本当に。

 

 

 

 

「ボクは、べつの犯人がいる可能性はあると思っているよ。だから──」

 

「──桜羽さん、ごめん。悪いけど口を挟ませて貰っていいかな」

 

 

 エマが話をし出そうとしたところで待ったを掛けたのはウルハだった。彼は軽く右手を挙げて黒の手袋を広げてみせる。

 

 ウルハが流れを遮ってまで発言するのは珍しい。今迄の議論でもウルハは誰かの意見に疑問を投げかけたり同意や反対を示すことはあっても、自分から意見を述べることはあまり無かった。あったとしても的外れなものばかりで謝罪と一緒に引っ込んだり証言台に隠れる姿を見る方が多い。

 

 

「ど、どうしたのウルハくん。ボクとヒロちゃん以外に犯人がいない、ってことならボクの話を……」

 

「ううん、むしろ桜羽さんの意見に賛成だよ。今までの話を聞いて自分の中で考えをまとめてたんだ。だから代わりに聞いていて欲しい。まず最初に……犯人は【中庭に足を踏み入れる必要は無かった】んじゃないかなと、思う」

 

 

 ウルハは自身の顎に手を添えて思考する仕草さえ見せているが、揺らぎのない声や言葉からは確信めいているものを感じた。エマもそれを感じ取ったのか胸元を手で抑えながらも彼の主張に耳を傾けている。

 

 

「じゃあどーやって沢渡の死体を運んだんだよ。中庭に入らずに【死体を置く】なんて出来ねぇだろ」

 

「置くことは出来なくても、さっき話していた【死体を落とす】事なら出来たはず。空……正確には上階からかな? 地下の焼却炉から1階からだと中庭へ繋がる道は正面口の1つだけ……でも2階には窓やベランダがあるよね。そこからなら短い一瞬のタイミングで死体を中庭へ放り投げることは可能だよ」

 

「確かにそうだとすれば【時間的な問題】は解決しますが……でもウルハさん。ココさんは地下の焼却炉室で殺されたんですよね? だとすると、犯人は地下から2階まで運んだことになりますよ?」

 

「【誰にも見つからず】に階段で運ぶのは流石に無理なんじゃないかな? それともウルハくんはそんな方法に心当たりがあるのかい?」

 

「検討はついてるんだ。二階から焼却炉へ繋がる道……【隠し通路】って言っても過言ではないかも、そこを経由すれば人目にはつかない」

 

「そんな場所本当にあんのかよ……なんか【証拠】でもあんのか?」

 

 

 彼の言う隠し通路。確証は無いが焼却炉で見つかった【証拠品】と照らし合わせれば、言いたい場所は恐らくあの場所だ。

 

 

「レイアが見つけた焼却炉の中にあった【証拠品】の中には、【縛られた紙束】があった。何枚かの紙には絵が描かれていて、この類のものを纏めていた人物を私は知っている。……ウルハ、これを君はどこから捨てたんだ?」

 

「2階のアトリエだよ。あそこにはゴミを捨てる穴がある。焼却炉からシャワールーム、そして城ケ崎さんのアトリエはダストシュートを通じて繋がってるからね」

 

「……ぷくぅ〜」

 

 

 彼が証言して確実性を得られたところでノアがやや不満げに頬を膨らませた。何事かと思うとウルハはフードを抑えながら小さく頭を下げる。

 

 

「ご、ごめんね……城ケ崎さん。秘密だったんだけどそうも言ってられなくなってしまったから」

 

「いいもん。別にのあ怒ってないもん。のあがいらない紙、こっそり捨てれるって教えてくれた秘密の場所だったけど。みんな知らないと困るんだもんね。……ふんっ」

 

「ひん……。……ま、まあ……そういうことなんだ」

 

 

 ……理由は定かでは無いがアトリエにダストシュートがあることはノアとしてはあまり公表したく無かったようだ。そっぽを向くノアに涙目になっていたウルハは気を取り直してフードに手を掛けたまま話を続ける。

 

 

「城ケ崎さんのスタジオには中庭を見渡せるベランダがある。焼却炉からダストシュートを通じてアトリエに沢渡さんの死体を運んで、ベランダから放り投げてしまえば……」

 

「それなら配信のアーカイブの情報とも、ボクとヒロちゃんが見た光景とも話は合致するよ!」

 

「しかし……その推理には一つ穴があるかもしれないね、ウルハくん。なにせ私はシャワールームと焼却炉のダストシュートについて調べているのだからね。【通常の方法で地下から上の階に向かうのは不可能】……そう断言させてもらうよ!」

 

「……確かに通常の方法なら難しいね。でも、あそこには移動するのに【丁度良いもの】がある。行き来することも死体を運ぶのにも利用できるものが」

 

「なん、だって……!? そんなものがあるのかい!?」

 

 

 レイアは意気揚々と意見を述べようとしていたが、あっさりとウルハが反論する。出鼻をくじかれた彼女は演劇じみた動作で額を抑えてふらついていた。

 

 

「ダストシュートには元々【ロープ】が繋がれているんだ、焼却炉からアトリエまで伸びるものが。実際に利用したこともあるから間違いないよ」

 

『そんなものがあったのか。わがはいは知らなかったぞ』

 

「おじさんもだよ。というかたぶん、ウルハくん以外知らなかったんじゃないかな……?」

 

「……普通、誰もダストシュートの中に自分から入って中を調べようとは思わない。それだけ奥の方にあるのだから、大上ウルハのように知っている方が珍しいでしょうね」

 

 

 彼は先日言っていた、『部屋を整理してると色んな発見もある』と。ノアのスタジオをこまめに掃除していたからこそ、あの部屋にあったダストシュートにもそのロープの存在にも気がついたのかもしれない。

 

 ウルハのおかげで重要な情報は出揃った。

 

 

「突発的に仕掛けられたものではなく……あらかじめ2階と地下を繋ぐロープは存在していた、ということで間違いないな」

 

「うん、間違いないよ二階堂さん。少なくともここ数日外れてたりはしてなかった」

 

「それなら……この事件の前提は大きく覆るよ」

 

 

 当初では状況的に私とエマのどちらかしか犯人足り得なかったが、地下から2階へ繋がる道が出来ていた以上は【魔法】に関わらず誰にでもココの殺害から運搬まで可能だったことになる。

 

【手段】は分かった。それなら次は……。

 

 

 ……それを成しうる【犯人】の特定だ。

 

 

「では重要なのは誰ができたのか──。つまり、アリバイの確認が必要ですね! みなさんのアリバイ、改めて聞かせてもらいます!」

 

 

 

 

 ██████████████████

 

 

 

 

「中庭に集まる直前、わがはいとレイアはラウンジにいた」

 

「……蓮見レイアと夏目アンアンは確実に2人でラウンジにいた。それは私も見ているから証言出来る」

 

「私はアリサさんと一緒にいましたね!」

 

「ウチは横になってたが……まあ、こいつは部屋にいた。無理だろうな」

 

「お、おじさんはノアちゃんと娯楽室にいたよ!」

 

「よくわかんない映画みてた〜」

 

「わ、(わたくし)は1階のホールでヒロさんとすれ違っていますわ! 私がそこにいたのはヒロさんが証明してくれますわ〜!」

 

 

 皆が次々と自身のアリバイを証明する為に証言をしていく。他者から目撃されている証言も含めてほとんどの少女には明確なアリバイがある。

 

 

 

 だが一人だけ、……たった一人だけ。明確にアリバイのない人物がいた。

 

 

 

「……ウルハ、もう一度君のアリバイを言ってくれないか」

 

「……、……一階の物置にいたよ。小道具を作る為の道具を探してたり整理していたんだ」

 

「……当時物置に居た。それを証明できる人物は?」

 

「……いない、ね」

 

 

 そもそもの話、ノアのアトリエと焼却炉を繋ぐロープがあった事を事前に知らなければ犯人は約5分間という限られた時間で迅速に行動することなど出来なかっただろう。

 

 それならば犯人は【ロープの存在を元から知っていた人物】の可能性が高い。現状それに該当するのは一人だけだ。

 

 

 

「アリバイが無く事前知識の点からも犯行が可能な人物……それはウルハ、君しかいない。君が……犯人なのか?」

 

 

 

 裁判途中、彼は容疑者として疑われ見るからに焦燥していた。だが今はフードを目深に被ったまま平静を保って佇んでいる。

 

 もしウルハが犯人だとすれば納得出来る点は多い。それは皆も同じのようだった。

 

 

「ウルハさんは【男性で力もありますし】ココさんの死体を運んだり落としたりするのもスムーズにいきそうですよね」

 

「【ダストシュートにあったロープ】の存在もウルハくんの口からしか聞いていない。彼を除いて誰も気付いていなかったなら、使える人物も限られる」

 

『ノアのスタジオは主にウルハが部屋の整理をしている。頻繁に出入りしている上、構造を十分理解していたなら【前もって計画を立てられた】可能性もある』

 

「ま、待ってよ皆。もっと確り話し合った方が良いんじゃないかな……! ウルハくんばかり、そんな……自分から不利になる情報を言ってるのは不自然だよ!」

 

 

 ミリアの擁護は焼け石に水で殆どの少女達から疑惑の目がウルハへ殺到する。彼は顔を上げて何か言いかけたが、思い悩んだ素振りを見せてから小さく項垂れた。

 

 

「……違う。って言っても、この状況じゃ信じて貰えないよね。……議論の末にこうなるのなら、そう……か」

 

 

 認めてはいないようだがウルハが反論する雰囲気は見られない。どこか諦めている風にも見て取れた。ここまでの議論で導き出された答えはウルハが犯人だと物語っている、否定材料も無い限り何を言っても無駄だと悟ったのだろう。

 

 

「本当に……ウルハくんがココちゃんを殺したの? ボクには、とても……」

 

 

 私はエマと同じ疑問を抱いていた。ウルハがココを殺害したにしては【違和感】がある。だが大きな抵抗を見せないのも事実だ。

 

 

 このまま投票に移れば彼は【魔女】として処刑される、それさえ受け入れているかのようにも見える。これで本当に良いのか……? 

 

 

 ……私達が見つけた【正しい道】は、本当にこれで合っているのか? 

 

 

 

 

 私は──。

 

 

 

 

 

【議論を終了し投票に移る】

【違和感を追及し裁判を続ける】

 

 

 

 

 

 

「皆、今回の事件はウルハが犯人だ──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──そう結論づけるには、まだ早いんじゃないかな」

 

 

 

 

 

 

 ▶ 【違和感を追及し裁判を続ける】

 

 

 

「ヒロちゃん……!」

 

「…………、二階堂さん……」

 

 

 まだだ。まだこの裁判を終わらせてはいけない。少なくとも私はそう感じた。ウルハが事件の犯人だったとしても私が抱いた【違和感】と【疑念】は払拭すべきだ。

 

 それを残したまま裁判を終わらせるのは、()()()()()

 

 

「まだ早いって……もう決まったようなもんじゃねえか。【アリバイ】もねぇ、【ロープの存在】も知ってた、軽々人を運べる【力もあるらしい】……そんな大上が犯人だろ。これ以上何を話すってんだよ」

 

「そう、【()()()()】だよ。先程各々のアリバイを証言してもらった中で、ウルハを除いてもう一人違和感のある人物がいるんだ。それは他者からの目撃証言がない人物……一方的な証言のみで存在を確実に確認出来ていない、容疑者がね」

 

 

 私は彼女を真っ直ぐに見つめる。一瞬視線が目合い、彼女はまるで受け入れるかのように両腕を組み瞠目した。

 

 

「……ナノカ。君のことだ。レイアとアンアンがラウンジに居たのを見たという君の証言は、君のアリバイを保証するものではない」

 

 

 ナノカはゆっくり瞼を持ち上げる。私と目を合わせたかと思えば、一瞬だけ視線が別の場所へ揺れる。彼女が見たのはウルハだった。何を思ったかは分からないが、すぐにナノカは私へと向き直ると堂々とした態度で口を開いた。

 

 

「……そう。それがあなたの意見なのね。なら、あらためて証言するわ」

 

 

 

 

 

 ██████████████████

 

 

 

 

 

 ナノカの証言ではラウンジを通った後に医務室へと向かっていたらしい。ラウンジでレイアとアンアンが会話した内容を見事に当てており、二人もナノカの意見に納得していた。

 

 ココの死体が発見された後騒ぎになったことに気がつき、医務室の中にいたナノカは有事の時に必要になる医療品を確認していて少し遅れて中庭へと合流したらしい。屋敷の地図上、医務室と物置はすぐ隣に位置しているが……。

 

 

「医務室に向かったのなら、【隣の物置にいた】らしいウルハの姿は見掛けなかったのかな?」

 

「……見ていないわ、見逃したのかもしれない。でもそれはほぼ同時刻にシャワールームにいた二階堂ヒロ、桜羽エマ……あなた達も同じはずよ。彼の姿を一度でも見たのかしら?」

 

「……ううん。あそこは大きなものもいっぱいでその陰に隠れちゃってたら見逃してしまってもおかしくないと思う」

 

「それなら、ウルハは医務室へ向かったナノカを見ていなかったのか? すぐ隣なら【物音や気配がした】なら気づいてもおかしくないが」

 

「そんな類のものは感じなかったよ。雨や雷の音にも気づくのが遅れてしまうくらい【これといった音や声は聞こえなかった】と思う」

 

 

 互いにその場に居たことを確定させられる証言には繋がらなかった。何とも間の悪い。これ以上は証拠が見つかる可能性が低いだろう。

 

 ナノカとウルハ……どちらが犯人で嘘の証言をしているのか。それを判断する為にはその場に居た人物にしか分からない情報を餌に、【失言を引き出す】……これしかない。

 

 

「ナノカ、君は医務室にいた間は静かなものだったと証言していた。ウルハ、同時刻君も物置にいて何も聞こえなかったと言ったね。それなら君たちは……あの声を聞いていなかったのか?」

 

「あの声……?」

 

「……なんのことかしら」

 

「私とエマの口論のことさ」

 

 

 私の発言にエマが、ナノカが、ウルハが各々反応を示す。どういう意味を持つのか理解したのだろう。この証言で、犯人を吊るしあげてみせる……! 

 

 

「医務室も物置もシャワールームの向かい、すぐ近くだ。だから聞いたんだよ。【そんな位置にいたのに、私とエマの口論を聞いていないのか?】と」

 

「……そ、れは……」

 

「……そういえば、聞いたわ。──【二人が口論をしていない】という静寂をね」

 

 

 ウルハが言い淀み困惑する一方で、ナノカが間を置いた後に発言する。

 

 

「あなたたちはあの時ほとんど何も話していなかった。せいぜい沢渡ココの行方を聞いたぐらいかしら」

 

「……ナノカ、君は私がエマに掛けた声を聞いていたというのか?」

 

「ええ、【ココはどこだ】……だったかしら。それに桜羽エマは【何の話?】と聞き返していたわね」

 

「……ウルハ。君はどうなんだ? 答えてくれ」

 

「…………。【何も、聞いていないよ】。シャワールームから声は聞こえなかった……二人が話してたことも後から、知って……」

 

 

 正確な会話内容を淡々と話すナノカ。何も分からないことが意味するのを察し苦々しい声を漏らすウルハ。二人の様子は対照的で、完全に真反対の意見を述べていた。それは……

 

 

 ……一体どちらが嘘をついていたのか、はっきりとしたことを意味していた。

 

 

「……皆も聞いての通り今の証言には問題がある」

 

 

 二人は断言していた、もう決して言い逃れは出来ない。私は偽りの証言をした彼女に向けて指を付けつけた。

 

 

「問題があるのは──【ナノカの証言】だ。すまないナノカ。二人のいる場所からはシャワールームの音が聞こえることは無いんだ」

 

「…………っ!」

 

「えっ、二階堂さん……どういう……」

 

「私は事前に調べてシャワールームの壁が高い防音性を持っていると確認していた。だから二人に聞いたんだ、【私たちの声を聞いていないのか】、と」

 

 

 そこで二人もはっと気がついたのだろう。ウルハは俯いた頭を持ち上げ、冷静を取り繕っていたナノカの頬には冷や汗が滲み出ていた。

 

 

「……そっか。逆、なんだ。聞こえてないのが駄目なんじゃない。聞こえていたとしたら、それがおかしい……!」

 

「ウルハのいう通りだ。ナノカ、君は彼と違って……聞こえるはずのない声を聞いていたみたいだ。何故ナノカは居場所の虚偽報告をしたのか。それは……君がココを殺した犯人だからじゃないのか」

 

「……そんな、ことは……」

 

「まっ……待ってよヒロちゃん! そんなのちょっとおかしいって! 飛躍してるし……辻褄が合わないよ!」

 

 

 追及しようとした矢先、そこに待ったを掛けたのはミリアだった。彼女は声を張り上げて異議を唱える。信じられないといった顔を隠すこともなく、ナノカのことを弁護しようとしていた。

 

 

「ナノカちゃんがそんなことするなんて、信じられないよ……。だからもう一度よく話し合って……」

 

 

 

「──待って。佐伯ミリア」

 

 

 

 

 そうしてミリアが話し出そうとすれば、再び静止の声が上がる。それは他ならない……ナノカ本人からだった。

 

 

「いいわ。……もう……いいの。……いいのよ」

 

「……ナノカちゃん……」

 

 

 彼女の声はいつもよりも控えめで、声色からも疲弊しているのはよく分かり、

 

 

「沢渡ココを殺したのは、私。人を殺すなんて……やっぱり私には向いてなかったみたいね」

 

 

 静かな口調で紡がれる罪の自白は、静寂に包まれつつある裁判所に確かに響き、

 

 

「みんな……迷惑をかけて、……ごめんなさい……」

 

 

 力なく頭を下げる彼女の姿は、私達の誰よりも小さく見えた。





・ヒロちゃん
エマへの感情が原作よりもほんの僅かに早く変わりつつある。誰のせいだろう。
本来のヒロなら選択肢なんて必要なく疑わしきは罰する、悪即斬していたかも。どうだろう。
誰の何が影響を及ぼしてるのか、本人は未だ知る由もない。

・エマちゃん
自分の意見を発言しようとしたらその機会を取られてしまった。
でも殆どが自分の考えと一緒で、かつ有用な情報を持っていたのでウルハへの信頼度が上がった。
マイナスからゼロに近いマイナスくらい。

・アンアンちゃん
誰かのせいで冷えた空気を切り裂いた英雄。
君はヒーローになれる。そんなものよりも文豪になりたい?そっか……。

・レイアちゃん
あいつレイアちゃんより目立ってない?
どうするレイアちゃん、処す?処す?

・ノアちゃん
指切りげんまん嘘ついたら針千本の〜ます。
特に深い理由はないです。ね?

・ウルハ
処刑まであと一歩だった運だけの人。ヒロとエマに任せず余計な口を挟むからですよ。死刑。
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