低身長美少女配信者のダンジョンすくすく成長記 作:タナボルタ
今回、ようやくとらい☆りっぱー三人の武器が明らかに……! どうして今まで引っ張ったんだろう……?
今回はあとがきの後にちょっとしたおまけがあります。
それではまたあとがきで。
「こうして見ると、装備にけっこうなお金が掛かってるんだね」
るぷすはとらい☆りっぱーの装備……ただの服にしか見えないそれを前に、興味深そうに眺めていた。
「事務所が危険が少ないようにって用意してくれたんだよ。こう見えて防弾・防刃性能はばっちり」
そう教えてくれた千華の
「ま、そもそもアイドルとして活動させるのはどうかとも思うんだけどねー」
自分たちが抱える矛盾を笑い飛ばしながら準備運動をしているのは来夏だ。ワイン色のウインドプルーフショートパーカーにベージュ色のハーフカーゴパンツというシンプルな服装……なのだが、何故かその上にレインコートを着ている。更に腰の左右にはナイフシースが取り付けてある。
「それを分かっててアイドルになったんだから文句言わないの」
来夏を嗜めるのは理央だ。この理央の服装だが、はっきり言って一番ダンジョン探索に向いていない服装をしていると言える。
赤を基調としており、フリルがふんだんに使われたワンピースに腰までのフード付きケープマント、編み上げの厚底ブーツ。いわゆるゴスロリというやつだ。どうやら赤ずきんをモチーフとしているらしく、手にはバスケットまで持っている。一見するとダンジョン探索にはとても向いていないようにしか思えない。
釣り目がちではあるが背丈が低い理央に似合ってはいるが、ダンジョンという環境には似付かわしくないのだ。
「この前も思ったけど、何ていうか……可愛いし似合ってるけど凄い格好だね」
「……本当は私も着たくないのよ。でも事務所の意向だから着るしかないのよ。性能もかなり良いしね」
「あはは……アイドルは見栄えも大事だからね」
「でもさ、マージで事務所のこういうとこはどうかと思うよ。どこにお金掛けてんのさー」
ダンジョン探索は危険なものである。しかし、アイドルが探索をするのだから衣装は見栄えの良い物でなければならない。危険な魔物を相手にするのに、見栄を意識する。多くの者はその危険性を認識しているはずなのに、
今この場に居る誰もが、
「それで、まずは一人一人の戦い方を見てほしいってことだけど……?」
「そうそう。私らの戦法ってアイドルらしくないから配信では流せないのよね」
「だから配信前にるぷすちゃんに見てもらおうと思って」
「私がレインコート着てるのもその関係なんだよね」
何やら三人には事情があるらしく、配信外で確認をしてもらおうということらしい。るぷすはそれに頷くと、四人一固まりで森の中を進む。雑談を交え、るぷすが石を拾ってジャグリングをしながら進むこと数分。一行の前に一体の魔物が現れた。
人型でやや赤みを帯びた肌、でっぷりと膨らんだ腹。茶色い毛皮を加工した衣服から覗く手足は太く、筋肉質。そしてその頭部は豚に酷似している。身長は二メートル程。C級中位の魔物、オークだ。
「ぶるるるる……っ」
オークもるぷすたちを視認し、上等の獲物が複数現れたことに喜び、その命を奪わんと臨戦態勢に移る。対するは理央だ。フリルがたっぷりのスカートを揺らし、一行の前に出る。
オークとの一対一ならば、今の理央と来夏でも対処可能だ。
「じゃ、まずは私からね。一曲お相手、願えるかしら?」
言いつつ、理央はバスケットに手を入れ、そこから長大な得物を引っ張り出す。身の丈程の柄、柄に取り付けられた二つの取っ手、湾曲した大きな刃────
「大鎌……!?」
これには流石のるぷすも無表情に驚いた。そして密かにテンションが上がった。ツインテールでゴスロリ、そして大鎌。こんな組み合わせは二次元でしかお目に掛かれない。そんな幻想が現実に、目の前に存在しているのだ。
「さあ、一緒に踊りましょうか!」
理央はその身にるぷすと同じ力────“気”を纏い、オークへと駆け出す。オークもそれに倣うように、手に持った棍棒を掲げながら真っ直ぐに理央へと走り出す。
「ぶるぁああっ!!」
まずはオークが力いっぱい棍棒を振り下ろす。理央はそれを余裕を持って躱すと、引っ搔けるように大鎌の刃でオークの身体に傷を付ける。
「ぶるっ!」
オークの筋肉は分厚い。多少の傷は気にせず、理央の姿を目で追い……しかし、視界の外からまたも身体を切り裂かれる。
「……っ!?」
理央は大鎌のリーチを活かし、刃をオークの視界に映らぬように振るうことで、
理央は軽やかにステップを刻み、オークを翻弄する。理央はオークの側面に回り込み、その動きを何とか目で追ってくるノロマなダンスパートナーの背後に腕を伸ばし、大鎌で引き斬る。
常に自分の身体をオークの視界に入れつつ、しかし大鎌の刃は視界の外に。それが理央の戦い方だ。
たまらずその刃から逃れようと足掻くオークの足に刃を引っ掛け、機動力を削ぐ。少しずつ、少しずつ、オークは身体を刻まれる。
逃げては斬り、逃げては斬り、振るわれる大鎌の刃からはオークの血が舞うように散らされる。
「これでお終いね」
「ぷぎいいいぃぃぃ……っ!!?」
そして最後に、理央はオークの首に刃を掛け、一息に振り抜いた。大量の血飛沫が地面を濡らし、その上にごとりとオークの物言わぬ首が転がった。
「あなた、中々良かったわよ? 無様で、滑稽で、あなたに相応しい惨めなスラップダンスだったわ」
大鎌を振るい、血を払う。理央は悠々と大鎌をバスケットへと仕舞い、オークへと最後の言葉を掛けた。
「……千華さん」
「なに、るぷすちゃん?」
「スラップダンスってなに?」
「えっと、確かタップダンスの技術の一つ……だったと思うよ」
「なるほど。大鎌から逃げようとしてたオークの動きをタップダンスに見立てた、と。……まあ、それはともかく」
華麗にオークを倒した理央が得意そうにるぷすたちの元へと歩みを進める。戦っている内に随分と移動してしまったものだ。大きな薮の横を通り過ぎた時、がさりと音がした。理央がそちらに目をやると、そこには先程よりは小柄だが、それでも理央よりも大柄のオークが拳を振り上げて飛び出てきた。
「────っ!?」
驚きに目を見張る理央。反射的に飛び出そうとする来夏と千華。そして。
「ぶる────ぎゃっ!!?」
────るぷすはジャグリングしていた石をオークの顔面に投擲し、派手に転倒させた。魔物の特性により衝撃に強いとはいえ、それなりの大きさの石が弾丸の如き速さで眉間にぶつかっては、反射運動も相まって怯んでしまう。
「理央さん、走って」
「っ!!」
るぷすの穏やかな、しかし鋭い声が理央の耳朶を打つ。ハッと我に返った理央は走り出し、何とかるぷすたちの元へと帰還する。理央を抱き留める千華に、そんな二人を庇うかのように来夏は前に立つ。
「ああもう私のバカ!! 格好良いとこを見せようとして思いっきりダサいとこを見せちゃったじゃないの!!」
「講評はまた後で。次は来夏さん、行ける?」
自らの失態を嘆く理央に、るぷすは静かに告げる。更に流れるように来夏に次の相手を促した。
「よ、よっし! いっちょやったりますか!」
「ぶらああぁっ!!」
来夏は気合を入れて“気”を纏い、そんな来夏に応えるようにオークも雄叫び一閃、ネックスプリングで跳ね起きる。
「見た目に寄らず良い身のこなしじゃん!」
好戦的な笑みを浮かべ、来夏は腰のナイフシースから勢いよくナイフを取り出した。脚を大きく広げて右手は順手に構えて腰だめに、左手はナイフを逆手に構えて前へと伸ばす。来夏がいつも行っている戦闘前のルーティーンだ。幼少の頃、テレビか何かで見たアニメのワンシーンが忘れられず、こうして意識の切り替えスイッチに活用しているらしい。
元ネタを知っているるぷすも来夏を見て無表情だがテンションがまた少し上がった。
「ぶるるるっ!!」
「はっ!」
唸りながら突進してくるオークを鼻で笑い、来夏は猛烈な勢いで繰り出された拳を躱し、ナイフを突き立て、筋を断つ。これによりオークの片腕を封じることが出来た。
「ぎぃっ!?」
「ォオラァッ!」
来夏は痛みに怯んだオークの膝の裏を思い切り蹴り飛ばし、尻餅をつかせる。慌てて立ち上がろうとするオークであったが、今度は来夏の膝が鼻面を打ち抜き、倒れ込んでしまう。
「よいしょぉっ!」
「……っ!?」
オークの腹に軽い衝撃が走る。痛む顔面に狭まる視界の中、自らの腹の上に跨る人の姿。来夏がマウントポジションを取ったのだ。
「ぶるぁあっ!」
「おわっ!? ちょ、暴れんなって!」
当然来夏程度の重量などオークには有って無いが如し。腕を振るい、腰を跳ね上げ、来夏を振り落とそうとするが。
「暴れんなつってんだろ!!」
「ぶぎぃっ!?」
来夏のナイフが胸に突き刺さる。
「死ね! 死ね! 死ね! 死ね! 死ね! 死ね! 死ね! 死ねぇっ!!」
「ぶぁっ!? ぎっ! ぎひぃ……っ!?」
何度も何度も、来夏はオークの胸を、腹を、顔を両手のナイフで何度も突き刺す。噴き出す鮮血が来夏に降りかかるが、そんなものは気にしない。
「ふぅ、ふぅ、ふぅ、ふぅ……」
やがてオークが力尽き、その命を失ってから来夏はオークから降りる。レインコートを鮮血に染め、ナイフを握った来夏の姿はまるで現代のジャック・ザ・リッパ―だ。
「ぅゎ……」
流石のるぷすもこれには本気のドン引きである。自分も人のことは言えないだろうが、とにかく見た目の残虐さがあまりにも酷い。ちらりと千華と理央を見やれば、二人とも正視に堪えなかったのか顔を背けつつ横目で見ていた。仲間でも怖い物は怖いらしい。
「ちょっと手古摺っちゃったなー」
そんな来夏本人は戦闘中の雰囲気とはかけ離れた笑みを浮かべ、気まずそうに帰って来た。理央も来夏も、平常時と戦闘時で明らかに様子が違う。そんな二人に慣れてるのか、千華は帰って来た来夏の頬に付着しているオークの返り血を使い捨てのタオルで拭ってやっている。血まみれのレインコートは脱ぎ去り、ゴミ袋に入れた。
るぷすもオークの倒し方には引いたが、二人の様子の違いには特に感慨はない。
なおオークの素材として牙がダンジョンに還元されずに残り、来夏はそれを理央のバスケットに放り込んでいた。
「……来夏さんも話は後で。最後は千華さんだけど、もうちょっと奥に行こうか?」
「そうだね。他にオークは見当たらないし」
個人戦闘の最後の獲物を探す為、一行は更に奥地へと足を踏み入れる。オークの縄張りは他の魔物の物とは違い、どこか整備されているように感じる。もちろん人間が住む都市やそういった整備とは意味合いは異なるが、どこか整然としているのだ。
「こうして縄張りを見るとオークの綺麗好きって話も納得だね」
「確かにね」
キョロキョロと辺りを見回しながらの来夏の言葉に、理央が頷く。オークの縄張りには人工的に作られた道がある。何も石畳があったりするわけではなく、ただ地面を
そうして歩くこと数分、恐らく縄張りの外縁と思われる所を進んでいると、ようやく一体のオークと出会うことが出来た。
「見つけた」
「うん。向こうはこっちに気付いてないみたいだね」
そのオークは大口を開けてボーっと空を眺めており、どこか暢気な空気を纏っている。もし公園に居れば、日向ぼっこをしている老人を彷彿とさせるだろう。
「うーん……何とか釣り出せないかな?」
「……それじゃあこれで」
どうやら千華は場所を少し離したいようで、じっとオークの動向を見つめている。その呟きを耳にしたるぷすは周囲に目をやった後、件のオークの足元に石を投げ込んだ。
「……?」
オークは石に気付くとそれを拾い上げ、首を傾げながらも石が転がってきた薮に目を向ける。のしのしと歩き、薮を覗いて見ればそこには何も居らず、今度はその更に向こう側にある藪ががさがさと揺れている。オークは少々の逡巡を挟むが、それでも何が居るのかが気になり、後を追うのであった。
そうして数分の追いかけっこの後、木々が開けた場所に出る。目の前に立つのは数人の人間。それを前に、オークはようやく自分が誘い出されたことに気付くのであった。
「ぶるるぅ……」
「それじゃあ、私の番だね」
千華はショルダーバッグに手を入れ、愛用の得物を取り出す。それはるぷすも大好きな、日本が誇る武器の代表────日本刀である。るぷすのテンションがまたもいや増した。
「ふぅーーーーーー……」
静かに呼吸を整える。鯉口を切り、ゆっくりと刀身を鞘から抜き放つ。鞘をショルダーバッグに収め、ゆるりとした自然体でオークを睨む。覚悟を決めたのか、オークは前傾姿勢になり、何かをされる前に飛び出そうとするが────。
「キィイイイイイイエエエエエエエエエェアアアアアアアアアッッッ!!!!!」
その叫び声に、オークは怯んだ。
千華は顔の近くに鍔を近付け、左肘を胸に密着。右肘は外に張り出し、刀の切っ先は真っ直ぐ天を衝くかのように立てられている。脚は真っ直ぐに伸びた、あるいは棒立ちのような無防備な姿。────
瞬間、爆発的に千華の“気”が膨れ上がる。ズン、と沈むような音が響くと同時、千華の姿が理央と来夏の視界から
そして、それは当然オークも同じ。
「チィィィイイイエエエエエエエエエエエエエェストォオオォッッッ!!!!!」」
目にも留まらぬ速さで刀が振り下ろされる。何の抵抗もなく袈裟斬りに断たれるオークの肉体は、その威力に耐え切れなかったのか、それぞれが吹き飛んでいった。
千華は残心の後、バッグから鞘を取り出して刀を収める。そしてゆっくりと、るぷすたちの元へと戻る。
「
「あれ、よく知ってるね、るぷすちゃん」
戻ってきた千華に、るぷすは少々興奮した様子で話しかける。少し勢いが強いるぷすを不思議がりながらも、千華はるぷすが自分が修めた剣の流派を知っていることに驚きを覚える。
「漫画やアニメで時々出てくる……っ」
「あ、なるほど」
それでこの興奮具合か、と千華は納得した。そういった方面に詳しいるぷすならば確かに知っているだろう、と。そしてるぷすも千華がオークを釣り出したことに合点がいった。確かにあの叫び声を縄張り内で出しては、一体だけの対処では済まなかっただろう、と。
「それで、これで私たち全員の個人での戦い方を見てもらったわけだけど……」
と、千華がるぷすに個人戦闘での評価を求める。ちなみに何故か理央と来夏は千華の横で正座をしており、大体どういった内容の話をされるかが分かっているかのようだ。
「んー……とりあえず千華さんは気になるところはあったとはいえ、迅速にオークを倒したから今は置いておいて……」
「置いておかれちゃうんだ」
ひとまず後回しにされた千華はそれはそれで寂しそうだ。
「るぷすちゃん」
「ん?」
「もう……ズバッと言ってくれちゃっていいよ?」
残る二人にどのように声を掛けようかと迷っていたるぷすであったが、来夏から逆にはっきりと言うように提案されてしまった。理央もそれに頷いており、ならば、とるぷすもそうすることにする。
「それじゃあ遠慮なく言わせてもらうと────酷い、です」
「……はい」
るぷすの言葉に、理央たちの頭に錘が乗ったかのように少し沈む。
「まず理央さんだけど……無駄に時間を掛けてオークをいたぶり過ぎ。タフとは言え急所を狙えばすぐにオークを倒せるのに、どうしてわざわざ外すの? 戦い方は意表を突くのに有効だと思うし格上の魔物にも通用すると思うけど、さっきのアレじゃあただ嬲り殺しにする為の技術にしか見えない。しかも油断してもう一体のオークに気付いてなかったし、変な方向に集中しすぎ」
「はい、仰る通りです……」
「理央さんも迂闊な行動が多い。片腕を使えなくしたのは良いけど、今の理央さんが格闘を仕掛けるのは危ない。今回は通用したからいいけど、パワーも体格もずっと上のオーク相手にマウントを仕掛けるのは無茶が過ぎる」
「はい……」
「あとナイフで刺す場所も吟味しないとダメ。最悪骨に引っかかって取れなくなることもあるから、胸を刺すなら骨の間を通り抜けるように刃を寝かさないと」
「はい……今後気を付けます……」
懇々と理央と来夏に言い聞かせるるぷすの姿に、千華は感謝を抱く。仲間内での指摘では、どこか甘えが含まれてしまう。ダメだとは分かりつつも、三人はどこか本気の改善に取り組んではいなかったのではないかと感じてしまう。それもあり、ラミアに追い込まれてしまったのだろう、と。
だが、自分たちの恩人であるるぷすの言葉であれば。圧倒的な格上からの言葉であれば、自分たちを変える為の原動力になるのではないかと考える。
「……情けないなぁ」
ぽつりと千華は呟く。一番の年上であるのに、一番の年下に頼り、甘えてしまっている。そんな自分の情けなさに、千華は自嘲を抱いた。
「それじゃあ今度は三人での戦闘の確認かな?」
「あ、お話は終わり?」
ててて、と寄ってきたるぷすの髪を軽く撫でつつ、千華は理央たちに視線を向ける。二人は何故か体操座りをし、膝に顔を埋めている。中々に落ち込んでしまっているようだ。
「あ、あはは……」
「次は三人だし、もっと強い魔物を探しに行こっか」
「はーい……」
理央と来夏はまるで幽鬼のような声を出し、どよどよとした空気を纏ってるぷすたちの後を付いてくる。そうして歩き続けることしばらく、トロールの縄張り付近に着いたところで、二人は周囲の気配に気を配りだした。
────そうして、るぷすは目の前の三人の戦いに集中する。
「……やっぱり個人での戦いとは全然違う」
とらい☆りっぱーの連携は見事であった。来夏が切り込み、理央が翻弄し、千華が隙を突いて斬り掛かる。三人が三人とも自分の役割を全うし、危なげなくトロールを圧倒している。
:おっしゃ! イケイケモード!
:やっぱ三人だと格上相手でも安定感が違うな
:いつ見ても三人は息ぴったりで凄い
:トロールもボロボロ そろそろトドメか!?
誰も余計なことをしていない。来夏は無理に格闘を仕掛けず、トロールを削り。理央は視界の外から筋を、腱を断つように大鎌を振るい。千華は静かに“気”を高めながら、二人が作り出した隙に飛び込み、深手を負わせる。理想的な立ち回りだ。
これは先程るぷすが指摘したから出来るようになったわけではない。リスナーがコメントしている通り、
「……これならちゃんと矯正出来るかな」
ドローンさんにも聞こえないような声でるぷすは呟いた。視線の先には千華の剛剣がトロールの首を断ち切った姿が見えている。とらい☆りっぱーの完全勝利だ。るぷすは周囲の気配を探り、伏兵が居ないのを確認してからジャグリングを止める。もし危ないところがあれば、投石で手助けをするつもりだったのだ。
:よっしゃあああああ!
:千華ちゃんかっこえええええええ!
:きゃああああああああ!!
:理央ー! 俺の首も刈り取ってー!
:来夏のナイフで俺の胸を突き刺してー!
:千華殿! 介錯お頼み申す!
:変なコメントが増えだした!?
:いつもの変態たちが来た!
:みんなこっち向いてー!
:やっぱ理央のゴスロリ大鎌は最高だぜー!
:来夏のナイフ二刀流だって格好良いだろうが!
:は? 千華ちゃんの日本刀が最高ですが?
「おお、凄いコメントの速さ」
流石はアイドルと言うべきか、トロールを倒した瞬間に流れるコメントのスピードが急速に上がる。変態的な内容も多いが、ほとんどが好意的な物ばかりだ。
「ふう……今度は無様を晒さずに済んだわ」
「三人がかりとは言え、やっぱトロール相手は緊張すんねー」
「二人とも、お疲れ様」
三人がるぷすの元に戻る。今度はスムーズに魔物を倒せたからか、三人は笑顔を浮かべている。理央と来夏の二人は汚名返上といった心持だろう。ちなみにだがこの戦闘中、千華は一度も猿叫を上げておらず、マイルドな掛け声を出していた。アイドル的に猿叫はダメという認識らしい。
「三人とも、かっこよかった」
「えっへへー! そう!? カッコ良かったよね!?」
「調子に乗らないの」
「ちゃんと反省してる?」
:来夏は相変わらず調子に乗りよるなぁ
:可愛いぜ……
:しかし反省? 何の?
:ラミア戦のことじゃね?
:あー あの時は奇襲を受けたとはいえ三人でもダメだったもんな
リスナーたちは千華の言葉を以前のラミアとの戦いのことだと解釈したようだ。もちろんそれも含まれているが、大部分は配信に載せていない個人戦闘のことである。
「……ところで一つ気になったんだけど」
「ん?」
「何よ?」
「どうしたの?」
:お?
:なんやなんや
:気になることねえ?
るぷすは三人から目を離し、地に転がるトロールの首を見やる。
「ダンムビの規制で、首ちょんぱがOKで頭をパーンがNGな理由って何だろう」
「……」
「……」
「……」
:……確かに
:いや 中身が見えるか見えないか……とか?
:でも切断面だってグロいし……
:でも脳みそは見えないじゃん パーンは脳みそをぶちまけてるじゃん
:んー……やっぱ中身かなぁ
「……なるほど、中身」
「言われてみれば納得かも」
「エロ方面でもそうだよね」
「黙りなさい」
:草
:確かにそうだろうけどwww
:アイドルが言うことか!?
:来夏のこういうとこ好き
迂闊な発言の多い来夏であるが、空気を払拭するのには大活躍だ。ちょっと沈んだ空気も軽くなったところで、るぷすが今後の予定を千華に尋ねる。
「これで三人の戦いを見た訳だけど、講評って今した方が良いのかな?」
「あっと、そうだね。それじゃあ場所を移動して……」
「ちょい待ちちょい待ち! ちょっとお願いがあるんだけど!」
千華が話を聞くために移動を提案しようとしたところ、来夏が話に割り込んでくる。ずいと身を乗り出す来夏の目は、期待の光に輝いている。
「せっかくだからるぷすちゃんの戦闘シーンが見たい!」
「私の?」
:おお!?
:るぷすちゃんの!?
:確かに今回はとらい☆りっぱーの戦闘しか見てないしな
:ジャグリングしか拝めてないぜ!
:せっかくだから 俺はるぷすちゃんの戦闘も見たいぜ!
リスナーの反応も来夏の提案に賛成のようだ。るぷすの配信を見る者は、るぷすが自分よりも遥かに巨大な魔物を派手に打ち倒すシーンを目当てに視聴する者が多い。(るぷすの圧倒的な容姿や、ガードの甘さからくる不意のサービスシーン目当ての者も多い)
そんな彼らからすれば、るぷすが暴れる姿はやはり拝みたい。そもそもるぷすのチャンネルなのだから、るぷすにこそ活躍してほしいと思ってくれる者が多いのだ。
「……やっちゃう?」
「おっほ……」
「……やばいわね、これ」
「……」
首をこてっと傾げ、三人に問う。来夏は謎の言葉を出して天を見上げ、理央は頬を赤く染めて視線を逸らし、千華は無言でるぷすに抱き着いた。なお、コメント欄ではリスナーたちが次々と心臓麻痺を起こして旅立っているぞ。(笑)
「それじゃあ魔物を探さないとね」
一人マイペースなるぷすは千華を引きずりながら歩き始める。さっきまでの凛々しい姿からは想像できないデレデレな千華の姿は、リスナーたちから新たなファンを生み出したのだった。
「っと、意外と早く見つかった」
「え、どこ?」
歩き始めてほんの数分。るぷすは足を止めて側面の木々の向こうを見やる。来夏たちにはまだどこに居るかが分からなかったが、数秒の後、大きな足音が近付いてくるのを知覚した。
────瞬間、轟音と共に木々が吹き飛び、一体のトロールが姿を現した。体格は先程とらい☆りっぱーが倒したトロールよりも小柄だが、その身に纏う筋肉の量・密度はこちらが明らかに上だった。新たに現れたトロールは、血走った目でるぷすたちを睨み、唸り声を上げている。
「さっきのトロールの身内かな」
「……ぽいね」
「こっちの方が強そう」
「見るからにそうでしょ」
:うげ 家族に見つかったのか
:よくあることっちゃよくあることなんだが
:こうなると流石に厳しいか……?
:筋肉やべぇ
:明らかに怒ってるよな 当たり前だが
感情の昂りが魔物の纏う魔力を底上げしている。その魔力は
しかし、そんな圧にも一切怯むことなく、るぷすはトロールの前に歩み出る。自然、とらい☆りっぱーの三人はるぷすから大きく離れた。
左手を前に、右手を胸の前に。脚を開いて腰を落とす。天地廻輪命環流の構え。
「────おいで」
「うぅううううるぉあぁああああああああああっっっ!!!」
静かなるぷすの挑発に、トロールは裂帛の気合で応えた。渾身の力が込められた右の拳。それが大きく引き絞られ、弾丸の如き速さ、弓矢のような鋭さ、そして大砲の如き威力を伴ってるぷすに放たれた。
刹那で消える間合い、巨大な拳が支配するるぷすの視界。────しかし。
「────
るぷすは左手をトロールの拳に添えて受け流し────否、
強烈な一撃を食らったトロールの顎は砕け、牙は粉々になり、口から零れ落ちる。その大きな体は仰け反るように宙を舞い、地に落ちるのを待つばかり。だが、るぷすは既に追撃を仕掛けていた。
後ろ蹴りの勢いを利用して跳び上がっていたるぷすは右の飛び回し蹴りをトロールの首に
自身の体重とるぷすの体重、そして蹴りの威力と地面への衝突により、トロールの頸椎は完全に破壊され、その命を散らしたのだった。
地に降り立ったるぷすは構えて残心。数秒の後、構えを解いてトロールへと背を向け、三人の元へと歩き出す。
「う、おおおおぉ……」
「……すっご」
「一撃で……いや、二発、かな……?」
:うひょおおおおおおおお!!
:すげえええええええええ!!
:よく分からんが蹴り? で倒した? のか!?
:何でトロールは一回飛んだんだ?
:るぷすちゃん回ってた……よな?
:マジで強いな……
:あんなちっちゃいのにクソちゅよい
:さすがゴーレムを真っ二つにするパワー
:天地……何とか流ってすげえんだな
:……何をどうやったらあんな急降下出来んだ?
間近で見ていたとらい☆りっぱーにも全容を捉えることが出来ず、千華がかろうじて二発の蹴りを放ったことを理解出来たようだ。高速で流れるコメントでも、やはりるぷすの動きを見えていた者は居なかったようだが、回転して何かをしたらしいことは何とか理解出来ている。リスナーたちはるぷすの動きに慣れてきたのか、あるいは探索者が配信を見ている可能性もあるだろう。
とにかく、るぷすへのコメントはそのほとんどが強さへの称賛であり、るぷすの承認欲求を満足させるのであった。
「ん……何となく、三人への講評をする気分じゃなくなったかな?」
「あー……それは分かるかも」
「明日に回す? 私は構わないけど」
「うん。今日の配信はここまでにして、後は明日に纏めようか」
:えー
:マジか 残念
:でもまああのトロール戦の後だと気持ちは分かる
:それは確かに
:しゃーないわね
:でもこの続きが明日に見れるってのは普通に嬉しい
:しっかしるぷすちゃんコラボ多いな
:明日も楽しみだぜー!
四人は予定を少し繰り上げ、ここで配信を終了することに決めた。リスナーたちはそれを残念がるが、それでも理解を示し、明日を楽しみに待ってくれる。配信者として冥利に尽きるというものだろう。
そうして今回の配信は終了した。三人はるぷすにトロールを倒した技の詳細を聞いたりしつつ、出口への道なき道を歩き出す。
「それにしても、かいこうつい……? って蹴り、かっこよかった!」
「うーん……厳密には蹴り技じゃないんだけどね」
「そうなの?」
「あれは一応配信の為に本来の形から変えてあって、本当なら相手の首に足を引っ掛けた後、首から地面に叩き付けるんじゃなくて
「ひえっ」
「何でそう物騒なの、アンタの流派は……?」
「それはそうと何で三人はアイドルの衣装じゃなくて普通の服なの? いや防具ではあるけど」
「何でって、アイドルの衣装を自分や魔物の血で汚しちゃダメでしょうに」
「……それもそうだ」
────見目麗しい四人が話す内容は、どうにも血なまぐさいようであったが。
お疲れ様でした。
個人戦闘の部分、るぷすの回想なのにるぷす以外の心境が語られたり、私自身「どういうことだ……?」ってなってました。(笑)
いや笑いこっちゃないんですけどね。
次回はるぷす先生による三人への指導です。
それではまた次回。
以下おまけ
とらい☆りっぱーの三人の名前の由来
三人の名前にはそれぞれモチーフが存在するのですが、結構強引に崩しています。
○松上理央
一番無理矢理ですね。
まつうえ りお→りお・まつうえ→デュオ・マックスウェル
そんなバカなレベルの改変具合です。武器が大鎌なのはメタ的な理由だとこの為です。
○須藤来夏
すどう らいか→スドウライカ→ストライクガンダム
ナイフ二刀流だったり足癖が悪いのはこのせいです。
○周防千華
すおう せんか→センカ・スオウ→ゼンガ―・ゾンボルト
薩摩示現流を修めているのはこれが理由です。未だ雲耀には至らず。