低身長美少女配信者のダンジョンすくすく成長記 作:タナボルタ
今回はるぷすが通う学校でのちょっとした話です。
通ってた学校の学食は……あんまりだったなぁ……。
それではまたあとがきで。
────東京都内、一般の公立高校。
ホームルーム五分前のとある教室では、生徒たちが思い思いに過ごしている。級友との会話を楽しむ者、一人静かに読書をする者、僅かな惰眠を貪る者など様々だ。
ガラリ、と教室の扉が開く。瞬間、教室には一瞬の緊張感が満ち、喧騒は鳴りを潜める。
入室したのは一人の少女。とても高校生とは思えないほどの小柄であり、一つの芸術作品とも思えるほど人間離れした美貌の持ち主である。銀にも近い白の髪がさらさらと風に揺れ、柔らかな甘さの香りがふわりと流れていく。
少女は扉からすぐの自分の席に腰を下ろすと、そのまま腕を枕に机に突っ伏した。
その様子を観察していた生徒たちは次第に先の調子を取り戻していき、担任が来るまでの僅かな間に平常を取り戻す。
────このクラスの中で、件の少女は浮いた存在であった。
四時限目・数学の授業の終わり、教壇に立つ先生がプリントの束を取り出した。
「昨日やった小テストを返すから、名前を呼ばれたら取りに来るように」
先生の言葉に教室内の所々から小さな呻きが上がる。先日抜き打ちで行われたこの小テストは難問揃いだったようで、点数に自信のある者は少ないようだ。
二人三人と次々に名前を呼ばれ、ついには白髮の少女の番が回ってきた。
「次、大神」
「はい」
白髮の少女は静かに返事をし、席から立って先生から答案用紙を返してもらう。そこに刻まれた点数はあまりに低く、これには少女の眉尻も下がってしょんぼりとしてオーラが醸し出された。
「大神は授業態度は素晴らしいんだが、テストになるとどうもダメだな。
「……はい」
先生からのお小言を受け、やや俯きながら席へと戻る。
白髮の少女────大神ラン。それが
るぷすことランは答案用紙を机に置くと、腕を組んでそれを見つめる。どこをどう間違えたのか確認するためだ。……結果、どこがどう間違っているのかが分からない。
なお、この小テストで間違えた部分を正しく計算し直してから再提出する、という宿題が出され、ランはまたも机に突っ伏すのであった。
そうして(ランにとって)激動の四時限目が終了すると、ランの席に一人の女子生徒が近寄ってきた。
「ラン、お昼行きましょ」
「いいんちょ」
やや明るく背中まである茶の髪をおさげにし、大きな丸眼鏡を掛けた如何にもな外見をしている。
元々は髪型も別の物で眼鏡も掛けていなかったのだが、変に生真面目な性格からかそれとも趣味のせいなのか何でも形から入りたがるようで、本人曰く「クラス委員長といえばこの格好」とノリノリでイメージチェンジを果たした。もちろんランからは大好評である。
二人連れ立って教室を出、目指すは学生食堂だ。ランはもっぱら食堂で料理を注文し、美奈は弁当持参が八割・注文が二割といったところ。今回は弁当だ。
早々に食堂に着き────食堂は一瞬の緊張感に張り詰める。
ランが注文した料理はカツ丼(大盛り)。量の多さの割に値段が安く、味もまあまあそれなりに美味く、また何故か提供が異様に早いことから人気のメニューだ。今日もまた注文から二分と経たずに湯気の立つホカホカのカツ丼とお味噌汁に漬け物がお盆に乗せられて、ランの目の前に差し出された。
カツ丼を受け取ると職員に礼を言い、ランは美奈の居るテーブルへ戻る。
「お待たせ」
「お帰り……相変わらず早いね、料理が出来るの」
「助かるけど不思議」
席に着いたランは「いただきます」と手を合わせ、モリモリと食べ始める。和風出汁がきいた玉子がトンカツと絡んで舌を喜ばせる。
「アンタがカツ系を食べるってことは、放課後にでも何か欲しい素材でも取りに行くの?」
「うん。前々から狙ってるんだけど全然出て来なくて、験担ぎで」
「何かに勝つ、じゃなくてこれが欲しい、でカツ系が験担ぎになるのかしらね?」
「……ぶ、物欲センサーに勝つ」
「なるほど」
二人が食事をしながら会話を重ねていると、横から声が掛かる。
「ちょっとすまん。ここ、俺も座っていいか?」
「ソーマ」
「
座ってもいいか、と尋ねておきながら既に着席している少年。ランたちとは別のクラスだが、同学年の男子生徒『神酒
短めの金髪に両耳に複数のピアス、上背のある体格から不良生徒に見られがちだが、本人は真面目な性格で成績も良好、将来の夢は薬剤師というギャップの持ち主だ。
ちなみに美奈の幼馴染であり、互いに憎からず想い合っている関係でもある。まだ付き合ってはいないようだがそれも時間の問題か。
美奈の突然のイメージチェンジに「ああ、いつものか」で適応し、二人きりの時には頼み込んで何度も三つ編みを触らせてもらっており、「こいつ実は髪フェチだったのか?」と美奈に思われている。
「美奈は弁当で大神はカツ丼か。ってことはダンジョン行くの?」
「うん。今回はドロップ狙い」
「そういうソーマは……ラーメンね。最近麺類ばっか食べてない?」
「何だかんだ安くてまあまあ美味いしな」
三人での食事ともなると会話も弾む。特にランにとって
ランも最初は多くの級友に囲まれていた。幼くはあるが、あまりにも美しい人間離れした人形のような容姿に小柄な体躯、癖はあるもののコミュニケーションも良好で、ある種マスコットのような立ち位置を確立していた。
しかし、そういった存在を嫌う者はどこにでも居る。特にランは自らを美少女と言って憚らない性格をしているので尚更だ。たとえそれが理性でも感情でも否定出来ないほど事実だと認めてしまっていても。
とあるクラスメイトの女子はランのことを嫌っていた。チビのくせにクラスの男子にチヤホヤされているのが気に食わなかったのだ。だから、ランが美奈との会話でダンジョン配信を始めることになったのを知った時はその配信を荒らしてやろうと考えた。
家に帰った彼女はひとまず既に配信された動画を探すことにする。配信者としての名前も会話に出ていたので調べるのは容易だった。アーカイブ化されているのはたった一つの動画。彼女はそれを見ようとしたのだが……規制が掛けられていたので見ることが出来なかった。
彼女には成人済みの兄がいる。兄に頼んでパソコンからその動画を見せてもらい────心の底からの恐怖を味わうことになった。
ゴブリンがランに襲い掛かり、その頭部を破壊され肉と骨と血を壁にぶち撒けるところを見た。
コボルトが腹を蹴られてそこから上下に真っ二つになり、血と臓物を撒き散らしているところを見た。
オークがその大きな腹に突進を食らい、背中から血と骨と臓物を噴き出すところを見た。
────吐いた。胃の中の物を全て吐き出し、胃液で喉が焼けるような感覚を味わい尽くした。そして、彼女はランに心底からの恐怖を抱く。
襲い来る魔物を屠るランの姿に。魔物とはいえ、生き物をその手で軽々と殺すランの姿に。無表情に、無感動に、そして無慈悲に────魔物を虐殺していくランに恐怖した。
彼女は次の日、クラスメイトにランのダンジョン探索の動画を見せた。兄にモザイクを掛けてもらった動画をダウンロードしてもらい、それを自身のスマートフォンに移したのだ。
クラスメイトの反応は彼女と大差がなかった。今までランと仲良く過ごしていた者たちも恐怖心を抱いたようだ。
そしてランと美奈が揃って教室に入り、いつものように「おはよう」と挨拶をすると、皆が一斉にランを見て、ビクリと身体を跳ねさせた。
探索者として生物の発する雰囲気に敏いランは皆が自分に恐怖心を抱いていることを察する。一体なぜ、と思ったのも束の間、クラスメイトの一人が持っているスマートフォンから聞き覚えのある声が聞こえてきた。
しょうがない。ランの頭に浮かんだ言葉はただそれだけだった。寂しさは────少しだけ。
ダンジョン探索の配信は今では娯楽の一つとして認識されており、当然その中には魔物を殺す場面だっていくらでも映っている。
ランの場合、あまりにも残酷に魔物を虐殺している姿が問題であった。たとえそれが誤解であったとしても、『他人からはそうとしか見えない』のでは誤解を解くのは難しい。一度でもそう捉えてしまえば心のどこかで『そうである』とバイアスが掛かってしまう。
美奈は
────とはいえ。現代に於いてダンジョン探索者が魔物を殺すのは当たり前のことであるし、魔物は猛獣よりも遥かに恐ろしい存在であることも間違いなく。故にランは級友たちから排斥の対象ではなく恐怖の対象となるに留まったのだ。
もっとスマートに魔物を倒せるのならランは学校でヒーロー扱いを受けたのかもしれないが、毎回毎回魔物の血と内臓をぶち撒けるランがヒーローと呼ばれるはずもなかった。
「そういえば」
「ん?」
「どした、美奈?」
話の流れを切って美奈がランに質問をする。
「朝から机に突っ伏してたけど、探索でなんか失敗でもしたの?」
「う」
美奈の問いにランは箸を咥えたまま視線を外す。本日は雑談配信の翌日。ランは寝て起きても昨日の失敗を引きずってしまっているのだ。
「……まあ、昨日の配信で……ちょっと」
「ふーん?」
「あー……アレはなぁ……」
「!?」
ぼそりと呟いた創真の言葉に、ランはぐりんと首ごと視線を向ける。まさか見ていたとは思っていなかったのだ。
「え? ソーマ、ランの配信見れたの? 規制は?」
「いや、昨日のは雑談配信で規制が無かったから」
「そうだったんだ。後でアーカイブ見よ」
「……っ!? ………………っ!!」
美奈と創真の会話にランは入れない。あわあわと慌てるもそれを止めようとはしない。この二人はたとえ配信のほとんどを見ることが出来なくとも、チャンネル登録をしてくれている大事なリスナーであるからだ。
「どしたの、ラン?」
「……なんでもない」
「……ごめん」
ランは無表情ではあるが顔を赤らめ、プルプルと震え出す。ここに来てようやく創真は己の失敗を自覚し、ランに頭を下げるのだった。
ランは見られることに対する意識は低い。だが、卑猥な言葉を口にしてしまったりしてしまうと普通に恥ずかしい。
セックスは恥ずかしい言葉なのか、というと議論が巻き起こるかも知れないが思春期の少女には恥ずかしいのだ。特にランのようなオタク少女には。
────ランはむっつりスケベなのだ。
授業も終わり放課後。ランはぐぐっと伸びをすると、鞄を持ってふんすふんすと鼻息荒く教室を出ようとする。と、そこに美奈から声が掛かった。
「ずいぶん張り切ってるけど、今日はどこのダンジョンに行くの?」
「邪妖精の巣窟」
「んー、前にも行ってなかったっけ? ゴブリン系のドロップ狙いだったんだ」
「うん。夏本番になる前にどうしても欲しい」
「夏本番までに……?」
ランの妙な言い回しに美奈が首を傾げる。
「……なんかレアっぽいけど、なんてドロップ品なの?」
「浮力の布切れ」
「浮力?」
「うん」
どうしても欲しいというのは本当なのか、ランは真剣な表情で頷く。そわそわと今にも教室を出て行きたそうだが、美奈は最後にもう一つ質問をすることにした。
「それは……なんて奴からドロップするの?」
「うん。そいつの名前は────」
ごくり、と。美奈だけでなくそれとなく耳を傾けていたクラスメイト達も喉を鳴らす。
「───スク水・ゴブリンだよ」
「ハアァッ!!?」
「うぇっ!?」
明かされたとんでもない派生ゴブリンの名前に、クラス中の驚きの声が校内に響き渡るのだった。
お疲れ様でした。
そんな訳でるぷすの本名は“大神ラン”です。
大神=おおがみ=狼
ラン=中国語で狼
るぷす=ラテン語で狼
メイン級のキャラは大体こんな感じのネーミングになると思います。
湖水美奈は湖水の水の読み仮名の一つからみな、神酒創真は神酒=神の酒=神話に登場するソーマからです。
次回は……掲示板に挑戦してみようかなと。……特殊タグ覚えられるかな……
それではまた次回。おまけで魔物解説を下に置いておきますね。
魔物解説
○スク水・ゴブリン
余りにも多く存在するゴブリンの派生種族の一。その名の通りスクール水着を身に纏ったゴブリンであり、水生生物並みの水泳技術を持つ。
このゴブリンからドロップする“浮力の布切れ”を加工した水着を着用すればどんなカナヅチでも泳げるようになる。
ちなみに着用しているスク水にはさまざまな種類があり、旧スク水型、新スク水型、スパッツ型、競泳水着型などが存在し、それぞれに黒・青・白といった色違いも確認されている。
長くを生きたスク水・ゴブリンは手足がスラっと長く伸び、腹もへこんでキュッと締まったくびれが出来る。しかしゴブリンはゴブリンなので外見は醜いと言えるだろう。
今のところメスしか確認されていない。