艦これ~桜吹雪の大和撫子~   作:瑞穂国

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念願の・・・念願の基地航空隊参入・・・!

感無量です

どうぞ、よろしくお願いします


リ号作戦発動

司令官が鎮守府に着任してからの一週間は、それはもう、ものすごい早さで流れていきました。何せ、物凄い量の書類の山が、一時に押し寄せたのですから。

 

司令官が着任した翌日に、早速執務室を尋ねると、執務机に山と積まれた書類を前にして腕組みをする司令官がいました。わたしからすれば、目眩がしそうな量です。

 

「これ、全部やるんですか?」

 

「ああ、うん。まあ、そうなるね」

 

司令官も苦笑気味に答えました。

 

「・・・あの、わたしにできることがあれば、手伝いますよ」

 

「気にしないでいいよ。・・・と、言いたいところだけど。少し、お願いできるかな?」

 

そういうところ、すぐに受け入れてくれたのは、わたしとしては嬉しかったです。

 

「それじゃあ、吹雪」

 

「はい!」

 

「君を、そうだな・・・秘書艦に任命しよう」

 

こうして、鎮守府に『秘書艦』という役職が生まれました。

 

 

インドネシアの島々の合間を、一人の艦娘が航行していた。まもなく夜明けを迎えようとしている東の空を見遣った彼女は、僚艦にも指示を出して、潜航の準備に入った。

 

潜水艦娘、伊一六八―――イムヤは、僚艦の伊八―――ハチと共に、夜明け前の海へと潜っていった。

 

彼女たちの役目は、ついに発令されたリ号作戦に先駆けて、敵艦隊の漸減を行うことにあった。この時に備えて、インドネシアの一島に極秘の補給基地を建設している。まあ、とは言っても、島影の洞窟を利用して、魚雷の長期保存可能な施設を、突貫で設置しただけだが。

 

昨日、その基地に到着したイムヤ含めた四人の潜水艦娘は、一夜をそこで過ごし、夜明け前に再び海に出た。

 

ゴーヤとイクの役目は、予定通り漸減作戦だ。だが、イムヤとハチは違う。リ号救出作戦に先駆けて、リランカ島に籠る『独立艦隊』へ、作戦詳細を伝える役目がある。そのまま現地に留まり、リ号救出作戦における上陸部隊支援を行うつもりだ。

 

艦娘の能力は、海から上がった時点で失われる。ならば連絡役には、最も艤装が小さく、陸上での取り回しがよい潜水艦娘が適任と判断されたのだ。

 

潜航したイムヤたちの周りに、艤装からエネルギー装甲が展開する。水上艦の艦娘では、敵弾に対して展開する―――具体的には、艦娘本体の体表近くに発生して、砲弾による致命傷を防ぐ役目を果たすエネルギー装甲だが、水中に長時間潜航する潜水艦娘では、涙滴型に展開して、抵抗を軽減するのだ。

 

細胞膜のようなものと思ってもらえればいい。表面からは水中の酸素を取り込み、逆に装甲内部の二酸化炭素を排出する。生命保護カプセルのような役目を持っていた。

 

推進力もこのエネルギー装甲が生み出す。原始的な生命体の中には、体表そのものや繊毛を波打たせることで、推進力に変えるものがいる。この行動を、潜水艦娘は応用していた。

 

とはいえ、水中での足は遅い。基本的には、昼間は水中を進み、夜は水上に出て通常航行で距離を稼ぐ。これでも、リランカ島までは五日。間に深海棲艦の警戒部隊をやり過ごしたりすることを考えると、一週間。救出艦隊の到着五日前に、接触できる予定だった。

 

その間の食料はというと、携行食料程度しかない。魚を捕まえてもいいが、できるのはせいぜい蒸す程度だ。水は簡易浄化装置があるので何とかなる。これが一週間分プラス予備となると、持っているものの三分の二以上が食料ということになった。

 

そのため、持っている魚雷も定数の半分だ。まあ、そもそも道中で戦闘をするつもりはないし、戦闘に加わるときは味方の支援母艦がいるので、補給はいつでも受けられる。今持っている魚雷は、あくまで保険的意味合いだと、イムヤは捉えていた。

 

「エネルギー装甲は正常」

 

小声で呟き、隣を見遣る。エネルギー装甲を通してだが、ハチが見えた。水と絶対屈折率が同じなので、特に歪むこともなく、まるで水中を泳いでいるように見ることができた。こちらを向いた彼女にオッケーサインを送ると、彼女の方も同じように異常なしを伝えた。

 

これからは、残念ながら潜水艦には辛い時間帯だ。エネルギー装甲の異常は、すなわち作戦続行の困難を意味する。

 

―――日没まで、半日。

 

その間は、息を潜めつつ、敵のハンターキラーチームをやり過ごさなければならない。

 

まあ、今まで何度もやってきた任務だ。特に気負いはない。

 

必ず、希望を届ける。リランカ島で待っている人がいるのだから。

 

決意も新たに、上り始めたばかりの太陽光が浸透する海を、イムヤたちは静かに進みだした。

 

 

南西諸島を通過した船団は、ついに西方海域に到達しようとしていた。その船団にあって、一際慌ただしくしていたのが、航空支援母艦“鹿屋”だった。

 

“鹿屋”艦上、まったいらの飛行甲板には、すでに暖機運転に入っている機体が並べられ、出撃の準備に入っている。“烈風”二十四機、“銀河”二十四機、一式陸攻三十機の攻撃隊には、敵艦隊を叩くための兵装が満載されていた。

 

その甲板を見下ろす位置、艦橋の下から張り出すようにして設けられている航空操縦室に腰掛ける飛鷹は、各機が甲板に並べられているのを見て、普段とは違う感覚に眉をしかめた。

 

本来、航空母艦娘である飛鷹の発艦作業というのは、式神型共通の巻物型甲板を広げて、そこから式神となった艦載機を発艦させる。こうして、まるで本物の空母みたいに甲板に並べた艦載機を、順に出撃させていくのは初めてだ。

 

まあ、操作系統は式神型と同じなので、むしろ上空に上がってからの方が違和感はない。

 

それよりも心配なのは、今が朝陽も昇らない夜明け前ということだ。

 

確かに、こういうことも想定して、この一ヶ月半ほど訓練を続けてきた。それでも出撃してから奇襲開始までの時間のうち約半分を、光のない中進むのは、なかなかに難しい注文だ。後でパフェくらい奢ってほしいものである。

 

―――まあ、やれるけど。

 

周囲の計器類とパネルを確認して頷く。出撃準備は完了だ。

 

『飛鷹、どうだ?』

 

艦橋にいるスエオ大佐から、通信が入る。ヘッドフォン越しの声に、口頭マイクで答えた。

 

「攻撃隊、発艦準備完了」

 

『了解。艦首、風上に立て』

 

眼下の甲板では、艦首の前縁から白い線が流れている。風の方向を確認するための水蒸気は、現在右方向に流れていた。つまり取舵を切って、風上に艦首を向けなければならない。

 

スエオの声から少しすると、“鹿屋”の艦首が左に振られた。水蒸気の白線が艦首から綺麗にまっすぐ伸びたところで回頭が終わり、“鹿屋”は風上に向かって驀進する。攻撃隊の発艦準備は、これで整った。

 

―――基地航空隊なのに、発艦って言うのも変なものね。

 

そんな感想を抱いた飛鷹は、感覚を研ぎ澄まし、攻撃隊の操作に神経を集中した。

 

“鹿屋”航空隊の目標は明確だ。西方艦隊が集結している群生地―――泊地。これを先制攻撃によって機能不全に陥れ、西方艦隊の動きを封じるのだ。泊地が破壊できれば艦隊の行動をかなり制限できるし、艦隊に損害を与えれば、それだけ脅威は小さくなる。インドネシア入港に先駆けて必要な攻撃だった。

 

『攻撃隊、発艦始め』

 

スエオが指示した。甲板埋め込み式のチョークが外れ、先頭の“烈風”が滑走を始める。飛行甲板前縁を蹴った機体は、危なげなく空中へと上がっていった。

 

さらに機体が続く。七十八機という数の攻撃隊が発艦するには、それなりに時間がかかる。だから慌てず、急いで、正確に。

 

“烈風”二十四機が発艦すると、次は“銀河”の番だ。双発の陸上爆撃機は、シャープな印象を抱かせるが、やはり洋上の飛行甲板から飛び立つということに妙な皮肉を感じていた。これが、“銀河”の初陣である。

 

最後に残った一式陸攻は、葉巻を思わせる機体だ。基地航空艦隊創設時からの主力攻撃機だが、様々な改良が施され、常に第一線で戦える機体となっている。長く使って慣れているため稼働率も高く、信頼は大きかった。現在“鹿屋”に搭載されている機体は、航続距離を削って防弾装備を強化したものだ。

 

最後尾にいた一式陸攻が発艦すると、甲板は綺麗になった。“鹿屋”上空で編隊を組んでいた攻撃隊は、ついに進撃を開始する。

 

今しも陽が昇ろうとする東の空を左に見て、七十八機の奇襲部隊は、敵泊地へと飛行していった。

 

 

 

深海棲艦西方艦隊の泊地は、西方海域に多数存在する島々のうち、三つにあった。これらはそれぞれに役割が違うらしかったが、よくわかっていなかった。

 

各泊地の担う役目が判明したのは、半年ほど前のことだ。南西諸島沖に残存通商破壊艦隊が発見された際、時期を同じくして西方艦隊が戦力を集結、侵攻の構えを見せた。旗艦部隊を撃滅したことで通商破壊艦隊が消滅し、西方艦隊も侵攻を止めて、元の通り南西諸島の部隊(主に基地航空艦隊)と睨み合う形となった。この間に、各泊地の役割も判明した。

 

西方封鎖部隊主力泊地、西方通商破壊部隊泊地、潜水艦部隊泊地と呼称されるようになった三つの泊地のうち、インドネシア入港に際して最大の障害となるのは通商破壊部隊泊地だ。封鎖艦隊主力と潜水艦隊は、大半がカレー洋方面で海上封鎖を実施しており、泊地を叩いても対して損害を与えることができないと踏んでいる。また、予定する航路とも距離がある。“鹿屋”航空隊の足が長いと言っても、さすがに叩くことはできなかった。

 

―――さあ、始めるわよ。

 

閉じた瞼の裏、朝の海を進む攻撃隊からの映像が見える。ハヤブサやタカになったような気分だ。海上では自分の視覚と攻撃隊の視覚、両方を把握しないといけないので、こうしてどちらか一方に集中できるのはやりやすいし、心地良い。

 

視界の端を島が流れていく。目的の島はすぐ目の前だ。誘導の“彩雲”が先行し、泊地内の様子を探る。

 

―――当たり。

 

いた。深海棲艦、それも通商破壊の主力となる巡洋艦や駆逐艦、軽空母が多数。活発に動いている様子はなく、まるで眠っているように静かだ。

 

“彩雲”が翼を翻し、泊地の様子を探る。鮮明な映像の中で、飛鷹は停泊している深海棲艦の数を数えた。

 

「飛鷹より艦橋。敵泊地確認。戦艦四、軽母六、重巡十二、軽巡二十、駆逐多数。通商破壊部隊です」

 

『了解。優先目標は軽母。まずは制空権を取る』

 

「了解」

 

―――さあ、見てなさい。

 

飛鷹からすれば、復仇戦だ。自らの艤装と航空隊で果たせないのは残念だが、この“鹿屋”の航空隊で、敵艦隊を叩く。この攻撃に続く味方の攻撃の、活路を開くのだ。

 

泊地内の敵艦隊が、にわかに慌ただしくなった。駆逐艦の一隻が“彩雲”に気付き、部隊全体に知らせたらしい。最も忙しそうにしているのは軽空母のヌ級六隻で、こちらが航空機による襲撃を狙っていることに気付いたのだろう、戦闘機を上げようとしている。

 

―――もう遅いのよ!

 

飛鷹は、前衛の“烈風”隊を加速させる。わざわざ上昇して高度を稼ぐ必要はない。高度上の優位は、完全にこちらが握っている。

 

ちらほらと、寝ぼけ眼の深海棲艦艦載機が上がってくるが、数はまばらで統制もされていない。こんな状態で、“烈風”隊が敗れるはずがなかった。

 

零戦の後継機として設計された純粋な制空戦闘機である“烈風”は、搭載された「ハ四三」エンジンを一杯に唸らせて、敵戦闘機に襲い掛かる。機体強度の不足から零戦では制限されていた急降下攻撃も、“烈風”は難なくこなせる。運動性能も零戦譲りの優秀なものだ。

 

一航過で二〇ミリ機銃を叩き込んだ後、ひらりと身を翻して残敵に襲い掛かる。ほとんど一方的な撃滅だ。それまでの戦闘機とは次元が違う“烈風”の性能に、深海棲艦艦載機は為す術なく標的となり、燃え盛る炎の塊と化す。

 

上空から一撃を喰らった敵機が、錐揉みとなって落ちていく。

 

一三ミリ機銃の掃射を受け、ズタズタになった敵機が四散する。

 

格闘戦に敗れ、背後から二〇ミリ機銃をまともに受けた機体もある。

 

制空戦闘はものの数分で終了した。“烈風”の損害は皆無。泊地上空は、完全に“鹿屋”航空隊のものとなった。

 

攻撃隊が突入を始める。泊地東側に回り込み、朝陽を背にして泊地内へと迫る。飛鷹は、目標を六隻のヌ級と二隻のタ級に定めた。

 

先に動き始めるのは“銀河”だ。一式陸攻の後継機としても期待される急降下爆撃機は二手に分かれ、高度を上げるでもなく、まっすぐにヌ級へと迫っていく。

 

―――もうちょい、上。

 

高度を見ながら、飛鷹が位置を調整する。対空砲火は飛んでくるが、陣形など存在しないから薄い。妨害にすらなっていなかった。

 

―――一三・・・。

 

現在“銀河”に搭載されている新型兵器は、距離一千での使用が理想だ。

 

―――一二・・・。

 

距離の秒読みをする。二手に分かれた“銀河”隊が、計六隻の軽空母へと迫る。

 

対空砲火に絡め取られて、一機が撃墜される。

 

「誉」エンジンが火を噴き、錐揉みとなって落ちていく。

 

機首を機銃で撃ち抜かれた機体は、飛鷹からのコントロールが利かなくなって、そのまま真っ逆さまに海面に激突する。

 

だが、攻撃隊を止めるまでにはならない。

 

―――一一・・・。

 

爆弾倉が開き、新兵器の弾頭が露わとなる。零戦並の速力を発揮する“銀河”の腹に抱かれ、それは初陣の時を待っていた。

 

―――一○・・・!

 

今だ。“銀河”の腹から、新型兵器が放たれる。爆弾のような形状をしたそれは、放たれた瞬間重力に引かれて落下するが、すぐにその尾部から光の尾を噴き出し、目標へ向けて高速で飛翔を始めた。

 

試製対艦噴進徹甲弾。魚雷と共に、新たに基地航空隊の対艦兵装の切り札と位置付けられた飛翔物体は、“銀河”を追い抜いて、ヌ級の舷側へと突撃していった。

 

ヌ級は慌てて機銃を撃ちまくり、回避運動を取ろうとする。だがその努力も虚しく、高速の火矢が襲い掛かった。

 

水面が沸き立ち、命中した噴進弾が炸裂の炎を上げる。ヌ級がよろめき、業火を噴き上げてのたうち回った。舷側が決して厚い装甲で覆われていないヌ級には、それで十分過ぎた。

 

動きを止め、波間に飲まれつつあるヌ級の上空を、“銀河”がフライパスする。身軽になった双発の爆撃機は、満足げに敵泊地の上空を旋回していた。

 

“銀河”の攻撃が終わったタイミングで、今度は一式陸攻が攻撃態勢に入る。計三十機。これが十五機ずつに分かれて、四隻の戦艦のうちタ級Elite二隻に襲い掛かった。

 

双発攻撃機にもかかわらず、低空に舞い降りた一式陸攻の安定性は抜群だ。低く、低く、まるで単発攻撃機のような、神業的飛行で戦艦へと迫っていく。二基の「火星」発動機が力強く回すペラが、さざ波が立つ海面に触れるのではないかと錯覚するほどの低高度だ。

 

二隻のタ級が対空砲火を撃ち始める。ヌ級とは違い、戦艦であるタ級の対空火器は豊富だ。さながら洋上の活火山が如く、砲炎を噴き上げる。両用砲弾がこれでもかと飛来して、一式陸攻の周囲で真っ黒い花を咲かせた。

 

炸裂した両用砲弾の断片は、飛び散って一式陸攻の翼と言わず胴体と言わず、当たっては異音を上げる。防弾装備の増した一式陸攻は、それらに十分耐えていた。

 

それでも、爆風をもろに受ければ一たまりもない。

 

機首の正面で両用砲弾が炸裂し、潰れて落ちていく。

 

主翼が折れて、コントロールを失う機体もある。

 

燃料に引火して、燃え盛る炎となった機体が爆発する。

 

エンジンカウルがズタズタに引き裂かれ、推進力を失って海面に激突する機体もあった。

 

だが、残った一式陸攻の足が止まることはない。飛鷹は意識をさらに集中し、一式陸攻の高度をこれでもかと下げた。銀色にきらめく海面が、眼前まで迫った。

 

―――二〇・・・。

 

距離が二千を切った。対空砲火が機銃に切り替わる。青白い曳光弾の雨が横殴りに降り注ぎ、一式陸攻の進路を阻害しようとする。その下を掻い潜るようにして、一式陸攻はなおも接近を続けた。腹に抱えた航空魚雷の必中距離を目指す。

 

機銃をまともに受けて、一機が波に衝突する。

 

補助翼が引き千切られ、錐揉みとなって落ちる。

 

爆音を引きずる発動機と、ペラから生じた後流が海面に白い飛沫を立てる。一式陸攻は、お互いの翼端が触れてしまうのではないかという距離まで編隊を詰めて、タ級に迫った。

 

―――一二・・・。

 

後少し。後少しの辛抱だ。

 

―――一一・・・。

 

浴びせかけられる機銃弾は、まるで真っ赤に燃える石礫のようだ。それでも、飛鷹は怯まずに、一式陸攻を誘導し続ける。

 

―――一〇!

 

時は来た。鶴翼陣を敷いていた一式陸攻の各機が、タ級に向けて魚雷を放つ。重量物を手放したことで浮かび上がりそうになった機体を必死に抑え、頭上の機銃弾を避ける。少しずつ舵を切り、タ級の後方を抜けるコースを取る。

 

送り狼のように浴びせかける機銃の雨が止んでから、一式陸攻各機が引き起こしをかける。その戦果は、上空に張り付いていた“彩雲”から確認できた。

 

真っ白い筋が何本も伸びていく。タ級は必死に回避を試みるが、ここまで囲まれてしまっては為す術もなかった。

 

海中を進む魚雷の航跡が、タ級の影に吸い込まれた。一瞬の沈黙があった後、丈高い海水製の摩天楼が林立した。一式陸攻の放った魚雷は、タ級を的確に捉えて、致命傷となるダメージを与えた。堅牢な深海棲艦も、魚雷多数を受けては浮いていられる道理がなかった。

 

最終的な命中弾は、五本と四本。右舷方向へと急速に傾いていったタ級は、足元からズブズブと海に飲み込まれていく。こちらを見上げたその目は、憎悪の赤に染まって、最後の輝きを失った。

 

―――目的は達成。

 

飛鷹が誘導する“鹿屋”航空隊が上げた戦果は、最終的に戦艦二、軽母三撃沈、軽母二撃破、駆逐三小破。制空権は取ったと言える。

 

後は、軽空母部隊に任せるとしよう。

 

スエオに戦果を報告した飛鷹は、攻撃隊を帰途に着かせる。“彩雲”に関しては、航続距離の許す限り接敵を続けることとした。

 

―――頼んだわよ、隼鷹。

 

今回も軽空母部隊として参加している僚艦を思う。呑兵衛で適当なところが多い彼女だが、こと航空機の誘導技術に関しては卓越している。「航空酔操術」などと勝手なことを言っているが、あの龍驤も認める腕だ。万に一つも心配はないだろう。

 

帰還する“鹿屋”航空隊と、龍驤、千歳、千代田、隼鷹から放たれた攻撃隊がすれ違う。“紫電”改二、“彗星”、“天山”で編成されたこの攻撃隊が、敵泊地に対するトドメとなるはずだ。

 

航空隊の収容が始まった時、第二次攻撃隊が泊地に突入した。飛鷹誘導の“彩雲”の眼下で、的確な爆雷撃が炸裂する。制空権を失った深海棲艦通商破壊部隊に、反撃の術はなかった。

 

ここに、通商破壊艦隊の泊地は壊滅した。

 




潜水艦に関しては、かなりオリジナル要素の強い設定となりました

いや、ばた足推進も一応できるんですけど、疲れるじゃん?

次回以降は、救出作戦の模様を

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