艦これ~桜吹雪の大和撫子~   作:瑞穂国

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どうもです

今回は短くできた

次回以降への振りということで、この辺で

どうぞよろしくお願いします


決戦近し

タモン少将

 

鎮守府付き航空乙参謀。元は戦闘機乗り。高い戦術眼を買われ、ジサブロウ少将と共に、対深海棲艦機動部隊戦術の研究を行う。

 

本来アマノイワトを通過できないが、アメノウズメを服用することで、地球と鯖世界を行き来する。

 

ジサブロウ少将

 

鎮守府付き航空甲参謀。タモンの二期先輩。対深海棲艦機動部隊戦術、特に防空戦術について研究、電探や防空回廊を用いた新戦術を発案している。

 

直接鎮守府を訪れることは少ないが、瑞鶴とは個人的に文通している模様。

 

マトメ少将

 

鎮守府参謀長。イソロク中将と行動を共にしているため、鎮守府を訪れたことはない。

 

表情を全く出さない人物であり、何を考えているのかよくわからない。そのため、いらぬ誤解を生みやすい。

 

ジンイチ二佐(当時)

 

統合海軍推薦の“提督”最適任者。元は潜水艦「しょうかく」艦長。

 

開設前の鎮守府や工廠の運用に携わっていたが、吹雪型一番艦の艤装着工時に行方不明となる。現在まで、その所在は掴めていない。

 

 

天気は快晴だ。夏も終わりに近いとはいえ、まだまだ日差しは強く、油断すると肌を焼いてしまうことになる。照り返しも激しいため、甲板の金属部分はできれば近寄りたくない気分だ。とはいえ、風と潮に晒されている手すりはほどよく温度が下がり、触れても特に問題はなかった。

 

ゆっくりと海上を進む艦娘母艦“呉”の甲板の端で、吹雪は大きく息を吸い込み、お天道様に向かって伸びをした。降ろした手を手すりに乗せ、体を前のめりにする。いつも嗅いでいる、海の臭いがした。

 

辺りには、同じようにしている艦娘がちらほらいる。同じ隊で固まっている娘もいれば、普段はあまり見ないような組み合わせでしゃべっている娘もいた。

 

「吹雪ちゃんも、甲板でしたか」

 

海を眺めていた吹雪に、背後から声が掛けられた。柔らかい物腰に、深窓の令嬢を彷彿とさせる気品に満ちた声音。日傘を差して近付く影は、長い髪を頭の高い位置で一つに纏めていた。桜の花びらが、アクセントに散りばめられている。

 

吹雪の横に立った大和も、息を吸った。呼吸に合わせて、その超弩級の胸が上下する。

 

「艦娘母艦に乗るのって久しぶりなんです。艦内はドックとか工廠とかで手狭ですし、どうしても外で息を吸いたくなってしまって」

 

「ふふっ、同じですね。これだけ大きな船ですから、もっと艦内に余裕があるのかと思ってました」

 

「あはは、やっぱりそう思っちゃいますよね」

 

二人で苦笑してしまった。

 

艦娘母艦―――特に“呉”は、全長一八三メートル、排水量一万千トンと、かなりの巨躯を誇る。艦内にもそれなりにスペースはありそうなものだが、意外とギリギリなのだ。何せコンセプトは、「洋上の鎮守府」。鎮守府の機能を可能な限り詰め込んだ“呉”は、四つの修復施設と艤装調整室、鎮守府全員分の艤装が格納できる艤装格納庫、艦隊指揮設備に五海戦分の燃弾庫。これに艦娘と各部員の兵員室、食堂、簡易娯楽施設などが準備され、艦内は一杯一杯だ。

 

「十一駆のみんなは警備ですか?」

 

「はい。白雪ちゃんは待機組で、初雪ちゃんと深雪ちゃんはあそこに」

 

そう言って吹雪は、海上を指差す。艦娘母艦と並行して、周囲に警戒する二人の駆逐艦娘が見えた。なびくセーラー服から、吹雪型だとわかる。

 

「初雪ちゃーん、深雪ちゃーん!」

 

大声で叫ぶと、吹雪は元気一杯に手を振った。こちらに気づいたのか、二人の駆逐艦娘もこちらを振り向き、手を振る。大和はそれを、微笑ましく見守っていた。

 

「駆逐艦の皆は、とても仲がいいんですね」

 

「そうですねー。やっぱり、隊で固まってることが多いですから。わたしたちは、一人では何もできないので」

 

―――「吹雪しか、いないと思ってた」

 

司令官からの言葉を、吹雪は思い出していた。あれはきっと、大和のことだったと、今は思っている。公試時からずっと随伴艦を務めてきた吹雪が、初実戦となる大和の直衛として最適任だと。

 

演習時の一件以来、大和の艤装使用は、通常訓練も含めて極めて慎重に行われてきた。数日置きに装着しては、様子を見る。航行から始め、砲撃、対空、演習まで持っていく。

 

その結果、航空機を確認した際に艤装が過剰反応を示し、大和本人の精神に介入していることがわかった。これを受けて、工廠部はいくらかの改善を施し、症状の鎮静に勤めている。また、大和が精神的に安定したこともあって、症状は日に日に弱くなっていた。それでも油断できないが、北方海域の決戦に際して投入が決定した。そこには、大和の強い要望もあったという。

 

いつかの、司令官の言葉が原因かどうかはわからない。ただ、あの一件以来、大和が持ち直しているのは事実だ。

 

―――司令官の分まで、わたしが大和さんを守らないと。

 

改めて決心した吹雪は、掴んでいた手すりにかける力を強める。

 

“呉”の幌筵入港は二日先だ。

 

 

「大盤振る舞いだな・・・」

 

入港した新戦力を確認したライゾウは、呆れとも感嘆ともつかない声を上げた。

 

「戦艦三に、空母四、駆逐八、か・・・。鎮守府の戦力ほぼ全部じゃねえか、大丈夫なのか・・・?」

 

「大丈夫でですよ、多分」

 

同じく書類をめくっていたユキも、目を見張っていた。

 

「多分って・・・お前が言うと一気に不安になるからやめてくれよ・・・」

 

「それじゃあ、先輩はしゃべる度に不安になるので、二度としゃべらないでくださいね」

 

「お前って俺に対して容赦ないよね」

 

ひどいことを言う後輩に対して、ひらひら手を振ってから、ライゾウは作戦室へと移った。

 

 

 

作戦室は広くなっていた。というのも、艦娘母艦“呉”の入港をもって、前線指揮を“幌筵”から移管したからだ。

 

本来“呉”の派遣は予定されていなかったのだが、とある理由で最前線に投入することが決まった。そして入れ替わりに、“幌筵”は損傷の激しい艦娘を鎮守府へと運ぶことになる。

 

“呉”が投入された理由は、大和の艤装を扱うためだ。従来の艦娘の艤装を遥かに凌ぐ大きさを誇る大和型の艤装は、現在は“呉”の工廠施設でしか扱うことができない。よって大和の全線投入と同時に“呉”もまた、幌筵にやってきたのだ。

 

大型客船改造とはいえ、“呉”は洋上の鎮守府たらんと設計された船だ。作戦室も充実している。通信機器も強化され、六個艦隊は同時に運用が可能だ。漸減戦を展開しつつ、艦隊決戦が行える規模だ。艦内スペースも“幌筵”より広く、応急修理程度なら同時に十隻は可能となる。

 

“幌筵”では紙だった海図も、電子パネル製だ。拡大、縮小の容易なこちらの方が使い勝手はいい。まあ、ライゾウ個人としては、たまに紙の海図が恋しくなるのだが。

 

「まず、漸減作戦の成果だが・・・」

 

それまでの報告内容をまとめたデータが、大きな海図台の一角に映された。確認した撃破数と、航空偵察によって判明した敵艦隊の配置が、キス島周辺の海図に反映される。

 

「四日前から実施している夜襲の成果です。キス島周辺に展開していた早期警戒部隊に、かなりのダメージを与えています」

 

当初、キス島周辺には四つの敵前衛部隊が存在した。第一次攻勢では、これらの警戒部隊を叩くことで敵主力を誘引し、キス島近海で艦隊戦を展開している。

 

その後は第二次攻勢に備えて、この警戒部隊に対する夜襲が行われていた。目的は明白で、警戒部隊を手薄にすることを恐れた敵主力に、前衛を強化させることだ。結果として、主力の護衛艦を削ることになる。

 

むろん、敵艦隊がキス島の包囲を諦め、前線を引き下げることも懸念された。しかしユキは、過去の深海棲艦の行動からその可能性は低いと見ていた。

 

深海棲艦の行動原理は単純だ。作戦の完遂、これだけである。ただしこれは、作戦を指揮する侵攻中枢艦隊の旗艦だけが持つロジックのようで、それ以外の深海棲艦については、その指示に従っているだけだと思われる。証拠に、旗艦を撃沈することで深海棲艦はその行動原理を失い、撤退を始める。

 

結果として、ユキの予測は当たった。深海棲艦は前線を下げずに、より強力な部隊を警戒艦隊に回したのだ。

 

現在キス島周辺には、重巡洋艦二隻を中心とした艦隊が三つ展開していた。後方に控える主力部隊へ一撃を加えるには、この艦隊を排除して進まなければならない。

 

「結果として、早期警戒部隊は増強されていますが・・・?」

 

「代わりに主力の守りは薄くなっただろ?」

 

「まあ・・・その通りです」

 

ライゾウは大きく頷いた。

 

「“呉”のおかげで六個艦隊を動かせるようになったんだ。これを最大限に生かそう」

 

 

“呉”に、各艦娘の艤装移し替えが終わった。現在“幌筵”には、大破損傷して現地修復不能と判断された艦娘の艤装が、鎮守府への輸送のために乗せられているだけだ。

 

「そんなに心配しないでください。私は大丈夫ですから」

 

これから出港する“幌筵”の前で、赤城は加賀を見送っていた。頭に包帯を巻いた加賀は、赤城に答える。

 

「なら、いいです」

 

彼女は元気そうだ。こういうところで、無理をするような艦娘じゃない。ずっと一緒に戦ってきた赤城にはわかった。

 

「一足先に帰ります。急いで帰らないと、出撃手当の間宮羊羹を食べてしまいますので」

 

「それは大変です」

 

赤城は、ことさら大げさに笑った。

 

「・・・それでは、また」

 

「・・・ええ」

 

どちらからともなく話を切り上げて、手を上げる。踵を返した加賀は、ゆっくりとタラップを登ろうとした。

 

「加賀さん!」

 

不意に、背後から声がした。加賀が珍しく目を見開いたのを見て、赤城も振り返る。こちらへ全力疾走してくる艦娘の姿が見えた。

 

「瑞鶴・・・」

 

加賀が小声でつぶやく。余程必死に走ったのか、赤城の横で止まった彼女はそこで膝に手をついて、ゼーゼーと言っている。やがて深呼吸の後、汗を拭いて顔を上げた。

 

「えっと・・・」

 

何を言うべきか迷っている様子の後輩を、二人の先輩は優しい眼差しで待ち続けた。

 

「・・・私、やります」

 

最後に出てきたのは、短い一言。言葉以上に、決意と信念をにじませた「やります」だった。

 

「そう」

 

瑞鶴の宣言に二回ほど瞬きした加賀はいつも通りに―――努めて冷静な先輩の顔で頷いた。

 

「頼んだわ」

 

出港を告げる汽笛が、辺りに響いた。

 

 

幌筵の地を去っていく艦娘母艦を、長門は静かに見送っていた。陸奥には会っていない。今会ってしまえば、弱音を吐きそうだったから。優しい姉妹艦は、きっと長門を抱きしめて慰めてくれるから。その時自分は、戦うことが怖くなってしまうから。

 

長門が、戦艦の筆頭なのだ。今、自分が取り乱すわけにはいかない。今回は大和もいるのだから。安定しているとは言えない彼女を、不安にしてはいけない。

 

―――だから、待っていてくれ陸奥。

 

水平線に向けて小さくなる艦影を見つめる。外套を羽織った胸元を、右手で握りしめた。

 

今の長門には、それが精一杯だ。

 

未練を残さず、回れ右をして“呉”の艦内へ戻る。

 

 

 

第二次攻勢の開始は近い。




これから北方作戦も大詰めとなります

思えばここまで長くなるとは思わずに・・・

後二、三話でまとめます。まとまるといいなあ・・・(終わるとは言っていない)

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