低身長美少女配信者のダンジョンすくすく成長記 作:タナボルタ
今回はミーアのちょっとした配信です。
ミーアちゃんは少しパワーアップしました。
それではまたあとがきで。
手鏡を見て前髪を直す。我ながら似合わないと思っているが、こんな自分の配信を見てくれる人がいるのだから、せめて最低限は整えておきたい。
胸に手を当て、深呼吸。大きく、ゆっくりと息を吐き、同じく吸う。慣れたと思っていた配信も、ほんの数日前からはまるで別の世界に迷い込んだかのような気分にさせられる。リスナーが増えるのは嬉しいことだが、比例するどころか指数関数的に緊張はうなぎ上りだ。
「……よし!」
ふんす、と鼻息荒く気合を入れる。今日も元気に配信の開始である。
「あなたも私と一緒に見てミーヤ! 魔法使いのミーアです!」
:きちゃー!
:ミーアちゃーん!
:マンマミーア!
:でっっっっっかい!!
:マンマミーア!
:デカアァァァァァいッ 説明不要!! バストメーター越え!(目測) ミーアちゃんだ!!!
:おほー!
:マンマミーア
「……あの、この前の雑談配信から皆さんが言われてる『マンマミーア』は何なんでしょうか……?」
ミーアはここ数回の配信から言われるようになった謎のコメントに首を傾げるのだった。答えを言ってしまえば、ミーアへの挨拶のようなものである。言葉の意味ではなく、語感の良さで選ばれたらしい。
それにしても自分一人の配信に多くのコメントが流れていく。未だに信じられないような心持ちで慣れる気がしない。
本日はるぷすとミーナと三人での配信から数日が過ぎた土曜日。学校も休みで委員会もアルバイトもない。絶好のダンジョン探索日和である。
「昨日・一昨日とダンジョン入り口での魔法の練習が続いてましたが、今日は違います。今回はダンジョンに潜っていく予定ですよ」
:お ついに来たか!
:ちょっと不安ではあるけど
:練習は上手くいってたし大丈夫かな?
:つっても何発かは真上に飛んで行ったりしてたけどなw
:まだ慣れてないんだししゃーねーべ
:しかし本当に魔法が使えるようになったんだなぁ……(ホロリ)
:泣くな泣くなw
「えへへ。魔法使いのミーアです。魔法使いのミーアです! 魔法使いのミーアです!! ────こんな風に胸を張って自分が魔法使いだと言える日が来るなんて……!!」
:うるせえwww
:練習の時も言ってたじゃんw
:嬉しいよなぁ 良かったなぁ
:いやもう最初期から応援してる身としてはマジでもう本当に良かったなぁとね
ミーアは胸の前で手を組んで感動に打ち震えている。何なら涙ぐんですらいる。ちゃんと魔法が発動出来るようになったのが未だに嬉しいらしく、まだまだ新鮮な感動を味わっているようだ。そしてそれはミーア本人だけではなく、彼女のファン達もその感動を共有している。
「それはともかくですね。今日私が探索するのは、練習の時にも訪れていたD級ダンジョンの“ゴブリンの巣穴”です。入り口だけじゃなく、ちゃんと奥まで向かっていきますよ」
ミーアは視線で自らの背後を示す。ドローン君はミーアの意を汲み、トンネルのようにアーチ形にくりぬかれた岩肌が長々と続いているダンジョンを映した。入り口付近から見れば一本道のようにも見えるが、その実細かな横穴が多く、行き止まりも多い。まっすぐ進んでいくとなだらかな坂になっており、道も二手三手と徐々に枝分かれしていくのだ。
「……それにしても」
ミーアはドローン君を伴って先へと進んでいく。道も広く明るい。魔物の奇襲は警戒しなくても良いほどに進みやすいダンジョンだ。ミーアの足でもひょいひょいと進んでいくことが出来る。真っ直ぐ行って、横道にそれて。何となく小さな頃に
そうしてリスナーと雑談しながら進むこと十数分。右を見て、左を見て、後ろを振り返ってみて。ミーアはぽつりと呟いた。
「……本当に
:そりゃあねえ
:ゴブ系はやっぱな
:イメージがイメージだからね
:まあ近付きたくないわな
ミーアは昨日・一昨日の二日間、魔法の練習と称し、このゴブリンの巣穴の入り口付近で魔法の練習配信を行っていた。もちろん周囲に人がいないのを確認して、だ。そして配信の最初から最後まで、誰一人として遭遇することはなかった。
学校が終わってからの練習ということもあって、時間はどちらも二時間ほど。その間、新しく人が入ってくることも、奥から出てくることもなかった。おかげで練習し放題ではあったのだが、ここまで誰もいないと以前のことを思い出して少々不安になる。
「皆さんの持つゴブリンのイメージは……」
:不潔!
:汚い!
:臭い!
:ばっちい!
:えーんがちょ!
:集団レイパー!
:お前ら全部バラバラで仲良いな
「やっぱりそうなりますか……」
ゴブリンのパブリックイメージはこのような感じ。実際にゴブリン系統のダンジョンは独特な異臭が染み付いていることが多く、等級が低いほどその傾向が強い。つまり、より原種に近いダンジョンほどニオイが強烈になる。特に“巣穴”は奥に行けば行くほど臭くなる。
「今の私の実力だと仕方がないんですが、やっぱりニオイはちょっと気になっちゃいますね」
:まあねぇ……
:我慢我慢
:魔法自体は結構強そうなんだけどな
:今までの戦法が戦法だったし 安全マージン取って経験を積み重ねないとな
:るぷすちゃんの言い付け守れて偉い
ミーアがゴブリンの巣穴を練習場所・探索場所に選んだのにはランの言葉が関係している。
ラン曰く、ゴブリン系統のダンジョンは
更には
そして最も重要だと言っていた情報なのだが……ギルド内での評価が高くなる、らしいのだ。
ギルドでもゴブリン系統のダンジョンの人気の無さは問題になっており、ここ数年はギルドによる
ちなみに“
そんな時にとある小さな探索者が連日ゴーレムをバッタバッタとなぎ倒してくれたものだから、その人物はダンジョンの受付・監視・防壁の複合施設……通称“要塞”にて
ギルド内での評価の向上は、
:結局ミーアちゃんはD級への降格は決定なんだっけ?
:あー 今度の等級の改正でか
「ええ、そうなんですよ。今すぐというわけでもなく、今の内に色々と頑張ったらすぐにまたC級に戻れる、とはギルドの方から説明を受けました」
探索者等級の改正。これは日本だけでなく、
近年、世界中で問題となっているのがC級探索者の質の上下幅が大きすぎることだ。これはそのままるぷすとミーアで当てはめれば分かりやすく、上位の者にはB級であるボス級ゴーレムを倒せる者もいれば、下位の者にはD級であるゴブリン一体を倒すのにも苦労する者がいる。
要するに、実力のピンキリが激しすぎるのだ。そんな現状を問題視したWDOが今までのD級からA級までの四つの等級ではなく、更に二つの等級を追加することを決定した。それがE級とF級である。
現在、D級という等級は探索者資格を取った者が最初に与えられる等級であり、それは言わば仮免許のようなもの。探索者にもよるが、探索内容によっておよそ一週間から十日間、長くても二週間で卒業してC級に上がることが出来る研修期間だ。今後、その役割はそのままF級が担うこととなる。
とはいえ、その等級の改正がなされるのは七月現在から少し先の九月一日である。
:ちゃんと魔法が使えるようになってマジで良かったよな……
:ぶっちゃけ資格剝奪とかも考えられるラインだったからね
:そんな酷かったの?
:BからCはともかくCからDへの降格はほとんどギルドからの退職勧告みたいなもんよ
:マジでか……
「……」
コメントを読むミーアの顔には苦笑いが浮かんでいた。実際本当に酷い物だったので何も言い返せない。とはいえ昔は昔、今は今。ギルドもミーアが魔法を使えるようになったことは把握しているので、今後の頑張り次第では施行からひと月ほどでまた昇格も有り得るのだ。
「……ん?」
ミーアの耳が何かを捉えた。それは小さな、しかし確かに聞こえてくる何者かの言い争う声。……否。鳴き声、と言えるかもしれない。
キョロキョロと辺りを見回し、つづら折りに何段も重なる大きな段差の下を見てやれば、そこには三体のゴブリンの姿があった。
「ドローン君ドローン君。あそこ、映してください」
:おほー! ミーアちゃんのお尻!
:こっちもでかぁい……!
:控えめな手招きかわええ……
:ちょいちょいと指を差す仕草もいい……
ミーアがドローン君を手招きで呼び寄せ、映す対象を指を差して示す。リスナーたちはたったそれだけで大喜びしている。画面に映ったゴブリンのことなど誰も気にしていない。その三体のゴブリンは何やら
「……二体のゴブリンが殴り合って、もう一体がそれを止めようとしてる……んでしょうか?」
:え? あ マジだ
:ほんまや
:仲間割れかー?
:こんなんあるんだ 初めて見たかも
どうやら本当にゴブリンたちのことはリスナーの視界に入っていなかったようだ。ミーアに指摘され、ようやく認識する。
件のゴブリン二体は激しく言い争い(?)ながら殴り合っている。中々に重い殴打音が響き、やはり普通の人間とは身体能力が段違いであることを再認識させてくれる。
「……これはチャンスですね」
ゴブリンの様子を見やり、ミーアはぎゅっと杖を握り締めた。
:お やっちゃう?
:いきなり三体は大丈夫か? ちょっと厳しくない?
:今のミーアちゃんなら……とは流石に言いにくいか
:他のC級探索者でも三体相手は怪我することもあるからな……
:そう考えると等級の改正はやっぱり必要なんやなって
:それな
リスナーたちから挙げられる声はミーアを心配する物が多い。今までのミーアを見ているからそれも致し方ないことではあるのだが、しかしミーアは緊張しながらも、どこか自信ありげな様子を見せる。
「……私に良い考えがあります」
:マジで?
:ちょwwwフラグwww
:それはダメだ!
:あのミーアちゃんが自信満々(?)に!
:ダメそうwww
:やれるんか?
:ん? 何だこのコメントたち
:もしかして何かのミームなのか?
:……るぷすちゃんの影響か?
「……? えっと、よくは分かりませんがとにかく見ててくださいね。私だってやれるんだってところを見せてあげます……!」
コメントの不思議な盛り上がりについては理解が及ばなかったが、ミーアは決意を胸に杖を掲げる。使用する魔法たちを選定、イメージを固め、魔力を回す!
【────来りて満たせ、圧壊の雫!】
掲げる杖の上、空想の器に魔法の水が満たされ、ボコボコと小さな音を立てる。狙うは殴り合うゴブリンではなく、少し離れた場所でそれを止めようとしているもう一体のゴブリン!
【ウォーターボール!!】
振り下ろされた杖と共に、猛烈な勢いで魔法の水球が射出された。争うゴブリンたちを止めようと手を伸ばすもう一体のゴブリン。はっと
「ゴブォラアァッ!!?」
直撃したゴブリンは特に強烈だ。胸部が完全に陥没し、その口からは夥しいほどの緑の血を吐き出している。
「……ギィッ!?」
「ギっ! ゴゥブァ!?」
弾けた水によって吹き飛ばされた二体のゴブリンは、水浸しになりながらも既に息絶えたゴブリンの元へと駆け寄る。遠目には分かりにくいが、どこか愕然とした様子であることが見て取れた。
【────来りて奔れ、一条の閃光】
ミーアは遠くのゴブリンに向けて杖先を翳す。バチッ、と。その杖から稲妻が迸った。
【サンダーボルト!】
乾いた轟音を響かせ、紫電がゴブリンたちに殺到した。魔法の水で濡れたその身体に、魔法の雷は良く通る。
「ギァッ!!?」
「……ァガアッ!!?」
強烈な電気にその身を焼かれ、ゴブリンは一瞬身体を跳ねさせると、そのままどうと倒れ伏した。口や目といった穴だけでなく、全身から煙が立ち上る。その三体のゴブリンは争い合っていたが、死する時にはその身を寄り添わせるように並んでいる。……そして、三体のゴブリンはダンジョンによっていくつかの爪や牙を残し、消化されていった。
「……ふぅううううううう……っ!」
ミーアの口から重々しいと息が漏れる。自信ありげにリスナーたちに宣言していたが、その胸中は不安でいっぱいだったのだ。しかし、その不安も自らの魔法が上手く作用したことにより払拭された。そして、その後に待ち受けるのは────。
:うおおおおおおお!!
:倒したああああああああ!!
:ミーアちゃん最高! ミーアちゃん最高!
:ちゃんと魔法を使えてる!
:ようやったで!
:ドキドキしたけど上手くいって良かったー!
:お見事ー!
:感動した!
リスナーたちからの、称賛である。自分には身に余る程の賛美の声。恐縮するように身を縮こまらせるミーアだが、どこか心の内側がムズムズと疼き、人からちやほやされるのが好きなランの気持ちを少し理解することが出来た。まだまだ微々たるものだが、自己肯定感が培われてきたらしい。
「ちゃんと魔法が連続発動して良かった」
ぽつりと呟いた言葉に、リスナーが反応を示す。
:やっぱ汎用魔法は切り替えが速くていいわね
:改造しまくったオリジナル魔法は詠唱に時間が掛かるのも多いからな
:無駄に長々として仰々しいオリジナル詠唱いいよね……
:確かに格好良いけどあんま長いのはな
:俺も魔法が使えたら中二全開のオリジナル魔法作るのに……
:いやそのまんまの汎用魔法の方がいいだろ
汎用魔法────ヴァイオレット・ホワイトが魔法という現象を解析して作り上げた、
定型魔法とも呼ばれるその技術は、まず呪文の形式を揃えることから始まった。一定の法則に基づいて呪文を作成し、どういった魔法なのかを示す魔法の名前が定義され、一個の技術体系として確立されたのだ。
また、そういった背景が存在する為かその魔法を元に異なる性質を持たせるのも容易という特徴もある。
覚えやすく、唱えやすく、想像しやすく、分かりやすい────。汎用魔法が世界的に広まり、誰からも受け入れられたのには、文字通りその優秀な汎用性が評価されたためだ。
:そういや当のヴァイオレットは「分かりやすいのはいいけどどうせならもっと格好良い名前が良かった」って言ってるんだっけ?
:まあ確かにファイヤーボールとかウォーターボールとかそのまんますぎてちょっと格好悪いもんな
:以前ドキュメンタリー番組で自分の杖に火を纏わせて「レーヴァテインとか……名付けたいねぇ……」ってしみじみと呟いてたんだよなwww
:杖に電気纏わせて「ブォン……ブォン……」って言いながら振り回してもいたぞw
:けっこう面白いお婆ちゃんよな いやお婆ちゃんというには足腰もしっかりしまくってるが
:むしろ未だに現役だからな……
:ふーん おもしれー女……
:この前も仲間連れてA級ダンジョンの“キャメロット城”に乗り込んでいったんだっけ
:元気すぎる……
「……」
ミーアは自分の言葉から始まった、ヴァイオレットについて語り合うリスナーたちのコメントを見て、無言で笑顔を浮かべている。自分の好きなもので他人が盛り上がっている姿を見て楽しんでいるのだ。ともすれば配信者のリアクション動画を見ている感覚に近いだろうか。あるいは後方理解者面と言ったところか。
ニコニコと、それはもうニコニコとミーアがコメントを眺めていると、何やら一つのコメントが誤字と共に流れてきた。
:大変だ! おむえらたいhっへんだお前ら!!
:あ? 何だ?
:大変って何が?
:ってかここは掲示板じゃないのは分かってるよな?
慌てているらしい件のコメントに対し、返されるのは当然の疑問。そして配信のコメントに関係のないものを話そうとしているのを察知したのか、牽制するような言葉だ。
:分かってる! けど一応関係ある! るぷすちゃんについてだ!
:るぷすちゃん?
:え 何かあったんか
:誰だよ 関係ないだろ
:いやお前関係大有りだわ
「……るぷすちゃんに何かあったんですか!?」
流れてきたコメントの意味が分からず、ミーアの意識に一瞬の空白が生じた。それから回復した瞬間、ミーアはドローン君を両手で掴んで引き寄せ、何があったのかをコメント主に問い詰める。必死な表情とはいえ、ミーアの整った顔立ちがドアップになったことで一部のリスナーが騒ぎ出すが、ミーアはそのようなコメントは目に入らなかった。
:多分十分~ニ十分くらい前か もう全部終わっちゃった後なんだけど……
「教えて下さい! るぷすちゃんに一体何が……!?」
:ああ るぷすちゃんなんだが……
心臓が早鐘を打つ。己の大恩人であり、友人でもある可愛い後輩の彼女。その彼女の身に、いかなる災難が降りかかったというのか。ミーアはどこか勿体付けるような口調に少々の苛立ちを覚えながらも、その時を待つ。
そして、語られた事実とは……。
:────強い魔物に襲われて大ピンチに陥った美少女アイドルたちを間一髪で助け出すって言うテンプレ展開をやらかしたんだ!!
「……んんん~~~~~~~~~~~~???」
遂に語られた衝撃(?)の事実に、ミーアは思い切り首を傾げた。
:大事件だーーーーーー!!?
:うわあああああああああーーーーーー!!?
:今夜君は歴史の証人になるーーーーーー!?
:ユ○コオオオオオオオォーーーーーーン!!
:テンプレキター!!
:ハ○トオオオオオオォーーーーーー!!
:とらい☆りっぱーーーーーー!!?
:生で見たかったーーーーーー!!
:関係の無いところで叫ぶ兄さんは嫌いだ……
:関係の無いところで叫ぶ兄さんは嫌いだ……
:ハ○トが二人……来るぞ遊○!!
「それは本当に大事件なんですか!? いえ確かにアイドルがピンチだったのは大事件ですけど! コメントのノリからして絶対そんなニュアンスで言ってないですよね!? っていうかどうしてアイドルが魔物に襲われるんですか!? 氾濫が起こったんですか!? ……ユニ○ーンって何ですか!? ハル○って誰ですか!?」
何だか担がれた気がしたミーアは、思い切りツッコむことにしたのだった。
遡ること約三十分ほど。探索者兼アイドルとして活動している“とらい☆りっぱ―”の三人は、C級ダンジョン“豊穣の森”へと足を伸ばし、配信を行っていた。
今回の企画は魔物との戦闘がメインではなく、豊穣の森の植生や魔物の分布、生態系の紹介を行うというもの。
豊穣の森は特殊な構造となっており、
そこは地球上のどこかなのか? 未だ何も分かっていないにも等しい、不思議の森なのである。……まあ、それはどこのダンジョンも同じであると言えるだろうが。
また、特殊なのはその『場所』だけではない。この豊穣の森は多くの他種族の魔物が棲んでいるのだ。
D級の巣穴のように単一種だけが棲んでいるのではない。C級の巣窟のように派生種・進化種が棲んでいるのでもない。多種多様な種族が縄張りを形成し、食物連鎖が行われているのだ。
そして、不運と言う他ないだろう。とらい☆りっぱーの三人は、その食物連鎖に巻き込まれてしまったのだ。他でもない、一種族を率いるボス級個体によって。
「来夏ぁ! ダッケルで救援は呼べた……!?」
「もうとっくに申請してあるよ! 後は持ちこたえるだけ……ではあるんだけど……!」
「はぁ……っ、はぁ……っ」
:やばいやばいやばい!
:早く救援来いよ何やってんだ!
:理央ちゃんの血が止まらない
:何でこんなとこにラミアが出てくんだよ!?
:千華もボロボロじゃんかどうすんだよ
「しゅるるるるる……」
────“ラミア”。豊穣の森に生息する魔物の一種族であり、等級はC級に数えられる。しかしその戦闘能力はC級のほぼ上限に位置し、ボス級個体ともなれば
上半身は美しい人間の女性型で下半身は大蛇という異様な姿を持つ魔物であり、とらい☆りっぱーを襲った個体は蛇の身体が十数メートル以上はあろうかという巨体を誇っている。
ラミアは舌なめずりするように細く長い舌を動かし、目を細めて眼前の脆弱な獲物たちを睥睨する。質も量も、味も中々に良さそうだ、と。
「ん……っぐ、ぅ」
「ちょ、千華! もうやめて!?」
「でも……っ」
突然襲われた三人は咄嗟に迎撃を行ったのだが、結果は惨憺たるものだった。元々探索者としての力量はまだまだの三人。一般的な個体のラミアであったならもしかしたら撃破も可能であったかもしれないが、ボス級個体を相手にするには実力が足りなさ過ぎた。
三人の中で最も強く、最もタフな千華ですら既に全身が傷だらけで息も絶え絶えであり、来夏、理央の二人はそれぞれ酷い捻挫と多量の出血で動くことすらままならない。
リスナーも絶望的な光景に多くの者が配信を閉じており、残った者たちも現状を嘆くこと以外は出来はしない。精々、ニタニタと厭らしい笑みを浮かべるラミアを睨み付けることしか出来ないのだ。
「しぃいいいいい……っ」
遂にラミアが動き出した。長い身体でとぐろを巻き、勢いを付けて纏めて薙ぎ払おうとしているのだ。その威力は既に体験済み。全力で迎撃した千華が一撃でボロボロにされた。他二人の攻撃もラミアの鱗を抜けず、じわじわと嬲られて戦闘不能に持ち込まれた。この状態でもう一撃を受け、生きていられる保証はどこにもない。ただ、死あるのみだ。
「くっそ……!」
理央の目に涙が浮かぶ。目の前が白く霞んでいき、恐怖からか、それとも失血からの寒さからか、身体の震えが止まらない。未だ出血が収まらぬ太腿を押さえながら、理央はギリギリと歯を食いしばった。
「しぃいいやあぁああああぁっ!!」
渦巻くラミアの蛇体が振るわれる。巨木をも薙ぎ倒す、必殺の一撃。決して目を逸らすものか。決して目を閉じてなるものか。せめて、見苦しくても意地だけは通す。せめてもの、弱者の意志を貫徹する。
ラミアの蛇体は、もう目の前まで迫り────。
「────何とか間に合った」
────だからこそ、理央はそれを見ることが出来た。
自分たちではどうあっても防げないその一撃。絶命を免れない災害の如き暴力。
それを、ただ左手一本で微動だにせず受け止める、小さな小さな救世主の背中を────。
お疲れ様でした。
ミーアの配信……だったのですが、何かミーアの影が薄い気がする……。
ちなみにゴブリンのケンカの理由は痴情のもつれです。ケンカを止めようとしていたゴブリンAがメス個体、ケンカしてたゴブリンBとCがオス個体です。
ゴブリンAはとある理由により子供が産めませんでした。ゴブリンBはAと夫婦ですが、Aの体質が判明してからは外に女を作って遊んでおり、Aは何も言わずBが女遊びを止めるのをただ待つ日々。
そんなAに懸想していたCはBを呼び出し、Aを蔑ろにするのを止めるように説得します。しかしそれに耳を貸さないB。やがてCがAに横恋慕しているのがバレ、Bと殴り合いにまで発展。
駆け付けたAが殴り合う二人を止めようと奮闘するも……。
────三体のゴブリンは、幼馴染みでした。
この後、ゴブリンAのみがダンジョンでリポップします。
次回はるぷす視点に戻ります。
それではまた次回。