低身長美少女配信者のダンジョンすくすく成長記 作:タナボルタ
MGのフルアーマーZZverKaを手に入れたぜぐへへ……
MGSDのデスティニーも買えたぜぐふふ……
財布がボロボロだぜとほほ……
それではまたあとがきで。
「ひっ……ぐ、ずっ、ん゛……。んん゛ぅ゛……っ」
ミーアの涙をるぷすが受け止め、数分が経った。ミーアは未だ嗚咽を漏らしているが、それでも何とか呼吸を整え、涙を抑えようとする。
「無理しなくてもいいのに」
「い゛え……る゛ぶずぢゃん、にもっ、リスナーさん、だぢにも悪い、でずじ……配信、事故になっ、ぢゃいまずがら゛……」
しゃくり上げながらの言葉は聞き取りにくいが、それでもミーアの優しさ、健気さに触れた視聴者たちからミーアへとコメントが寄せられる。
:ミ゛ー゛ア゛ち゛ゃ゛ん゛……!!
:心優しい子やで……
:日本の魔法使いとは思えねえ
:俺らは気にせんでええんやで
:今まで諦めず本当によく頑張ったよ
:お? 魔法使い差別か?
「先輩、ティッシュ」
「どうもでず……ぢっ……! ぢっ……!」
るぷすはポーチからティッシュを取り出し、ミーアに渡す。ミーアはそれをありがたく受け取り、早速鼻をかもうとするのだが、どうにも様子がおかしい。
「……鼻が詰ま゛り゛過ぎで全然がめまぜん……」
「ああ……」
:よくあるよくある
:かわいい
:草
ミーアの鼻の通りが良くなるまでとなると、更に時間が掛かりそうだ。るぷすは別に時間など気にしないのだが、配信や視聴者のことを気にするミーアの気遣いよりも優先させるものでもない。るぷすは「ちょっとごめん」とミーアに声を掛けて少し屈んでもらい、鼻をティッシュで包んで押さえ、もう片方の手を首筋へと当てて『力』を使う。
「ふぇっ!? は、はにゃみじゅが……!?」
「はい、ちーん」
「ぢ、ぢーん……っ!」
るぷすの力のお陰か、ミーアの鼻の詰まりが一瞬で取れ、鼻水が一気に溢れ出した。るぷすがティッシュで鼻を押さえてくれていたので惨事は免れたが、それが無ければとても配信に乗せられないくらいには大量の鼻水が流れ出ている。
ミーアは気恥ずかしくはあるが、ティッシュを持ってくれているるぷすの促すままに鼻をかみ、鼻水の洪水からようやく解放された。
「うう、恥ずかしい……」
「気にしない気にしない」
るぷすはミーアの言葉を流しつつ、ポーチから取り出したゴミ袋にティッシュを放り込み、またポーチへと直す。それにミーアが申し訳なさそうに謝罪するが、それも首を振って気にしないようにと言うのみだ。
「それにしても何をしたんですか? 鼻詰まりが一瞬で治ったんですが……」
「ちょっと“気”を使っただけ」
「気を使ってくれたんですか」
「うん」
「ふふふ、ありがとうございます」
:……んん~~~~~~???
:何だろうな この噛み合ってるようで全然噛み合ってない感じ
もちろん二人の会話は噛み合ってはいない。るぷすの言う“気”とは何も優しさを示す比喩表現ではないからだ。
それはともかく、一息ついたことで、るぷすはミーアにこれからについて話を進めることにした。
「さて先輩、今後の先輩のやるべきことについてなんだけど」
「はい」
「今回、先輩は魔法を使えるようになっ────」
「はいっ!!!」
「わぁ」
:うるせえwww
:嬉しいのは分かったからwww
:良い返事だ……
:お目々がキラキラしておる
魔法が使えるようになったのがよほど嬉しかったのか(当然ではあるが)、るぷすの言葉に食い気味で、しかも未だかつてなかったほどに元気よく返事をするミーア。その勢いには流石のるぷすも少し押され気味である。が、それでもミーアに伝えるべきことは伝えなければならない。
「こほん。これから先輩がしなければいけない事だけど……まず最優先で体力をつけること。それから自分の魔力量の上限を把握すること。どのくらいの魔力量までなら安定して魔法を使えるかも。それに加えてどのくらいから魔法が不安定になるのか、どこまで上げれば暴発するようになるのか、逆にどこまで下げれば魔法が発動しなくなるのか。汎用魔法は魔法使いなら誰でも使えるとは言え向き不向きがあるからどの属性の魔法に適性があるのか、種類はどれだけ使えるのか、逆に適性の無い魔法は何か、その属性の魔法で何が使えて何が使えないのか、魔力量を上げても結果が同じかどうか、それから────」
:多い多い多い!
:詰め込み過ぎッてレベルじゃねーぞ!?
:大切なのは分かるけどもいきなりそれは……
怒涛の勢いでお出しされるやるべきことに視聴者たちが悲鳴を上げる。やらなければならないこと、言い換えれば足りない部分の指摘だ。それは今まで魔法がまともに使えなかったミーアには少々酷な話とも言える。しかし、これは指導役であるるぷすが言わねばならぬこと。ダンジョン探索を続けるのなら決しておろそかにしてはいけない部分なのである。
「……っ」
「……?」
るぷすの数々の指摘にミーアは何も言わない。しかし、言葉以外の部分で彼女は自らの感情・心情をこれでもかと発信していた。
ミーアの目は輝き、その身体は今すぐに駆け回りそうなほどにうずうずとした様子で落ち着きがなく、興奮からか鼻息もやや粗い。るぷすはそんなミーアの様子を訝しく思い、首を傾げる。
「先輩、何か嬉しそうだね……?」
:確かに
:分かりやすく興奮してんな
:何か喜ぶような要素あったか?
:まさかマゾっ気あるのか?
:やめい
:でもミーアちゃんMっぽいよね
視聴者からもミーアの様子のおかしさを言及される。コメントには本人が読めば全力で否定するだろう予想が書かれているが、ミーアはそれに気付くことなく、るぷすの言葉に全力で頷いている。
「もちろんですっ! だってそれは、
「……なるほど」
:ああ そういうことか
:言われてみれば確かにね
:そうか それは嬉しいよな
:良かったね ミーアちゃん
魔法使いとして生まれながら魔法が使えず生きてきたミーアからすれば、それは福音だ。魔法使いの生態とも言える物が、同じ魔法使いである自分にとっては当たり前ではない。その事実がミーアの心をどれだけ苛んでいたのか、それは当人にしか理解出来ない。あるいは当人ですら気付かぬほどに追い詰められていたのかもしれない。
しかしミーアは遂にそれを克服した。ある意味今日こそが魔法使いミーアの誕生日とも言えるだろう。
コメントもミーアの言葉を聞き、改めて喜びと祝福の言葉を贈る。るぷすもミーアの言葉に頷きを返し────自分たちが入ってきた出入口とは反対方向の出入り口を見やった。
「……どうせだから、もう一つとびきりの成功体験を積んでもらおう」
「え?」
るぷすが何事かを呟いた直後、足元から極々弱い振動が伝わってくる。地震か、と思ったのも束の間、それは違うのだと思い至る。振動は遠く、だが強くなってくる。
何かが、地下から迫って来ているのだ。
「先輩、ゴーレムが来る」
「ご、ゴーレムが、ですか……? ……え、それってつまり……!?」
ミーアの脳裏にるぷすの言葉が過る。この広場には
慌ててるぷすの視線を追ってみれば、八〇メートルは先の向かいの出入り口、その巨大な穴のふちに手を掛け、ゴーレムがその巨体を覗かせた。
「なっ────!!?」
ミーアの驚愕の声が漏れる。そのゴーレムは、今まで会敵してきたものとは明らかに違う。何十メートルも離れていると言うのに感じられるその威圧、その威容。
大きさもこれまでのゴーレムがおもちゃに思えてしまう程のサイズだ。目測にして全高は約二○メートルほどはあろうか。まさに規格外の大きさである。
:でっっっっっっっか!!
:何やアイツ!?
:デカすぎんだろ……
:いやまずいまずいまずい! 早く逃げないと!
:そうだ早く逃げろ! ゴーレムのボス格はマジでやばいから!
広場に侵入出来るボス級ゴーレムがその姿を現し、視聴者たちは二人に早く逃げるようにと悲鳴を上げる。
:いやでもるぷすちゃんならボス級でも勝てるんじゃないの?
:逃げなくても何とかなるんじゃないか? ボス級ゴーレムって言ってもC級ダンジョンのボスなんだし
そんなコメントに対し疑問を抱く者も居り、るぷすが居るのなら逃げなくても大丈夫なのではないのかと、ある意味では当然の質問をする。
確かに稼働石像の巣窟はC級ダンジョンであり、ゴーレムもC級の魔物でしかない。────が、ことボス級ともなると話は変わってくるのである。
:ゴーレムのボス格はC級じゃないんだよ!
視聴者の誰かがそうコメントし、暫しコメント欄の時間は凍り付いた。
そう、“稼働石像の巣窟”に人気が無く、C級ダンジョン最難関と言われる所以はここにあるのだ。
基本的にダンジョンとそのダンジョンのボス級魔物の等級は同じである。例えばC級ダンジョンの“邪妖精の巣窟”のボス級魔物は同じくC級の魔物であるホブゴブリンやゴブリンナイト、ゴブリンメイジなどの進化種・派生種が担っている。しかし、何事にも例外というものは存在する。
“稼働石像の巣窟”はD級ダンジョンと同じように同一のゴーレムしか出現せず、ボス級も進化種・派生種ではないただのゴーレムでしかない。だが、一つだけ違う部分がある。
それは、強さだ。
基本的に魔物は進化することで等級が変わる。だが、中にはただ強くなることで等級が変化してしまう魔物が存在するのだ。その魔物の一体がゴーレムなのである。
:は? ……は!?
:いやいやいやどういうこっちゃ
:ダンジョンのボスも等級は同じはずだろ!?
:だから逃げろって言ってんだってば!
:ははは冗談だろw ……え 冗談だよね?
:嘘乙
:ここだけそんな特別仕様とかありかよ!?
:下手な釣りはやめーや
:そんな危険なら何でここに来たんだよ!?
高速でコメントが流れ出す。驚愕する者、疑う者、嘘だと断じる者と内容は様々だ。だが、彼らに共通する物がある。それは、皆が何かしらの焦りを感じていることだ。
嘘だと言う者も、心のどこかで感じているその焦りを否定するために何度も書き込みを行っている。
流れるコメントを呼んだミーアは、内臓に冷たい物が走る感覚を味わう。それは恐怖か緊張か。否、どちらもだろう。杖を握る力が強くなり、白みを帯びる。
体の震えが止まらず、ゴーレムから目を離せない。今やボス級ゴーレムは完全に広場へと入り込み、歪な身体を揺らしながらゆっくりと迫って来ている。
「……ふむ」
「……っ」
どこか感心するような声。ハッとして声の発信源を見れば、るぷすが眼鏡をくいっと上げて位置を正していた。
「あのゴーレム、自分の魅せ方を
「……………………………………………………」
ちょっと今のミーアには理解しかねる言葉が長々と聞こえてきたような気がした。
:いや……だから言うとる場合かー!!?
:ボス級ゴーレムが迫って来てるんだぞ!?
:変なことに感心してる暇があるなら早よ逃げんかい!
どうやらミーアの気のせいではなかったようで、コメントにはるぷすの言葉に対するツッコミが寄せられていた。当然の結果である。
「な、なんななな、何で、そんなに落ち着いてるんですか!? あああ明らかにそんな場面じゃないですよ!?」
ミーアも半泣きになりながらるぷすに詰め寄る。肩を掴んでがくがくと揺するが、るぷすはどこ吹く風。ずれにずれる眼鏡を外し、ミーアの手をポンポンと叩き、身体を揺すらせるのを止めると、真っ直ぐにミーアの目を見返した。
「
「え……」
その声は、どこか心の奥にまで伝わっていくかのように響く。
「私はあのゴーレムを倒せる」
「……っ!」
:は!?
:マジで!?
:いやいやB級なんだぞ!
:るぷすちゃんはB級上位の実力らしいけど……マジでいけるのか?
:確かに今までるぷすちゃんの強さは散々見てきたけど
:ゴーレムも簡単に倒してたしいけるか?
:待てって C級とB級じゃ強さも段違いなんだぞ!?
:ちゅーか悠長に話してる場合じゃねーって! どんどんゴーレムが近付いてきてる!
るぷすの言葉にコメントも加速していく。その言葉に懐疑的な物も当然存在し、逆に今まで見せつけられてきたるぷすの強さならば倒せるのではないか、という意見もある。
そして話している暇はないというのも真実だ。ボス級ゴーレムはその規格外の巨体故かスピードは皆無に等しく、移動は非常に遅い。しかしその大きさ故に一歩一歩の間隔が広いため、既に彼我の距離は五○メートルもない。
そんな状況でるぷすとミーアは互いに見つめ合い────。
「……本当ですね?」
ミーアがるぷすに問い掛ける。
「本当に、あのゴーレムを倒せるんですね?」
るぷすに問うミーアの目には、半ば確信めいた光が宿っていた。
「うん、勝てる」
対するるぷすも同じ。瞳に宿るのは確かな自信。それは過信ではなく、見栄でもなく。ただ純然たる事実を述べている。
「先輩が手伝ってくれたらもっと楽になる」
そしてミーアにとって、こんなにも無茶で無謀な、しかし嬉しい提案をしてくれた。
二人は同時にゴーレムに向き直る。るぷすは自然体で、ミーアは腰が引けながらも杖を構えて。
:戦う気か!?
:マジか!? マジでやっちゃうのか!!?
「先輩は牽制をお願い。幸い的はおっきいから外すことはないと思う」
「……通じますかね、私の魔法?」
るぷすが数歩前に進み、指示を出す。ミーアとしては早速るぷすの役に立てるので頑張りたいところだが、まだまだ自信を得るには成功体験に乏しい。そも魔物に当てたことすらないのだから仕方がないのだが……それに対し、るぷすはこう答えた。
「うん、通じる。さっき私が重ねて魔法の的にした岩は、
「……!」
るぷすはミーアの方を振り返り、更に続ける。
「一緒に、あのゴーレムをやっつけよう」
「────はいっ!」
その言葉を聞いた瞬間、心臓が大きく跳ねた。未知の感覚、未知の感動……頼られたのだ。るぷすの口ぶりから、本当は己の力のみであのゴーレムを倒せるだろうことは理解している。しかし、るぷすは自分を頼ってくれた。一助になると言ってくれた。
ならば、応えねばならない。こんな出来損ないの魔法使いを頼ってくれる、小さくて可愛い、それでいて強く頼もしい後輩の信頼に応えてみせねばならない。
【来りて爆ぜよ、破壊の礫!】
唱えるはファイヤーボールの魔法。先程使えるようになった、まだまだ未熟な魔法。しかしるぷすが褒めてくれた、認めてくれた魔法だ。それだけでこの魔法の成功は確信出来る。
【ファイヤーボール!!】
ミーアの杖の先から火球がゴーレムへと向かって飛んでいく。狙うは足。遅い歩みを更に遅くし、あるいはその場に釘付けにする。数秒後、着弾。人間でいう脛の部分に当たったファイヤーボールは、範囲は狭いが表面の岩を軽く抉り、ゴーレムの足を止めることに成功する。
:おお!
:ちゃんと発動した!
:効いてる効いてる!
:……本当に効いてるかこれ!?
:抉れてはいるけど……!?
確かに足を止めることには成功したが、それがダメージを与えているのかはミーアには分からなかった。るぷすぐらい分かりやすく広範囲を破壊出来るのならばダメージも与えられているのだろうが、ミーアの魔法はまだまだ極小範囲を削るくらいしか出来ない。
ならば、
【ファイヤーボール!】
再びの詠唱。今度の火球はゴーレムの胸に着弾する。二発、三発。次々に飛来する火球に、ゴーレムはまるで虫を払うかのように手を振るう。
「……今!」
ミーアが放つ火球。それはまるで吸い込まれるようにゴーレムの顔面に着弾した。
「ゴオォ……ッ!?」
流石のゴーレムも顔に魔法が着弾したせいでたたらを踏み、何歩か後退してしまう。それは一つの魔法しか使うことの出来ない魔法使いのは、快挙と言えるものだ。
まずは足に、次いで胸に、そして最後に隙を突いて顔面に魔法を撃ちこむ。注意を自分たちが居る地面から、徐々に上方へと逸らしていったのだ。
:おおお!?
:後退させた!!
:すげえ! ミーアちゃんすげえぞ!
:いや 効いてるわけじゃない! もっと攻撃しないと!
コメントが指摘したように、ゴーレムにダメージが入った訳ではない。人間で言えば顔に虫が突っ込んできて驚いた、といった程度だろう。すぐにまた二人を葬らんと侵攻を開始するようになるはずだ。
────しかし、ゴーレムはこれ以上歩を進めることは出来なかった。
「……本当に、先輩は凄い」
るぷすが緩く、浅く両手を開いた。────瞬間。
「────っ!?」
るぷすの身体から不可視の衝撃が放たれ、かと思えばその姿は一瞬にしてミーアの視界から消え去った。ただ、消える間際、るぷすの背を見ていたミーアには不思議な光が見えた気がした。るぷすの身体、正中線上に小さな、しかし力強い輝きを放ついくつかの光が見えた気がしたのだ。
「る────」
るぷすの名を呼ぼうとした刹那、ゴーレムからバヂィッ!! と、何かの衝撃音か破砕音が聞こえてきた。
「な……っ!?」
その音に思わずゴーレムを見やれば、胸元が大きく陥没して天井を仰ぎ見るゴーレムの姿と、ゴーレムの遥か上空でその身を舞わせるるぷすが見えた。
速い、どころの話ではない。先の一瞬の間にゴーレムまでの距離を詰めて胸に一撃を見舞い、それを踏み台に更に高みへと跳躍したのだろう。るぷすはくるり、と身体を回転させる。
「────旋身」
その刹那、るぷすは右拳を引いた体勢で、ゴーレムの頭部に肉薄していた。慣性も、重力も、反動も、反作用も、まるであらゆる物理法則を無視するかのように。その速度は正に弾丸のようで、重力加速度など歯牙にもかけない超速度。
るぷすはその速度を味方に付け、致命の一撃をゴーレムの額へと振り抜いた。
「────
その拳の威力は一瞬でゴーレムの頭部から股間にまで浸透し、その巨体を正中線上に真っ二つに引き裂いた。弾けるような勢いで轟音を立てながら吹き飛んでいく右半身と左半身。その中央にるぷすは落ちていき、地面すれすれでまたも身体を回転させると、
「…………………………」
ミーアも、視聴者たちも、言葉が出ない。強いとは思っていた。ボス級ゴーレムも倒せるだろうとは思っていた。しかし、ここまで一方的に、圧倒的な力を持っているとは思っていなかった。
るぷすはミーアと、そしてドローンさんを見やり、ダブルピースをすると。
「びくとりー」
と、いつかのように無表情で勝鬨を上げた。
「……」
「あれ?」
そんなるぷすを見て力が抜けたのか、ミーアはへなへなと座り込んでしまう。るぷすとしてはもっと喜んでくれると思っていたのだが、予想が外れてしまった。
:さすがるぷすちゃん!
:マジか……マジかー
:つっっっっっよ!
:いやいやいやいやいやいやいや!
:真っ二つ!? ボス級ゴーレムが一撃で真っ二つ!?
:何がどうなってああなったんや!?
:B級やぞ!? B級をあんな簡単にやっつけられんの!?
:うひょおおおおおお! るぷすちゃん最強おおおおおおお!!
:マジで簡単に倒せるとは思わんやん
:やばばばばばばばば
そして高速で流れていくコメント達。やはりそのほとんどがるぷすの強さに驚いているコメントであり、現役高校生、それもC級探索者でしかないるぷすがB級の魔物の中でも特に頑強なボス級ゴーレムをほぼ一撃で倒したという事が、信じがたい奇跡のようなレベルの話だからだ。
C級の魔物とB級の魔物ではその強さに明確な差が存在する。
ゴブリンを例に出すが、基本的に通常のゴブリンはD級という最低ランクの魔物だ。それでも成人男性数人分の力を持っており、C級のホブゴブリンなどは更にゴブリン数体分から十体分の力を持つとされている。
では、B級の魔物となるとどうなるか?
ホブゴブリンの進化種に、ホブゴブリン・ロードというB級の魔物が存在する。この魔物には親衛隊が付き従い、更には他にも厄介な特殊能力を有しているのだが、基本的な肉体スペックでも他を圧倒する物がある。
その強さ、最低でもホブゴブリン十体分。それが最低値であるのだ。完全に正しい数値であると一概には言えないが、これが
C級とB級にはそれだけの差が存在するのである。ならば、より強大な魔物であるゴーレムならば……?
それが視聴者たちの驚愕の理由だった。
「先輩、大丈夫?」
るぷすは無表情ではあるが心配そうにミーアへと手を差し伸べる。小さく可愛らしいその手を見て、どうやってあれほどの破壊力を生み出しているのかと、手を取ってまじまじと観察してしまう。
「先輩?」
「あ、ご、ごめんなさい」
訝るるぷすの声にミーアは慌てて手を離す。コメントは今のミーアの動きを見て百合がどうのと騒いでいるぞ。
「……本当に凄いですね、るぷすちゃんは」
「ん?」
るぷすの手を見てミーアは思ってしまった。巨大なゴーレムすら軽く屠るるぷすを見て、「自分もこんなふうになれるだろうか」と。
恐怖ではなく憧憬を。嫉妬ではなく尊敬を。るぷすの後ろで守られるのではなく、肩を並べて、隣に立てるようになりたいと。そんな大それた願望が頭を過ぎってしまった。
「……るぷすちゃん」
「なに?」
ミーアはゆっくりと立ち上がり、るぷすの目を真っ直ぐに見る。
「私もいつか、さっきみたいなボス級ゴーレムを一人で倒せるようになるでしょうか?」
それは身の程を知らない、馬鹿げた問いのようにも思えた。つい今しがた魔法を使えるようになった落ちこぼれが、何を言うのかと。
不安から鼓動が速くなる。緊張で口内が乾く。るぷすは真っ直ぐにミーアの目を見つめ。
「うん。先輩ならすぐに倒せるようになる」
その不安は杞憂なのだと一蹴してくれた。ミーアなら出来ると、一片の疑いもなく信じている目を向けてくれている。
少し、ミーアの涙腺が緩む。だがミーアはその涙を流さず、しばし天井を仰いで雫を留め、そして自分の頬をパチンと叩いて気合を入れる。
「るぷすちゃん。私、決めました」
ミーアは宣言する。るぷすに、自分を応援してくれる視聴者たちに。胸に芽生えた決意を示す。
「私は、いつか一人でボス級ゴーレムを倒してみせます!」
「おお」
:ミーアちゃん!?
:魔法でゴーレムを!?
:えらいこと言いよったでこれ
:どんくらいかかるんや!?
:ええぞええぞ!
:ミーアちゃんかっこいい!!
:言ったからにはやらなあかんぞー
:いや大丈夫か? 本当に大丈夫か?
ミーアの宣誓にコメントが加速する。先のボス級ゴーレムを倒した興奮冷めやらぬ内に告げられた言葉に、コメントは応援半分心配半分と言ったところ。だがそれも仕方なく、むしろミーアのこれまでを知っている視聴者たちからすれば、その割合でも好意的に過ぎるというものだ。
しかしそれも、全てはミーアを通して視聴者たちには見たい景色があるからだ。自らの力で、夢をつかみ取る景色を見たいのである。
魔法使いとして生まれながらも魔法を使えなかったミーアが、遂に魔法を使えるようになった。その魔法でるぷすの援護をし、魔物を倒した。では次は?
ミーアが、ミーアの力で、大きな目標を達成するところが見たいのだ。不安もある。心配もする。しかし、それがミーアのファンたちの総意である。
「それじゃあ、これからも頑張って魔法の練習をするぞー」
「おー!」
二人は揃って拳を天へと掲げる。新たな目標、新たな夢。それらを叶えるために、ミーアはこれからも挫けることなく前へと進み続ける。その先にはきっと、自分の理想すらも超える未来が待っているはずなのだから。
「さしあたってはまずここまで来た道を戻って地上に帰るぞー」
「…………………………」
ミーアの脳裏に思い起こされる噴き出す汗の感触、激しい動悸、乱れに乱れる息、パンパンに張ったふとももにふくらはぎ、がくがくと震える足腰、辛さしんどさやるせなさ……。
「………………ぉ、ぉー……」
:ミーアちゃん?
:さっきまでの威勢はどうした
:早速挫けそうになってんじゃないよ!
:カーッ! もやしっ子はこれだから!
:まったく最近の若いもんは……ワシの若かった頃はもっとじゃな……
:萎れてて草
:おじいちゃん ほら 家に戻りましょうね
:クソワロタ
:声が小さぁい
天へと掲げた拳を支える腕は見る影もなく萎れて。辛いものは辛いんだ。仕方がないんだ。だからと言って怠けるわけではないのがミーアの長所である。
きっと明日の筋肉痛も凄いんだろうな、と涙ぐむミーアは、それでも笑みを浮かべている。今までのことを思えば何のその。立派な魔法使いになる為の痛みだと思えばへでもない。……こともないが、乗り越えていける。
ミーアの人生には今までも、そしてこれからも。“無駄に終わる”ことなど何も存在しないのだから。
お疲れ様でした。
思ったよりるぷすを暴れさせられなかった……。
もっとコンパクトに纏めたかった……。
世界観設定をもっと出したかった……。
それはともかく。今回出てきた“旋身剛断撃”はパクリ元……もとい、オマージュ元がありまして、それはかつて週刊少年サンデーで連載されていた『デビデビ』という漫画に登場する技、“暗黒魔闘術奥義・
相手の額に拳を打ち下ろして真っ二つにする、という斬新なビジュアルがもう格好良くて格好良くて……顎にアッパーを打ち込むバージョンもあったりします。
いやー、好きなんですよねデビデビ。PSYRENに鉄鍋のジャンがアニメ化するんだからデビデビもワンチャンアニメ化してくれないかな……。