低身長美少女配信者のダンジョンすくすく成長記   作:タナボルタ

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大変お待たせいたしました。

前回、大ピンチのアイドル『とらい☆りっぱー』を助けました。

ということは、次の展開は……?


第十九話『千華のお願い』

 

「何とか、間に合って良かった」

 

 振り向いたるぷすが見せた淡い笑顔に、とらい☆りっぱーは一瞬心を奪われた。言葉どころか音すら発せられない、思考の空白。いち早く正気を取り戻したのは理央であった。

 理央は思考が白く染まる中、視界すらもどんどんと白く染まっていこうとしており、それが逆に己を取り戻す切っ掛けとなったのだ。理央は自分の頬を叩いて意識を覚醒させ、改めてるぷすに向き直った。

 自分たちは助けてもらったのだ。命の恩人であるるぷすに、まずは礼を言わねばならない。

 

「る────」

「ありがとうるぷすちゃあああああああああああんっっっ!!!」

「っさいわね!?」

「またっ!?」

「うわっ」

 

 しかし、理央の言葉はまたも千華の大声に遮られた。涙を流しながら超人的な瞬発力でるぷすに飛び付いた千華は、ぎゅーっと力いっぱいるぷすに抱き着いた。

 千華の身体は震えている。やはり、ラミアに襲われたのは相当の恐怖だったのだろう。それに気付いた理央は文句も何も言えなくなり、自分たちを守るためにボロボロになった彼女を労わるべく、その背を優しく撫でるのであった。

 

「んー……るぷすちゃん、やっぱ凄いなぁ」

 

 一方で来夏は千華に飛び付かれてもこゆるぎもしないるぷすの体幹の強さに驚くばかりだ。もし自分が同じことをされた場合、恐らくは数メートルは吹き飛ぶことになるだろう。それだけ千華はパワーに秀でている。それを脚を怪我した状態で難なく受け止めるのだから、恐ろしいものだ。

 

「さて、私からもお礼を言わせてもらうわ。ありがとう、るぷす。あなたのお陰で助かったわ」

「うんうん、本当にありがとね、るぷすちゃん。もう駄目だと思ったよー」

「うん。私も頑張って走った甲斐があった。それより二人とも脚の方は……?」

「私はまだ大丈夫だけど理央はマズいかな。ちなみに私が来夏で、るぷすちゃんに抱き着いてるのが千華ね」

 

 理央は座りながら、来夏は加えて軽い言葉で礼を言う。本来ならば失礼に当たるだろうが、今は仕方がない。理央は太腿の動脈が傷付いたせいで出血多量、来夏は酷い捻挫で立つことすらままならない。それに、例え口調は軽くても込められた感謝は本物だ。来夏はるぷすの手をぎゅっと握り、頭を下げる。彼女の目尻から零れた雫を、るぷすは見なかったふりをする。

 背後で息絶えたラミアの遺体が還元される。どうやら今回はドロップは無かったようで、るぷすは人知れず安堵の息を吐いた。ドロップアイテムの所有権については討伐の権利がるぷすに移った時点で自動的にるぷすの物になるのだが、後から難癖をつけてくる者も居る。とらい☆りっぱーの三人がそうだとは言わないが、面倒臭い主張をしてくるリスナーや周辺の人間は往々にして存在する。ならば、騒動の火種は少ない方が良い。

 

「とりあえず理央さんの応急処置をしないと……えっと、千華さん。これで理央さんの身体をカメラから見えないように隠して」

「う、うん……!」

 

 るぷすは理央の怪我が緊急性が高いと判断し、腰から下げたポーチから救急箱とタオルケットをにゅるんと取り出す。タオルケットを受け取った千華はそれを拡げ、るぷすと自分たちのドローンのカメラから理央の身体を隠すように覆う。

 

「ちょっと痛いし恥ずかしいかもだけど、我慢してほしい」

「あー……了解」

 

 理央の傷は太腿の動脈にまで達している。るぷすはまず止血をするために、理央の履いているスカートを脱がせ、長いタオルで股関節をきつく縛る。

 

「あたたたたっ……!? あ、でも血は止まった……」

「ん。あとは傷口を消毒してガーゼを当てて……私じゃ本当に最低限のことしか出来ないから、急いで要塞に戻らないと」

 

 とりあえずの処置を行った後、るぷすは理央の身体をタオルケットで包み、横抱きで持ち上げた。そう、お姫様抱っこだ。これには理央も抗議するが、来夏も歩くことが出来ず、千華も全身ボロボロ。人一人抱えるとなるとやはりるぷすが適任となる。千華には申し訳ないが、来夏に肩を貸して歩いてもらうことになった。

 さすがにそう説明されると理央も納得するしかなく、そもそも大怪我を負っている自分が何を言っても無駄なのは分かり切ったことだ。更なる迷惑を掛けることを謝罪しつつ、るぷすに身を預けていざ出発。そうして軽く雑談などしつつ出来るだけ急ぎ、南門までの道のりを三分の一ほど進んだところで、進行方向から数人の人影が急いでこちらに向かってくるのが見えた。

 

「大変お待たせいたしました! 私たちはダンジョン救護班です!」

「……おお、ありがたい」

 

 人影の正体はダンジョン救護班。ダンジョン内で自分で動けないような重傷者が発生した場合に出動する、要塞に常駐している医療技術を持った探索者資格持ちの職員たちだ。今回駆け付けてくれたのは有志の護衛を含めて九人だった。皆相当に急いで来てくれたのか、大量の汗を流し、息も荒い。

 女性の職員が理央の傷の具合を確認し、るぷすより的確な処置を行い、担架に乗せる。千華に肩を貸してもらっていた来夏も同様だ。千華も担架を用意されたのだが、自分は歩けるからと固辞し、理央たちと周囲の警戒を優先するように頼んだ。

 そうしてるぷすと護衛の二人が警戒しながら道なき道を戻っていく。豊穣の森に道らしい道は()()()()()()()()。基本的には獣道を進んでいくことになる。

 

「……るぷすちゃんが居れば警戒とかいらない気がするなぁ」

「気持ちは分かるわ」

「任せて」

 

 

:いやまあね?

:でもるぷすちゃんも一応怪我人だからな?

:さすがにその発言はどうかと思うぞ!?

:るぷすちゃんも簡単に引き受けないの!

 

 

 来夏の問題発言に、さすがのリスナーたちもツッコんだ。るぷす本人はふんすふんすと鼻息荒く張り切っているのだが、両脚のいたる所が筋断裂一歩手前の状態であるのを忘れてはならない。しかし、それにしては何の支障もなくしっかりと歩けており、救護班も驚いていた。最低限の処置はされたが、誰もが不思議に思っている。

 そして、今まで意図的に意識から追い出していた今回の配信についてるぷすが思い至る。

 

「あの……私もだけど、お姉さんたちも配信中のままになってるけど大丈夫? 救護班の人たちも無許可で映しちゃったし……」

 

 るぷすが申し訳なさそうにおずおずと尋ねる。るぷすの周りには自分のドローンさん以外にももう一台が浮かんでおり、現状を絶賛配信中だ。

 

「あー……いや、ポジティブに考えましょ。こうして配信してる方が私たちの無事を証明出来るとかそんな感じで」

「私たちも別に問題ありませんよ。今まで配信中のダンムーバーの方を何人も救護してますから、今更です」

 

 

:あ 確かにこの方がありがたいかも

:大怪我したとはいえこうして話してるところを見ると安心出来るもんな

:救護班の人たちも色々と大変だなぁ

:……むしろ救護班の配信を見てみたいかも

:普段の仕事の様子とか確かに気になる

 

 

 リスナーたちの反応も肯定的な意見がほとんどだ。中には救護班の活動に興味を持った者も居たのか、そちらに焦点を当ててほしいという要望も出ている。

 と、ここで担架に乗せられて少し暇になった来夏がるぷすに問いを投げかけた。

 

「るぷすちゃんさ、あのラミアを簡単にやっつけちゃったけど……何かこう、コツとかあったりするの? 私らの攻撃は全然通らなくてさー」

 

 

:俺も気になるー!

:来夏のナイフは鱗に弾かれちゃったもんな

:やっぱ魔物は硬いわ

 

 

「ふむ」

 

 るぷすは(おとがい)に指を当て、空を見上げながら考えを纏めていく。その姿にリスナーたちは吐血をしたり心臓マヒを起こしたり、とにかく死屍累々(笑)と言った様相を見せているぞ。

 

「とりあえず慣れるまではラミアの蛇体は狙わない方が良い。蛇体の動きは不規則で慣れないと先読みしづらいし、何より筋肉の塊だからパワーは抜群。当然スピードもあるし、防御に至っては強靭な筋肉に頑丈な鱗と()()()()()で盤石。C級トップクラスの魔物は伊達じゃない」

「うむむむむ……」

 

 るぷすの言葉に来夏は唸り声を上げるばかりだ。情報を聞かされれば聞かされるほどに理不尽だと強く感じる。ただでさえ頑丈な鱗を持っているのに、更に魔物の特性でより堅牢になるのははっきり言って反則だ。

 ────魔物の特性。これはラミアだけでなく、全ての魔物が持つ特有の生態だ。これは自然界に存在する、とある法則に酷似している。

 それは、ダイラタンシー現象(レイノルズ現象)

 1885年にオズボーン・レイノルズによって発表された論文で提唱された現象だ。この現象を簡単に表せば、粒子と液体が混ざった流体に強い力を加えると、固体のように固くなることを指す。防弾チョッキに採用されるほどの耐衝撃性能を誇る現象だ。

 魔物の身体では、これに似た現象が起こるのだ。魔物の身体は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。身体に強い衝撃が加えられた際に浸透していた魔力が細胞から押し出されることで隙間が埋まり、摩擦を生む。それが強固な防御力を発揮するのだ。

 とはいえ、魔物も生物であるが故か本来のダイラタンシーと比べ、劣っている部分がある。特に顕著なのが防刃性能に欠ける点だ。刃物による斬撃、刺突などにはあまり効果を発揮しない。るぷすが腰に大振りのサバイバルナイフを提げているのもこの為だ。

 しかし、ラミアの蛇体にもこの特性が発揮されるとなると、もうお手上げ状態である────とも、限らない。

 

「だから、狙うのなら蛇体じゃなくて上半身の人型の方。あそこの防御力は蛇体に比べるとかなり貧弱。体感でゴブリンよりは硬いけど……オークやトロールよりは柔らかいかな?」

「え、ホントに?」

 

 

:そんな柔いの?

:狙い目は上半身か……

:つってもオークもトロールも筋肉モリモリでけっこう硬いからなぁ もう少し詳しく知りたいな

:それにラミアって基本的に長いし身体を持ち上げられたらマズくね?

:確かに個体によっては攻撃が上半身まで届かないこともありそうだ

:うーん……微妙に参考にならない

:とらい☆りっぱーにはかなり重要な情報であることは確かなんだけどね

 

 

 るぷすから情報を得たことで楽勝になる、とはいかないようだ。やはり基本的な実力が不足している。とらい☆りっぱーは探索者としてもアイドルとしてもまだまだ新参者。筋は相当に良い方ではあるのだが、どちらも修行が足りていないのだ。

 

「……」

 

 千華は一人考える。とらい☆りっぱーはアイドルである前に探索者だ。そしてより高みを、強さを目指す武芸者でもある。動画の、そして生で見たるぷすの強さに千華の心は昂っていた。最近感じていた武の伸び悩み。それを解決することが出来るのではないか、と。

 

「……あ、あのー。るぷす、ちゃん」

「ん? どうかした、千華さん?」

 

 早速千華がるぷすに声を掛ければ、るぷすは首をくりんと動かして千華を見上げる。身長差は三十センチメートル以上、頭一つ分以上の差だ。その小動物染みた仕草に千華やリスナーたちのハートは重機関銃でぶち抜かれていくが、千華は何とか奇声を上げるのを押さえ、るぷすにとある“お願い”をする。

 

「えっと……ね? もしるぷすちゃんが良ければなんだけど……私たちに、稽古をつけてほしいな、って思って」

「いいよ?」

「うん。あの、本当に出来ればでいいんだけど、るぷすちゃんの強さを見て凄いなって思って、それでね?」

「いいよ?」

「だからるぷすちゃんに色々教えてもらいたいなって思って……あ、もちろん断ってくれても全然大丈夫なんだけどね!? るぷすちゃんに迷惑かけたくないし!」

「いいよ?」

「ちょっと千華……」

「ぶーぶー、私ら置いてけぼりー?」

 

 

:千華ちゃ-ん? そろそろ気付いてあげて?

:相手の返事はちゃんと聞きなさいよ!

:即答草

:理央ちゃんの呆れ声かわいい

:ぶーたれる来夏ちゃん好き

:しかし千華がこういう風にわがままというかねだってるのを見るのは初めてだな

 

 

 千華はるぷすにお願い事をすることでいっぱいいっぱいになり、返事を聞く余裕すらないのか、ひたすらに言葉を重ね続けている。そんな千華の様子に理央は呆れ、来夏は自分たちの意見を聞かずに話を進めている千華にブーイングをする。

 るぷすは目をぐるぐるとさせて未だに自分を誘ってくる千華の服の裾を引っ張り、気を引くことで何とか正気に戻す。

 

「千華さん千華さん」

「それで時間とかも出来る限り融通────はっ!? あ、ご、ごめんねるぷすちゃん! 私、何か暴走しちゃって!」

「ううん、問題ない。あと、千華さんに稽古をつけるのも大丈夫」

「えっ、ほ、本当!?」

「うん。それで来夏さんたちは……?」

 

 とりあえず正気に戻った千華に了承の意を返するぷす。そして勝手に巻き込まれてしまった来夏たちに目をやれば。

 

「あ、じゃあ私もお願ーい。なーんか最近調子出なくってさー、ここらでいっちょ鍛えようと思ってたんだよねー」

「まあ、鍛えてくれるのなら私もお願いするわ。ラミアとの戦いで何も出来なくて悔しかったし」

 

 

:るぷすちゃんが三人の師匠に!?

:ピンチのアイドルを助けて師匠になる! 王道だな!

:三人とも探索のモチベ高いな

:アイドル活動もあるのに大丈夫なんか?

:テンプレ展開キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!

:それ言ったらるぷすちゃんも学校あるしな あんまり時間は取れないんじゃないか?

:そんなことより怪我を治すことに専念してほしいんだが……

:みんなボロボロだしな

 

 

 るぷすが他二人に確認を取れば、何とも意欲的な答えが返ってくる。美少女アイドルとして正しいかは定かではないが、彼女たちは探索者兼アイドルのとらい☆りっぱー。これこそがその名に相応しい意識なのである。

 

「それじゃあ話を詰めるのはまた今度で。今は三人の帰りを待ってる人たちに無事な姿を見せてあげないと」

 

 そう言ってるぷすが視線を前にやれば、いつの間にか辿り着いていたのか、豊穣の森の南門が見える。要塞にはとらい☆りっぱーのマネージャーが三人の帰りを今か今かと待っていることだろう。

 

「あー……マネちゃんに謝んないと」

「流石に今回は心配かけ過ぎたわね……」

「……あれ? あの、二人とも、マネージャーに連絡した? 私のスマホは壊れちゃってて出来てないんだけど……」

「………………あっ!?」

「あらら」

 

 

:おっと?

:これはやってしまいましたね

:配信中だから無事なのは分かるだろうけど……

:帰ったらお説教ですね分かります

:んなことよりまずは号泣しながら縋り付いてくると思うぞ

:マネージャーの三人の溺愛っぷりは有名だからなぁ……

:ま でも嬉しいことじゃん そんだけ大切にされてんだから

:誠心誠意謝らないとな

 

 

 三人はマネージャーに無事の連絡をするのをすっかりと忘れていたらしく、揃って焦りだした。これにはるぷすも無表情に苦笑いである。無表情に苦笑いって何だ。

 ダンジョン探索において、怪我は避けられず、また命を落とすこともままある話だ。とらい☆りっぱーもるぷすの助けがなければ、あのままラミアに殺されてしまっただろう。しかし、とらい☆りっぱーは怪我こそ負ったものの、生きて帰ってくることが出来た。それは当たり前ではなく、きっと特別なことなのだ。

 そして、とらい☆りっぱーはその“特別”を“当たり前”にしなくてはならない。その為に強くなろうとしているのだ。────しかし。

 

「どどどどうしよう……!? 拘束とかされちゃうんじゃ……!?」

「いや流石のマネちゃんもそこまではしないと思うけど……」

「怪我が治るまではそれも覚悟しないとじゃないかしら? まあ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ────その弱さも、悪いものではない。

 

「とりあえず配信はここで終わろうかな? またSNSで報告するから、それまで待っててね」

 

 

:仕方ないわね

:るぷすちゃんも安静にしなよ?

:しょうがないことだが推しの怪我は辛いのぜ……

:みんなしばらくは活動休止かな?

:探索者によっては大怪我しても復帰がやたらと速い人もいるけどな

 

 

 るぷすは、そしてとらい☆りっぱーはそれぞれの配信を終える。南門を潜れば、また日常に帰ることが出来る。それは当たり前だが特別なことだ。

 そんないつも通りを続けるために。今日の弱さを糧に、明日は強くなる。

 

 

 




ああ、次は師匠ポジだ……。
アイドルを助けたら師匠ポジに収まる。今やこれは常識!!
しかし別にトップアイドルとかではなく弱小新参アイドルという……とらい☆りっぱーの世間的な評判なんかは次回辺りに。

それではまた次回。
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