魔法少女ノ魔女裁ば……なんか一人多くない? 作:ゴクチョー社畜賞
Q.ちゃんとみんな仲良くなるんですよね。
A.ありがとうございます。みんな仲良くいなくなります。
基本的に色々原作準拠なんですが、誰かが些細な事に介入すると何かが変わってしまうんですよね。いわゆるバタフライエフェクトですね。そしてまのさばでバタフライといえば、もちろんノアちゃんの魔法の赤い蝶です。
流れ等がお気に召さない場合は好きなだけそこの大上ウルハから赤い蝶を生み出してください。よろしくお願いします。
沢渡ココの額を撃ち抜き殺害した人物は黒部ナノカだった。様々な人物を巡る議論の末、最終的に彼女は諦観した顔つきで自ら罪を認めた。
静寂に包まれたのはほんの僅かだ。皆がナノカにどんな声をかければ良いのか分からない空気が漂っていた中、ウルハは憂いげな声でナノカへ話し掛ける。
「……黒部さん。あなたには弁解の余地はまだあったはずだよ。蓮見さんと夏目さんの会話を聞いていた事実、それにあのロープだって知らなかったと言い張れば良かった。そうすれば……まだ……」
「あのまま議論を続けてもあなた達ならその矛盾を解き明かしていたでしょう。ラウンジでの会話は私の魔法、【幻視】でその時の情景を読み取ったこと。ダストシュートのロープもゴクチョーから逃げ隠れする為に【私が準備していた】ものだったことも。きっと……」
ナノカの口から語られたのは魔法を利用しアリバイを偽証しようとしたこと、そして地下の焼却炉から2階のアトリエまでのロープを仕掛けていた張本人ということだった。
前者はまだしも後者に関しては言い様はまだあっただろう。ウルハという犯人以外が持たないはずの情報を得た都合のいい人物が現れたのだから、利用することは幾らでも出来たはず。
だが、ナノカならそんな卑劣な真似はせず……話題に上がればロープの存在も自身が仕掛けたことも隠すことなく主張していただろうと……不思議とそんな想像ができた。
「それに……もう、嫌になった……嫌、だったのよ。最後まで醜く足掻いた私が言うのはおかしな話かもしれない。でもあのままいけば私は……普通じゃいられなくなる気がした。私の代わりに誰かが、……そんなの二度と考えたくない。でも、もし……万が一にでも裁判を乗り越えられたとしたら……まだ……。…………そんな、我ながら反吐の出る葛藤に苛まれた自分が惨めに思う」
片手で覆った顔は忌々しげに歪んでいた。その矛先はナノカ自身であり、胸の内で渦巻いていた感情を憎んでいるのだろう。魔女因子による殺意の増長、まるで仕組まれていたかのように落ちていた凶器と都合の良い現場が合わさった瞬間。
すべてが自分にとって、相手を殺す環境において最適だと一瞬でも確信してしまえば……自分じゃない自分に呑まれてしまう。
きっと、私も。ナノカが今回の事件を起こしていなければ、抑えきれない殺意に呑まれ【魔女】として立っていたのが自分だったかもしれない。あったかもしれない未来に嫌に現実味がして寒気がした。
「大上ウルハ、あなたには特に申し訳ないと思っている。アリバイを話した時に裁判が終わっていれば投票されていたのはきっと……」
「……ううん黒部さんは悪くない。むしろ謝るべきは……」
「止めて。……あなたがそう言ってくれるなら、私もあなたからその言葉を受け取るべきじゃない。……時を巻き戻す術も無いのだから」
二人の間でしか伝わらないようなどこか含みのある会話をした後、ナノカは再び俯いてウルハは目元が隠れるほど深くフードを被り直し顔を背ける。これ以上交わす会話は無いという合図なのだろうか。
「……黒部」
そのタイミングを見計らってか、アリサが声を掛ける。ナノカを見る目もその声もやるせない雰囲気を醸していた。
「ウチはここ数日、たまたま関わってきたから……少しだけ分かることがある。おめえは人と接するのは得意じゃねえ上に、何かあっても自分だけで判断して他人と共有する必要もないって勝手に決めつけやがる」
「……そうね、否定はしない」
「だから話せよ。何が黒部を衝き動かしたんだよ、なんで沢渡だったんだよ。おめえにとって大事なリボン返したあの時みたいに、ちゃんと理由を説明しろよ……! 分かんねぇまま……終わらせんなよ……」
声を振り絞り訴えかける彼女の身体は震えていた。滅多に見ることの無い様子に多くの少女はつい驚いた顔を浮かべる、それは目の前で話すナノカも同様だ。
アリサとナノカは誤解が解けて以降、度々二人で湖の近くで会話するところを見ていた人物は多い。牢屋敷でも一人で居ることが多く、リボン騒動の件もあって相容れないだろうと思っていた両者は、存外に相性は悪くなかったのかもしれない。
俯いて拳を震わせるアリサ、寂しげに目を伏せ自身の腕を庇うナノカ。そんな二人の様子を見ていれば尚更、そう感じてしまった。
犯行に至った一因は想像がついている。けれどもう、私が口出しすることではない。その必要もないだろうから。
「紫藤アリサ……、……分かった。私が考えられる限り……詳しく話す。それがせめてもの……沢渡ココやあなたたちへの、贖罪になるのなら」
ナノカは自ら進んで語り出す。当時起こった出来事を。
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「だ、か、らぁ〜……あてぃしは今は持ってないって言ってんじゃん。ほんっとしつこいなぁ〜……」
黒部ナノカはシャワールームで沢渡ココを問い詰めていた。魔女を殺す薬【トレデキム】……黒幕であり魔女だったメルルを、【治療】の魔法すら無効にして死に至らせた其れを回収する為に。
そんな危険物を持ち歩いているのは魔女に利用する以外に考えられない。魔女とは牢屋敷に集められた少女達の末路。いずれ殺人を起こすかもしれないとココが判断してしまえば誰でも魔女足り得てしまい、彼女の裁量で人が死ぬ。
そんなこと簡単に見過ごす訳にはいかない。見過ごしてはいけない。そして何よりもナノカがこの牢屋敷へやってきた【目的】を考えても今の状況はとても不都合だった。
会話をする中ではココに魔女に薬を使用する事に躊躇いは無かった。自分自身がこの牢屋敷から生きて脱出する為に、自身の【推し】に会う為に。手段を選ばず周囲を省みない雰囲気を隠そうともしていなかった。少なくともナノカはそう感じてしまった。
「……あ! そっか! 誰が見ても分かりやすい【魔女】、もういるじゃん!」
そうして、気づいてほしく無かった手段が顔に浮かぶココへとナノカは焦りを隠せなくなる。この牢屋敷における【魔女】、正確にはその【なれはて】。それが意味することを察したナノカは去ろうとしている彼女から詳しい話を聞く前に行動をしかけてしまった。
「そうと決まれば早速、
「待って……!」
「っ、しっつこいんだよ!!」
──そうして。ココに突き飛ばされたナノカは不幸にも壊れかけていた蓋諸共ダストシュートへと身を投げ出してしまう。辿り着いた先は地下の焼却炉。
奇跡的に助かったナノカは正常な判断が出来なくなっており、
偶然にも焼却炉の中に落ちていた拳銃を見つけてしまい、
焼却炉まで自身の様子を見に来ていたココの額を────撃ち抜いた。寸分の狂いもなく、撃ち抜けてしまったのだ。
ココは本気で【なれはて】に薬を利用するかどうか、そもそも本当に薬を持っていたのか。そんなことを思い返せるほどの冷静さが彼女に戻ってきたのは、雨の降る中庭へと二階のアトリエからココの死体を放り投げた時。何もかもが手遅れで後戻りが出来ないと悟った瞬間だった。
ナノカの持つ魔法、【幻視】はココの殺害による魔女化で皮肉にも進化を遂げていた。ほぼ自分の意志で発動できるようになった魔法で調べた結果、少なくともシャワールームで話していたあの瞬間はココが本当に【トレデキムを所持していない】ことが分かってしまった。彼女は、【ある人物】に薬を預けていたのだ。
【幻視】はあくまでその際の光景しか視ることは出来ず、映る人物たちがどのような思惑と感情で動いているかまでは正確には分からない。
薬を所持し続けていれば自身が危険に晒されると考えたのだろうか、それとも他の理由があるのだろうか。その答えを得られる機会はもう永遠に訪れることはない。
代わりにナノカが得たもの。それは取り返しのつかないことをした後悔の念だけだ。
──沢渡ココは何よりも【家族】に会いたかった。
その気持ちは誰よりも理解出来た。【家族】の為なら何だってする、その想いを踏み躙った自身は断罪されるべきだ。
そんな気持ちを抱いたままナノカは……自らを罰してくれる
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黒部ナノカの処刑が始まる。
自身の行いを告白した後、私たちの処刑ボタンによる執行で彼女は処刑台へと送られた。用意されていた処刑はガトリング砲による銃殺。銃身の前へ大人しく座った彼女は差し迫る自分の死にも落ち着いているように見えた。
「おねえ、ちゃん……?」
これから行われる残虐な刑に身構えた時、誰もが予想だにしない出来事が起こる。狙いを定めるガトリング砲と椅子に拘束されたナノカの間に、【看守】が割って入ったのだ。看守は洗脳を受けていてまともな思考が出来ないはず、そうであったとしても囚人の処刑に割り込むなど普通はありえない。
「なんで私にだけ、こんな時だけ、そんな反応するの!? お姉ちゃんのバカ!!」
そう、普通なら。看守の背中を絶望した顔で見つめ、ナノカは悲痛な叫びをあげる。聞いた事のない張り詰めた声から告げられた事実は誰もが息を呑み、その背景を察してしまった。
【なれはて】である看守は【魔女】だ。【魔女】とはこの牢屋敷に連れてこられた人物の末路、かつては私たちと同じ人間だった。誰かの家族や親しい友人が同じ目に遭っているかもしれない、少し考えてみれば十分起こりうる出来事だ。
【看守は黒部ナノカの姉だった】。ナノカもまた、自分の【家族】の為に……一線を超えてしまったのだ。それが彼女が引き金を引いた最後のひと押しだった。
「今度は私が守りたかったのに! お姉ちゃんをこんな目に遭わせた悪者を、全部全部私がやっつけてやりたかったのに! そう決めてここに来たのに! どうしてまた犠牲になるの──!!」
──ナノカが隠していた【禁忌】が明らかになり、ナノカを優しく包み庇い続ける看守諸共、銃弾の雨が降り注ぐ。おおよそ一人の肉体で庇い切れるものではないそれは放たれた傍から真っ赤な飛沫からなる赤い蝶を生み出していく。
彼女の悲痛な叫びはやがて凶暴なおどろおどろしい声へと変わっていた。穴だらけの姉に抱かれたまま、その身体を貫く銃弾を絶え間なく浴びせられ続け異形の身体へと変貌する。
魔女のなれはてとなったナノカを確認したゴクチョーの一言でようやく銃撃が止んだ。焦げ臭い硝煙の匂い。真っ白だった処刑台を埋め尽くす赤い蝶の群れ。抱き合うようにその場で崩れている2人のなれはて。
仕掛けが作動する音が響くとそれらはゆっくり下降していき……まるで凄惨な出来事は何も無かったかのように裁判場は元通りとなって呆然とする私たちを取り残しゴクチョーは飛び去っていった。
一言も誰も喋らない静まった空間。それでも次第に一人、また一人と裁判場を後にしていく。私も続いて出ていこうとした時、2人の人物が裁判場の中央までゆっくり歩いているのが見えてつい足を止める。残っていたのはアリサとウルハだった。
「……なあ、大上。おめえあん時に言ったよな。拾ったリボン返さねえと、ウチが後悔するって」
「……うん。……こんな事になるなんて、思いもしなかった……けど」
「誰も予想出来ねえよこんなの。……ただおめえの言う通り、ムカついたまま意地張って黒部に返せなかったら……確かに後悔してたと思う。そこは、礼を言う。けど……」
アリサはその場にしゃがみ込むと何かを拾い上げた。赤黒く染まりぼろぼろになったそれはナノカが結んでいた黒の髪リボンだった。処刑の最中に衝撃で解けたのだろう。
彼女は衣服が汚れるのも構わず自分の胸へそっと押し付ける。強く握り、腕を震わせ。人前でも構わず必死に涙を堪える声で。
「……胸が苦しくなるのは、変わんねぇんだよ……。黒部を、アイツの思いを少しでも知っちまったから。…………家族がくれた大事なもんなんだろ、ちゃんと最期まで、……くそっ……」
普段は他者との関わりを避けているアリサは、私が想像していた以上にナノカと関わっていたのだろう。床に落ちる水滴が垣間見えて私にこれ以上彼女を見る資格は無いと、歯噛みしながら踵を返し今度こそ裁判場を後にした。
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「……ごめんなさい紫藤アリサ。貴方のことを誤解していた上に泥棒呼ばわりして。本当は優しいのね」
「おめえは一言余計だ。用は済んだから帰る。その……家族から貰った大切なリボン、今度は無くしたりすんなよ」
「分かってるわ。……っ、……紫藤アリサ。重ねて悪いのだけれど、頼み事があるの」
「あぁ? んだよ急に。……話くらいなら聞いてやるけど」
「ありがとう。今リボンから【幻視】で過去を読み取ったの……これを拾った時の光景ね。あなたを不快にさせたことを改めて謝罪する。それとは別に……大上ウルハへの伝言を頼まれてくれないかしら」
「……ウチは大上とあんま関わりたくねーんだけど……一応、どんなことをだ?」
「『ごめんなさいと、ありがとう』」
「……あのな、それは黒部が直接アイツに言うべきだろ。あと言葉も足りねぇ。おめえはちゃんと説明するって事がどれだけ大事か今回の件で分かったんじゃねえのか」
「……そうね。それじゃあ、ちゃんと言葉を考えてから……あなたに伝言を頼むことにする。私が行ってもきっと彼を
「ウチはまだ引き受けるとも何とも言ってねえぞ! ……はぁ……黒部と大上の間に何があったかは興味ねえけど、その時になったら仲介くらいならしてやる。ちょっと脅せば縮こまって来るだろアイツなら。だから自分の口で言え。……ウチも似たことを大上に言われて、自分で来たんだからな」
「そう言われてしまえば……反論出来ないわね。分かった。あまり時間はかけないつもりだから……機会が出来たらよろしく頼むわ、紫藤アリサ。やっぱり優しい性格なのね」
「だから一言余計だって言ってるだろ! ウチの気が変わらない内にさっさと終わらせろよ!」
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「……大上。こいつは、お前に預ける」
「え、でも……紫藤さん……」
「いいから。放っておけなくて拾ったけど……持ってると、気が滅入ってくるんだよ」
アリサはウルハへとぼろぼろのリボンを渡す。ウルハは戸惑いながらもそれを両手で丁寧に受け取った。俯いていた顔を上げ赤く目を晴らしたアリサは、そのまま顔を見つめて口を開いた。
「黒部から伝言があったんだ。『ごめんなさいと、ありがとう』……だってよ。……最後まで考える途中で居なくなりやがって……結局、これだ」
「…………うん。確かに受け取った。伝えてくれてありがとう、紫藤さん」
「……。大上、お前も…………いや。なんでもない。ウチも、もう出てく」
何かを言いかけたアリサにウルハは小首を傾げるが、口を閉ざしてしまった彼女に掛けられる言葉は無く、裁判場を出ていく寂しさが残る背中を見送った。
自室まで戻る道中、アリサは口に出しかけた言葉を脳内に浮かべる。
────お前も、こんな後悔を抱えてきたことがあるのか?
リボンを返しに行くことを提案した時のウルハは、表情は見えずとも訴えかける声や瞳は静かながら真剣味があった。あたかも自分が体験してきたかのような実感が籠っていた。
だから深く追及しようとして、止めた。彼とはそんな間柄でもない。第一それを聞いたところで傷の舐め合いくらいにしかならないだろうから。アリサは自分の胸を時折苦しそうに抑えながら地下の監房へと戻っていった。
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裁判が終わり私がやってきたのはナノカとマーゴの監房だった。此処にやって来るのは二度目だ。だが前回と違い、この部屋はもう誰にも使われることのないのだろうという虚無感を感じた。
私はそこで自身のスマホを開く。処刑実行直前、ナノカの端末から私宛にメッセージが送られてきていたのだ。このファイルを送られたのは私だけ、つまり秘匿性のあるもの。誰の気配も感じないことを確認した上でスマホを操作してそれを開く。
ナノカから送信されていたメッセージ、そこに添付されていた動画の内容は──私の想像を絶するものだった。
彼女の有していた全ての情報が彼女の口から発されていた。この牢屋敷の秘密。元凶たる【大魔女】の存在。そして、囚人の中のある人物について。その一つ一つが衝撃を受けるには十分すぎるものだった。
何かあった時にと動画を残してくれた彼女は、私にこれらを託してくれたのだ。関わった時間は少なかったというのに……この牢屋敷や魔女の秘密全てを私なら明かしてくれると、そう信じて。
『どうか真実を突き止めて。そしてもうこれ以上、私のような魔女を生み出さないで。もう誰も犠牲になって欲しくないから。……宜しくね、二階堂ヒロ』
彼女の声がぷつりと途切れると同時に動画は終了した。真っ暗になった液晶画面に映るのは歯噛みする自身の険しい顔だった。あまりにも唐突で身勝手な遺言。私は拳を震わせて俯く。
もし。もし、私がナノカともう少しだけでも距離を縮めようとしていたら。お互いを信頼出来るほどの協力関係を築けていたとしたら。違った未来を見つけられたかもしれない。本当に正しい道を歩めたのではないだろうか。
……今後悔したところですべてが遅い。もう戻ることは出来ない……いや、許されない。この情報を託された以上私がこの牢屋敷ですべきことは明確になった。いつまでも過去を振り返り足を止め続ける訳にはいかないのだから。
「……あ、あの……二階堂さん」
「っ……!」
決意を新たに固めた瞬間、部屋の入口から声を掛けられて驚きのあまり勢いよく振り返る。すると相手側がびくりと身体を跳ねさせて、それからおずおずとした態度で口を開いた。
「あ、あぁごめんなさいっ。驚かせるつもりはなくて……」
「……いい、気にしないでくれ。こっちこそ過敏に反応して悪かった……ウルハ」
「あんな出来事の後だから無理もないよ。二階堂さんは……またここで何か?」
「ああ、すこしね。もう必要なことは済んだから今から部屋に戻るつもりだった」
そこに立っていたのはウルハだった。足音も聞こえないくらい集中していたからか来訪に気づけなかったようだ。先程見ていたナノカの動画が聞かれていないか不安になったが、彼の様子を見る限りその心配は無さそうだ。
軽く中を見渡すウルハの手には今回は何も無かった。ウルハとナノカは二人で対面してる場面はもちろん、会話してるところも少なくとも私は見たことがない。特にこの部屋に用は無いはずだが、それを探るためにも尋ねてみる。
「そういう君は何をしにここへ?」
「その……この部屋に、というか……正確には二階堂さんを探して、かな」
「私? それでどうしてこの部屋を……」
「……一度目の裁判が終わって、二階堂さんが此処に来てたことを思い出して。今回もまた同じ理由で居るんじゃないかと思ってね」
「……なるほど。それで、私に何の用件かな?」
「あー…………と……」
改めて尋ねてみればウルハは落ち着きなく自分のコートの襟を掴んでは弄り出す。何度か関わってこれば彼の癖も読めてきていた。こんな風に自分の服を弄る時は大抵、何かを言うか言わまいか迷っていてる時だ。こういった時は急かせば良い、私は小さくため息をつく。
「早く話してくれないか。私も暇じゃない」
「はいっごめんなさいっ。……二階堂さんの事が心配で、様子を見たかったんだ」
「…………。私も一人の人間だからね、あんな裁判の後なら誰でも心が目に見えて弱るものだ。私だけに近づいて何か……」
「ま、待って二階堂さん変な意味は一切無いから! わかった言うから! 妙なこと口走るかもしれないけど言いますから!」
私が自分の身体を庇うように抱いて見せれば、何を想像したのかウルハは首を勢いよく横に振る。裁判が終わった後だというのに良い意味でも悪い意味でも彼の振る舞いは普段通りに思える。
しかし、小さく息を整えると彼は落ち着いたトーンで続けた。
「……【事前投票】……いや、沢渡さんを見つけて中庭で言い争ってた時……ううん。昨日、アトリエで話した時からだね。二階堂さんの目が普段と違っていた様に見えたんだ。何かに取り憑かれたみたいに……怖い、目をしていた」
「…………!」
私は大きく目を見開いた。エマを殺そうと決意し計画を練っていて、それを誰にも悟られることなく過ごしていたつもりだった。表情を取り繕うのも内心を隠すのも慣れている自負があり、故に今まで誰にも本心に秘めた思惑を読み取られたことは無い。
だが彼は勘づいていたというのか。何を考えてるまでは分からなくとも、私が普段と違っていたことに。
「……何かの欲求に憑かれた人の目、なんとなく分かることがあるんだ。そういう人は皆怖い目をしていて……曇ってる。自分の中の何かを見失ってしまうような」
「……ウルハ。君は、よく他人のことを見ているんだな」
「そんな事ないよ、勘違いすることも多いから。だから中々言い出せないし……強く止められたりもしない。たとえ……それがその人自身を滅ぼそうとしていても」
彼の言葉を私は否定しない。私がエマに対して取り返しのつかないことをしようとしたのは事実だ。だが今回の件、殺人衝動につき動かされてしまったナノカの背景を知ったからこそ今、私は冷静になれている。あれだけ煮えくり返っていたエマへの殺意は今は出てくる影もない。
「でも、今こうして話してて安心した。二階堂さんの目は何時もみたいに……ううん、前よりも真っ直ぐに見える……目標が正しく決まったみたいに。なんだか杞憂だったみたいだね」
「……憂鬱な気分を除けば私は普段通りに振舞っているだけだ。けれど、ウルハの心遣いは受け取った。お礼は正しく言っておくよ……ありがとう」
「えっ!? い、いやお礼とかの為にしてる訳じゃ……こ、こういうのって謝礼の強要とかにならない? 大丈夫?」
「私はただ礼を伝えただけなのに何を言ってるんだ君は……」
お礼を告げただけなのに何故か一々大袈裟な反応を見せてくれる。まったくウルハは本当に読めない男だ。普段は弱気で情けないところを見せてくる癖に何かの拍子にスイッチが変わる。それも長続きはせず、またいつの間にか頼りない姿へ元通りになって……それを見ていた私の頬は少しだけ緩んでしまっていた。
「……用件が済んだのならお互いに今日は休もう。身体的にも精神的にも疲労が残ったまま明日を迎えるのは正しくない。ウルハもそれで構わないかな」
「あ、も、もちろんですっ。変な時間取らせちゃってごめん二階堂さん。……それならまた明日、ちょっと早いけど……おやすみなさい」
「……ああ、おやすみ」
彼は小さく頭を下げてから部屋から出ていく。私はその姿を最初から最後まで見送り、一人残った監房で深いため息をついた。静かに、静かに……酷く鼓動する心臓部に手を置いて自分を落ち着かせる。
つい先程まで確認していたナノカのビデオメッセージが、ずっと頭の中を巡り回っていた。
『二階堂ヒロ。今から話すことは確実な情報じゃない、あくまで私の推測。だけど……いいえ、だからこそ伝えておくわ。私は信じる為に疑う。あなたも信じて、そして疑ってくれることを祈る』
『最初に前提とする事実を擦り合わせておく。私たちの殆どはこの牢屋敷に監禁されてから初めて知り合った人間。お互いの顔や名前はもちろん、【魔法】なんて知るはずもない。私でさえこの牢屋敷を事前に調査して得られた情報はごく僅か、全国から集められる囚人の情報なんて知りようがないもの』
『全てを把握しているとすればゴクチョー等の管理者側を除けば、黒幕だった氷上メルル一人だけ。私は彼女と殆ど会話を交わしたことも無ければ一緒に過ごしたこともない。今思えば、私を警戒していたのかもしれないわ。【幻視】の魔法を知っているからこそ容易に触れさせようとしなかった……そうすれば辻褄が合う』
『けれど
『最初はただの偶然かと思ったけど……初日から今に至るまで、私は【たったの一度たりとも触れることが出来ていない】。それだけじゃない、私の事を詳しく知るはずもないのに【初日から私から触れられるのを明確に避けていた】』
『他の囚人と関わってる時には比較的触れ合っている様子も見てとれたから、だれもかれもを拒絶してる訳じゃないのは確かよ。つまり私だけが警戒されていた、私が【幻視】を使えると【出会った最初から分かっていたように】』
『……二階堂ヒロ、ここまで言えばきっと、あなたもそれが誰なのか検討がついているはず。その人物は──』
『
『ここまでの私の推測が正しければ彼はこの牢屋敷に集められた日から、いいえ……もしかするとその前から────』
「ウルハ、君は一体────」
『──────【私たちのことを知っていた可能性が極めて高い】』
「──何者なんだ?」
・ヒロちゃん
エマへの殺意も今のところは殆ど消えてるのでこれからみんなと仲良くできるはず。
やっぱりハッピーが一番いい。気楽にみんなと関わっていこう。仲良くしてる君が好き。
一人なにかよく分かんないけど疑わしい人がいるみたい?あの人は……別に……。
・ナノカちゃん
リボンが戻ってきて良かったね。でも解けちゃった。おねえさんといっしょ。
誰かさんの覚えのない罪を受け入れる姿勢が、解釈次第では犯人たる自分が庇われてしまったと認識してしまうと完全に魔女化して大惨事になるところだった。あぶない。
自分からちゃんと諦められてえらい!最終的には姉に庇われて無事なれはてになったので、結局遅かれ早かれだとは。
・アリサちゃん
リボンを返せて良かったね。でもお互いを深く知る前にしんじゃった。ちょっと親近感もあったのにね。
何も知らなかったからこその苦しみ。事情を知り相手を知ってしまったからこその苦しみ。
結局苦悶に歪むことからは逃げられなくても、彼女の中の何かは変えられたのかもしれない。
・ココちゃん
家族バトルしようぜ家族バトル!
どうしてこんなことになってしまったんでしょうね。
・ウルハ
少女を怯えさせた犯罪者予備軍。ヒロの懐は空いてません。死刑。