低身長美少女配信者のダンジョンすくすく成長記   作:タナボルタ

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大変お待たせいたしました。

何というかこう、自分なりにアイドルを助けるテンプレ展開をやってみたいなって思って……。

それではまたあとがきで。


第十八話『間に合って良かった』

 

 湖水姉妹たちとのコラボ配信から数日経った土曜日。ランは都内某所にある探索者ギルドを目指し、歩みを進めていた。

 ランの脳裏に巡るのは先日のコラボ配信、その後半でのこと。結構な数のリスナーからグロ規制を何とかしてほしいと言う要望が届いたのだ。

 ダンムビのチャンネル登録者も爆発的に増えたことから、今までのように“そういったこと”を何も考えずに配信を続けるのも流石に配慮が足りないか、と考えたるぷす(ラン)は、その要望になるべく応えることを約束した。

 ここまで登録者が増えたのなら、どうせならもっともっと自分の配信を見てもらいたい。そういった欲が、配信者としての意識がランにも芽生えてきたのだ。

 

「ただダンムビの基準は良く分からないところがあるから確約が出来ない……」

 

 うーん、と悩むランの頭に浮かぶのは以前のスライムの配信。今は解除されているが、あれも当初は規制を受けていたのだから不思議なものだ。

 考えている間にランは探索者ギルド東京支部に到着。その中に入り、受付に向かう……ことはせず、エレベーターに乗り、地下へと降りていく。少々長い降下の後、扉が開いたそこには“駅”が存在した。

 探索者専用リニアモーターカー、その駅だ。リニアモーターカーが実用化されたのは五十年以上前、西暦二○○○年頃だ。かつては画期的だった超高速鉄道も今や一般化され、東京から全国を繋ぐ交通網の一つとなっている。そうなれば既存の鉄道の運行に問題が生じる懸念もあったのだが、未だに普通の電車も新幹線も現役であり、特に新幹線は速度に勝るリニアとの差別化のためにサービスの充実に舵を切ったため、旅行などでは新幹線を利用する者が多かったりする。普通の電車も、速すぎないことや小回りの関係でやはり一番利用者が多い。

 さて、探索者専用リニア駅だが、これは全国のギルドと繋がっている。ギルドの数は全国で四十七支部であり、一つの県に一つ存在するのだ。これによって探索者は日本全国を移動することが出来、ダンジョンに何らかの異変が起こった際には迅速に対応することが出来る。

 ちなみに専用リニアの料金は超格安であり、B級探索者ともなれば何と無料で利用することが出来る。

 

「えっと、次のリニアは……」

 

 辺りを見回し、ランは時刻表を探す。幸いすぐに見つかり、次のリニアも間も無く来るということでほっと胸を撫で下ろす。目指す駅はリニアでほんの数分。県外とは言え、関東圏内だ。

 今回潜るダンジョンは初心に帰ろうと思い、初めて配信をしたダンジョンに行こうと考えたのだ。

 

「ここに来るのも久しぶり」

 

 ランはダンジョン近傍の“要塞”を見上げ、呟いた。ここはC級ダンジョン“豊穣の森”の門を囲む要塞だ。豊穣の森はダンジョンとしては極めて珍しく、複数の門が存在している。東西南北の出入り口、ここは東の門というわけだ。

 要塞の扉を開け、中に入る。受付は出入り口から真っ直ぐに進んだ場所。ランは自分に集中する視線を感じながら、物怖じせずに歩いていく。

 

「何で要塞に子供が……?」

「うぉっ!? るぷすちゃん……!?」

「あ? 誰だそりゃ? ……しかし可愛い子だな。いや本当に可愛い。お前あの子知ってんの? 子役かなんか? 教えてくれ」

「どっかで見たような……?」

「……ゴーレム真っ二つにした子か……?」

「んー? 家族の忘れもんでも届けに来たか? 可愛い娘がいて羨ましいね」

「る、るぷすちゃん!? うおぉ初めて生で見た! SNSで自慢したろ!」

 

 自分に対して無遠慮に語られる言葉の中に“るぷす”に関する物があり、自己顕示欲が満たされる。さすがに万人に知られているわけではないようだが、それでも今までのような無名ではないことが如実に感じられて鼻高々である。

 ランは滞りなく受付を済ませると、更衣室にていつもの装備に着替えて意気揚々とダンジョンへと繰り出した。首輪がかしゃりと音を鳴らす。

 

「配信は……場所的にも時間的にももうちょっと進んでからかな」

 

 ドローンさんを傍らに配しつつ、ランは辺りを見やる。木々が周囲に生い茂る様に、懐かしさを感じる。成り行きから配信を始めたとはいえ、その始まりの場所がこの豊穣の森だった。

 更に進むこと数分、良い感じの場所と時間になった。ランは自らの意識を切り替え、配信者のるぷすへと変わる。なお、美奈からは「……何か変わったの?」と言われ、地味に傷付いたことがある。

 それはともかく、気分も新たに配信開始だ。

 

 

 

「自然の中からおはがるるー。今日はいつもとは違う景色をお送りするよ」

 

 

:おはがるるー

:はじまた

:1コメ

:こんるぷすー

:ひゃっはー! 新鮮なるぷすちゃんの配信だぜー!

:こんばうわう!

:こんる おはがるるかー

:え こんばうわうじゃないの?

:やっぱ時間帯で変化してるっぽいなー

:朝だからおはがるるってことか おはがるるー!

:なるほど おはがるる

:こんるぷす(鋼の意志)

:マンマミー あれミーアちゃんいないの?

 

 

 多くのコメントが流れていく。その中でるぷすの冒頭の挨拶の法則性に気付いた者がいたようで、今後はリスナーの皆も安定して挨拶を返していくことが出来るだろう。なお、るぷすは時々挨拶を間違えるものとする。

 ちなみに中にはミーアがいないことを不思議がる者も居り、どれだけ高頻度でコラボを行っていたかが分かる結果となった。

 

 

:ん? あれ ダンジョン内じゃない?

:何だこれ 山ん中?

:そういや自然の中って言ってたな

 

 

 ドローンさんが映す周囲の様子にリスナーたちが気付く。いつもは重厚な岩壁に囲まれたダンジョンの中なのだが、今回は明らかに野外である。木々が青々と生い茂った、豊かな自然の風景だ。少々豊かすぎるような気もするが、そこはご愛敬。はて、今回の配信はまさかお散歩配信なのか、とリスナーが考えるのだが、一部の者……るぷすの古参ファンが気付いてしまった。

 

 

:……まさか 豊穣の森?

:っ!!?

:────!?

:あわわわわ……!!

 

 

 コメント欄の空気が(極一部で)変わる。他のリスナーは言われてみれば、といった様子であるが、古参のファンたちはそうはいかなかった。

 

「うん、正解。今日は以前の雑談配信でちょっと思うところがあったから、初心に戻るべく初めて配信した豊穣の森に来ました」

 

 そしてるぷすの肯定。古参ファンの脳裏に過ぎるかつての光景。すなわち……トラウマグロ映像である。

 

 

:うわあああああああああああ!!!???

:いやああああああああ!!?

:岩壁に緑色のモザイクが一面に広がったあああああああああっ!?

:ゴブリンが一瞬でつぶれてモザイクが地面いっぱいにいいいいいいい!!?

:助けてえええええええええ!!?

:コボルトが真っ二つになって細長くて赤いモザイクが木に引っかかったあああああああ!!?

:トロールの!! オークの背中からモザイクの塊が噴き出したあああああああ!!!

:うおお何だどうした!?

:え なに 怖いんだけど

:何だ何だみんなどうした!?

 

 

 阿鼻叫喚である。当時の事を思い出した古参ファンたちが悲痛な叫びを上げている。まあ長々と説明口調のコメントを打っている時点で普通に冷静なのだろうが、そこはそれ。トラウマを刺激されたことに違いはないのである。

 

「……まあ、私の普段の配信はそんな感じでグロ規制に引っかかる魔物の倒し方がほとんどなんだけど、それを今後は改善していこうかなって」

 

 

:マジで!?

:グロに怯えなくていいのか!?

:カッコいい戦闘がいつでも見れるってこと!?

:可愛いるぷすちゃんの可愛いところを可愛く拝見して可愛いってこと!?

:↑なんて?

 

 

「うーん……魔物とはいえ生き物を殺すわけだからグロくないわけではないけど。でも、パーンとかは無しの方向で行こうかなって」

 

 

:……言われてみれば

:確かに魔物も生き物か

:まあ結局グロいのはグロいわね

:でも魔物だしなあ

:そうは言うけど魔物は駆除しなきゃでしょうよ

 

 

 るぷすの言葉にコメント欄の熱は冷め、新たに別種の熱が籠った議論が交わされる。人類の脅威である魔物。かつて世界を滅ぼしかけた生きた災害。それを殺害することへの倫理観、道徳心。個々人の認識はやはり違っており、かつての災害から百年が経とうが未だに統一されることはない。

 だが、こうしてダンムーバーが職業として人気を博していることから考えて、魔物に対する認識は生物とはまた違う何かであるというものが多いようだ。それはダンジョンに還元される様や、その際に何らかの素材を落とすことから現実感が薄く、どこかゲームに登場するモンスターに近い認識を持たれているのである。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「さて、それじゃあここから奥に向かって────」

 

 るぷすがコメント欄の意見が失速してきたのを見計らい、先に進もうとした時。

 

 

〈ヴィーーーーーーッ! ヴィーーーーーーッ!〉

 

 

 ドローンさんから、警報音が鳴り響いた。

 

「ドローンさん、案内お願い」

 

 瞬間、るぷすはドローンさんを抱きかかえた。ホログラムで大きく表示されるのは進行方向を示す矢印。るぷすはドローンさんが指し示す方向に、全速力で走りだす。

 

 

:何だ何だ!?

:うおお景色が!?

:警報!? 何だこれ!?

:ドローンさん故障したんか!?

:いや違う 多分これダッケルの救助要請だ!

:救助要請!?

 

 

 コメントにて警報の理由が判明した。るぷすのドローンさんはダッケルとも連動している。救助が申請され、実力的にも問題がない場合には近くの者に救助の要請が入る。今回はるぷすがその救助範囲に入っていたというわけだ。

 るぷすは走る。藪を、木々を、魔物を無視して全速力で突き進む。トップスピードを維持し、ただひたすらに前へと走る。

 

 

:調べてきた とらい☆りっぱーがラミアに襲われたらしい

:とらい☆りっぱーが!?

:よりにもよってラミアにかよ

:豊穣の森のトップ種族やんけ!?

:三人は南の門から少し進んだところに居たらしいからちょっち遠い

:おいおいおい間に合うか!?

:いやそれは……でも速いぞ!?

 

 

 今回の救助要請を受け、リスナーがその出所を調べて来てくれたようだ。とらい☆りっぱーが居るのは南の門付近。確かにドローンさんが表示している進行方向は南西を指している。

 るぷすが走り出してから数分。速度は些かも衰えず、常にトップスピードだ。本来、それは有り得ないことである。人間が全速力で走る場合、トップスピードを維持出来るのは八秒が限界だと言われている。人間の規格から外れていると評される探索者でも、精々一分~三分が限界だ。

 しかし、るぷすはそれを超えて活動が可能だ。()()()()()()()()()()()()()()()()()により、彼女は肉体の限界を超えて活動が可能なのである。無論なんの代償も払わずにいられるわけではないが、そんなものは今は無視だ。

 るぷすは走って、走って、走って────遂に、危機に瀕する三人を視界に収めた。ラミアの蛇体が振るわれようとしている。ドローンさんを手放し、大きく、強く踏み込んで。技も何もなく、ただラミアの蛇体を受け止める。

 ギリギリ。本当にギリギリだが……それでもるぷすは間に合った。

 

「────何とか間に合った」

 

 とらい☆りっぱーの三人を背に庇い、守ることが出来たのだ。

 

 

 

 

 

:え……誰だ!?

:助けが来たのか!?

:うおおおおおおおお!!

:るぷすちゃん!?

:小さい? 子供? 何でこんなとこに!?

:るぷすちゃんキタ!

:ありがとおおおおおおお!!

:いや 子供!? 子供じゃどうにもならんやろ!!

:よけい邪魔になるだろうがふざけんな!!

:こんなときに迷惑系かよ!?

:目立ちたがりの勘違いヤローは引っ込んでろよ!

:やっちまえるぷすちゃん!!

:うおおおおるぷすちゃんだあああああ!!

:るぷすちゃんありがとう! 助かった!

:いや どうやってダンジョン内に入ってきた!?

 

 

 とらい☆りっぱーのドローンが表示しているコメントは混沌としていた。助けが来たことを喜ぶ者、その助けがるぷすだと分かり安堵する者、るぷすを知らずに子供が来たと思い憤慨する者、いわゆる迷惑系ダンムーバーと勘違いする者。るぷすを知る者からは救世主の到着に沸き立ち、知らない者からはただの邪魔者であると認識される。

 ドローンの持ち主であるとらい☆りっぱーの三人に、それに構っていられる余裕はなかった。目前まで迫っていた死神の鎌が、小さな女の子に受け止められているのだから。そして、自分たちを死の運命から救ってくれた存在が“るぷす”だと分かった瞬間、感情が沸き立った。

 

「る────」

「るぷすちゃんだあああああああああああ!!!」

「うるさっ!?」

「ぉわぁっ!?」

「うえっ!?」

「シアッ!?」

「あ、ごごごごめんなさいぃ……!」

 

 理央がるぷすの名を呼ぶ前に、千華の大絶叫が豊穣の森に響き渡った。そのあまりの大声に理央も来夏も、何ならるぷすとラミアすらびくりと身体を跳ねさせた。自らの失態に気付いた千華は身を縮こまらせ、謝罪をするのであった。

 

 

:うるせえ!

:おまっ 耳が!?

:あああああああ!? 鼓膜があああああああ!?

:みみが しんだ

 

 

 とらい☆りっぱーのドローンは己の判断で咄嗟に音を絞る機能は搭載されていなかったようで、千華の大声のせいで多くのリスナーの耳がお亡くなりになってしまったようだ。ちなみにだが、るぷすのドローンさんには当然そういった機能が搭載されている。光量も絞ることが出来るので、たとえ突然スタングレネードが爆発しても問題はないぞ。

 

 

:間に合って良かった

:よっしゃいてこましたれるぷすちゃん!

:ゴーレム真っ二つパンチだ!

:コボルト真っ二つキックだ!

:うーんグロい

:いや……でも大丈夫か?

:あれ るぷすちゃん?

 

 

 るぷすのドローンさんが表示するコメントでは、るぷすの新たな活躍が見られると活気に満ちている。しかし、そんな期待に沸いたリスナーたちも、るぷすの様子がおかしなことに気が付いた。

 そう、今のるぷすは常とは大きく様相を異にしている。

 

「はーっ、はーっ、はーっ、はーっ……」

 

 大きく荒い息遣い。腹式呼吸の為か、肩ではなく腹が息と共に膨らみ、また縮む。全身からは滝のように汗が流れ落ち、地面を濡らす。太腿や脹脛(ふくらはぎ)の筋肉は断裂を引き起こしかけているのか、一部が青く染まり、内出血しているのが見て取れる。

 疲労困憊、満身創痍。そんな状態でも不思議と表情は普段の通り無表情であるのだが、最古参のファンたちでも見たことの無いるぷすの姿に、動揺が広がっていく。

 

 

:おいおいおい大丈夫か?

:めっちゃしんどそう……

:ちょっ これ足怪我してないか!?

:うわマジだ! 内出血してる!

:そりゃ東口からここまで全力で走ってきたらこうもなるか……!

:とらい☆りっぱーの三人を連れて逃げた方が……

:いや逃げられるかこれ!?

 

 

 コメントにも悲観的な意見が増えてきた。それも無理もないだろう。今のるぷすは明らかに戦える状態には見えない。誰もがそう思うだろう。

 ────しかし。しかし、だ。()()()()()()()()()()()とらい☆りっぱーの三人は感じていた。もはや戦えないはずのるぷすから滲み出す闘志を。るぷすの中から溢れてくる巨大な力を。

 

「……お姉さんたち」

 

 るぷすが振り返ることもなく問い掛けてくる。

 

「────ラミア、私が倒しちゃって大丈夫?」

 

 ()()()()()の言葉。獲物の横取りは探索者間ではよく問題に挙げられる、よくある話だ。故にこそきっちりと言質を取っておく。“この魔物は自分が倒す許可を得たのだ”、と。

 

 

:何言ってんだこいつ!?

:その状態でいけんのかるぷすちゃん!?

:流石に無理じゃないか!?

:いいから逃げる邪魔すんなよこのクソガキ!

:自惚れんなよ馬鹿か!

:お前のせいで三人が死んだらどうすんだ!

:るぷすちゃんがそう言うなら大丈夫だな

:何だかんだラミアの動きをずっと止めてるもんな

:しかも左手一本でか……化け物かな?

:は? 何言ってんだ正気かお前ら?

:これが若者の人間離れちゃんですか

:今更過ぎるんだよなぁ

:いや……マジでさっきから動いてないなラミア!?

 

 

 コメントの混沌具合も加速している。るぷすを知る者と知らない者とでの温度差は水蒸気爆発が起きてしまいそうだ。魔物の討伐に関することで、るぷすは嘘を吐かない。倒せるから、倒してよいかと問うたのだ。事実、コメントで指摘されているように、るぷすはラミアの蛇体を左手一本で押さえ続けている。とらい☆りっぱーの三人を屠って余りあるその暴力を、更なる力で完全に抑え込んでいるのだ。

 るぷすの問いに、とらい☆りっぱーが答える。

 

「お願いします!!」

「ん。了解」

 

 

:三人とも!?

:ええええええええ!?

:満場一致で!?

:ちょちょちょどういうことだ

:許しが出たぞー!

:うひょおおおおお! るぷすちゃんがんばえー!

:ラミアをパンパンするんだ!

:パンパン!?

:パンパンはまずいですよ!?

 

 

「でもパーンは無しでお願いします!!」

「あっ、はい」

 

 

:草

:ワロス

:グロはね しょうがないね

:え なに どういうこと?

:よーしお前ら 手の平ドリルの準備しとけー

:待て待てマジで待って!?

 

 

 とらい☆りっぱーの返事にコメントがひっくり返った。三人ともあっさりと小さな女の子の提案に乗ったのだ。それも、どうやら全幅の信頼を寄せているらしい、確信の籠った声音で。更にはちょっとした要望まで付け加えている。

 それは、まるでこの先の未来が分かっているかのようで。既に、とらい☆りっぱーの三人は安心しきっていた。

 

「ふー、ふー、ふー……」

 

 るぷすは荒い息を整えていく。次第に呼吸は落ち着いていき、それに呼応するかのようにるぷすの存在感も高まっていく。

 

「……し、しゅるるるるるるっ」

 

 ラミアが怯えたように舌を震わせる。目の前の小さな存在が、まるで自分を遥かに超える化け物のように見えているのだ。

 

「ふーーーーーー……」

 

 そして、るぷすは長く息を吐いた。瞬間、とらい☆りっぱーは見た。ミーアでは確信を得られなかったるぷすの力の源泉。小さな身体、しかしその正中線上に力強く光り輝く、星々の煌めきを────。

 ばん、と大きな音を立ててラミアの蛇体が弾かれた。ラミアはいかなる攻撃が来ても良いように最大限の集中を以って警戒しているように見える。

 

 

 

「────旋身頸落勢(けいらくせい)

 

 

 

 気付けば、ラミアは己の視界がぐるぐると回転したのを自覚した。回転が止まり、見えた視界は先程までとはまるで違う。弾かれた蛇体、その尻尾の先が見える。蛇体の半ば、そして己の背中……。

 

 ぷつん、と。ラミアの意識はそこで途絶えた。

 

 

 

 

 

「ええ……?」

 

 理央は、目の前で起こった一瞬の光景を受け止めきれずにいた。

 ボス級ゴーレムを一撃で真っ二つにするのだし、強いことは分かっている。しかし、実際に目の前で己がまるで敵わなかった魔物が容易く倒される様を見せられると、どこか現実感が失われているように感じられたのだ。

 ラミアを倒したるぷすの技。それは貧血から霞む理央の目からしても華麗に、鮮やかに過ぎた。

 るぷすはラミアの蛇体を弾いた直後、瞬きの速度でラミアの頭を掴みながら前後に開脚しつつ倒立していた。その体勢のまま脚を閉じながら旋回することで鋭く回転し、ラミアの頭部を一回転半捻じれさせる。更に倒れ込む勢いと身体を抱え込むようにして回転力を高め、その勢いを利用してラミアの脊椎にミサイルのような両脚蹴りを炸裂させた。

 哀れラミアは蹴りの着弾点から()()()()()()()()、派手に地面に沈んだ。るぷすはくるくると抱え込み二回宙返り一回ひねり(ムーンサルト)を決め、とらい☆りっぱーの前に着地。構えたまま残心の姿勢だ。

 ……五秒、十秒。るぷすが残心を解く。ラミアは完全に息絶えたのだ。その一連の流れすら、理央には美しく感じられた。

 

 

:うおおおおおお!!

:さすがやでるぷすちゃああああああん!!

:は? は?

:え どゆこと?

:くるくるドカンと決めてくれた!

:え 死んだ? ラミア死んだ!?

:うえーいるぷすちゃん最高ー!!

:るぷすちゃんに邪魔とか馬鹿とか言ってた奴生きてるかー?www

:足怪我してんのに何で蹴り技なんやるぷすちゃん!?

:足大丈夫か!?

:なんだこれ

:実はドッキリとか

:現実を受け入れろw

 

 

 とらい☆りっぱーのドローンが表示するコメントは、やはり温度差が凄かった。称賛と困惑と、その二つが並んで流れていくのだが、やがて二つの流れは合流し、一つの奔流となる。

 

 

:千華ちゃんたちが助かった

:うわああああああよかったあああああああ!!

:来夏ちゃん死んじゃうかと思った

:理央大丈夫か? 動けるのか?

:みんな生きてて良かった……

:三人を助けてくれてありがとう!

:るぷすちゃんありがとう! とらい☆りっぱーを助けてくれてありがとう!

:とらい☆りっぱー生きてた! 良かったー!

:傷だらけだけど助かって良かった……

:千華全身ボロボロだけど大丈夫か?

:理央は止血出来たのか? それならいいけど……

:とにかく生きててくれてありがとー! 助けてくれてマジでありがとー!

 

 

 とらい☆りっぱーが助かったことへの、喜びの声である。

 ────しかし。千華も、来夏も、そして理央も。そのコメントを打ってくれたリスナーたちには悪いと思いつつも。それらは、頭に入ってこなかった。

 

「────何とか、間に合って良かった」

 

 自分たちを守ってくれたるぷすが見せた、淡い淡い、とても淡い微笑みに、その心を奪われていたのだから────。

 

 

 




何か理央の心情が多いな?

今回出てきた旋身頸落勢ですが、これにもパクリ……リスペクト元が存在します。
それはかつて週刊少年ジャンプで連載されていたプロレス漫画、『A・O・N』という作品の主人公が使う、『ペンデュラム』という技です。
この技は交差した腕で相手の頭を掴んでそのまま倒立し、片方の腕を後頭部側、もう片方を顔面側から開くことで首を捻転させ、更に三メートル以上の高さから倒れ込む勢いを利用して鳩尾を蹴り上げるという、殺意の塊としか言いようのない技です。ノアだけはガチ。

ちなみに私が好きなプロレス団体は『ドラゴンゲート』です。
ドラゴン・キッドの必殺技『ドラゴン・ラナ』を初めて見た時の衝撃と言ったらもう……!

それではまた次回。
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