うっうっ、胃が痛い・・・後は任せた、吹雪ちゃん
はい!!このSSは、
・作者は連載初投稿(挑戦)
・独自設定あり
・明らかに歴史上の人物を意識したであろう人物名
・不定期且つ、遅すぎる更新
などの要素が含まれます。お読みになる司令官は、あらかじめご了承ください。また、作者は今後の参考のためにも、感想をお待ちしています。どうぞよろしくお願いします。ただし、作者の心は非常に折れやすいので、そちらの方もどうぞご了承ください。
三人の海
・・・夢を、見ていた。
朧げな月明かりが、障子ごしに部屋を照らしている。ひんやりとした空気に、カチコチと鳴らされる時計の針。暗闇に木目の天井を見上げて、少女は心なし荒くなった息を静かに整える。まだ眠いはずなのに、目を閉じることはどうしてもできなかった。
同室の子たちに、起きてしまった様子はない。みんなの心地良さそうな寝息と、ときたま寝返りを打つのが聞こえるだけだ。
しばらくもぞもぞとやっていたが、結局眠れずに、少女はゆっくりと上体を起こした。体に掛けていた布団がはらりとずり落ちて、薄い青の浴衣姿を現す。普段結んでいる髪は、降ろしたまま丁度肩の辺りに掛かっていた。
静かに立ち上がって、障子に向かう。布団を踏みしめるのと、衣擦れの音が寝息に交じって月光にきらめいた。
障子は音もなく、すんなりと開いた。以前同室の一人が、動きやすくなるからと蝋を塗りこんでいた。なんともない知恵袋だったが、今はそれがありがたかった。
人一人分空いた隙間に身を滑り込ませて、蒼い光の中へ出ていく。月は少女を受け入れてくれたが、反面どこか冷たかった。夜の涼しさが染み込んで冷えた縁側に腰を下ろし、月を見上げる。柔らかな夜風はいつものように潮の香りを感じさせた。建物の端にある少女の部屋は、正面が海に面しているからだ。
すー、っと深呼吸をする。新鮮な空気で肺を満たす。いくらか落ち着いては来たが、それでも寝る気にはならなかった。下ろした素足をふらふら振っていると、余計に涼しさが体に染み入ってきた。心地のよいものだ。
別段、なにかやることがあるわけではない。こうして月夜に身を任せて朝の訪れを待つだけだ。海を照らす光が太陽に変わる頃、そっと布団に戻る。みんなに心配は掛けたくない。
白浜に波が打ち付ける音が聞こえる。浮かんでくる雑念は全て風の中だ。
少女の瞳は、眼前で瞬く月光に照らされ、幾千の宝玉となってきらめいていた。
◇
鎮守府の執務室。
僕が本を読んでいると、木製の扉が小気味良く叩かれた。控えめな乾いた音が、夕陽の差し込む室内に心地よく響く。僕は、読みかけの本を机の上に置いた。
「どうぞ」
「失礼します」
紺と白のセーラー服を着た少女が、入室してきた。閉じた扉の前でちょこんと礼をした拍子に、結ばれた後ろ髪が見えて、少女が誰であるかを示す。
いや、見るまでもない。入ってきた時の声で、それが誰であるかがわかるくらいには、僕と彼女の付き合いは長い。
「お疲れ様です、司令官。遠征の報告書を持ってきました」
少女はタタタッ、と僕の前に来て、一枚の紙を差し出した。少々丸っこいが、彼女の几帳面さが伝わる字で書かれたそれに目を通し、判を押すのは僕の仕事だ。
「ああ、ありがとう」
報告書を受け取って、上から読んでいく。書くことは必要最小限度だが、大事な書類に変わりはない。読み慣れた少女の字は、簡潔且つ、要点はひとつも落としていなかった。
「うん、確かに受け取った」
検印欄に僕のサインと判子を押す。几帳面な彼女の字に負けないように、密かに気合を入れたのは内緒だ。
「お疲れ様。夕食後でもよかったんだけど、早いと助かるよ」
外は既に夜を迎える準備中だ。今頃食堂では、彼女たちのお腹を満たす夕飯が、豊かな香りを漂わせていることだろう。そのため夕方帰りの遠征は、ひとまず食事を済ませてから報告書を提出してもよいことになっている。彼女が帰還したのは、つい三十分前のことだ。
「いえ、特にやることも無かったので、早く終わらせてしまおうかと・・・」
「そっか。偉いね」
「えへへ」
照れたように彼女は笑った。かわいらしい仕種に、僕の顔も自然と綻ぶ。
「それでその、ですね」
そうして笑った後、彼女は少し俯き加減に呟いた。
「せっかくゆっくりできるので、夕ご飯は久しぶりに司令官と食べたいな・・・なんて」
普段からはきはきとした彼女が、若干頬を赤らめて尋ねたので、思わず目を見張ってしまった。言われてみれば、最近はお互いに新任の娘達の指導に当たっていたために、あまり一緒に食事をしていなかった。
「わかった、お邪魔するよ」
「ほんとですか!?」
彼女はこぶしを握って、ガッツポーズをしている。そんなに喜んでくれるなら、悪い気はしない。
「ああ、むしろこっちからお誘いしたいくらいだ」
手元にあるいくつかの書類を掻き集める。彼女が来る直前に終わらせたものだ。
「これを整理したら、食堂に行くよ。席を取って待ってて」
「はい。では、失礼します」
満面の笑みで執務室を出て行く彼女を見送って、自分の仕事に手を着ける。と、さっきまで読みかけだった本が目に留まる。そっと持ち上げて、しおりを挟み、机の端に置く。表紙に書かれた題名には、端的な字で
『深海棲艦白書(政府版)』
と書かれていた。
◇
波飛沫が陽光にきらきらと輝いています。昼時の天頂に近い太陽は、まだ春だというのに、私と足元の白砂たちを容赦なく照り焼きにします。たまらず私は、借りてきた日傘を開きました。
海に来るのは久しぶりのことです。昔はよく遊んでいたものですが、あの怪異たちが現れてからというものの、自然と足が遠のいてしまいました。まあ、理由はそれだけではないのですが。
ここの海は静かで、昼食を取るには持ってこいです。私は白浜に腰を下ろし、昼食にともらったおにぎりの包みからひとつを取り上げてかじります。適度に塩気のきいたごはんが、口の中でほどけてうまみが広がっていきます。とてもおいしいです。なんでも、こちらの「間宮さん」という方の作ってくれたものなのだとか。こんなにおいしいご飯が食べられるなんて、とてもうらやましいです。
「ご馳走様でした」
二個入っていたおにぎりは、あっという間に無くなってしまいました。最後にお茶を含んで息をつきます。
浜辺には、私以外に人影もありません。非常にゆったりとした時間が流れているだけです。
しばらくの間がありました。
―――不思議なものです。
最初はあれほど意気込んでいたのに、こうしてことが進んでいくと、未だに覚悟を決めかねている自分がいるのです。恐怖する自分がいるのです。
あの時の私なら、真っ先に逃げてしまったでしょう。でも、私はまだここにいる。
なぜでしょう。私が、大人になったということでしょうか。
私は、何を守るというのでしょうか。
この答えは、すぐには出そうにありませんね。そのあたり、私もまだ、大人になったとは言いがたいかもしれませんね。
かもめが海の上を飛んでいます。彼らは、どこへ向おうというのでしょうか。どこへ飛び立とうというのでしょうか。
わからなくてもいいのかもしれません。
私にしか出来ないのなら。私はその使命を全うするだけです。理由というものは自ずと付いて来るはずです。
「あ、そろそろ時間」
食べ終わった竹の皮に、今までの雑念を包んで握り締めます。そうして立ち上がり、私は海辺を後にしました。
見ててね、みんな。
私は艦娘として、人類の守護者として、この海を守るから。
書いてみたはいいんだけれども、果たして無事連載していけるのか・・・
なにはともあれ、やれるところまでがんばりますので、応援よろしくお願いします。
感想お待ちしています。