低身長美少女配信者のダンジョンすくすく成長記 作:タナボルタ
前回に続いての裏、後編です。……あんまり前後編っぽくはないけど。
今回は短め。そして……うーん、ちょっと閲覧注意かもです。
それではまたあとがきで。
ダンジョン配信者が配信を行うのは何も“
日本だけでも他に“
どの媒体にも言えることであるが、そのどれもが公序良俗に則した規約を制定し、それに違反すれば規制され、悪質であると判断された場合はアカウントの停止や削除といった処置がなされる。
例えば以前の『るぷす』の配信は、魔物の血や肉や骨や臓物がこれでもかと画面内に撒き散らされるためにグロテスク規制を受けていた。もしこれで魔物を殊更に痛めつけたり甚振るような内容であったならば、一発で垢BAN──アカウント削除──されていたことだろう。
多くの目に触れる配信サイトほど、そういった規約は細かく、厳しく制定されている。故にこそ全体での秩序が保たれ、更により多くの耳目が集まってくるのだ。
────しかし、逆に。
公序良俗に則した規約など存在しない配信サイトも運営されている。そこで配信される動画の数々は、そのほとんどが見るに堪えぬ悍ましい物であるのだ。
魔物への拷問、魔物への凄惨な処刑、魔物の解体……。更には魔物に探索者が殺される瞬間の映像や、探索者が魔物にその身を汚される様など、その動画の内容は魔物に限定された物ではない。
────中には、探索者同士で。
そんな悪意の坩堝とでも言うような動画配信サイトが、確かに存在しているのだ。
近年世界中で問題となっている探索者のモラルの低下。その象徴がこれだ。警察も、ギルドも、
────ダークウェブ。
その領域に存在する動画配信サイトで、
二十代前半だろう年頃の男性。身長は一八〇センチメートルを超え、筋肉質な身体は威圧感を放っている。髪は金のツーブロックをベリーショートに。やや色黒の肌には入れ墨が刻まれている。傍らに浮かぶのはダンジョンテック製ではない、やや性能が劣るものの、それなり程度には優秀な機能を備えたコンパクトなドローンだ。
そんな男の足下には、ボロボロになった
ここはC級ダンジョンの“豊穣の森”。そのいくつかの縄張りの緩衝地帯。そこに魔物避けの香が焚かれ、一時の安全地帯が形成されていた。
「ちっ。豚の癖に手間かけさせやがってよォ、どうせ死ぬんだから大人しくしとけやカスが」
「ォ……ァ……」
男は足下に転がるオークに蹴りを入れる。大した力は入っていなかったが、それも今のオークには抗い難い痛みと恐怖を与えることに成功している。
オークの顎は砕かれ、その四肢の骨も無惨に折られていた。悲鳴も上げられず、逃げ出すことも出来ず、待ち受ける死という運命に、オークはただ喘ぐしか出来ない。
そんな惨状を背景に、ドローンからコメントが表示される。
:あーらら 可哀想に
:相変わらずぶっさいくな魔物だなぁ
:オークごときを捕まえんのにどんだけ手間取ってんだよザコなの?
:魔物避けモクモクで草 C級ダンジョンごときでなにビビってんだよwww
:B級ならもっとどっしりと構えたら?
「あぁ? うるっせんだよカスども。
互いに口汚く罵り合う配信者とそのリスナーたち。そこにはリスペクトの欠片も無く、ただ自分の思い通りに動けというどうしようもない上からの意識をぶつけ合う、対話というのも烏滸がましい醜悪な交流が繰り広げられていた。
男はオークの頭を掴み、力尽くで上半身を持ち上げ、無理矢理に座らせる。オークが痛みに声を漏らすがお構いなしだ。
「ほらよ、
:何だこれ?
:車のタイヤか?
:アクセサリー? どこが?
:あー なるほど
:タイヤネックレスか
男が腰に提げているミリタリーポーチから取り出した物。それは
ずっしりとした重さ。それはタイヤそのものの重さだけではない。よく見ればタイヤが濡れていることが分かるだろう。それは水ではない。内部には空気ではなく同じ液体が入っている。
「ひひひひひゃはははは……っ」
────タイヤネックレス。
処刑(私刑)法の一つであり、対象の首にネックレスのようにガソリン入りのゴム製タイヤを掛け、火を点けて対象を焼き殺すものである。某国などで一九八〇年代~一九九〇年代で多く行われた記録が存在し、また、現代でも行われることがあるというあまりにも残酷な処刑法である。
男はポーチから百円ライターを取り出し、火を点けてオークの前でゆらゆらと見せびらかす。
タイヤの重さ、ガソリンの刺激臭、目の前に揺れる小さな火。
「逃げられるワケねえだろカス」
男は火の点いたままのライターをオークに軽く投げつけた。瞬間────。
「────ッ!!? ……ッ、……!! ────……ッ!!?」
ごう、と。オークの身体が瞬く間に燃え盛った。
爆発的に広がる炎。焼け溶けて身体にへばりつくタイヤのゴム。ゴムが焼けることによって発生する有毒ガスが一酸化炭素中毒による意識の喪失も許さず、炎がオークの身体を焼き焦がしてゆく。
オークの悲鳴は誰にも聞こえない。顎を砕かれている、それだけの話ではないのだ。炎が喉を焼き、肺を焼き、僅かな呻きさえ出すことが出来なくなる。それどころか、呼吸さえままならない。
「……ひ、ひひひ……っ」
オークはもんどりうって地を跳ねる。死から逃れるために、苦しみから逃れるために。……しかし、それは無駄な抵抗でしかないのが現状であった。
男の口から声が漏れる。それは笑い声だ。堪えられない、抑えきれない嘲りの笑い。
「ひひひひひゃはははははっ!! 豚のくせに虫みてぇに動いてやんの!! バッカじゃねぇのかこいつ!? ひゃははははははっ!!」
:えげつねぇwww
:おーおー すげえよく燃えるな
:斬新なチャーシューの調理法ですね
:ガソリン臭くてゴムまみれのチャーシューとかwww
:ミミズみたいだwww
炎に焼かれ死にゆくオークを前に、男もリスナーも大口を開けて嘲り笑う。先程のように罵り合うこともなく、今だけは互いの心向きは一致しているようだ。この場景を他人が見たならば、一体どちらを悍ましく醜悪な魔物だと評するだろうか。
────しかし、そんな中で。
:しょうもな
そのコメントは嫌に男の目についた。
「ああ? んだてめぇ、顔見えねぇからってあんま調子に乗ってんなよカスが」
即座に噛み付く男にコメントは更に続けて男を貶める。
:いや タイヤネックレスは珍しいけどそれはただ珍しいだけだし
:今はもうただ燃えてるだけでその珍しさも無くなったじゃん
「あぁ……?」
:言われてみりゃ確かに
:ガスの量が多かったのかもう焼け死んだっぽいな
:あれ もう終わり?
:オーク捕まえる方がよっぽど時間掛かってんじゃん 十倍くらいか?
:さすがにそれはザコすぎやろwww
コメントも先のリスナーに同調したのか、男に対して攻撃的な物が増えてきた。男のこめかみに血管が浮かび上がる。
:結局は不細工が不細工を不細工に殺しただけで美しさが無いんだよね
興が乗ってきたのか、先のリスナーは更に言葉を続ける。そして、次の言葉を呼んだ男は瞬時に自らの頭に血が上ったことを理解した。
:るぷすちゃんとは大違いだ
「────は?」
知らず、男の手が震えだす。それは如何なる感情によってなのか、男には理解出来ぬまま、ぎしりと音を立てる程に強く握り込んだ。
:るぷすちゃんは凄いよね 一瞬の動と静 動いたと思ったら魔物が破裂してるんだもの
:分かる 激しく噴き出す血との対比が良いよな
:血飛沫が舞う中で残心してるのが絵になるのよね
:血と肉の花が咲いて でも返り血は浴びずに静かに佇む もうマジで綺麗なんよ
:俺も何枚スクショ撮ったか分からんわ
:でも最近は他のどうでもいいリスナーに配慮してパーンしなくなったのが不満 俺のためにもまたパーンしてくれよ
:もっと早く見つけたかったよなぁ そしたらリアルタイムでパーンする興奮を味わえたのに
:いやマジで芸術よな もしるぷすちゃんが返り血を浴びたらって妄想でギンギンになる
:るぷすちゃんの顔に血が滴ったらエロイだろうなぁ
:いやそれこそ胸とか股とかだろwww
もはやリスナーたちは男が生み出した惨状など頭に残っていないのか、自分たちの間に新たに誕生した惨劇を生み出す美少女『るぷす』についての話で盛り上がり始めた。
猟奇趣味の異常な嗜好を持つ者たちに現れた、屍山血河を生み出す、彼らにとって唯一無二のアイドル的存在。それが『るぷす』なのだ。
しかしそのアイドルに対して醜悪で下品・下劣な妄想を吐き出すリスナーたちに倫理観など欠片も存在していない。好き勝手に語り散らすリスナーたちに対し、男は荒ぶる心のままにドローンを掴み、大声で恫喝する。
「……さっきから聞いてりゃ、この俺があのクソガキに劣ってるっつーのか、あぁ!?」
:は? なにお前 まだいたの?
:気持ち良く語り合ってる時に割り込んでくんなよ 空気くらい読んだら?
:てかお前がるぷすちゃんに勝ってるとこなんか一つもねーだろ オークにすら手こずるくせに自惚れんな自称B級の雑魚助のくせに
:そもそも斬月に泣かされたお前に凄まれても怖くなんかないんだけどぉ? 残念だったねぇ“リューヤ”きゅん?www
:ぶっほwww 思い出させんなwww
:悔しかったら斬月にまたタイマン挑んでみればいいんじゃない?www ま 怖くて出来ないだろうけどwww
:やめてやれよまたリューヤきゅんが泣いちゃうだろwww
:お前ってNTR漫画の竿役みたいなビジュアルだよな(笑)
:さwwwおwwwやwwwくwww
:草草の草
:ワロタwww
:確かに「彼氏君見てるー?」ってやってそうな顔だわwww
:まwwwむしろ斬月に泣かされたんですけどねwww
「このゴミカスどもが……っ!!」
ドローンを握る手に万力が如き力が入り、その機体に小さな亀裂が入る。もしそのまま何も無ければ衝動のままにドローンを握り潰していただろうが、そのタイミングで邪魔が入った。いや、運が良かったのか。
「……あぁ?」
それは携帯の着信である。普段は聞くことの無い、
「……ひ、ひひ。ひひひひひゃはははは……っ!」
:きっしょ
:ぶっさいくな笑顔を見せないで♡
:情緒不安定かよ
:死んだら?(直球)
「何とでも言っとけやカスども。ただし後悔することになるぜぇ? 後で俺に感謝することになるんだからなぁ……!!」
そのメッセージには一言、こう書かれていた。
「俺の配信に、スペシャルゲストを招いてやるよ……!!」
────“『豊穣の森』東門より、『るぷす』が入場しました。”
その男の悪意は腐臭を纏う汚泥のような臭気を放ち、小さな狼を呑み込まんと迫る。
【悲報】るぷすちゃん、猟奇趣味に崇拝される
学校で怖がられている裏では妙な人たちにアイドル視されているのでした。
“リューヤ”
何か斬月に泣かされたらしい人。
いつも魔物の拷問配信をしているB級探索者。
金髪ツーブロックのベリーショート、長身で筋肉質、色黒で入れ墨有りなビジュアルからリスナーにNTR漫画の竿役呼ばわりをされる。目元はトーンとかベタで見えないタイプ。(嘘)
それではまた次回。