低身長美少女配信者のダンジョンすくすく成長記 作:タナボルタ
今回は配信者についての話。表記は『表』ですがつまりは前後編です。今回が前編ですね。
とらい☆りっぱーとの配信が終わり、数分の後。ランのスマホには美奈と創真を始めとした学校の友人たち、担任の仲間、そして美亜からの音声通話やメール、SNSを通した連絡が怒涛の勢いで通知音を鳴り響かせていた。
今回の配信で皆はランの無表情の理由を知り、現在も後遺症に悩んでいるのを理解して心配の連絡をしてきてくれたのだ。
「おおぅ……」
一人一人に返事をするのは流石に難しい。ランはとりあえず仲間と湖水姉妹に連絡を取り、他の皆に説明をしてもらおうと考えたのだが……配信終わりということもあり、面倒臭くなってしまったので、学校関係者には一言「明日学校で説明するね」とだけメールを送った。美亜には「明日にでも美奈から聞いて」とだけ返した。中々に薄情である。
ランの面倒臭がりな部分を知っている美奈はクラスメートたちに「明日問い詰める」と言った。美奈がそう言うならそれで良いか、となったクラスメートたちは納得し、翌日を大人しく待つことにする。美亜は少々渋りはしたが、結局はランの言う通りにするのであった。
そして翌日。ランはクラスの皆に囲まれ、口々に心配の言葉を投げかけられていた。今までにない状況、そんな中、当の本人であるランはと言うと皆に心配されていると言う現状に何故だが気持ち良くなっていた。
ちやほやされているのとは少々違うが、それでも皆からの関心の全てが自分に向いている。その事実に気持ち良くなってしまったのだろう。嬉しい、とは違うのがある意味ランらしいと言ったところか。なお、その感情は美奈には見抜かれており、何か奇妙な物を見る目で見られてしまった。
さて、その日の夜。ランはクラスメートとの会話で前日の配信がSNSでバズったことを知り、色々とエゴサーチを行ってみた。SNSでは疑う声もあったが多くは自分を称賛する声が多くあり、ダンムビのコメントでも同様だ。しかも同接数は驚異の一万五千超え。これにはランの脳から幸福(快楽)物質のドーパミンがドッパドパである。
こうなってくるとランもダンムーバーとして更なる飛躍をしてみたくなってくるというもの。そしてもっと気持ち良くなりたいのだ。とは言え、ランの目的はあくまでもダンジョンに籠って身体を成長させることである。そんなランが他人を楽しませることが出来る配信内容と言えば……戦闘しか思い浮かばない。
「いや、気とか色々と解説するのもありかな? 今回の反響も凄かったみたいだし……」
うーん、とランは頭を悩ませる。ランの知識量は両親やマオ、そして魔法の先生のおかげでかなり豊富となっている。それぞれの専門家も感心から唸らせることが出来るほどの知識を持っていると言えよう。なので実演を交えながらの解説配信も視野に入ってくるのだ。
色々と考えた結果、ランはひとまずダンジョン配信で人気のコンテンツを調べてみることにした。最近は○○の素材が出るまで耐久、○○を○○で倒す、一度も魔物に出会わずにダンジョン探索、などといった物が人気なようだ。一昔前は探索者がその身体能力を活かしてスポーツやダンスなどを披露する配信が流行っていたらしい。
ちなみに魔物を投石で倒すというどこかの
一通り人気のジャンルを見たのだが、ランにはいまいちピンと来なかった。ダンジョン内でのスニーキングなど企画としては面白い物はあったのだが、どうもバラエティ色が強すぎて肌に合わないのだ。
ランの中で探索者とは猟師であり、魔物とは害獣という認識であった。更に付け加えるならば、“異常な繁殖力を誇る”と言ったところか。そんな魔物を相手にするのだから、もっと真剣味と言うか、“重さ”のような物があるのだと思っていたのだが。
「……何か思ってたよりも軽い感じなんだ、他の配信の人たちって」
ランが知るダンジョン配信者はミーアととらい☆りっぱー、そして天誅†斬月という極少数しかいない。元々ランは配信に興味はなく、配信者となったのもたまたまだ。視聴している誰かを楽しませようなどと考えたこともなく、ただ自分の行動を流していただけだった。故に他の配信者を知ることもなく、また調べることもしなかった。
────それが、変わってきている。
ミーアやとらい☆りっぱーと交流することでランは自分の中に
ダンジョン探索者となった元々の目的からは随分と外れてきている。しかし、ランは変わりつつある己の考えを否定する気にはなれなかった。
己の内だけでなく、外へと目を向ける。ランの精神は配信者となることによって変化しつつあるのだ。
────それが、良きにせよ、悪しきにせよ。
「……そういえば、ダンジョン配信の走りって何だろう?」
ふと脳裏を過ぎったその疑問。一度気になったその疑問はランの中でどんどんと大きくなり、気が付けばとある動画サイトを開き、検索を行っていた。
ランが視聴するのは、今までランに様々な知識を授けてくれた人生の教師のような存在の動画。今回その先生はダンジョン配信について一から教えてくれるのである。
その動画の内容は────。
『どうも、ゆったりライムです』
『ゆったりマリーだぜ』
『ねえねえマリー。私、最近ダンジョン配信が凄く気になってるのよ』
『お? 何だ何だ、ついにライムもダンジョン配信者デビューするのか? 骨は拾ってやるぜ』
『ちょっと! 何で失敗する前提で話してるのよ!』
画面の中で人工音声の大福のような生首が掛け合いをする……通称“ゆったり動画”というジャンルの動画だ。この“ゆったり”は元々はとある作品のキャラクターがモチーフとなっているのだが、いつの間にやら元ネタとは全然関係の無い発展を見せ、世界中にその存在を拡散していった不思議な生首たちなのである。
その用途は様々だが、特に動画配信ではゲーム実況や解説で使われることが多いだろうか。今回の場合は、ダンジョン配信の歴史について解説してくれるようである。
『ライムは最初のダンジョン配信がどんなのか知ってるか?』
『知らないわ。教えてちょうだい、マリー!』
『いいぜ。そもそも、最初のダンジョン配信と言えるのはネット配信ではなく、とあるテレビ局の特番だったんだ』
『え、そうなの!?』
『それじゃ、解説していくんだぜ。ゆったりしていってね!』
今からおよそ二十年前。とあるテレビ局がダンジョンの特集番組を放送した。その内容は、当時人気だった男性アイドルがダンジョン探索者の護衛を複数人引き連れ、ダンジョン内部を探索し、その様子を放映するものである。
当時ダンジョン探索はそのほとんどが
そこで探索者の宣伝の一環として行われたのがダンジョン探索に関する特集番組を放映することだった。そうして企画されたのが前述のアイドルによる探索である。
当然アイドルの命を危険にさらす行為には批判はあった。しかし、それ以上に反響が凄まじかった。アイドルは初めて生で目にする魔物に恐怖し、魔物と戦う探索者の姿に興奮し、倒した魔物が素材を残して還元される様子に驚愕し、体力を振り絞って探索をやり遂げたことに感動した。その姿が、視聴者にはあまりに輝いて見えたのだ。
当時既に動画の配信文化は広く根付いており、この特番の切り抜き動画が各種配信サイトで拡散、瞬く間に数十万・数百万再生を突破する。このことから、このアイドルの探索がダンジョン配信の走りとして扱われるようになったのだ。
そしてこういった動画が流行れば
結果、探索者の数は増えた。しかし、それと同時に
『なるほど、そんな歴史があったのね!』
『ライムもダンジョン配信に詳しくなったな。それじゃ、資格を取りにギルドに行こうぜ!』
『あ、あいたたた。急にお腹が痛くなってきたわ! これじゃギルドになんて行けないわ!』
『何だ、怖じ気付いたのか。仕方のない大福なんだぜ。次の解説までに覚悟を決めておけよ?』
『それじゃ、次の解説で会いましょう』
『バイバイなんだぜ!』
動画も終わり、ランは一息つく。
「勉強になった。流石は人類の英知の結晶、いつも私に知識を授けてくれる」
ランはゆったりに一体どんな幻想を抱いているのか。忘れてはならない。ゆったりの解説は動画制作者の知識量・思想によって変わってくるということを。
「でもそうか。元々ダンジョン配信はテレビが初だったからバラエティ色が強い傾向にあるんだ」
ランの言葉に大きな間違いはない。テレビでの特集は以前のランが行っていた配信のように血なまぐさい物ではなく、より冒険心をくすぐるような構成であった。もちろん現実はそう甘い物ではなく切った張ったの大立ち回りであるのだが……それでも、低い等級のダンジョンならば然したる問題はなかった。当然怪我や死亡事故は存在するが、それ以上に魔物を
「……えっと、今一番再生されてる動画は、っと」
次にランが調べたのはダンムビで最も再生数の多い動画だ。ちょちょいと検索してみれば、そこにはランもかつて何回も視聴した動画が今なお再生数一位に輝いていた。
その動画の投稿者は“天誅†斬月”。動画のタイトルは『ダンジョン探索者がDDEで本気を出して踊ってみた!』というもの。
「……再生数一位は相変わらず斬月のダンス動画なんだ。まあ私も好きな動画だし、むしろこのままずっと一位でいてほしいけど……」
それは斬月が人気配信者になる切っ掛けとなった動画。『
レザー素材の黒いロングコート。大きい襟と光沢が抜群の存在感を放ち、周囲の視線を奪っていく。視線を下に下ろしていけば、これまた黒いレザー素材の指貫グローブ、かと思えば純白でありながら鈍い光を湛えるレザーパンツ、差し色に黒が入ったアイボリーの編み上げブーツ。更には服の各所にシルバーの装飾──鎖やら十字架やら剣やらドラゴンやら──が施されており、見る者に痛々しさを感じさせ……もとい、代理的羞恥、観察者羞恥を引き起こすような……でもなく、とてもカッコいいコーディネートをしている。
しかし中二病と侮るなかれ。斬月はそのコーデを着こなせるほどには顔が整っている。黒髪でありながら地味な印象など微塵も与えず、その濡れ羽色の髪には色気を孕み、不敵な笑みを湛える表情は少年のような勝気さを残しつつも、獰猛な男を感じさせる覇気すらも放っているかのようだ。
斬月は目を閉じ、やたらと格好付けながらリズムを取る。その整った容姿も相まって非常に様になっており、観客の女性たちから黄色い悲鳴が上がるのだが、同時に男性ギャラリーたちからは「すかしてんじゃねーぞ!」といった野次が飛ぶ。
DanceDanceEvolution、通称DDE、あるいはダンエボ。このゲームは画面に表示される矢印に合わせて足元のパネルを踏む、シンプルなダンスゲームだ。しかし、シンプル故に魅せ方が重要になるゲームでもある。
……矢印が流れてくる。瞬間、斬月は目をカッと見開き────!!
「────っ!!」
恐ろしいほどの無表情で両手を横に伸ばし、脚をだばだばと猛烈なスピードで動かしてパネルを踏んでいった────!!
瞬間、観客の何人かが膝から崩れ落ちた。数瞬の間を挟んで大爆笑が巻き起こる。女性たちの黄色い悲鳴がちょっと事件性のある悲鳴に変わっているのが気になるところであるが、斬月は止まらない。
DDEの床のパネルはやや大きめであり、矢印のパネルの外側に様々なマークが配置されている。それを踏むことで画面や照明に変化が生じ、更なる得点につながるわけなのだが、いくら斬月の脚が長いからと言ってそこまでは流石に届かない。しかし心配は無用だ。
スゥ―……っと、斬月はスライド移動する。脚をだばだばと動かしながら、上半身が一切動かずにまるでUFOのように移動したのだ。しかも未だに無表情である。これには観客も更に沸いた。
パネルを踏むタイミングは全て完璧、積み重なりゆく高得点。しかし、ついに終わりの時が来る。斬月は最後のパネルを踏む瞬間、高く跳び上がり、観客たちへと振り返って高く力強く右手を振り上げた。大歓声に沸く観客、しかしそのせいでパーフェクトを逃してしまったのでブーイングもされてしまった。斬月はそんな観客たちをかき分け、筐体から降りて歩き去る────。
「おーい、クリアしたんだからまだプレイ出来るぞー?」
というギャラリーの声を聞き、大慌てで戻ってくる斬月を映してその動画は終わった。
「何回見ても面白い……。特にこの“斬月スライド”」
何やら妙な名称を付けられているらしい斬月のダンス(?)。斬月はテレビでも何度か特集されており、その度にこのダンスがお茶の間に放映される。そして元動画を見ようと視聴者が集まり、再生数が爆増されていくのだ。
いくつもの動画を見てきたランは伸びを一つすると、パジャマを用意して風呂へと向かう。
「今度の終業式が終わったら夏休み……ダンジョンに籠り放題……とまでは行かないけど、やっぱり楽しみ」
ランはもうすぐそこまで迫った夏休みを夢想し、無表情に微笑む。夏休みは学生にとって最も楽しみな長期休暇と言えるだろう。それはランにとっても同じ。級友と遊びに行ったり、ダンジョンに籠ったり、
「……あ、ドローンさんを定期メンテに出さなきゃ。後でマオさんにメール送らないと」
しかし、配信となると少し間を置かなければいけないようである。ランのドローンさんは多機能故にメンテにそれなりの時間が掛かるのだ。
「ダンジョンには行きたいけど……そういえば豊穣の森に強い魔物が増えてるっぽいし、ギルドに倣って自主的に
お掃除とは要するに
これはかつての大氾濫を乗り越えてから行われるようになり、それから今までで、世界中で一度も氾濫を起こさせてはいない。ランが探索者を猟師だと捉えていたのは、探索者にはこういった役割が存在しているからだ。なお、B級以上の探索者は国やギルドから様々な優遇を受けられる代わりに、こういった掃除の参加が義務付けられている。逆にC級以下の探索者は自由意志で参加の可否を選ぶことが出来る。
なお、この間引きの様子を流す配信者もそれなりに居る。魔物が蹂躙されていく様と言うのは
かつて世界を滅ぼしかけた“大氾濫”から百有余年。世界の魔物に対する認識は既に変わってしまっていた。多くの探索者にとってはただ駆除の対象として。配信者にとっては配信のネタとして。
“あの日々”から百年と言う年月は、世界の在り方を変えてしまっていた。
魔物はその在り方を変えていない。魔物が振り撒く恐怖は微塵も変わってはいない。世界の認識を変えた物。時間、探索者、技術、テレビ、ネット、配信……数え出せばきりがない。
世界は変転している。魔物の恐怖を忘れ去って。それが、
お疲れ様でした。
今回が表ということは次回は……?
天誅†斬月(本名:田中
B級探索者の身体能力をフルに引き出し、上半身を一切ブレさせることなく脚をだばだばさせながらスライド移動する神業を披露したイケメン中二病配信者。
るぷすのことは認知しているがコラボ依頼などは出していない。
だって……出会い厨って思われたくないし……百合の間に挟まるなんて言語道断だし……(勘違い)
APPは16くらい。(顔面偏差値のみの数値)
ラン
面倒臭がりで筆不精。百合ではない。
友人に心配してもらえて何故だか気持ち良くなってしまい、新たな扉を開きつつあるかもしれない女の子。
特に好きな斬月の動画は、斬月が“斬月スライド”でベイ○レードと激闘を繰り広げるコラ動画。
APPは19である(顔面偏差値のみの数値。なおSANチェックは発生しない)