低身長美少女配信者のダンジョンすくすく成長記 作:タナボルタ
土曜日に
そこはとあるグループ会社系列に所属する女性アイドルグループ、女性タレントたちの総称である“チャオ!プロジェクト”が看板であり、日本を代表する芸能プロダクションの一つである。
本日、ランは先日の礼と今後の打ち合わせを兼ねてお呼ばれされたというわけだ。ランでも知っている芸能人に会えるかも知れないということで、少しワクワクとしながらランが足を運ぶこととなった。
なお、ランが学校の方に休みの連絡を入れたらそれはもうあっさりと許可が出た。電話の対応をしてくれたのは担任ではなかったが、例え担任が出たとしても結果は同じであっただろう。────
さて、ランは訪れる場所が場所ということで、今日はちゃんとお洒落をしてきている。
黒字にシルバープリントのTシャツにガーターベルト付きのショートパンツを合わせ、ボーダーのアームウォーマー、ルーズソックスに厚底のスタッズスニーカーという取り合わせ。いわゆる地雷系コーデで纏めている。いつも付けている黒いチョーカーも雰囲気にぴったりだ。
全体的に黒で統一された衣服は、ランの白にも近い銀の髪をより美しく映えさせ、白磁の肌をより強調させる。ちなみにだがTシャツのプリントは、ランの好きなアニメ作品である“
「……今更だけど、こんな格好で良かったのかな?」
ランは少し後悔し始めていた。「やはり無難に学校の制服の方が良かっただろうか? しかし制服で歩いていて補導されてしまっては学校にも迷惑が掛かるし……」と。そう考えることが出来るのならば、なぜ地雷系コーデに手を出したのか。
チラチラとビルの入り口を見やり、数分。意を決したランは何食わぬ顔で入館し、受付へと足を運んだ。こういう時に無表情は便利である。
「……いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件でしょうか?」
さすがは一流の芸能事務所。ランの外見年齢にも惑わされず、受付のお姉さんは丁寧な対応をしてくれる。
「えっと、今日の九時に
「はい。お話、承っております。連絡いたしますので、少々お待ちください」
受付が内線を掛けて数分。受付からほど近いエレベーターからとらい☆りっぱーのマネージャーであり、今日会う約束をしていた須賀と、そして千華が迎えに来てくれた。
「あれ、千華さん?」
「るぷすちゃんだー! へー、るぷすちゃんってそういう服も着るんだ!? うんうん、凄く似合ってるよー! 可愛いーっ!」
「ぅわあ」
千華はランの顔を見るなり、超人的瞬発力でランに抱き着いた。ぎゅーっと抱き締められ、身体が宙に持ち上げられる。もちろんランの頭部は千華の胸に収まっているぞ。
「ちょっと、千華! そういうことはしないようにって言っておいたでしょう!」
「はっ!? ご、ごごごごめんねるぷすちゃん。ついついるぷすちゃんが可愛くて暴走しちゃって……」
「大丈夫」
「まったくもう……」
須賀から叱責を受け、千華はランを地面に下ろして頭を下げる。ランとしては別に気にしていなかったが、恩人に取る態度ではない、と須賀が千華に言い聞かせている。どうやらランが思っていたよりも、須賀は恩に着てくれているらしい。
「……あの、入館の際にはこちらの入館証をお掛けください……」
「あ、ありがとうございます」
ほったらかしにされていた入館の手続きは、こうしてつつがなく(?)終了し、ランは須賀たちに案内され、複数ある会議室の内の一つに通される。そこには先日知り合った理央と来夏の二人が待っていた。
「おー! るぷすちゃんだ! この前はありがとねー!」
「いらっしゃい、るぷす。千華に抱き着かれたりとかしてない?」
元気よく手を振る来夏に、控えめに声を掛ける理央。対照的な二人だが、しかし共通するところがあった。
「理央さん、来夏さん。……二人ともジャージなんだ?」
「そういうアンタは随分お洒落してきたわね。……そういうのも着るんだ?」
「地雷系ってやつかー。なんか意外」
そう、二人ともジャージ姿である。えんじ色の、上下揃い。とても今をときめくアイドルが着るような物には見えない。
「いや、この土日ね? 傷の療養で着替えるのとかめんどくさいから学生時代のジャージを引っ張り出したんだけど……これがもうすんごい楽でさ」
「それに精神的にもこう、何というか……だらけるってわけじゃないんだけど、ね」
顔を赤らめて言いにくそうにしているが、とにかくのんびりと過ごすことが出来たようだ。見る限り
挨拶を終えた二人は千華、そして須賀と共に横一列に並ぶ。その様子にランが首を傾げていると、四人は一斉に頭を下げた。
「この度は私たちを助けていただき、ありがとうございました」
四人からの心からの感謝に、ランは目を見開いた。当然のことをしたまでだと思う。気にしないでいいのにとも思う。しかし、それは違う。それは自分の思いであり、考えであり、それを相手に押し付けるのは違うだろう。
ランの胸に去来するもの、その正体は分からない。言語化が難しいが、ただ、胸が温かくなったと、そう感じる。だから、ランが言うべきは一つ。
「────どういたしまして」
ランは、感謝の言葉をありがたく受け取るのだった。
「それにしても、千華さんたちってチャオプロの所属だったんだね」
今後の打ち合わせも終わり、ホッと一息入れる休憩時間。今は席を外している須賀が淹れてくれたお茶を飲みつつ、ランはそう呟いた。
「……やっぱり知らなかった?」
「……私、アイドル、詳しくなくて」
「あはは! そんな気にしなくていいよー? 知名度が低いのは分かってるからね」
お目々どころか顔ごと背けて言うランの言葉に理央がからかい半分に尋ね、来夏が笑ってフォローする。実際、とらい☆りっぱーの知名度はまだまだ低い。探索者界隈やアイドル業界では有名であるが、一般的な認知度はそれらに遠く及ばない。
しかし、とあるネットでの調査ではとらい☆りっぱーは不名誉なランキングに名を連ねている。
子供に知っていてほしくないアイドルNO.1!!
子供に憧れてほしくないアイドルNO.1!!
PTAが嫌いなアイドルNO.1!
……という、負の三冠王だ。尤も、どのランキングも票数が100未満であり、しかも投票者がほとんど被っているため信憑性は低いと言える。だが、とらい☆りっぱーを調べるとこの結果が表示されることもあるため、それを見た者にそう言った印象を与えることには成功してしまっているだろう。しかし、とらい☆りっぱーはその評価を気にしない。
「うちらって事務所の先輩たちからも煙たがられてるからね」
「……そうなの?」
「まあ探索者やりながらの活動だから、そこは仕方ないわよ」
探索者とアイドルの両立、それは難しいことだ。事実、三人はアイドル活動よりも探索を優先して動いている。怪我は治ったとはいえ、三人の豊穣の森での活動はアイドルとしての意識を欠いたものだっただろう。アイドルファンからそういった意見もいただいているし、事実、彼女たちもそれは痛感している。
もちろんそういった者が全てではなく、事務所の先輩の中には三人の歌やダンスの練習に真摯に付き合ってくれる者も居る。ただ、そうではない者も居る、ということだ。
「実際探索者の片手間に……って言われても仕方ないんだよね」
「これでも練習はちゃんと頑張ってるのよ? ただそれはそれとしてアイドルとしての仕事が少ないから探索に行ってる感じだし」
「私たちもこのままじゃダメだ! って考えて、バラエティー番組みたいな感じで豊穣の森を色々と紹介しようとしたんだけど……」
「それでラミアに?」
「うん……」
何とも間の悪いことだ。本人たちも現状から脱却しようと頑張っているようだが、どうにも噛み合わないらしい。一応途中までではあるが、豊穣の森を紹介する配信は中々に感触は良かった。ラミアに襲われるまではマネージャーの須賀も今までにない手応えを感じていたほどだ。……まあ、アイドル的な手応えかどうかと問われれば、口を噤んでしまうかもしれないが。
「……なら、そんな状態で私と稽古するのはまずいんじゃ?」
「いや、実は稽古とか練習の配信は好評なのよ。ただダンジョン配信がちょっと、って感じで」
配信の数字で見れば、ダンジョン探索の再生数はそんなにであるが、稽古中や歌やダンスの練習配信に関しては驚くほど数字の伸びが良い。探索と比べても数倍の規模にもなる。そこも探索者兼アイドルとして難しいところだ。
「私たちのせいでチャオプロ不仲説が出るんじゃないかって毎日不安だよねー。あっはっは!」
「笑いこっちゃないんだけど?」
「でも何人かにはマジでビビられてるじゃんかー」
「それは……私たちが元々は探索者なんだから仕方ないよ」
「………………」
三人の語るアイドル事情。何気なく語られるそれを前に、ランは知らず俯いていた。
コップの中のお茶に、自分の顔が映る。いつもの通り、無表情の美少女だ。
────探索者だから、仕方ない。
そう。ランは探索者だ。だから仕方ない。魔物を倒し、殺し、屠り。それを配信に流す
しかし。だからといって割り切れる程……ランは無感情な人間でも、大人でもなかった。
「────なあ、大神の配信見たか?」
朝の始業前の時間。クラスメートの男子が友人にそう話し掛けている。
「見た見た! やばかったよな、あのラミアを倒した技!」
「よく間に合ったよね、大神さん。本気出したらあんなに足速かったんだ」
「しかし怪我してたみたいだけど、大丈夫なんかな? すげえ内出血してたけど」
「痛そうだったよね」
クラスの皆が、ランの配信について語り合っている。
「アイドルの……とらい☆りっぱーだっけ? 助かって良かったよね」
「実は俺、三人のファンなんだよな……大神にはマジ感謝だわ」
「そういえば私、大神さんが笑ってるところ見たの初めてかも」
「めっちゃ可愛かったよねー!」
「うんうん! 可愛かったー!」
それは、私が見たかった光景だ。いつか、見たいと思っていた光景だ。
「チャンネル登録者数もすげえな……三十万近くまで増えてる」
「マジで!? もう有名人じゃん!」
「とらい☆りっぱーってチャオプロのアイドルだろ? 俺らもアイドルに会えたりしねーかな」
「今回のことで可能性はあるかもな」
「いやないでしょ」
私はその光景を前に。
「いや、ワンチャン! ワンチャンあるんじゃないか? 俺らは大神のクラスメートなんだし!」
────
「あの、湖水さん。大神さん経由でサインとか貰えたりしないかな?」
「……さあ? 本人に聞いてみれば?」
「えっ……いやでも、それは……ほら、私、あんまり大神さんと親しくないし」
美奈に話しかけた女子生徒は、じろり、と美奈の強い視線にたじろぎ、何も言えなくなる。美奈の冷たい声、言葉、雰囲気。それは次第にクラス中に蔓延し、やがて教室は静寂に包まれた。
「……な、なあ。どうしたんだよ委員長? 何かあったのか?」
男子の一人が話しかけるが、美奈は言葉を返さない。イライラを誤魔化すように、机を爪で叩く音が響く。
「何だよ、あれか? 大神がまだ来てないのが気になってるとか?」
「そういや配信で千華ちゃんに抱き着かれてたし、それも関係あったりして!?」
茶化すような言葉に、何人かが思わず笑い出すが、それもすぐに収まる。美奈が本気で怒っていることにようやく勘付いたのだ。
「あー……大神のことか? 俺らが話してんのが気に食わないとか……」
「……いや、そのくらいいいじゃんかよ。クラスメートなんだし」
机を叩く爪の音が止まる。
「そうね。……随分都合が良いこと言うのね? 今まであの子を散々無視してたくせに」
「……それ、は」
「アイドルと繋がりが出来た途端に
美奈の言葉に誰もが言葉を詰まらせた。それは誰も言い返しようのない事実。あの配信を見て以降、誰もがランに話しかけるようなことをせず、避けるようになった。
仕方のないことだ。ランの魔物の倒し方は苛烈が過ぎた。一切の躊躇なく、魔物とはいえ生物を破裂させていく様を見れば、誰もが恐怖しても仕方がない。
美奈も、
だが、先の光景は。ランの心を踏み躙るようなそれは、美奈の心は許し難かった。
「そ、そんなマジにならなくても……」
「マジになるに決まってるでしょ。あの子は私の親友で、私とお姉ちゃんの恩人なのよ?」
「……それ、は……い、いやでも!
「────────────」
咄嗟に出たのだろうその言葉。それを聞いた瞬間、美奈の中で、何かが切れた。
「……ふ。ふふ、ふふふふふ……!」
どうしてだろうか。何もおかしくなどないのに、笑いが零れる。胸が冷え、頭に沸騰した血が上り、一瞬目の前が白くなる。
美奈の様子に誰もが戸惑い、声を掛けることも出来ない。
バンッ!! と机を叩き、美奈は席から立ち上がる。
「……気にしてない? ああ、そう。アンタらにはそう見えるんでしょうね……」
机に置いた手が震える。ゆっくりと握り締められていくが、震える爪のせいでカリカリと音を立てる。爪が割れてしまいそうなほどに力が込められたそれは、何に対する怒りなのだろうか。
「……いつも無表情のあの子が……普段感情を表情に出さないあの子が……!! 仲が良かった子たちからも無視されて……!!
その声は、小さかった。小さかったが、誰の心にも刺さった。
あの動画を見るまでは、クラスメートの仲は良かった。マスコット扱いに近かったが、それでもランは皆と打ち解けていたのだ。
しかし、たった一つの切っ掛けで全ては狂った。
「……っ!!」
美奈は自分の周りに居た生徒たちをかき分け、教室を出た。誰も美奈を追いかけようとはしない。美奈の表情に、声に、言葉に、そして涙に。誰もが打ちのめされていた。
「……んだよ、感じ
誰かがぽつりと呟く。
「……いや、感じ悪いのは────俺らの方か」
それは、皆の心を代弁した呟きだった。
────そして、一連の流れを見ていた者が、もう一人。
「……」
教室の扉に背を預ける妙齢の女性。ランのクラスの担任教師、仲間である。
仲間は新任教師だ。だというのに、いきなり一年の担任を任され、右往左往の日々。そんな中、ランが探索者になったことが分かり、その対応にも追われることとなる。
はっきりと言ってしまえば探索者など関わり合いになりたくない職業の一つである。魔物を退治してくれるのだからありがたい職業であることは確かだが、だからと言って魔物を屠れる人間が近くに居るというのは、精神衛生上良くはない。有体に言えば恐ろしいのだ。
ましてや、あんな殺し方をするような人間ならば、なおさらである。
あの動画を見た日、仲間の心は折れた。ランが魔物よりも恐ろしい何かに感じられたのである。
それは仕方のないことだ。しかし、今更になってこうも思う。
────ちゃんと話を聞くべきだった、と。
仲間も二回目の雑談配信の切り抜きを見たのだ。そこで、ランは確かに言った。魔物を倒すには、それが一番確実だからと。そしてこうも言った。グロテスク規制を無くすために、倒し方を考えると。
どちらも、話を聞けば簡単に答えてくれる内容だった。そして改善を約束出来る内容だったのだ。
簡単なことだったのだ。まず、話を聞けばよかっただけなのだ。どうしてあんな倒し方なのか? 他にやり方はないのか?
自分がまずやるべきことは逃げることではなく、まずランの話を聞いてやることだったのではないか?
「……っ」
仲間は大きく息を吸い、扉に手を掛ける。美奈のことも気になるが……申し訳ないが、副担任に任せよう。極々簡易ながら、既にメッセージを飛ばしておいた。
ガラリ、と扉を開け、教室に入る。生徒の視線が自分に集中するが、仲間はそれを意図的に無視し、教壇に立つ。
そして、皆の顔を見回し────。
「……みんなに、お話があります」
その瞳には、決意が宿っていた。
お疲れ様でした。
ひぃ……!
予定ではこんな難しい話を展開するつもりじゃなかったのに……!
でもいつかはやらなきゃなんだから今の内にやっておいた方が傷は浅くて済むはず……!
主人公君。
性格は熱血王道系で、妹のために頑張る好青年。可愛い彼女がいる。
最終的には血の繋がった実の妹と結ばれる。地獄と同化した地球においてたった二人の人間であり、暗黒のアダムとして君臨する。
妹ちゃん。
大人し目でブラコン気味の妹。人気投票NO.1。主人公とその彼女の仲を応援していた。
最終的には血の繋がった実の兄と結ばれる。地獄と同化した地球においてたった二人の人間であり、暗黒のイヴとして君臨する。
ラン(視聴者)
最終回の怒涛の展開の連続に、視聴後一時間くらい頭を抱えた。
その後配信で感想をリスナーと語り合い、何だかんだ楽しい時間を過ごした。
リィン=フォーンいいよね……。いい……。