低身長美少女配信者のダンジョンすくすく成長記   作:タナボルタ

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大変お待たせいたしました。

何か上手いこと行かずにやたらと長くなってしまいました。
ぶつ切りでもいいからポンポンと投稿した方がいいのかな……?

また、今回も作者のにわか知識がスパークしておりますので寛大な心で見てやってください。

それではまたあとがきで。


第二十四話『るぷす先生の気功講座』

 

「部屋の中からこんるぷすー。美少女ダンムーバーのるぷすです。今日はチャオプロの事務所、その会議室の一つにお邪魔しています」

 

 

:こんるぷすー

:きちゃ!

:珍しいな 室内だ

:こんるぷす

:こんるぷすー

:こんるぷすちゃん!

:おお! チャオプロの会議室!?

:るぷすちゃんだー!

:るぷすちゃんもチャオプロに所属するのか!?

:るぷすちゃんがアイドルに!?

:連日のコラボ嬉しい

 

 

 いつも通りの挨拶。いつも通りのるぷすのチャンネルでの配信。いつもと違うのは、そこがダンジョン内ではなく室内であること。それも芸能事務所の一室だという。挨拶もそこそこに、リスナーからはるぷすがアイドルになるのかと、誤解されても割と仕方のない憶測も語られる。

 

 

「今回も一緒に配信するのはもちろん────」

「どーもー! 私たち、『とらい☆りっぱー』です!」

 

 ドローンさんが映し出すのはパイプ椅子と長机、ホワイトボードが置かれた簡素な部屋。そしてその中に咲く、四輪の花々だ。彼女たちがこの場に存在することで、殺風景な部屋の寂しさを華やかさで塗り替える、優美な一室へと様変わりする。

 

「今日の配信内容は昨日の続き。私がとらい☆りっぱーの三人の戦いを見て、気になったところを指導していく感じだよ」

「お願いしまーす」

 

 

:とらい☆りっぱーだ!

:うひょー!

:千華ちゃんとるぷすちゃんの身長差凄い

:今日も今日とてコラボ配信だぜー!

:ちっちゃいちっちゃいと思ってた理央もこうして見ると大きく見えてくる

:この空間に混ざりたい……

:来夏 何か変な動きしてないか?w

:なんか揺れてるwww

 

 

 るぷすに続いてとらい☆りっぱーもドローンさんがじっくりと撮影する。一人一人を映していく中、何故か来夏は身体を揺らしており、リスナーたちからツッコミを受ける。どうもじっとしていることが苦手な性分のようだ。

 るぷすが一歩前に出て、三人を見やる。

 

 

「……で、なんだけど。私は武器術については専門外。特に大鎌は格好良いということしか分からない」

 

 

:るぷすちゃんでも無理かー

:まあ大鎌はねぇ 格好良いよねぇ

:あれは武器……っちゅーか農具だからなぁ カッコ良さ全振りよね

:るぷすちゃん 腰にナイフ提げてるけど普段は全然使わないしな

:理央って意外と中二っぽいのよな

:てんち何とか流に武器術は無いのかな?

:まあ仮に教えられても千華の場合は釈迦に説法だろうし

 

 

 るぷすの言葉にリスナーたちも納得する。かろうじて来夏のナイフならば少しは口を出せるだろうが、やはり素人のるぷすの意見ではなく、専門家の教えの方が必要になる。

 なので、るぷすが指導するのは別の物。

 

「そこで、今回私が指導するのは私たち探索者に共通する力。────“気”についてやっていくよ」

 

 

:気?

:気かー

:んー 今更教えることってあるのか?

:特に千華は凄いしな

:いやでもるぷすちゃんはゴーレム真っ二つに出来るわけだし

:あー 上手いこと気を運用してるってことか

 

 

 るぷすはホワイトボードに「気について」と板書する。

 

「気。探索者資格を取るのにも必須になる力。一般の人たちと私たちを分ける物。これについて基礎となる部分から教えていこうと思います」

「よろしくお願いします」

「ちなみに気を扱う(すべ)のことを“気功術”、その気功術を扱う人のことを“気功使い”と言う……んだけど、これはもう探索者と同義みたいなものになっちゃってて、そう呼んでる人はあんまり居ないかな? 気功術を使える人が全員探索者になってるわけではないんだけども」

「あー、確かに」

「私の家族も気功使いだけど探索者じゃないね」

「個人的には魔法使いと対になってて好き」

「実は私も」

 

 三人がるぷすに頭を下げる。るぷすより年上でも今日は教わる立場。アイドルとしてもこういった姿を見せるのは好感度にも繋がってくるので余念がない。そして三人は少しの雑談を挟みつつ席に着き、るぷすはホワイトボードの前に立つ。

 

「それでは改めて……講義を始めます」

 

 るぷすは腰のポーチに手を入れ、いくつかの小道具を取り出して装着した。

 眼鏡、だぼだぼの白衣、そして指示棒(ポインター)。お久しぶりのるぷす先生スタイルである。

 

「るぷす先生だー!」

 

 

:ぎゃわいいっ!!

:おほー! 久々の先生だー!

:ミーアちゃんの時以来か!

:萌え袖眼鏡! ありがとー!

:スクショスクショ

:ワイシャツにタイトスカートに紐タイを巻いたバージョンも見たい

:↑俺も!

:俺もだ……見たい!!

 

 

 千華やリスナーは久々のコスプレ姿(?)に大興奮だ。しかしいつもはやたらと大きな千華の声も、事務所の中であるためか、かなり抑え気味である。

 ドローンさんのカメラに映らないように、隅っこの方でこっそりと配信の様子を眺めているマネージャーの須賀は、「いつもこうならいいのに……」と密かに思ったとかなんとか。

 

「では最初に昨日、私が三人の戦いを見て思ったことなんだけど……三人とも、気をちゃんと扱えてない。強い言い方をすれば、雑とも言える」

「……そんなに?」

「けっこうショック……」

「私や理央はともかく、千華まで……?」

 

 

:千華ちゃんも?

:マジで?

:いやホンマにか?

:千華はけっこう凄いと思うんだが……

:何がダメなん?

 

 

 来夏の言葉に同調するように、コメントでも疑問や根拠の提示が求められる。るぷすはコメントを一通り眺め頷くと、改めて三人に向き直った。

 

「それじゃまず三人に答えてほしいんだけど……そもそもの話、“気”とは一体何なのか?」

「え……?」

「気が何なのか……?」

「それは……」

 

 来夏は何かを言おうとし、すぐに口を噤む。他の二人も同じく、答えようと口を開くが、中々言葉が出てこない。

 

 

:んんー……?

:言われてみると……

:何かこう漠然としてるな 上手く言葉に出来ない

:感覚では分かるんだけどな

:いやリスナーに気功使い多いな

:るぷすちゃんは探索者にも注目されてるってことだな

:……昔は俺たちだけのるぷすちゃんだったのに……

:古参アピールはけっこうだがお前らの物じゃないぞ

 

 

 リスナーたちも言語化が上手く出来ず、戸惑っている。改めて言われてみれば、気とは何なのか。

 

「来夏さんは気をどんな物だと思ってる?」

「うぇっ!? え、えーとえーっと……!」

 

 突然名指しされ、慌てて答えを捻り出そうとする来夏。その果てに出した答えがこれだ。

 

「……人間の身体に宿る……神秘の不思議エネルギー!」

 

 ヤケクソ気味に答えたためか、少々顔が赤くなっている。正解とは思っておらず、間違いの確信を抱く来夏。るぷすはそんな来夏の回答に一つ頷き。

 

「神秘の不思議エネルギー……と」

 

 大真面目に板書する。

 

「……っ……」

 

 否定されなくて嬉しいような、真面目に受け取られて恥ずかしいような、複雑な感情が来夏を襲う。何故かギャグが滑ったかのような空気だ。

 

「次、理央さんはどう思う?」

「う、うーん……」

 

 腕を組み、天井を見つめて考えること数秒。

 

「……生命力の表れ、とか?」

「ふんふん。生命力……」

 

 

:おお それっぽい

:確かに何か身体から溢れてくるしな

:これは正解じゃないか?

 

 

 同じく理央の回答をるぷすは板書する。リスナーたちは理央の答えは肯定的だ。

 

「じゃあ最後に千華さん」

「……」

 

 千華は目を閉じて過去を思い返している。剣の師である祖父と父からよく聞かされた言葉。

 

「……昔に、よく稽古中に『確固たる意志を剣に込め、その気力を以って剣を振れ』って聞かされてて。だから、私が思う“気”は意志の力……かなぁ……?」

「なるほど」

 

 

:新説来たな

:一番武に精通してる千華ちゃんがこういう感じの答えなのかー

:分かるような分からんような

:いやでもこう! って決めたら力が出るのは分かるよ

:問題は気っぽくないってとこかー

:そもそもその『ぽい』こと自体が曖昧だからなぁ

 

 

 少々自信なさげに千華が答える。るぷすが板書している中、その意外な内容にリスナーたちの議論も活発になる。

 

「はい、これで三人が思う“気”の答えが出揃いました」

 

 

:バラバラだな

:ここまで意見が一致しないとは

:俺は理央ちゃんの答えが一番納得したかな

:俺もー

:千華の答えは興味深いな

:でも意志が気の力ってのはちょっとな

:やっぱ答えは理央かねぇ?

 

 

 リスナーが指摘するように見事にバラバラである。その中でもリスナーたちが一番支持しているのは理央の答えのようだ。

 

「では、これを踏まえて三人にはもう一つ答えてもらいます」

「うーん?」

「答え合わせとかないのかな?」

「今度は何だろう」

「次に答えてもらいたいのは────“気”の発生源はどこなのか?」

「……っ」

 

 更に告げられたるぷすの新たな問いに、三人はまた言葉を詰まらせる。

 

 

:今度は発生源!?

:……あれ? そういやどこだ?

:チャクラじゃないの?

:ああ それか

:いやでもそれならこんな問題出すか?

:丹田とかじゃなかったっけ?

 

 

 その問いの難しさに、リスナーたちも頭を悩ませている。既知の力であるはずなのに、誰もその詳細を語れない。曖昧な物が、曖昧なままに浸透してしまっている。これには()()()()()()()も存在しているといえば存在している。

 

「今度は千華さんからどうぞ」

「お……っと」

 

 少し虚を突かれたが、千華はすぐに考えを纏め、それを口にする。

 

「気が意志の力だとするなら、それを生み出すのはやっぱり“心”じゃないかなって」

「おお……」

「なるほど、心ね」

 

 淀みなく答えた千華に、他の二人も感心したように頷く。

 るぷすも一つ頷いた後、まだまだスペースが余っているホワイトボードを裏返し、中央に綺麗な字で『心か』と書き、また表に戻して“発生源は心”と書き加える。

 

「……え、なに、今の」

「分かんない」

「何かのミームかな……?」

 

 

:ウル○オラwww

:ウル○オラじゃねーか!

:名シーンw

:見事なまでの再現具合だ……

:いやホントマジで良いシーンなんすよ……

:あれ 三人とも知らないのか

:俺あそこで泣いたんだよね

:千華の答えがウル○オラに侵食されちまった……

 

 

 三人はるぷすの奇行に戸惑いを見せるが、元ネタを知っているリスナーたちは大いに盛り上がった。人気キャラの名シーン。その元ネタを知らない様子の三人に、るぷすは後で布教をしようと心に決める。

 

「次は理央さん」

「え、あ、うん」

 

 まだ戸惑いが抜けていない理央は少し焦ってしまうが、気の発生源はどこか? と聞かれたら、一つしか答えらえない。

 

「んー……()()()()じゃないの? チャクラを回して気を、みたいな言い回しもあるし」

「チャクラ」

 

 るぷすは『心』の隣にチャクラを加える。その反応の弱さから、もしかして間違っているのだろうかと疑問が浮かぶ。

 

「最後に来夏さん、どうぞ」

「……ん゛ん゛ぅ゛~~~~~~っ」

 

 指名された来夏は唸り声で返事をする。まるで答えが分からない。気を不思議エネルギーと表現したのは自分ではあるが、そのせいで発生源のイメージがまるで沸いてこない。

 こういった場合、来夏が取る行動は一つ。

 

「うん。やっぱりネ。私はネ、こう思うんよネ。────心が、チャクラから気を引き出すんじゃないかなってネ」

 

 ……前者二人の回答を、パクることである。

 

「んー、心とチャクラの二つが揃って、って感じかな」

 

 そしてるぷすはそれをスルー! 純粋に意見の一つとして板書する。

 

「……」

 

 何のツッコミもない、というのもそれはそれで来るものがある。羞恥を感じた来夏は何も言うことなく、その場で縮こまってしまうのだった。

 

 

:来夏www

:不憫w

:草

:扱いが雑ぅ!

:可哀そうだけど面白いwww

:恥じらってる来夏も可愛いぞ

 

 

 るぷすは三人の気とは何か? 気の発生源は? の答えを見やり、三人に向き直る。

 

「こうして三人に二つの答えを聞かせてもらったわけだけど……じつはこれ、三人とも()()()()()()()()()()だったりする」

「え」

「三人とも?」

「どれか一つじゃなくて?」

「うん」

 

 

:え 全部が?

:そんなことある?

:全然バラバラの答えだと思うけど……

 

 

 るぷすはホワイトボードに新たに人間の正面図と側面図を描く。

 

「それじゃ、気について話す前に、まずは必要な前提知識としてチャクラについて説明していくね」

「……んー」

 

 七つの丸を人間の正面図に描き加え、それぞれに番号を付けていく。一番下を第一チャクラ、一番上が第七チャクラだ。

 理央は自分が答えとして出したチャクラの説明がここで入るのに疑問を浮かべる。

 

「チャクラとは、人間の身体に七つ存在すると言われる器官のこと。一番下の第一チャクラの場所は、性器と肛門の間にある会陰(えいん)っていう場所。第二チャクラはおへその下辺りの丹田っていう場所。第三チャクラは────……」

 

 るぷすは一つ一つのチャクラの場所を軽く解説しながら書いていく。

 第一チャクラ・会陰。第二チャクラ・丹田。第三チャクラ・鳩尾。第四チャクラ・心臓。第五チャクラ・喉。第六チャクラ・眉間。第七チャクラ・頭頂。

 

「これがチャクラがあるとされている場所。正中線上に真っ直ぐ揃ってるのが特徴かな?」

「ふんふん」

 

 来夏がチャクラの詳しい場所を知り、感心を示す。知識として知っている千華と理央はここからどのような話に展開していくのか、興味がそそられている。

 

「このチャクラの場所なんだけど、実はちょっと違う。()()()()()()()()沿()()()()()()()()()。そしてチャクラがどういった物か、どういった役割を持っているのかっていうのも分かってる」

「おお……!?」

「そうなんだ……!」

「……」

 

 

:マジか

:嘘やろ マジでか

:何でるぷすちゃんはそれを知ってるんだ?

:俺は聞いたことないな

:あ 何かちらっとどっかで聞いたことあるかも 全然覚えてないけど

:意味ないじゃん

 

 

 感嘆の言葉を漏らす来夏と理央、そして千華はぐっと少し身を乗り出し、決して聞き逃すまいとるぷすの話に集中する。

 

「チャクラの正体、それは多くの神経が網目状に集まっている部分────神経叢(しんけいそう)と呼ばれる物」

「え……!?」

「し、神経……の、集まり……!?」

「神経叢……!」

 

 

:神経!?

:うせやろ!?

:いや流石に それは流石に

:何か一気に胡散臭くなったな

:チャクラってそんな物理的な物なの?

:……あ そうだそうだ 昔に外国の論文かなんかで見たような……何だったかな?

 

 

 

 チャクラの正体が明かされ、その意外な答えに誰もが驚いた。コメントには否定的な意見も多く出てくる。るぷすはそんな三人やリスナーたちの様子を眺め、少し落ち着いてから続きを話し始める。

 

「ここで、“気”の話に戻るね。気の発生源、気とは何か、その答えについて」

「おお、遂に……!」

 

 ノリの良い来夏が囃し立てて気分を盛り上げる。理央も千華もその目には真剣な光を宿しており、るぷすの答えをやや興奮したように待っている。

 

()()()()()()()()の発生源、それはここ」

 

 るぷすは人間の正面図のある部分に丸を付ける。その丸は頭部を囲んでいた。

 

「────脳。()()()()()()()

「脳!?」

「脳が気の……!?」

「OH NO!!」

 

 

:脳みそが!?

:どういうこっちゃ

:脳が何をどうやって気を!?

:気が何なのか余計に分からなくなってきたんだが!?

:嘘じゃなくて!?

 

 

 これで何度目か、千華たちもリスナーたちも驚愕の声を上げる。しかし驚きはこれだけにとどまらない。るぷすは更なる驚きを用意していた。

 

「そして気の正体。これは神経に過剰に流れる生体電流や神経伝達物質が変質したものだったりする」

「ええぇ……!?」

「生体電流……!?」

「何がどうなったらそうなんの……?」

 

 

:はぁ!?

:生体電流って……まさか生体電流か!?

:神経伝達……ドーパミンとかセロトニンとかエンドルフィンとかジャム○フィンとかそういう?

:どういうメカニズムなの……?

:分からん まるで分からん

:待て 何か↑で変なの混ざってるぞ

:草

 

 

 驚き疲れたのか、来夏は机に突っ伏した。腕を伸ばしてべしょっととろけた来夏は、その後腕を組んで顎の下に挟み、長く息を吐く。だらけた姿を晒しているが、それでも視線はるぷすに向けられており、態度はともかく学ぶ意思はちゃんとあるらしい。

 

「本当なら生体電流が過剰に流れることはないんだけど、それが気を扱える人とそれ以外とを分ける鍵。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 るぷすは人の正面図の横に上から下への矢印を付け足す。

 

「脳から第六チャクラ、そこから第五、第四とチャクラを通って徐々に変換されていき、一番下の第一チャクラで完全に気に変換される。ここから神経を通して気が全身に行き渡るようになる」

「はぁー、なるほど……」

「神経を通して、なんだ」

「ほぁー……あ、でもそっか。私たちの答えが当たらずも遠からずってそういうことか」

 

 

:そうか 千華ちゃんが答えた意志も心も脳があっての物か

:チャクラは気を生み出すんじゃなくて 変換と増幅の役割を持つ……チャクラから生み出されてるって感覚もあながち間違いではないっぽいな

:こんだけ複雑な機構なら神秘的で不思議ではあるな……感覚的すぎるけど

:でも三人それぞれがそれぞれの感性で答えを言い当ててたってことだよな?

:完璧とは言えないけどまあそうか

:……凄くね?

:……すごい漢だ

:漢じゃねーけど!?

 

 

 リスナーはるぷすの解説を聞き、“気”の諸々について納得する。来夏の呟いた声にも肯定を示し、それぞれの感覚の鋭さを褒めている。

 

「で、この第一チャクラで完全に気に変換されるんだけど、重要なのはここから。実はただ生体電流を気に変換出来るだけじゃチャクラは完全に活性化していない。理央さんが言ってたように、チャクラを回して気を練る……要するに、変換した気を増幅することが出来て、ようやくチャクラが完全活性したことになる。これをチャクラを開く、っていう風に言うよ」

「これは……確かに重要だ」

「気を増幅してようやく、ね。なるほど確かに」

「ようやく私たちにも理解出来る話題が来たねー」

「ちなみにチャクラを通せば通すほど気が増幅される。だから気功使いはより多くのチャクラを開こうとする、と。どんどん開くのが難しくなっていくけどね」

「うんうん」

 

 

:俺も一つは開いてるけどそこから数年間さっぱりだわ

:いいなー 俺なんか気は使えるけどチャクラは開いてねーもん

:俺も一つだな

:俺もだ

:やっぱ探索者多い?

:ってか複数開いてるのは誰も居らんのか?

:複数開けるのはマジで難しいからな……俺の師匠は数十年修行して三つだもの

:うへぇ キツイなぁ

 

 

「三人はチャクラを開けてるよね?」

「うん。私と理央が一つ」

「で、千華が二つね」

「うん」

 

 

:二つ!

:その若さで二つとかマジか!?

:ってか理央たちも一つ開いてるのか

:すげー才能じゃん 羨ましい

 

 

 三人ともがチャクラを開いていると分かり、リスナーたちが盛り上がる。ただ気を扱うだけであるならば、チャクラが完全に開いている必要はない。極低出力でも、全身に気を纏わせた時の身体能力は一般人を軽く凌駕したものになる。故に探索者は魔物と戦うことが出来るのだ。

 

「……で、ここで話を最初に戻すんだけど。三人がちゃんと気を扱えてないって話だね」

「あ、そーそーそれそれ。私はともかく、チャクラを二つ開いてる千華でも気の扱いが雑なの?」

「まあ私と来夏はともかく、千華がそう言われるのは納得が行かないのよね」

「ちょっとちょっと、二人とも……」

 

 

:おこ?

:おこなの?

:まあ確かに知識に関してはるぷすちゃんの方が上だったが……

:気の扱いでは……と思ったけど実力でも遥かに格上だしな

:そう考えるとちゃんと扱えてないって言われるのも仕方がないのか……?

:んー でも見る限りちゃんと気は運用出来てるよな?

:基準が知りたいところだな

 

 

 さて、前提となる知識について学んだところで、話は冒頭にまで戻った。やはり仲間が軽んじられるのは我慢が出来ないのか、理央たち二人のボルテージが上がり、るぷすに異議を申し立てる。しかしるぷすの実力を知るリスナーは冷静な物が多く、落ち着いて言葉を交わしている様子が流れていた。

 

「うん。それじゃあ何でかっていうのを解説していくよ。まずは千華さん以外の二人だけど、戦闘全体を通して出力が全く安定していなかった。特に来夏さんはムラが酷くて、高い時と低い時の落差が激しすぎる」

「むむむ……!」

「……やっぱよく見てくれてるのね。そう、全然出力が安定しないのよ」

 

 

:これはまあそうだな

:こっちは納得

:確かに二人とも時々体幹が大きくぶれたりするしな

:ぐうの音も出ないとはこのことか……

 

 

 何かを言い返したいが言い返せなくて、唸り声を上げるしか出来ない来夏。理央はるぷすの観察眼の高さに驚くばかりだ。

 

「どうして出力が安定しないのかって言うと、まず“気”が身体に馴染んでいないから。気は元が生体電流とはいえ、完全に変換されてしまっているから、実際には身体にとっては異物でしかない。それが神経を通して身体中を駆け巡るんだから、どうしても身体は反応してしまう」

「お……?」

「中にはその刺激のせいでイライラしたり、攻撃的になったり、嗜虐的になったりしちゃう人も居るよ」

「……あー」

 

 

:見たことあるわそういう奴

:配信でも結構いるよな

:倒した魔物にずっと殴り掛かる奴も見た

:こわ

:しかしなるほど そういう理由だったんだな

:俺も何か興奮しがちというか、そうなるのは気のせいだったのか

:気のせいじゃないだろ?

:そういう意味じゃないよ?

:草

:仲いいなお前らw

 

 

 るぷすの言葉に二人は普段の配信外での探索中の自分を思い返して納得し、リスナーたちも例を出されたことで他のダンムーバーを思い返し、言われてみればと頷いた。

 

「じゃあさ、出力を安定化させるには“気”の刺激に身体を……っていうか、神経を慣れさせればいいの?」

「イメージ的には最大出力を維持して使い果たす……みたいな鍛練が思い浮かぶけど」

 

 

:こう……はーっ!! って感じで?

:やるやるw

:気合を出すために叫ぶんだよな

 

 

「あ、それはダメ。最大出力の維持はまだ絶対にやっちゃダメ」

「ダメなの?」

()()()()。気を馴染ませてからじゃないと大怪我する」

「え……」

 

 るぷすはこほんと一つ咳払いをし、ホワイトボードを裏返して『心か』の文字を消し去り、新たに『慣れさせる』、『馴染ませる』と板書する。

 

「最初にこれは私の持つイメージであることは分かってもらいたいんだけど、個人的に『慣れる』って言葉にはマイナスのイメージを持ってる」

「マイナスの?」

「うん。例えば痛みに慣れるとか、孤独に慣れるとか。私の中で慣れるっていう言葉は、感覚を鈍化させることで負の面を無理に受け入れさせるイメージなの」

「ほほう……?」

「だから『慣れさせる』のではなく『馴染ませる』。例え異物であっても、そこにあるのがごく自然なことであるように受け止める。そういう風な鍛練を積まないと私はダメだと思う」

「馴染ませる……か」

 

 

:なるほど……

:んー 確かにマイナスのイメージもあるような

:しかしむずくね? ニュアンスの違いは分かったけどどうすんだ?

:まあ最大はダメってんだからそれ以下とか?

:それでいけるかぁ? 結局神経に負担は掛かるんだろうし

:うーん?

 

 

 るぷすの言葉に一定の理解を示すものの、ならばそれをどのように実現するのかの議論がリスナーたちによって交わされる。

 

「気を身体に馴染ませるためには、まずは極低出力で気を長時間纏い続けること。神経に強い負担が掛からないように気を付けて、なるべく意識しなくても維持出来るくらいの出力が理想かな?」

「意識しなくても、かー」

「それ一番難しいやつじゃないの」

 

 

:うへぇ これはキツイな

:まあ修行とはそういうもんだけど

:楽な鍛練は存在しないよなぁ

:最初は逆に神経を削りそう……

:確かに

 

 

 三人はるぷすが告げた鍛練内容に渋面を作る。意識をせずとも、ということはそれが『当たり前である』と身体に覚え込ませなければならない。例えば呼吸をすること、歩くことなど、そういったものと同じようになるレベルまで身体に『馴染ませる』鍛練だということだ。

 

「それで千華さんだけど、一瞬で最大出力にまで持っていけるのは凄いけど、その他の調整がおざなりすぎる。三人での戦いの時、二人が時間を稼いでいるからって気を高めるのがいくら何でも遅すぎる。ゼロか一かみたいな極端さじゃなくて、もっと柔軟に、かつ素早く出力をコントロール出来るようにしないとダメ」

「うう、はい……」

「なるほど、道理だわ」

「理央さんの突然の裏切り……!?」

 

 

:草

:ワロタ

:いやでもるぷすちゃんの言うことは間違ってないよ

:それはそう

:融通が利かないのは色々と危険だしな

 

 

 千華へのるぷすの指摘があまりにも真っ当なものであったため、理央は即効で掌を返した。千華の剣の流派に合った特性ではあるのだが、それにしても半分の力を発揮するのに全力の何倍・何十倍の時間を掛けるようではまともに“気”を扱えていないと言われても仕方がないだろう。その分危険にさらされるのは他ならぬ自分たちなのだから、改善してもらいたいと思うのは当然だ。

 

「千華さんの場合、長時間の維持よりも反復運動の方が良いかな……? 例えば全開の半分の出力を身体に覚えさせて、咄嗟にその出力の気を出せるようにするとか……」

「んー、なるほど……」

「でも……千華には難しくないかな? こう、流派的に……」

「あー……」

 

 

:ん゛ん~……!

:千華ちゃんの流派はなぁ……

:二の太刀要らずやもんなぁ

:示現流だからね

:るぷすちゃんが流派に言及せずにいたのにお前らときたら……

 

 

 流石はファンと言ったところか、リスナーたちは千華の流派について察しており、その理念から力を抑えるのは難しいのではと危惧する。染み付いた癖と言うのは中々に払拭しづらいものだ。

 

「……でも、そうしないと前に進めないのならやるしかないよね。頑張ってみるよ、るぷすちゃん」

「うん」

「……これって頑張らないことを頑張る、みたいな感じ?」

「いや、流石に違うでしょ」

 

 ぼそっと呟いた来夏に理央がツッコむ。隣に座る千華には丸聞こえであり、その顔には苦笑が浮かんでいた。

 

「さて、これでそれぞれの鍛練法を指示したわけだけど、これだけじゃあんまりやる気が起きないんじゃないかなって思ったり」

「はい!」

「全力で肯定すんじゃないわよ」

「何でもかんでも元気よく返事すればいいってわけじゃないんだよ?」

 

 

:www

:真面目にやらんかー!

:草

:らwいwかw

:気持ちは分かるけどもwww

 

 

「なので、ここでやる気が起きる情報を一つ」

「お?」

 

 ああしなさいこうしなさいと言われれば、訳もなく反発心が湧き上がってくる。るぷすはそんな気持ちだってよく分かっている。なので、るぷすの鍛練を行えば他にどういったメリットが存在するのか、それを明かすことにした。

 

「さっき示した鍛練法、特に極低出力で気を身体に馴染ませる鍛練なんだけど────これを続ければ、()()()()()()()()()()()()()()()

 

 るぷすのその言葉を正しく理解し飲み込むまでに、暫しの沈黙が訪れた。そして数秒後。三人はガタッと大きな音を立て、思わず立ち上がっていた。

 

「ええ……!?」

「チャクラが!?」

「マジで? ……え、マジで……!?」

 

 

:は!?

:マジで!?

:ホンマか!? 嘘やったら流石に怒るぞ!?

:ちょちょちょいきなりシャレにならん情報が出てきたんだが

:これは聞いたことないな……

:馬鹿な!? そんな情報は僕のデータに無いぞ!!?

:雑なデータキャラやめろw

 

 

 コメントがリスナーたちの驚愕の声に埋め尽くされる。それだけ新たなチャクラを開くことは難しいこととされており、今まで確実な方法論などは唱えられていなかったからだ。そんな現状に一石を投じる情報が、今明かされようとしている。

 

「そもそもの話、どうして新たにチャクラを開くのは難しいのかなんだけど……来夏さん、分かる?」

「えぇ!? えーっと……あれ、そういえば何でなの?」

 

 ホワイトボードをまた表返しつつのるぷすの問いに、来夏は首を傾げた。その答えは既に眼前のホワイトボードに書かれてあるのだが、頭を抱えて考えに耽る来夏はそれに気付かない。

 るぷすは唸る来夏を十分に堪能した後、人の正面図に今度は下から上の矢印を描き加えた。

 

「その答えは単純。脳から発せられた生体電流がチャクラを通って気に変換されるということは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「あ……!」

「だから事前に気を神経に馴染ませておく。そうしておくことで、神経の集まりであるチャクラの気への耐性を負荷なく、スピーディーに高めることが出来る」

「お、おお……!」

「す、凄い……! 凄いよるぷすちゃん……!」

 

 

:おおー!!

:な なるほどぉ……!

:すげえな 全部繋がってる

:ここまで説得力のあるチャクラの開き方は初めてだ

:胡散臭いのめちゃくちゃ多いもんな

:しかしこれはすげえ情報だぞ!

:これ無料で大丈夫? 普通に講義料取れるだろ

 

 

 理路整然としたるぷすの解説に、千華たちもリスナーたちも大絶賛だ。これにはるぷすも自己顕示欲、承認欲求、ついでに虚栄心も満たされ、久しぶりの“あの顔”を出さざるを得ない。眼鏡の蝶番辺りに指を当てて何度もくいくいと上げながら────。

 

「むふー」

 

 

:“無”のドヤ顔いただきましたぁ!

:久しぶりw

:これが無のドヤ顔!

:無のドヤ顔!?

:無のドヤ顔……ドヤ顔……?

:ドヤ顔かこれ?

:いつもの無表情にしか見えん

:まあ可愛いから何でもいいけど

:そうか……だから無なのか

:そうか……こんなに簡単なことだったのか……無とは……ドヤ顔とは……

:急に虚無るなwww

:ゲッ○ーwww

 

 

「そうそう、チャクラを開きやすくなるとは言ったけど、必ずしもこの方法で全てのチャクラを開けるようになるわけじゃないからそこは注意してほしい」

「んん?」

「と言うと?」

「いくつのチャクラが開けるかは才能……と言うよりは体質かな? 体質によって変わってくる。七つ全部開けられる人も居れば、ニ~三個しか開けられない人も居る。中には一つも開けられない人だって居る。この方法はチャクラを開く方法ではなく、あくまでも()()()()()()()()()()()()()()であることを理解してほしい」

「……なるほど」

 

 

:体質 それがあったか

:体質も才能だよなぁ

:結局はそっち方面の話になっちゃうのね

:この世は残酷なのぜ……

 

 

 気を馴染ませる方法に対する注釈に、リスナーの何割かは意気消沈してしまう。同業である探索者、あるいはそれ以外の気功使いの嘆きなのかもしれない。せっかく盛り上がったコメントもまた落ち込んでしまったわけではあるが、るぷすはそのままで話を終わらせはしなかった。

 

「だから無理をして出力を上げても効果は薄い。むしろ耐性の低い神経に高出力の気を流し続けるわけだから、下手をしたら神経が傷付いてしまう。最悪の場合は焼き切れたりしちゃうから、本当に気を付けてほしい」

「うへぇ、そんなことになっちゃうのか」

「私もまだ後遺症が残ってるから、みんなもやらないようにね」

「はーい」

「………………あれ?」

 

 

:神経切れたりすんのか……痛そう

:虫歯とか考えるとな

:だから低出力なのね

:後遺症かー

:……ん?

:え?

:は?

 

 

 違和感。るぷすの言葉に、皆を強烈な違和感が襲った。

 後遺症が残っている。誰に。るぷすに。何の? 気、チャクラ、神経。

 ────るぷすの、神経が焼き切れ、その後遺症が残っている。

 

「るぷすちゃん!?」

「ちょちょちょ、後遺症ってどういうこと!?」

「え、まだって、今も!? 大丈夫なの!? 痛い!? 苦しかったりしない!?」

 

 

:えええええええ!!?

:はあぁ!?

:おちょあ大丈夫なんか!?

:自分で実証済みとは……

:説得力があるわけだなぁオイ!?

:いやしかし冗談ではすまんぞこれ!?

 

 

 るぷすのあっさりとしつつも強烈な爆弾発言に気付いた皆は、揃って悲鳴を上げた。机を押し退け、るぷすに走り寄り、その身体に触れてどこに異常があるのかを確かめようと探る。

 

「一体どこにそんな……!」

「ん」

「え?」

 

 千華の言葉にるぷすは自分の顔を指差し、円で囲むように指を回す。その動作で皆はるぷすのどこにその後遺症があるのかに気付いた。

 

「……もしかして、るぷすちゃんがいつも無表情なのって」

「うん。昔色々とあったせいで焦ってた時期があって、その時に失敗して顔の神経が焼き切れた。もうぶっちんぶっちんと切れてった」

「そ、んな……」

「幸いすぐに神経は繋がったんだけど、その後表情がほとんど変わらなくなっちゃって。よっぽど強い感情じゃないと表情に出なくなった」

「……」

「だから急いじゃいけない。ゆっくりと時間を掛けて馴染ませるのが一番の近道になる。急がば回れ。それがこの鍛練法の絶対のルール」

「……うん」

「リスナーの人たちも高出力は試さないように。それで怪我をしても私は関知しないのであしからず」

 

 

:マジか……

:そうか……それでなぁ……

:今は治ったんなら安心だが……後遺症がある場合は治ったって言っていいのか?

:いやそれは……どうなんだろう

:怪我しても自己責任 まあそりゃそうだ

:るぷすちゃんがやるなって言ってんだからマジでやんなよお前ら?

 

 

 あまりにもあっけらかんと告げるるぷすに、千華は二の句が告げられない。自らの手痛い失敗を挙げ、自分たち、そしてリスナーに注意を促す。るぷすの言葉に感じられる重い説得力には、そういった背景が存在していたのだ。

 

「あと、チャクラに関して勘違いしている人も多いと思うんだけど……チャクラを多く開く、イコール強くなるってわけでもなかったりする」

「……そうなの?」

「うん。現にチャクラを二つ回した千華さんは、チャクラを三つ回した状態の私よりも気の出力が上だから」

「そうなんだ?」

「おお、やっぱ千華凄いんじゃん」

「るぷすにそう言われるなんて相当に────ん?」

 

 

:おおー

:へー そんなに

:チャクラ三つ回すのより上なのか

:……あれ?

:待って?

:チャクラ三つ回した状態?

 

 

 またも違和感。というかまたさらっと言及されたが、今度はるぷすの開いたチャクラの数に関してだ。

 

「……あの、るぷすちゃん」

「うん」

「るぷすちゃんって、チャクラはいくつ開いてるの?」

 

 千華がぎこちなくるぷすに尋ねる。どこか恐れるような、何かを期待しているような、曖昧な笑顔のように口が引き攣ってしまう。今日だけでいったい何度驚けば良いのだろうか。

 予想通り、そして期待通りに自らを高みへと(いざな)ってくれる、小さな少女。そんな彼女が立つ高みとは、一体どれ程の物なのか。

 

「今は五つで止めてる」

「……!!」

「五……!?」

「うっそでしょアンタ……」

 

 

:五!?

:ちょっと待って 五!? チャクラ五つ開いてるって言った!?

:十六歳でそれはバケモン過ぎるwww

:いや これはつまりさっきの鍛練法の賜物……ってことか!?

:ああー! なるほどそうか!!

:マジで有効やんけ!!

:今までチャクラを開けなかった俺もいける可能性が!!

:俺なんか四十後半で一つなんだぞwww

:数年間行き詰ってたけど俺も新しく開けるかな?

:失敗のリスクもあるけどそこはコントロール出来そうだし……やってみるか

 

 

 爆発的な速さでコメントが流れていく。るぷすが至っている高み、そこに辿り着くのを強力に支えたであろう鍛練法、その効果を知ることが出来たのだ。この情報は正に千金に値すると言えるだろう。

 

「ちなみにだけどこの方法は特に武術を習ってない人に効果があるよ。それぞれの武術にはそれぞれの気の鍛練法が確立されてて、その武術に特化した気の運用・身体になっちゃうから、私の鍛練法はちょっとした補助にしかならないかも」

「……あ、そうか。それで私は二人と別の鍛練なんだね」

「なるほど、確かに私と来夏はそういうのは習ったことないしね」

 

 武術、格闘技、そういったものの道場主は比較的気の運用に長けている者が多い。もちろん中には気を扱えない者も居るが、長年その道を進んできた者はチャクラを開いている者も数多く居る。そういった者はギルドからの要請もあり、外部協力者として様々な依頼を受けている。

 例えば()()()()()()()()や、()()()()()()()()()()()の確保など、多岐に渡る。気の扱いもそこらの探索者よりも遥かに長け、また当たり前に実力も高い為、今まで数々の実績を上げている。

 更にはギルド、警察、()()()()に稽古をつけるよう依頼されることもあるのだ。

 

「それにしても五つかー。えっと、五つ目のチャクラは……喉辺りね」

 

 来夏は改めてるぷすが開いているチャクラの数に感心し、ボードを見てチャクラの位置を確認する。五つ目のチャクラがある場所は喉の付近だ。そこでるぷすを見やり、彼女の喉に着けてある物を見て、ある一つの考えが頭に浮かんだ。

 

「お? もしかしてるぷすちゃんがいつも首輪やチョーカーを着けてるのって、六つ目のチャクラを開かないように意識する為とかだったり?」

「ちょっと、来夏……!」

 

 デリカシーの足りない来夏の発言を理央が窘める。確かにるぷすがいつも首輪を着けているのは気になっていたが、それは(るぷす)という名前から来る要素だと認識していたのだ。首輪に繋がれた狼というのも少々格好が付かないかもしれないが、それはともかく。以前私服で会った時もるぷすはチョーカーを身に着けていた。それは普段から首に何かを着けている、ということの証明である。来夏の挙げた説に、嫌な説得力が生まれてしまう。失敗の戒め、その象徴たる首輪である、と。

 

「……」

 

 それを聞いたるぷすは無意識的に首輪に指を這わせる。ちり、と金具の鳴る音。誰にも見えはしないが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「……()()()()()()()()

 

 るぷすは来夏の言を肯定した。知らず、首輪に這わせる指に力が籠る。それを他人に、そして自分でも気付かぬまま、るぷすは腕を下ろした。例え真実は違っていても、その内容を語ることはないし、語る気もないからだ。

 

 

:ちょっと失言が多いぞ来夏ぁ!

:もうちょっと配慮を学ぶんだ来夏ぁ!

:ちゃんとごめんなさいしような来夏ぁ!

:でもそんなとこも好きだぞ来夏ぁ!

:来夏を甘やかすなぁ!

 

 

「妙なコメントがいっぱい来た」

「いつものことだから気にしないでいいわよ」

 

 どうやら失言するのはいつものことらしく、こういったコメントが届くのもまた同様らしい。るぷすは愛されキャラ(?)の来夏を少し羨ましく思い、自分もこういった性格であればいろいろな問題も起こらなかっただろうかと夢想する。が、それもすぐに霧散する。自分は今の自分でしかありえない。自分は今の自分だからこそ、この領域に立てているのだ。そう思い直す。

 と、何気なく壁に掛けられている時計に目をやると、配信を始めてから結構な時間が経過していることに気付いた。

 

「あ……っと、そろそろ配信も終了の時間かな?」

「え、あ、本当だ。もうこんな時間」

「るぷすは明日も学校だし、早めに帰んないとだしね」

「やっぱ平日学校終わりの配信だと時間が少ないねー」

 

 

:ホンマや 結構時間経ってる

:全然気付かんかった

:学生はあんまり時間が使えないよな

:特に今回はチャオプロでの配信だし移動時間が掛かったんだろうな

:昨日の豊穣の森なんかはギルドも近いしリニアですぐだからな

 

 

 まだ高校生のるぷすのことを考え、配信の時間は短めだ。リスナーは知らないことだが、この後るぷすは須賀に家まで車で送ってもらう予定となっている。須賀も恩人であるるぷすとは良好な関係を築き、今後も()()()()()()()()()と考えている。

 

「それにしてもるぷすは何でこんだけ知識を蓄えられたの?」

「うんうん。詳しいにしてもちょっと詳しすぎんかー、って感じ」

「ふふふ、私は研究も出来る美少女。両親から話を聞いたり海外の古い資料とか論文とかも読んだりして、色々と理論を纏めていった」

「凄いね、るぷすちゃん……!」

 

 

:おお やっぱ海外の論文だったか! 俺が読んだのと一緒のやつかも

:日本じゃ広まってないのか?

:てか海外に広まってるなら日本にだって広まるはずだが

:いや 確かかなり古いやつだったしな 多分百年近く前のやつ それにそもそも気に関する論文でもなかったしな

:えらい昔だな そりゃ信憑性がないししゃーないか

:別の系統の論文にヒントがあったってことか よくそんなの見つけたなるぷすちゃん

:るぷすちゃん頭まで良いのか……天はどんだけるぷすちゃんに与えてるんだ……

 

 

「……昔の、しかも海外の論文かー。そんなん読めるとかるぷすちゃん、学校の勉強とか楽勝だったりするの? 期末テストとかどうだった?」

「………………」

「……ん?」

「まさか……?」

 

 僻むように来夏がるぷすに成績を尋ねる。来夏は勉強が余り得意ではなかったため、頭の良い人は基本的にやっかみの対象なのだ。心が狭いとは言うなかれ。嫉妬だってある意味では正常な精神の証である。

 さて、尋ねられた側のるぷすは長い沈黙を貫いている。よく見れば微妙に視線が動き、顔を三人から背けているではないか。

 

「るぷすちゃん?」

「……ちゃんと勉強してる?」

「おやおやぁ? おやおやおやおやぁ……?」

 

 千華と理央の訝し気な視線が突き刺さり、来夏のニヤニヤとした口元から漏れる厭らしい声がるぷすを追い詰める。るぷすは完全に顔を背け、ぼそっと小さく呟いた。

 

「……あ、赤点は取ってないから。補習もないから」

「……そっか」

「……探索も良いけど、ちゃんと勉強はしときなさいよ」

「るぷすちゃん……私と同じ側だったんだネ!」

 

 

:るぷすちゃん……

:【悲報】るぷすちゃん 勉強が出来ない

:赤点は無いんだから出来ないは言い過ぎだろ

:んー でも気だけじゃなくて魔法とかも色々と研究してるわけだし 頭は悪くないんだよな

:興味のあることにだけ知恵が回るタイプって感じか

:ぽいな

:こんだけ強いなら探索者としても成功は確実だし勉強ぐらい出来なくても生きていけるだろ

:かなり金持ちっぽいしな そこは大丈夫だろう

 

 

「……こほん。それじゃあ今日はここまで。実はまだまだ話のネタは色々とあったんだけど、それはまたおいおいね」

「え、気になる」

「ちなみにどういう……?」

「気の操作の応用とか裏技的使い方とか、気と魔物の特性の関係についてとか、魔法使いとチャクラの意外な関係とか……」

「めっちゃ気になる!?」

「ここで生殺しとか嘘でしょ!?」

「だって今日の趣旨とずれちゃうし」

「それはそうだけどぉ!?」

「あはは……」

 

 

:本気で気になる内容やんけぇ!?

:オイオイネーはやらないフラグだろうが!

:裏技ってなに!?

:魔法使いが関係してくんの!? どういうこと!?

:あかん気になり過ぎる!

:千華も苦笑が様になってきたなぁ……

 

 

 成績をからかわれた腹いせか、るぷすは誰もが気になるワードを最後に残し、配信を終えようとする。口からは「ふふふふふ」と棒読み気味の笑い声を出し、理央と来夏の心をかき乱す。あまりにも興味を惹かれるチョイスに二人とも何とか聞き出そうとするが、その甲斐なく配信は間も無く終了となる。

 

「はいはい、三人ともそこまで。もう配信も終わりだよ」

「むむむ……! あーもう、しょうがないか。みんな、ここまで付き合ってくれてありがとうね!」

「今回の配信が面白かったなら、るぷすのチャンネルの登録と高評価をしてやってね」

「出来れば私たちとらい☆りっぱーの公式チャンネルの方もよろしくお願いします」

「それじゃ────」

 

「バイバーイ!」

 

 

:おつー

:お疲れー

:バイバーイ

:また今度ー!

:次は単独配信かな?

:あああまだ見ていたいのにー!?

:もう終わりかー……

:るぷすちゃーん! 俺にだけ最後の話の内容を教えてくれー!

:俺もー!

:チャンネル登録・高評価しなきゃ……(使命感)

:最後の話を教えてくれなかったから低評価です(無慈悲)

:今回画面が幸せだったから高評価

:いやー今回は神回だったな

:気を馴染ませる鍛練やってみよっと

:俺も挑戦してみるかー

 

 

 四人そろって手を振り、配信終了の挨拶をする。笑顔が三人、無表情が一人。しかし、笑顔に囲まれた少女の顔は、どこか微笑んでいるようにも見える。それが錯覚かどうか、誰にも分からない。しかしいつの日か、皆と同じように笑える日は来るのだろうか。

 

「……終わった」

「ふぃー、何か色々頭を使ったなー」

「でも今回は本当にためになったわ。気を馴染ませる鍛練、早速今日から始めてみるわね」

「うん。いつでもどこでも出来るのもあの鍛練法の良い所。ただ、くれぐれも極低出力でね」

「分かってる」

 

 配信も終了し、皆肩から力が抜ける。来夏は手で肩を押さえ、ぐるぐると回して解す。その親父臭い仕草が妙に様になっているのは、乙女としてはどうなのだろう。

 

「それにしてもるぷすちゃん、海外の資料とか論文とか、よく読めたね? 外国語は得意なの?」

「近所のお姉さんが翻訳してくれた」

「近所のお姉さん凄いな……」

 

 もちろん、近所のお姉さんとはマオのことだ。海外から資料や論文を取り寄せ、データに打ち直すついでに日本語に翻訳してからラン(るぷす)に寄越してくれたのだ。

 

「どんな内容だったの? 何かコメントでは気とは関係の無い論文だったらしいけど」

「うん。簡単に言えば普通の人と異常な身体能力を持っていたとされる人の、()()()()()()()()()()()()()()()

「え……?」

 

 それはドイツから取り寄せた資料。百年近く昔の物であり、現在とは理論も技術も正確性も段違いに低い時代の産物。だが、その資料は現在から見ても異常なまでの正確性を誇り、また()()()()()()()()()()()()()()()

 その資料の制作者が書いた論文もまた現在に通じるレベルの高さであり、特に医療関係において現代で幾度も引用されている。それだけの凄まじい確度を誇るのだ。ラン(るぷす)もこの製作者の書いた資料や論文を大いに参考にしている。

 その資料・論文の制作者は約百年前のドイツの医師にして人類学者。また、()()()()()()()()()()

 製作者の名を────ヨーゼフ・メンゲレと言った。

 

 

 




お疲れ様でした。

“気功術”の説明で二話との整合性が取れなくなったので、二話の該当の部分を修正しています。確認してみてください。
こうやって閲覧数を稼(ry

とりあえず今回の話で思ったのは、自分で考えた理論を作中人物に称賛させるのってキツイなってことですね……

それではまた次回……も、少し遅くなるかと思います……。
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