低身長美少女配信者のダンジョンすくすく成長記 作:タナボルタ
メガシャキとメスガキって似てるよね(クソみたいな主張)
それではまたあとがきで。
「………………」
とらい☆りっぱーとの打ち合わせが終わり、自宅に帰ってきて早数時間。現在時刻は十九時を少し過ぎたところ。ランはリビングの椅子に座り、ボーっと天井を眺めていた。
テーブルには飲みかけのコーラが入ったコップが置かれており、既に氷も解け切って温く、薄くなっている。
そんな折、来客を告げるチャイムが鳴り響いた。
「……? はーい」
相手に聞こえる訳もないというのに返事をし、インターホンの画面を見る。と、そこには通っている学校の担任教師である仲間と、美奈の姿があった。
「こんばんは。仲間です」
「……こんばんは。どうしたんです、こんな時間に? それにいいんちょも」
インターホン越しに聞こえる仲間の声は、どこか低く、沈んでいるように聞こえた。みれば美奈も顔を俯かせており、何か落ち込んでいるように見える。
「すみません、大神さんに少しお話がありまして……。お邪魔してもよろしいでしょうか?」
「……分かりました。ちょっと待ってて下さい」
ランは二人の様子に首を傾げながらも玄関へと向かう。ドアを開けた先には確かに二人が居た。やはり二人ともどこか様子がおかしく見える。
「えっと、中にどうぞ」
「ありがとうございます。……すみません、連絡も無しに」
「……ありがと」
来客用のスリッパを用意し、ランは二人をリビングへと案内する。とりあえず椅子に座ってもらい、コップに麦茶を入れ、二人に渡す。仲間は礼を言い、一息にお茶を飲み干すと、大きく息を吐いた。美奈はお茶を受け取るとしばらくそれを見つめ、やがて口を付け、少しづつ、しかし全てを飲み干した。
「お代わりは……?」
「私は大丈夫です」
「……お願い」
ランは美奈にお茶のお代わりを入れ、自分も席に着く。話があるとのことであるが、一体どのような話であるのかランには見当がつかない。考えられるとすれば先の豊穣の森での配信であろうかと当たりを付ける。
「……大神さん」
「はい」
色々と考えを巡らせていると、仲間が立ち上がり、ランへと向き直る。どうして立ったのだろうと思い、自分も立った方が良いかと腰を上げようすれば、視界には予想だにしない光景が入ってきた。
それはクラスの生徒たちにも、そして美奈にも驚かれた行為であった。どうしてだろうか、などと仲間に考える余裕は存在していない。これは、
「────この度は、至らぬ私のせいで大神さんの学校生活に多大なご迷惑をお掛けしてしまい、大変申し訳ありませんでした……!!」
「………………えっ?」
仲間が、頭を下げて謝罪の言葉を口にしたのだ。
「え……えっ、先生、一体どういう……?」
ランはなぜ仲間に謝られているのかが分からず、戸惑うばかりだ。仲間の身体は震えている。本当に、ランに対して申し訳ない気持ちを全身に湛えているらしい。
「私は……私は、大神さんがクラスの中でどのような扱いを受けているのかを知りながら、それをずっと放置していました」
「……あ、……っ、ん」
「大神さんが、どれほど心に傷を負うかなんて、考えもせず……! わた、私は……大神さんから、逃げてしまっていました……!!」
「……」
それは仲間による罪の告白だった。懺悔の言葉を前に、ランはようやく仲間が家へと訪れた理由を理解した。
「……逃げた、っていうのは……?」
心当たりはある。あるのだが、それはランにとって謝るようなことではないと考えている。だから尋ねた。
「……私は。私は……大神さんが、怖かったんです……!」
「……私が、魔物をあんな風に倒してたから?」
「……っ! ……はい」
ランの問いに仲間は身体を小さく跳ねさせ、震え、しかしはっきりと頷いた。
「先生が怖がるのは仕方ないと思うけど……」
そう。ランもそこには何の疑問も蟠りもない。当たり前だからだ。魔物を素手で破裂させるような人間が自分の近くに居て、怖くないはずがない。それは誰だって同じ。そう、
────しかし。
「湖水さんは違いました」
美奈は違った。否、違うというのは少々語弊がある。
「湖水さんは、大神さんを“恐怖”していても、“別の感情”がそれを上回っていたんです」
美奈は他のクラスメイトたちとは事情が違う。美亜という探索者の姉が居る。元々探索者というものに理解があり、
ランは美奈の友達だ。親友なのだ。確かに魔物を殺している時のランは恐ろしい。しかし美奈はランが恐ろしいだけの存在ではないと知っている。自分を美少女と言って憚らず、数学が大の苦手であることを密かに気にし、アニメや漫画が大好きで、実は寂しがり屋で、ちやほやされるのが好きで、割と俗っぽい性格なのを知っている。
感情が表情に出にくいが────心優しい少女であることを知っている。
「……私は、大神さんともっと話をするべきでした。あの動画が拡散された時、クラスのみんなと話をするべきでした。大神さんと話をするべきでした。……それからも、私は逃げてしまったんです。大神さんと話をして魔物の倒し方や配信について、クラスのみんなと大神さんの探索についての理解を得るために話し合い……今になってああすればよかった、こうすればよかったって、頭を過ぎって……!! もう、取り返しなんてつかないというのに……!!」
仲間の双眸から涙が零れ落ちる。過ぎてしまったことはどうにもならない。過去は覆らない。
「……それは、私も同じ」
ランは仲間に親近感を覚えた。あの動画が拡散された時、ランは
「私はみんなが私の動画を見てるのを見て、みんなと仲良くするのを諦めた」
「え……?」
「……っ!」
ランの言葉に、仲間が呆けたように顔を上げる。美奈は当時の事を思い出したのか、唇を強く噛み締めた。
「だって、仕方がない。私はそれが確実だからって、残酷な方法で魔物を倒してた。みんなに怖がられても仕方がない。とらい☆りっぱーの三人にも怒られた」
「とらい☆りっぱーに……?」
「うん」
美奈の疑問にランが答える。
それはとらい☆りっぱーとの打ち合わせも終わった休憩時間。ランは三人が事務所の一部の先輩たちに怖がられていると聞き、それについて話を聞いていた。
「……ってわけでさ、絶対に近くに寄ってこないんだよね」
「……」
明るい口調で話す来夏に、しかしランは言葉を紡ぐことが出来ない。彼女が浮かべる笑顔の中に、自分と同種の寂しさを見出したからだ。
「……るぷすちゃんも、そうなの?」
千華の問いに、ランは咄嗟に答えを返すことは出来なかった。惑い、迷い、天井を見上げて……やがて、ランは現状を三人に話す。
ランの学校での扱いを聞いた三人は揃って難しい表情を浮かべる。その中で、理央はガリガリと頭を掻くと、テーブルに肘を置き、ぐっと体重を掛けてランへと向き直る。
「あー、ちょっと厳しいこと言うけど……いい?」
「うん」
理央は頭痛を抑えるように頭に手をやりつつ、溜め息交じりにランを
「アンタ、
「……うん」
舌鋒鋭い理央の言葉に、ランは痛みを呑み込むように頷いた。
「まあ、今はちゃんと分ってるようだからあんま言わないけど……あんな魔物の倒し方を見られたらそりゃあ当然ね」
「理央ちゃん」
「んー……いやでも理央の意見も間違ってはないからなぁ。人に見せる、人に見られるってことをちゃんと意識しなかったから今こうなってるわけだし」
当たり前であるが、配信とは自分だけで完結する物ではない。他人に見せる、他人が見る、それらがあってこそ成り立つのだ。
ランは元々成り行きから配信をすることとなった。そこで深く考えるべきだったのだ。
ダンジョン配信は今では当たり前に行われていることであるが、魔物を素手で破裂させるような人間が自分の隣に居る。そのことを理解したクラスメイトが自分を見てしまった時、どういった感情を持つのかを。
ランはそれを怠った。
「理央さんにそう言われた時は……やっぱりプロというか、見られることへの意識の高さの違いを思い知らされたって感じた」
「……」
「あの時のみんなの私を見る目、それを見た時……“これは無理だな”って思った。そういう意味では、私はみんなから逃げた……んだと思う」
俯きながらランは仲間へと当時から今なお続く逃避を語る。クラスの皆と話をして理解してもらおうとは考えなかった。皆が自分をどう思っているのか、それを口に出されるのが怖かったのだ。
────その怖さが、ランの最近の配信への熱意に繋がっているのだろう。要請があったとはいえミーアと何度もコラボするのも、希少な素材をミーアに贈ろうとしたのも、リスナーを意識しての配信を行い出したのも。同じ探索者ならば、ダンジョン配信のリスナーならば……そういった意識が、ランを配信へのめり込ませていったのかもしれなかった。
「ラン……」
「いいんちょ?」
美奈が席を立ち、ランの元へと移動してする。その声は暗い感情を滲ませていた。今にも泣きそうな、否、美奈の双眸からはぽろぽろと涙が零れている。
「ごめん、ラン……。私、ランがみんなと仲直りできるチャンスを、潰しちゃった……」
「え……?」
美奈の言葉にランは戸惑う。それは朝のことだ。ランの配信を見たクラスメイトたちがその内容に盛り上がっており、美奈はそんな彼らに水を差す形で厳しい言葉を投げかけた。その時のことをランに説明し、美奈は頭を下げる。
「あの状況を利用すれば、ランとみんなの仲を取り持って……もしかしたら昔みたいな関係に仲直りさせることも出来たかもしれない……。それなのに、私はランが蔑ろにされてる気がして……みんながランじゃなくて、
「……いいんちょ」
「ごめんなさい……! ごめんなさい……!」
「湖水さん……」
力なく膝を着き、美奈はランの胸へと縋り付いた。美奈の声にはランがクラスの皆と昔のような関係に戻れる機会を奪った後悔と絶望に彩られている。
ランは美奈の肩に手をやり、泣き崩れる美奈を優しく抱き留めている。……この時、ランの思考は冷静に回っていた。
「……先生」
「……何ですか?」
自分が
一度深呼吸し、ランは問う。
「私が……クラスのみんなと昔みたいに戻れると思いますか?」
「……っ!!」
「……それは」
それは美奈が目指していたこと。ランはこの問いの答えをとらい☆りっぱーにも求めた。そして、その答えはランの想像通りのものであり、また、仲間もそれと同じ答えを持っていることがその表情から窺えた。
……仲間はその問いを投げかけたランの気持ちに応える。
「それは……不可能です」
「やっぱり」
そう。不可能である。
ランの配信動画を見た時点でクラスメイトのランを見る目は変わっていた。見られた時点で戻りようがなかったのだ。
今回の件、それはランがダンジョン配信を行うことがどういうことか分かっていなかったこと、クラスの皆が恐怖心を抱いたこと、美奈が早くに行動を起こさなかったこと、仲間が仲裁を行えなかったこと、それらが合わさって起こってしまった出来事だ。誰しもに責任があり、ある意味誰もが悪いと言いえる。
────では、そもそもの始まり。皆がランの配信動画を見た切っ掛けは。
「……先生に、ちょっとお願いしたいことがあります」
「……それは、構いませんが。一体何を……?」
「ラン……?」
ランは、とらい☆りっぱーとの会話を思い出していた。
明くる日の朝、とある教室は重い空気に満たされていた。まだまだ朝早い時間。だというのに既にクラスのほとんどの者は登校して来ており、誰かと話すでもなく静かに過ごしていた。それはランのクラスであり、生徒たちは昨日の美奈の様子と、仲間の話を聞いたことにより、示し合わせたでもないのに
「……大神、今日は来るのかな?」
誰かがぽつりと呟く。それに答える者はなく、気まずそうに視線を交わし合う。
昨日の仲間の話。それは五分にも満たない時間であったが、真摯に自分たちと向き合った謝罪であった。つらつらと言葉を並べるのではなく、ただ自分がランと向き合うことから逃げて皆のケアを怠ったことについて頭を下げたのだ。教師としての、大人としての責任から逃げてしまったのだと。
「放課後、先生が大神と話をしに行った……んだよな?」
「そのはず、だけど」
「謝ってくるって言ってたな」
「うん……」
許してくれないんじゃないか、と誰かが言った。自分たちの行いが早々許されるような物ではないことを、クラスの誰もが理解していた。どんな理由があれ、自分たちは仲が良かったランを避け、無視し、孤独へと追いやった。委員長である美奈がランの傍に居てくれたが、それが自分たちの罪を軽くするわけでもない。
「……」
一人の女生徒は息が浅く、速く、胸を押さえている。それは何かを恐怖しているようで、あるいは何かを決意しているようで。その生徒の脳裏に、仲間の言葉が蘇る。
「……確かに許してくれないかもと考えると、怖くはありますし、許されはしないと思います。ですが、私は……許されたい、許してほしいから謝るのではなく……たとえ遅すぎたとしても、私は今度こそ大神さんと向き合いたいんです」
向き合うと仲間は言った。ランと、そして己の罪と責任に向き合うのだと、仲間はそう言ったのだ。
女生徒は仲間のその言葉に、“違う”と思った。違わないと仲間は言うだろう。しかし、その女生徒は思うのだ。真に謝るべきは、真にランと……罪と責任と向き合うべきなのは────。
その生徒の名は、
「────皆さん、おはようございます」
「……っ」
朝のホームルーム前、予鈴も鳴らない内に仲間は教室に入ってきた。その傍らには少々気まずそうに俯いている美奈の姿もある。
「……皆さん、揃っているようですね」
教室内を見回し、視線で出欠を確認する。どうやら欠席者はいないようだ。
「先生……」
「あ、でも、まだ大神さんが」
生徒の一人がランの名を出す。それに仲間は頷くと、教室のドアに振り向いた。そこには教室の中を窺うように、外から顔だけを出して覗き込むランの姿があった。
「……大神、さん」
皆の視線が集中する。その視線を受けてもランは怖気ず、ゆっくりと教室内に入った。がたり、と。大戸が立ち上がる。何かを言おうと口が動くが、何も声を出すことが出来ない。言おうとすることは考えていた。仲間の言葉を受け、ランに言葉を掛けようと決めていた。しかし、それが出来ない。いざランを目の前にすると、振り絞ろうとしていた勇気がどんどんと小さくなっていくのが自覚出来る。
言うのが怖い。向き合うのが怖い。許されなかったらと思うと怖い……。自己保身的な考えに涙が溢れそうだ。
そうした中、ランが動く。美奈の、仲間の前に立ち、生徒たちを見やる。その視線に耐えられず、
「改めましておはがるるー。美少女
「えっ」
「えっ」
「────っ!!?」
「……っ!!?」
────教室内の空気が凍った。
「………………あ、あれ……?」
ランが無表情ながら戸惑ったような声を出す。むしろ戸惑っているのは他の全員なのだが。何せランのやりたいことを知っているはずの美奈と仲間までもが戸惑いの声を発している。それどころか「何をやってるんだコイツは」とでも言いたそうな顔でランを見つめているぞ。
「……あ、改めましておはがるるー。美少女
ランはまた同じことを繰り返した。先程よりも勢いが落ちているのが彼女の内心を表しているかのようで少々滑稽である。
「……」
「……」
またしても誰も何も言わない。美奈も、仲間も。そのせいか、まるでランが自信満々に渾身のギャグを披露したのに一切ウケず、ド滑ったかのような地獄の空気だ。
やがて、ランは教室の空気に耐えかねたのか無表情ではあるが頬が赤く染まり、両手で顔を覆い隠して美奈の背に隠れた。その身体は羞恥に震えている。
「これは何かの間違い……こんな空気になるなんて聞いてない……」
「……やりたいことは昨日の話で分かってたけど、何でこんなやり方したのアンタ」
「……こうすればみんながどっかんどっかん大笑いでいい感じに先生が纏めてくれるかなって……」
「そんな高度な対応を求められても……」
ごもっともである。
しかし、今までの空気を破壊することには成功しており、確かに弛緩した空気が流れてきている。それでだろうか、大戸がゆっくりとした足取りではあるが、ランの前まで出ることが出来た。
「……あ、の……!」
「大戸さん?」
「……」
美奈の背に隠れるランに声を掛ける大戸を、美奈が強い視線で射抜く。彼女こそがランの配信動画を拡散した張本人。ランの現状を招いた切っ掛けの一人だ。
大戸は身体を震わせながらランを見つめており、呼吸も先より浅く、速くなっている。そして、ふと
「────ごめんなさいっ!」
「……え?」
大きく頭を下げている大戸の姿に、ランは驚く。何とか頭を上げるように声を掛けようとした時、床に落ちる水滴がランの視界に入った。
「……私、大神さんがみんなにちやほやされてるのが気に入らなくて……! それで、配信するって知って、ちょっと荒らしてやろうみたいに考えて……! でも、見れなくて、それでも見たら……! 見たら、内容が……こわ、怖くって、大神さんが怖くなって……! それで、私、あんな、あんなことを……っ!」
「……」
大戸の告白にランは言葉が出ない。美奈も、仲間も、そして他のクラスメイトたちも動くことが出来なかった。
「あ、謝っても、ゆる、せないだろうけど……! それでも、それでも大神さんに、私、謝りたくてぇ……っ!」
そこまで言い切ると、大戸は全身の力が抜けたのか、ぺたりと尻餅をつき座り込んでしまう。そんな大戸を労わるように仲間がその肩を抱いてやる。たとえ遅すぎたとしても、その行動にはきっと大きな勇気が必要だっただろう。仲間はそれを認めてやりたかったのだ。
「大戸……」
「大戸さん……」
クラスメイトたちは大戸の行動に素直に凄いと感じ入った。泣いている大戸を笑う者など誰も居らず、未だ動けない自分たちを情けなく思う。
「……皆さん」
仲間が生徒たちに語り掛ける。
「何も言わず、大神さんの話を聞いてくれますか?」
ちらりと視線をやり、仲間はランに先を促した。ランはこくりと頷くと、今度こそちゃんと話そうと美奈の背後から出て、クラスメイトたちの前に立つ。
「えっと。私、自分が置かれてる状況を先生やこの前知り合ったとらい☆りっぱーの人たちに相談したの」
「……」
「それで、みんなに聞いたんだ。“昔みたいな関係に戻れるかな?”って」
「……っ」
皆は息を呑む。ランはクラスメイトたちに避けられようと、またかつての関係に戻れることを望んでいたのだ。ランに恐怖し、裏切った自分たちと、また昔のように友達に戻りたいのだと。
「でもそれは無理だって言われて。……私もそれは分かってて」
「……っ!」
仲間も、とらい☆りっぱーも、気休めは言わなかった。今の状態からかつての関係に戻ることは不可能なのだと、そう断じた。そしてそれはランも承知している。
しかし、クラスメイトたちはランの言葉に衝撃を受けた。内心で分かっていたつもりであった。感じていたつもりだった。だが、改めてランの口からそれを言われることに、身勝手ながら痛みを感じたのだ。
心のどこかで、また昔みたいに戻れると思っていたのだろう。あの日から時間が経ったのと最近のランの配信の内容から、その可能性が浮かび上がっていたのもまた事実だ。しかし、その望みはランの方から断ち切られた。本来自分たちはショックを受ける資格もない。それを理解している皆は顔を俯かせる。
仕方のないことだ。自分たちはそれだけのことをしてきたのだから、今更許されようだなんて虫のいい話である。
────しかし。
「……でも、私はそれが嫌で」
「え……」
大戸が、他の生徒たちが顔を上げる。そこで目にしたランは、いつも無表情でいたランは────悲しみを、その
「私はまたみんなとお話ししたいし、一緒にご飯とか食べたいし。ダンジョンには籠りたいけど……どこかに遊びにも行ってみたいし……寂しいし」
それは年頃の少女が持つ、何の変哲もない願望。ただ友達と遊びたいという、当たり前の願い。
「……昔みたいには無理でも、それなら今を変えればって言われて。
それがランがとらい☆りっぱーや美奈、仲間と出した答えだった。昔のように戻れないのならば、また新しい関係を始めればいい。互いに蟠りが残っていたとしても、互いの全てを受け入れる必要はどこにもない。肯定、否定。受容、拒絶。それらどちらか一方だけの関係など、
「……みんな、怖がらせてごめんなさい。私のことはまだ怖いだろうけど……ダメなところは直していくし、良ければだけど……また、私と友達になって下さい」
そう言って、ランは頭を下げた。また新しい関係を築くために、新しく友達になるために。断られたらどうしようと、その小さな身体を更に縮こまらせて。
「……何で大神が頭を下げるんだよ」
男子生徒の小さな呟き、しかし、それは不思議と教室に響いた。
「頭を下げるのは俺らの方だろ……」
その言葉にランは頭を上げる。すると、一人の男子生徒がランに近付き、頭を下げた。
「大神、ごめん! 俺、バカなことしてた!」
身体も声も震えている。泣いているのだろうか、それはランには分からない。だが、言葉は短くとも真剣に、真摯に自分と向き合ってくれていることはランにも感じられた。
「……お、俺も! 今まで悪かった! ごめん大神!」
「ごめんなさい、大神さん! 無視してごめんなさい!」
「何で大神さんが謝るの!? 悪いのは私たちなのにぃっ!」
「俺らが友達でいいのかよ? また俺らと友達になってくれるのか? ごめんよ、大神ぃ」
先の男子を皮切りに、皆はランの元へと駆け寄り、それぞれが謝罪の言葉と共に頭を下げた。中には涙する者も居る。皆それぞれが謝りたいと思っていた。しかし怖くて出来なかった。刺激すればどうなるか分からなくて怖かった。故にランの方から干渉してこない限り、避けることで現状を維持していた。
だが、ランのこれまでの配信を見て。今日、ランの言葉を聞いて。ランも自分たちと同じなのだと今更ながらに気付かされた。
ダンジョンで魔物を倒すランは超然的な存在に見えるが、その実。自分たちと同じく、傷付き悩む、普通の女の子なのだ。
「……皆さんの中にも、まだ蟠りはあるかと思います。大神さんも、湖水さんも。でも、それは悪いことではありません。全てを肯定するだけが優しさではありませんし、ダメなところを指摘するのは悪いことではありません」
仲間は生徒たちに語り掛ける。
「確かに昔のようには戻れませんし、やっぱりギクシャクすることもあるでしょう。でも、それは普通のことです。笑って、怒って、時にはケンカして……そうして、人は仲を深めていくんです」
皆は顔を見合わせる。周囲の者と、ランと、美奈と、そして仲間と。
「皆さんはまた新しい関係を始めることが出来ました。これから先、また何かぶつかり合うようなこともあるかもしれません。でも、今の皆さんならきっと大丈夫です。昔を乗り越えて、今を変えて、そして未来の皆さんはきっと、本当に仲の良い、掛け替えのない友達になっているでしょう」
仲間は支えていた大戸から離れ、ランを見やる。ランは頷き、大戸の手を取って、優しく握る。
「あ……」
小さな手の感触に、大戸は驚き顔を上げる。目の前にはランの顔。いつも表情が変わらないと思っていたが、今は申し訳なさそうに眉が下がっているように見える。
「……出来れば、仲良くしてほしい」
「……大神さぁんっ……!」
大戸はくしゃりと顔を歪ませ、ランの胸に縋りついた。何度も謝る大戸を、ランは小さな身体で抱き締める。そこで、タイミングが良いのか悪いのか予鈴が鳴った。
「あ……っと。そうですね、とりあえず大神さ……いえ、ここはこうしましょうか」
「ん?」
「先生?」
仲間が予鈴に合わせて何かをしようとしたようだが、何事かを考えるような仕草を見せ、言葉を止める。そしてランに視線をやると、笑顔を浮かべてこう言った。
「それでは────
「ん……?」
それは、ランが教室に入って始めようとしたこと。
「えっと……みんな」
ランは────るぷすは、教室の皆に向けて。
「チャンネル登録と高評価をお願いします」
その言葉を受けた皆は目を見合わせた後、おかしそうに笑顔を浮かべて。
「おう!」
「うん!」
最高の言葉を返してくれたのだった。
かつての関係は崩れても、また新しく絆を結ぶことが出来る。
「……私は大神さんのお願いを果たせたでしょうか?」
「私はそう思いますよ」
クラスの皆と話しているランを見ながら仲間と美奈が言葉を交わす。
ランのお願い、それは「私がみんなと話していい感じの空気になったら先生がいい感じの話をしていい感じに纏めてほしい」……というものだった。そう言われた時の仲間は何とも表現することが出来ない絶妙な表情で「……ぜ、善処します」と、ランからのお願いを聞いたのだった。
「……“いい感じの話”。私が言えたようなことじゃないんですけどね」
「……そんなことはないと思いますよ」
美奈は仲間の自嘲をやんわりと否定する。確かに仲間の行動は遅きに失していたが、それでも致命的ではなかった。ランと向き合ってくれたのだ。ランと生徒たちの善性に助けられた形ではあるが、ちゃんとクラスを纏めてくれた。その部分を否定する気は美奈にはない。
「また“改めて”、よろしくお願いします。……先生」
「はい。……“改めて”よろしくお願いします、湖水さん」
また新しく関係を始めるのはこちらも。教師と、生徒と。ベストな形ではないが、互いに信頼を寄せあって。やがてそれらを乗り越えられるよう、彼女らは少しずつ前へと進んでいく。
そうして人は成長していくのだ。
もっとスマートに解決できなかったものか……(苦悩)
本来の予定ではこういう難しい話は後に回して、今頃はとらい☆りっぱーの三人とダンジョンでキャッキャウフフ(魔物の断末魔)してたんですよね……。
でも二学期とかに回したらそれこそ本気で取り返しがつかなかっただろうしなぁ……
ちなみに最初は全ての会話を描写するつもりでしたが
「よし! 前回の続きから先生と生徒で話して先生と美奈で話してランととらい☆りっぱーで話して先生と美奈とランで話してランと全員で話して……! いやなげぇな」
となったので大幅にカットしました。
次回こそとらい☆りっぱーとダンジョンでキャッキャウフフ(魔物の断末魔)させよう。
それではまた次回。