低身長美少女配信者のダンジョンすくすく成長記   作:タナボルタ

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お待たせいたしました。

何かまた長くなりました。
いつも短くまとめようと思ってるんですけど何でなんでしょうね。
ちなみにこれでも本来の長さから分割しているんですけれども……。

今回の話は魔法使いと魔法についての解説回みたいなものですね。
拙作ではこんな感じですよ、という紹介です。

それではまたあとがきで。


第九話『“魔法使いのミーア”』

 

「わ、私の魔法が失敗する理由が分かったって、ほ、本当なんですか……!?」

「うん」

 

 ミーアにとってそれは俄かには信じがたい言葉であった。十年近く少ない魔力量でも魔法を扱えるように努力しても、一向に上手く使うことが出来ない魔法。それの原因が魔法使いではないはずのるぷすが見抜いたというのだ。

 他の誰かならばその言葉を聞き流しただろう。だが、その言葉を発したのは他ならぬるぷすなのだ。彼女ならば或いは……? ミーアの中で最早失われかけていた『魔法が使えるようになる』期待が少しずつ大きくなっていく。

 

「そ、それで……その理由とは……!?」

 

 逸る気持ちを精一杯抑えつつ、ミーアはるぷすに問う。るぷすは一つ頷くと、腰のポーチからホワイトボードを取り出して設置し、ミーアに折り畳み椅子に座るように促す。

 

「先輩が魔法を失敗する理由なんだけど、それを説明して納得してもらうには、まず基礎の部分について理解を深めないとダメだと思う。だから魔法使いと魔法についても解説していくけど……それでもいい?」

「はい、大丈夫です」

 

 るぷすの確認にミーアは頷いた。その解説が必要になるのならばいくらでも聞こう。例え数時間の時間が必要だとしても、今までの長く苦しい時間に比べればなんだと言うのか。

 

「うん。それじゃあ……」

 

 るぷすはポーチに手を突っ込み、いくつかの小道具を取り出した。まずは白衣。成人男性用なのか、袖と裾が余りまくったそれを身に纏い、オーバル型の細長いシルバーのハーフリム眼鏡を装着。そしてだぼだぼの袖越しに指示棒(ポインター)を持つと、ミーアに向き直り。

 

「講義を始めます」

 

 と宣言した。るぷすの魔法使い講座、開講である。

 

「………………可愛いですけど、その恰好は?」

「何というか気合が入る」

「なるほど。理解出来ます」

 

 ミーアも妹の美奈も形から入るタイプだ。故にるぷすのコスプレ(?)に理解を示す。

 

「あとせっかくだから視聴者サービスも兼ねて」

「……なるほど」

 

 

:ぎゃわいいっ!!

:萌え袖だあああああああ!!

:白衣! 眼鏡! ありがとおおおおお!!

:意外と形から入るタイプ?

:ちょい不謹慎じゃない?

;もうちょっと真剣味を……

:あああああるぷすちゃんの白衣姿あああああ!!

:ミーアちゃんの未来がかかってるかもなんだが?

 

 

 視聴者の反応としては賛否両論と言ったところか。単純にるぷすの珍しい格好を喜ぶコメントと、ミーアのこれまでのことを考えてもう少し配慮というものを見せてほしい、という意見が多くある。

 るぷすは袖越しにペンを持つと、『魔法使いとは』『魔法とは』と、ホワイトボードに板書する。

 

「まず、多くの人は魔法使いとは『魔法が使える人』、魔法とは『魔法使いが使う便利で不思議な力』っていう印象を持ってる人が多いと思う」

 

 

:まあそやね

:そのまんまだけど他に思いつかないし

 

 

 コメントもそれを肯定する意見がほとんどだ。るぷすはそれらのコメントを見て頷くと、『魔法使いの定義』と板書する。

 

「実は魔法使いにはこれがこうだから魔法使いである、っていう定義がある。それがこれ。『体内に“魔力を生み出す器官”があり、“魔力を操る為の器官”がある者』……これが魔法使い」

 

 

:魔力を?

:魔力を生み出す器官と操る器官 なるほど

:つまり一般人より内臓が多いってこと?

:そういうことだよね?

 

 

「内臓が多いって言うよりは、内臓にパーツが追加されてる感じかな」

 

 るぷすは説明しながらホワイトボードを裏返し、デフォルメされた臓器のイラストを描く。

 

「まず魔力を生み出す器官は心臓に、魔力を操る為の器官は脳に形成されてる」

 

 

:ああー それっぽい

:魔力を生み出すのは心臓! 確かにそれっぽいな

:そして魔力を操るのは脳みそね

:納得だわ

:それっぽいてお前ら

 

 

「心臓の……何て言ったらいいかな。底? の部分に小さな円錐型の器官があって、そこから裏側の半分くらいを膜状の物が覆ってる感じ。脳の方はこぶ状の小さな球体が脳の色んな部分に形成されてる感じ」

 

 

:へー そうなってんだ

:ちょっと怖いな 特に脳のほう

:確かに怖いかも

 

 

 心臓の絵、そして脳の絵にそれぞれ追加された器官を加えていく。見た目はあまり変わらないと言えるが、自分に無い物がどのような挙動をするのかを想像すると、少し不気味さを感じてしまうのかもしれない。

 

「なぜ心臓に魔力を生み出す器官があるのか。これは心臓が鼓動するたびに魔力が生まれ、血液と共に生み出した魔力を全身に送るためであって、送られた魔力は全身の細胞に浸透・蓄積されていく。当然ずっとそのまま溜まっていくわけじゃなくて、大体二十四時間周期で細胞の魔力は入れ替わるみたい」

「……」

 

 るぷすの解説にミーアは頷きながら聞き入る。確かに基礎の部分である。しかしそれを学んだのはもう何年も前であり、どこか新鮮な気持ちで講義に集中出来ている。

 

「生み出される魔力は一定なんだけど、意図的に魔力を多く作ることも可能だったりする。昔からこれを『魔力を練る』という風に言うみたい」

 

 

:何か聞いたことあるかも

:俺も聞いたことあるわ

:確か気功術の方にも同じ言い回しがあるよな?

:気を練るってやつか

 

 

「魔力の生成器官が心臓にあるせいか、魔力が尽きてくると動悸が激しくなって魔法が使いにくくなる。この時に魔法を使おうとして無理に魔力を練ると、心臓に痛みが走る。更に魔力が無いのに魔力を操ろうとするから頭痛もしてくるみたいだよ」

 

 淀みなく解説していくるぷすに視聴者たちは感嘆のコメントを書き込んでいく。ミーアもるぷすの知識に感心し、何度も頷いて内容を反芻していたのだが、唯一小さな声で「頭痛……?」と不思議そうに呟いていた。

 るぷすは、それを聞き逃さなかった。

 

「それじゃ、次は魔法について。魔法には大きく別けて二つの種類がある。それが魔法使い個人がそれぞれ生まれながらに持ってるとされる固有の魔法“生来魔法”と、四○年ちょっと前に一人の天才魔法使いが作り出した、()()使()()()()()()()使()()()()()である“汎用魔法”、あるいは定型魔法と呼ばれる物」

 

 

:個人的には定型魔法派

:俺は汎用派

:っつーか汎用魔法って結構歴史浅いんだな

:そもそも魔法使い自体も歴史は浅いぞ

:そうなん?

 

 

 コメントの中で魔法の歴史について疑問が呈された。

 そも魔法使いが世に生まれたのはおよそ百年前、ダンジョンが世界中に出現してから後のことだ。ダンジョン出現から十数年から二○年ほど後、まさに魔法と呼ぶべき現象を引き起こした幼い子供が現れたのだ。

 

「それで、この汎用魔法を作り出した魔法使いというのが────」

「はい、るぷす先生」

「はい、先輩」

 

 ここでミーアはさっと手を上げ、るぷすに発言を許可される。()()()()()()()()()()に関する事だ。これは自分で答えたいという欲求が頭を出した。

 

「汎用魔法を作り出したのはイギリスが誇るA級探索者にして“大魔導士(グランドマスター)”、“魔女(ウィッチ)”の異名を持つ世界最強の魔法使い、当時まだ十代だった『ヴァイオレット・ホワイト』さんです」

「せいかーい」

 

 ミーアの答えにるぷすがぱちぱちと拍手をする。珍しくミーアも満足気な表情だ。

 

「先輩には“るぷすポイント”を十点進呈」

「あ、はい。どうもです」

「一定のポイントが溜まったら豪華景品をプレゼント」

 

 

:出た! 謎のポイント!

:さっきより点数下がってるな

:一定ポイントで景品か どんなんだろ

 

 

一億ポイント目指して頑張ってね」

いちお……っ!?

 

 

:いwwwちwwwおwwwくwww

:ファーwww

:豪華景品渡す気さらさら無くて草

:wwwwwwwww

:笑うわこんなんwww

:ミーアちゃんの現るぷすポイントは六○点! 残り九九九九万九九四○点!!

:果てしなさ過ぎるwww

 

 

 るぷすはこほん、と咳ばらいを一つし、空気を引き戻す。

 

「話を魔法に戻して、今回生来魔法については置いておいて、汎用魔法についてのみやっていくね。まず、魔法がどのように完成されるのか」

 

 るぷすはまた裏返したホワイトボードに人型のシルエットを描く。その人型は片腕を前に出し、何やらビームを放っている。その人型の周りに吹き出しをいくつか配置し、その中に魔法の完成プロセスを書いていく。

 

「魔法とは()()()()()()()()()()()()()に魔力を満たし、呪文で性質や方向性を定めて完成する。この時魔法の完成に重要になってくるのは想像力と言われてる」

 

 脳に於いて想像力を司っているのは右脳である、という話を聞いたことはないだろうか。実はこれは正しくはない。実際は人が想像力を働かせる際、脳の各所が活動するのである。

 頭頂葉、前頭葉、側頭葉、後頭葉、海馬────それらに魔力を操る器官が形成されている。このどれもが想像力に関わってくるのだ。

 魔法の完成を強力にサポートするのは呪文の詠唱、視覚情報、そして記憶である。

 目の前にある石について特徴を述べよ、という問題があるとする。その答えについて『そこそこ大きな綺麗な石』と『こぶし大の大きさで年輪のようにまだら模様が刻まれた美しい大理石』とでは、どちらがよりビジュアルの解像度が高いか、という話だ。

 汎用魔法の凄さはここにある。

 

「汎用魔法は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。ヴァイオレットさんはイギリス人だから当然英語で呪文を詠唱するし、ミーア先輩はさっき日本語で詠唱して、魔法自体は暴発したけど発動はしてた。これはイメージによる脳の働きが魔法を完成させてるから。ヴァイオレットさんの魔法はネットでいくらでも見れるし、お手本には困らない」

 

 

:言われてみりゃ確かに言語が違うのに発動してる

:全然不思議に思ってなかったけど改めて考えたらめっちゃ不思議な事だったわ

:なるほど そういうメカニズム

:魔法は想像力が大事 なるほどなー

 

 

 るぷすはミーアに向き直り、一つの要求をする。

 

「ミーア先輩。先輩には私が止めるまで魔法を撃ってもらいたい」

「え、でもそれは……」

 

 その要求にミーアは戸惑う。そもそもミーアの魔力量は乏しく、数回の魔法の発動で枯渇する。それはるぷすも承知の上であるはずなのに、なぜそのようなことを言ってきたのかが理解出来ない。

 しかし、次にるぷすが発した言葉に、ミーアの激情が理性を追い抜いて行った。

 

「ミーア先輩はこれを()()()()()()かも知れないけど、これは先輩の勘違いを────」

「やります」

「……ん?」

「やります」

 

 ミーアの顔に感情の色が見えない。その表情も、その声も、まるで凍り付いてしまったかのような冷たさを感じる。それは今まで誰も見たことが無かったミーアの姿であり、ミーアのファンである視聴者たちも困惑を禁じ得ない様子であった。

 

 

:ミーアちゃん?

:急にどうしたんだ?

:何かちょっと怖いけど

 

 

「……それじゃあさっきと同じく、あの的にファイヤーボールを」

「はい」

 

 るぷすもミーアの突然の変化に戸惑いを覚えているが、それでもミーアの為と思い、何も聞かずに進行する。ミーアも自分から何かを話そうとはせずに、すぐに魔法の詠唱を開始した。

 

【来りて爆ぜよ────】

 

 自らの頭上で爆発する火球。いつもはそれで落ち込んでしまうミーアであるが、今は別のことに気を取られていた。それは、過去の記憶である。

 魔法使いが魔法を使えるようになるのは物心がついてから数年後、一般的に五歳~七、八歳の間と言われている。これは物事についてある程度分別が付き、想像力が豊かになる時期であるからだ。

 幼い頃のミーア……美亜は緊張しいだった。今もそう変わってはいないが、幼い頃は特に酷かった。初めて使う魔法という()()()()()に、激しい動悸が美亜を襲う。

 そして憧れのヴァイオレットのように呪文を詠唱し、魔法を発動させるが失敗。それにより更に緊張が高まり、続けざまに呪文を唱えるもこれも失敗。

 正直よくあることだ。一回や二回の失敗など当たり前。最初から上手く出来るなど、余程才能に溢れた天才にしかありえない。だが、美亜は失敗したことが怖かった。もう心臓は痛いくらいに鼓動を激しくしている。

 呼吸も浅く、速くなった美亜は激しく巡る思考の中、呪文を詠唱し……失敗。呪文を詠唱するも、それ以降発動すらしなくなってしまった。

 美亜はゆっくり、恐る恐る背後を振り返る。そこには自分が最も信頼する二人の姿。だが、その二人の顔に浮かんでいた表情は、落胆と、失望と、憐れみと────。

 

「そこまで」

「────っ」

 

 ぱん、という手を叩く音とるぷすの静止の声に、ミーアの意識は浮上する。るぷすを見やれば、いつもと変わらぬ無表情で自分を見つめている。

 

「先輩、今自分が何回魔法を使ったか覚えてる?」

「え……あ、いえ。その……」

 

 ミーアは何度魔法を使ったか覚えていない。というよりは過去の記憶に没入してしまっていた為、魔法を使っていたかどうかすらも分からない。

 戸惑うミーアの前に、るぷすは開いた両手を前に突き出してこう言った。

 

「十回。()()()()()()()()()()()()

「え……」

 

 それは、ミーアにとってありえない数字だった。今まで魔法を使えても三回が限度。余程調子が良くても五回が精々と言った程度の魔力量しかない。それがミーアだ。だと言うのに、るぷすは自分が魔法を十回も使ったと言う。

 ミーアはコメントに目を走らせる。

 

 

:いやマジで十回使ってたよ

:全部暴発したけど発動自体はちゃんとしてたぜ

:しかし何で今はこんな使えたんだ? 今まで全然こんな連続で使えなかったのに

:確かに何でだ?

 

 

 コメントでも確かに自分は魔法を十回使えたのだと言う。では、今までは? 何故数回しか使えなかった? 何が違うと言うのか?

 

「先輩。今、心臓や頭が痛かったりする?」

「え……い、いえ、そういうのは全く」

「なるほど……やっぱり」

 

 るぷすの問いにミーアは戸惑いながらも正直に答える。それがいったい何だと言うのか? ミーアには質問の意図が分からず、疑問が脳内をぐるぐると回る。しかし、その質問こそがミーアにとって大切なことであった。

 

「思った通り。()()()()()()()()()()()()()というかむしろかなり多い方」

「な……っ」

 

 それはミーアにとって驚くべき言葉であった。

 

「え……そ、そんなはずはありません! だ、だって、私はいつも二、三回魔法を使ったらもう何も……!」

 

 今までの人生を、探索を思い出し、叫ぶようにミーアはるぷすの言葉を否定する。もしるぷすの言うことが本当ならば、今までの自分の努力は何だったのか。しかし、るぷすは言葉を止めない。

 

「先輩の今までの探索動画は見させてもらった。先輩の基本的な魔物との戦い方はまず遠くから魔法を撃つ。それが失敗して魔物に距離を詰められて、全速力で逃げて距離を離し、再び魔法。それも失敗してまた詰められて、また逃げて魔法。そこから杖で殴って撃退するかそのまま逃げるか」

「……はい、そうですね」

 

 

:よくよく聞くと酷いな

:本当によく今まで無事で……

 

 

 るぷすの語るミーアの戦法に、ミーアは思わず勢いを削がれてしまう。コメントの言う通り本当に酷い。それは申し開きしようのない純然たる事実だ。今生きてこの場に居るのが奇跡なのではないかと言われると、ちょっと否定出来ない。

 

「その時、心臓や頭は痛かった?」

「……いえ、痛みは全然」

「それがおかしい。さっき解説した通り、()()()()()()()()()()()()()()使()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「────っ!」

 

 

:そういや言ってたな

:ってことは

:え マジで魔力量は少なくないの? じゃあ何で魔法が使えなくなってんだ?

 

 

「……そ、そうです。私の魔力量が多いのなら、何で……?」

 

 ミーアの疑問は尤もだ。魔力が多いのなら失敗はともかく発動自体は出来るはず。先も十回発動出来たと言っていた。では何が違うと言うのか。

 

「これから話すことは先輩にとって嫌な話になると思う」

「……構いません。教えて下さい、るぷすちゃん」

「分かった」

 

 るぷすは改めて襟を正すと、ミーアの目を見てそれを告げた。

 

「“勘違いからくる思い込み”……これが先輩が魔法を使えなくなる理由である可能性が高い」

「………………勘……違、い……?」

 

 頭をハンマーで殴られたかのような衝撃だった。一瞬平衡感覚が失われ、倒れてしまいそうになる。すぐに否定したい、だが何故か否定出来ずにその言葉を受け止めてしまった。何か、心のどこかでその根拠を聞きたいと感じている。

 

 

:いやいやいや そんなわけあるかい!

:いくら何でもそれは……

:根拠はあるんか?

 

 

 コメントでもるぷすの言を否定する者がほとんどだ。何をもって勘違いだと判断したのか、その理由を問われる。

 

「これには魔法使いとしての生体が関わってくるんだけど、先輩は全力疾走したらその後どうなる?」

「え……?」

 

 その質問に何の意図があるのか、またもミーアには分からなかった。それを判断するだけの思考が未だ回らない。

 

「えっと……息が上がって、走れなくなって、動悸が……、────っ!?」

 

 るぷすの問いについて考え、答え、その最中に気付いた。

 

 

:え まさか

:そんな理由で?

:いや でも解説の中で確かに言ってたよな

 

 

「先輩が魔法をほんの数回しか使えなかったのは……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「そん、な……そんな、ことで……?」

 

 足元が崩れるような感覚だ。ふらふらとミーアは後退り、手に持っていた杖を地面に刺し、何とか倒れずに済むが、ぐわんぐわんと目の前が揺れているような錯覚すら覚える。

 

「これが先輩の勘違い。先輩に足りないのは魔力じゃなくて体力の方」

「……体力、ですか?」

「そう。体力を鍛えれば持久力が上がる。それは心臓に負担を掛けにくくなるということ。そうすればより多くの魔法が撃てるようになる」

 

 

:そうか 激しい動悸が脳の誤認の原因なら体力付けてやりゃいいのか

:何だ 思ったより簡単に解決出来そうだな

:いや待て そもそも何で魔法が失敗するのかの説明にはなってねーぞ

:あ 確かに

:もしかしてそっちも勘違いとかが原因なのか?

 

 

 るぷすは表示されるコメントを流し見し、ミーアを見やる。辛そうな表情だ。今まで何年間もどうしようもなかった魔法について、これほど簡単に改善策を出されたのだ。今ミーアが何を思っているのか、るぷすにはまだ推し量れない。

 

「次に魔法が失敗する理由だけど……先輩、ちっちゃい頃の魔法の失敗で強烈に印象に残ってる出来事ってある?」

 

 その言葉を聞き、ミーアの脳裏に一つの光景が映し出される。先の魔法の時にも思い出していた幼い頃の自分。あの時のことは今でも鮮明に思い出せてしまう。それほど強く脳に焼き付いているのだ。

 

「……あります」

 

 ぎゅっと、強い力で杖を握り込む。どうしても忘れられない、あの時の表情。それはもはや呪いとなってミーアを苦しめている。そして、それは今この時をもってしても、だ。

 

「多分それも原因の一つ。その失敗の記憶がトラウマになって、自分は魔力が少ないんだと思い込んだんだと思う」

「……っ!!」

「魔力を操る器官は脳のいたる所に形成されてる。それは()()()()()()()()()

 

 脳の記憶を司る部分。有名なのは海馬であるが、海馬の記憶領域は短期記憶であり、すぐに忘れ去られる物。特にトラウマ記憶など長期間頭に残る記憶が脳内に形成される場合、大脳皮質、そして前頭前野に新たな神経ネットワークが形成される。それが長期に渡って記憶を保持するのだ。

 先の解説通り、魔法を扱うには想像力が重要となる。そしてその想像力は脳のあらゆる場所が活動して発揮される物であり、それには当然前頭前野も含まれている。このトラウマ記憶はそれに関連した事柄を切っ掛けに思い起こされる物であり、ミーアのそれに関する物と言えば魔法となる。

 つまりミーアは魔法を使うごとにトラウマを刺激され、それが魔法が失敗する原因の一つとなっているのだ。あの日の魔法の失敗が、今なおミーアの魔法を失敗に導き続けているのである。

 

「……」

 

 言葉が出ない、とはこのことだ。魔法を使う度にトラウマを刺激され、魔法は失敗してしまい、更にトラウマをほじくられる。それではもうどうしようもない。どうして自分は魔法使いに生まれてきてしまったのだろうか? ミーアの思考はただ自分の生まれてきた意味というものの否定に流れていこうとしていた。

 

 

:それは……どうすりゃいいんだよ? どうしようもないじゃんか

:どうにかなんないのか? 何をどうすりゃいいのか分かんねえけど

:あれ 原因の一つ? いやまさか他にもあんの!?

:待て待て待てこれ以上ミーアちゃんを追い詰めんな!

 

 

 コメントがるぷすの言葉の違和感に気付いた。そう、過去のトラウマはあくまで原因の一つに過ぎない。ミーアが魔法を失敗する原因は他にもある。

 そしてそれが────()()()()()()()()()()()()()()()

 

「先輩が魔法を失敗するのはもう一つ理由がある。先輩は自分の魔力量が少ないと思い込んでた。ということは、今まで少ない魔力で魔法を使えるようになるための訓練をしてたんだと思う。確か動画でも言ってたよね?」

「……はい。少ない魔力量でも効率的に魔法を使えるように、色々と」

「やっぱりそれが原因。どうして失敗するのか、ちょっと解説する」

 

 るぷすはホワイトボードを差し、魔法を使っている人型の周りを一度綺麗にし、新たに文字を書き連ねていく。

 

「分かりやすくするために魔法を水風船で例えると……」

「水風船……?」

 

 

:水風船?

:何で水風船?

:スライムの時といいるぷすちゃん水風船好きなのか?

 

 

「まず魔法の素となる空想の器が風船。魔力を水、呪文を力加減とすると……魔法の素の風船に、魔力という水を適量入れて、呪文で力加減を調節して投げる。これが魔法」

「……なるほど」

「次に先輩の場合。風船に水を破裂しそうなくらいパンパンに入れて、今にも割れてしまいそうな風船を小さくちぎって投げようとして破裂させてた……イメージ的にはそんな感じ」

「………………」

 

 るぷすは新たにイラストを描き加えながら注釈を付ける。

 

 

:そうか ミーアちゃんの魔力量が多いのなら魔法に使われる魔力も多くなるのか

:そんで少ない魔力でも効率的にってことでそのでかい魔法を小さくちぎろうとして暴発と

:あれ 意外と分かりやすいな水風船の例え

 

 

 るぷすの解説を聞き、ミーアは打ちひしがれていた。自分が今までしてきたこととは一体何だったのか。魔法を使えば使う程トラウマが深まり、魔力量が多いにもかかわらず少ないのだと勘違いし、少ない魔力を効率的に使う訓練を積んだと言うのにそれは完全に見当違いの行為で、更には失敗の原因にもなっていたのだと言う。

 なぜこうも何もかもが上手くいかないのか。魔法使いとして生まれてきたのがいけなかったのだろうか。やはり、()()()()の言う通り自分の行いは全て無駄だったというのだろうか。

 ()()()()の言葉が脳裏を過ぎる。

 

 ────何をしても意味のないことはあるの。

 ────もう無駄なことは止めて。

 

 ────いつまで魔法使いに生まれてしまったことに縋っているつもりだ。

 ────無駄なことに時間を費やすのは止めろ。

 

 本当にそうなのだろうか。だとすれば、自分の人生とは。自分が生まれてきたこととは。その全てが無駄だと言うのだろうか────?

 

 

 

 

 

「それじゃあ問題点も洗い出せたし、次はどうやって改善していくかなんだけど」

 

 るぷすはホワイトボードに描かれたイラストを綺麗に消して、大きな水風船のイラストを描き出した。

 

「え?」

 

 

:え?

:ん?

:改善?

 

 

 そのあまりに軽い様子にミーアの口がまん丸に開かれる。るぷすは今何と言ったのだろうか?

 

「え……改善、ですか? ………………改善出来るんですか……?」

「ん? うん」

「………………」

 

 どうやら自分の症状は改善出来るらしい。ミーアは何度か頷いてははは、とちょっと笑う。その後、猛烈な勢いでるぷすの肩を掴んで揺らした。

 

「どどどどうやって改善するんですか!? そもそも本当に改善出来るんですか!? 嘘だったらさすがの私も怒っちゃいますよ!?」

「大丈夫。美少女は嘘吐かない」

「失礼ですけどちょっと胡散臭いです!!」

「えっ」

 

 

:ミーアちゃんが荒ぶっておられる

:そりゃ魔法が使えるかもってなったらこうなるよ

:るぷすちゃんが胡散臭いのちょっと分かる 何だろうな雰囲気?

:るぷすちゃんショック受けてる……のか? 表情変わらんから分からん

:ああ 無表情が胡散臭い原因の一つかもなぁ

 

 

 どうどうと言ってミーアを治め、るぷすは乱れた白衣を直す。元々ぶかぶかなため最初から乱れているようなものだがそれは置いておいて、咳払いを一つし、るぷすは再びミーアを椅子へと座らせる。

 

「今回の目的は先輩の魔法の特訓。問題点を洗い出してそれを改善しないと意味がない」

「それは……確かにそうなんですが。でもその……本当に何とかなるんですか?」

 

 

:確かにその通りなんだけども

:ほんまに何とかなるんか?

 

 

 ミーアもそうだが、やはりコメントでもるぷすを疑う声は多い。るぷすはそれを気にせず、いつもの軽い調子で口を開き、板書を始める。

 

「やることはシンプル。風船に入れる水が多いのなら、その量を絞ってやればいい」

「……あ」

 

 ホワイトボードには「魔法に使う魔力量を減らす」と板書され、大きい水風船にバッテンを付ける。そしてその横に新たに水を抜いた水風船が描かれた。

 どうして思い付かなかったのか分からない程にシンプルであり、そして的確な答えだ。

 

「先輩は今まで少ない魔力で魔法を使えるように訓練してた。だからその水準まで魔力を減らしてやれば……」

「私でも……魔法が、使える……!?」

 

 思わず前のめりに立ち上がるミーア。カランと軽い音を立てて杖が転がるが、それにも気付けない程に気が逸っている。

 

 

:おおお!?

:いけるんじゃないかこれは!?

:み 見抜けなかった! そのような方法があるとは このリ○クの目をもってしても!

:お前は節穴定期

:盛 り 上 が っ て ま い り ま し た !

 

 

「それじゃあ先輩、いつも使う魔法分くらいの魔力を励起してみて」

「は、はいっ」

 

 ミーアは杖を拾い上げると、るぷすの前で普段魔法に使う分量の魔力を励起させてその身に留まらせる。その魔力の強さはるぷすの肌がぴりぴりと刺激を感じるほどだ。

 

「……その半分くらいまで減らせる?」

「は、はい」

 

 とりあえず、といった風にるぷすはミーアに魔力を絞らせる。目に見えて魔力の圧が減少し、るぷすからしてもぴたりと半分ほどにまで魔力が絞られる。その魔力の精密操作に「おお」と感嘆の声が漏れる。しかしそれはそれとしてまだまだ魔力が大きく感じられるので、るぷすはもう一声掛けることにした。

 

「うーん……もう半分くらい」

「……はい」

 

 

:そんな減らすの?

:逆に普段どんだけ多い魔力で魔法を形成してたんだ?

:比較対象がなかったのも問題の一つだったのかね

:……いや 何でるぷすちゃんにミーアちゃんの魔力がどのくらいかって言うのが分かるんだ?

:それは ……あれ マジで何でだ?

:魔力って魔法使いにしか分からない感覚のはずでは?

 

 

 コメントの疑問も尤もだ。今のミーアが発する魔力は先の魔法の時の四分の一程度。つまりミーアは暴発させてしまっていたとはいえ今の四倍の魔力で魔法を連発していたのである。それだけ多く魔力を使っておきながら、ミーアは魔力が枯渇する様子を一切見せない。なるほど、るぷすが「魔力がかなり多い」と評するわけだ。

 

「その状態で無理なく身体を動かせる?」

「えっと……大丈夫そうです」

 

 るぷすの確認にミーアはラジオ体操をするように身体を動かしてみせ、るぷすはじっくりと観察するようにその周りを回る。二人とも真剣な表情だ。真剣な表情ではあるのだが。

 

 

:何かすげえシュールな光景だな

:二人とも真剣なのは分かるんだけどね

:……このシーンの耐久動画作ろうかな

:やwwwめwwwろwww

:ちょっと想像しちゃっただろ!

 

 

 真剣な表情なのが余計に間抜けな見た目を強調させる。もちろんドローンさんは俯瞰だったりそれぞれの表情をアップで映したりと大活躍だ。ちなみにだが後日本当に耐久動画が投稿されて結構な再生数を叩き出すことになるのだが、そんな未来を皆は知る由もない。

 

「それじゃあ深呼吸をして気を落ち着かせて」

「……────、……────」

 

 るぷすがミーアの背中に手を添える。ついに魔法を成功させることが出来るかもしれない現実を前に、どうしてだろうか。ミーアは不思議な安心感に包まれていた。背中から伝わる小さな、しかし優しく温かな手の温もりのお陰だろうか。

 

「先輩は少し順番を間違えてしまっただけ。本当なら大きな魔力で大きな魔法を撃つのは簡単。でも、先輩は初めに難しいやり方を選んでしまった」

 

 るぷすの言葉を耳に、ミーアは杖を掲げて呪文の詠唱を始める。

 

【────来りて爆ぜよ、破壊の礫……!】

 

 ()()()()()()()。唱えた瞬間に感じたのはその漠然としながらも、今までの魔法との明確な差異だった。

 今までの魔法を使う時の感覚は、言わば無理に魔力を抽出するかのような感覚だった。それは少ない魔力を無理に捻り出しているのだと考えていたのだが、なるほど。これは確かに単なる思い込みだったのだと頷かざるを得ない。

 ()()()、と。魔力がほとんど何の抵抗もなく一つの形を作り出す。それはまるで凪いだ湖面に手を差し込み、水を掬い上げるかのような容易さで。

 意識するでもなく杖の直上に火球が発生する。静かに、ただ佇むかのようなその火球はしかし、これまでの物とは比較にならない程に安定している。

 

「少ない魔力を扱うのは難しい。でも、先輩はずっとそれを繰り返してきた。────だからこそ、()()()()()

 

 杖で的を指し示し、最後に魔法の名を告げる。

 

【ファイヤーボール────!!】

 

 ひゅ、と。炎の尾を引き火球が奔る。風のような速さで火球は一直線に突き進み、ほんの数秒後に的に着弾、爆発!!

 弾ける火炎、もうもうと上がる爆煙、砕けて飛び散る石の欠片。全容は煙に紛れて未だ見えないが、魔力量からして表面がある程度削れただけの結果であろうと考えられる。

 しかし、そんなことよりも……見えない結果よりも確かなものがあった。

 ()()()()()()()()()()()()()。暴発することなく、途中で消えることもなく、その目的を達成したのだ。

 

 

:うおおおおおおおおおお!!!

:成功だあああああああああ!!!

:ミーアちゃんの魔法が!! 的まで飛んだ!! 的まで飛んで!! 弾けて消えた!!

:日本の魔法使いであんな綺麗なファイヤーボール見たことねーぞ!?

:おめでとおおおおおおおおお!!!

:ミーアちゃん! やったぞ! 魔法! ちゃんと使えた!

:おめでとうミーアちゃあああああああああん!!

:るぷすちゃんもありがとおおおおおおおお!!!

 

 

 ミーアの魔法をその目で(モニター越しに)目撃した視聴者たちのコメントが沸いた。誰もが驚き、喜び、祝福し、称えた。皆がミーアの魔法の成功を我が事のように祝う。

 当の本人のミーアは火球が飛んでいった先、魔法の着弾点を凝視したまま動かない。しかし、その目は大きく見開かれ、呼吸も少しずつ荒くなってくる。

 総毛立つ、とはこのことを言うのだろう。今ミーアは言いようのない感情と共に身体に震えが走っている。

 身の内からせり上がってくる巨大な感情。身の内から沸き出してくる熱。今にも叫び出したい衝動を抑え、滲みゆく視界のまま成功の立役者たるるぷすに視線を向ければ。

 

「もう一回、もう一回」

「ええっ!?」

 

 抑揚のない声で手を叩きながら、もう一度魔法を使うことを要求してくるのだった。

 

「今の感覚を忘れない内に、もう一回」

「……っ! はいっ!」

 

 

:ちょっとぐらい余韻に浸らしてやってもいいじゃんかよー!

:いやでもるぷすちゃんの言うことも一理あるぞ

:もしかしたらさっきの一回で終わることも考えられるか……!?

:いーや ミーアちゃんなら出来る出来る!

:やったれミーアちゃん!!

 

 

 るぷすの声に応え、ミーアは再度呪文を詠唱する。コメントもミーアを応援する声で埋まっていく。それを今は見ることは出来ないが、それでも視聴者たちの想いはミーアに届く。伝わっていく。

 

「先輩のトラウマを払拭するのは一朝一夕じゃどうにもならない。だから先輩にはとにかく成功体験が必要。失敗のイメージが脳内にこびり付いてしまっているのなら、それを上回るぐらい魔法を成功させればいい。先輩はそれを可能にする努力を積み重ねてきた」

 

 るぷすの視線の先、ミーアは火球の魔法を唱え続ける。その表情に陰りは見えない。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、笑みが浮かんでいる。

 それはあの日の続き。もしかしたらあったかもしれなかった時間。ただ憧れを憧れのままに夢に見、追いかけた幼き日の幻像────。

 

「そこまで」

「────っ」

 

 ぱん、と手を叩く音とるぷすの声に、ミーアは呪文の詠唱を止める。気付けば視線の先に既に的は無く。全てミーアの魔法で砕かれてしまったらしい。

 ミーアの息は浅く、速くなっている。心臓も痛いくらいに高鳴っている。だがこれは魔力の枯渇が原因ではない。高揚と、興奮と、感動から来るものだ。

 手の指がびりびりと痺れている。視界も少し色が変わっている気がする。興奮のし過ぎで脳に酸素があまり行き届いていないらしい。

 

「本当はもうちょっと早く止めるつもりだったけど、せっかくだしね……。先輩、さっき何回魔法が成功したか覚えてる?」

 

 先も似たような質問をされた。その時は覚えてないと答えたのだったか。だが、どうやら自分は少々のことでは成長しないらしいとミーアは思う。

 

「す、すみません。ちょっと覚えてないです……。魔法も全部成功したかも分からないと言うか……」

 

 余程集中していたのか、とにかく魔法を撃っていたことだけは覚えているようだ。

 るぷすはしおしおと縮こまっていくミーアに人差し指を立たせた両手を見せながら答える。

 

「さっき撃ってた魔法は全部成功してた」

「……っ」

 

 ぶるりとミーアの背が震える。しかし気になるのはるぷすが見せてくる両手の人差し指だ。これは一体何を差すのだろう。

 

「ちなみにだけど今日先輩が魔法を失敗した数は、お試しを含めれば十一回」

「……」

 

 

:るぷすちゃーん!?

:上げて落とすなーっ!?

:何で今それを言ったの!?

:もっと空気読んで!!

 

 

 ミーアが少しずつ猫背になっていく。コメントも非難囂々だ。上がった気分も落ち込んでいくというもの。だが、るぷすはミーアに見せる手の内、更に左の中指を立てる。示された数字は一と二だ。

 

「でも、魔法を成功させたのは全部で十二回」

「……え」

 

 

:え

:マジ?

:ってことは……

 

 

「先輩は、失敗よりも成功の方を多く積み重ねた。先輩の魔法は、より多く成功した。……凄く、綺麗な魔法だった」

 

 るぷすは何度も『成功した』と繰り返す。まだ知り合ったばかりの自分の言葉にどれほどの効果があるかは分からないが、それでも少しでもミーアのトラウマの払拭に役立つのならと、優しく、ミーアの心に刻み込まれるように。

 じわりとミーアの視界が滲んだ。涙は頬を伝い、服を濡らす。

 

「先輩の努力が魔法の安定性を高めた。淀みのない魔力操作を見るだけで、先輩がどれだけ頑張ってきたかが伝わってくる」

 

 手で涙を拭っても、拭っても拭っても溢れてくる。止めどない涙、杖を放して両手で拭っても止まらない。杖が倒れ、カランと音を立てる。

 気が付けば、ミーアはるぷすに縋りついて泣いていた。わんわんと、それこそ幼子のように声を抑えることもせずに、ただ感情に任せるままに大泣きした。

 るぷすはそんなミーアをそっと抱き締める。それはきっと、あの日に求めた温もり。あの日より得られることの無くなった温もり。────縋るのは、今日この時までにしよう。

 

「先輩は凄い。努力を無駄にせず、誰に否定されてもくじけずに才能の芽を開花させてみせた。────()()()()()()()()()使()()

 

 あの日の続きはこれにてお終い。ここにいるのはただ魔法に憧れた幼い少女ではない。これは自らの手で掴んだ未来の自分。

 魔法の使えない幼い少女はもうどこにも居らず、ここに居るのは“魔法使いのミーア”なのだから────。

 

 

 




お疲れ様でした。
魔法使いはどうやって魔法を使ってるのか、を考えたら何かこんな設定になってました。
つまりは『そういう生体だから』です……み、身もふたもない設定……。


次回はるぷすちゃんを暴れさせないと……。
ゴーレム「エ……ッ!?」

それではまた次回。
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