艦これ~桜吹雪の大和撫子~   作:瑞穂国

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どうもです

なんだか、結局元通りの投稿ペースに

リ号作戦も、後一、二話で終わります(終わるといいなあ・・・)

今回は、ビスマルク編となります


堅牢なる意志

出撃したわたしは、周辺を警戒しながら、両舷半速で鎮守府正面海域を航行していました。

 

天気は晴天。風も無く、波は静かです。これが大荒れだと、艦娘ではまともに航行できませんから、幸いでした。

 

『吹雪』

 

後ろの出撃ドックから、司令官が無線で呼びかけます。

 

『間もなく、君との交信限界距離を超える』

 

それはつまり、海の上にたった一人、わたしだけが残って、戦うということ。

 

『作戦は伝えた通り。接敵後は、決して無理をせず、可能であれば交信可能圏内に引き込んで戦闘を行う。カタログスペックでは、吹雪の方が速力が出る。訓練通り、確実にやればいい』

 

「・・・わかりました。やってみます」

 

『幸運を祈る』

 

そう言って通信が終わり、直後に通信可能圏外に出てしまいました。

 

航行しながら、わたしはもう一度艤装の状態を確認します。何もしてないと、得体のしれない不安を自覚してしまいそうでしたから。

 

「よしっ」

 

艤装の状態が万全であることを確認して、わたしは再び前を見ます。

 

その時。

 

水平線に動く影を、わたしの両目が捉えました。

 

 

ビスマルクの艤装は、もう間もなくで砲戦の準備を終えようとしていた。

 

『チンジュフ』の護衛艦隊、ヤスと合流した後、簡単にそれぞれの役割を確認したビスマルクは、すぐさま作戦行動に移った。ビスマルクの相手は、二隻の敵戦艦。どちらもル級Eliteだ。相手にとって不足はない。

 

「距離二万で砲戦を始めるわ」

 

その距離が、ビスマルクの主砲が最も威力を発揮する距離だ。

 

『了解。こちらも同じタイミングで肉薄する』

 

ナチと言ったヤスを率いる重巡洋艦娘の声は端的だ。その短さが、かえって彼女の自信を表しているように、ビスマルクには思えた。実際、ここまで『チンジュフ』護衛艦隊の戦いぶりを見てきたが、彼女たちの練度は高い。特に、先ほどすれ違ったフブキ率いる駆逐隊はとんでもない。あんな戦い方をする駆逐隊と戦うのは、ビスマルクなら御免被りたい。

 

戦術も多彩だ。大型航空機を用いた、より精度の高い観測機器による弾着観測射撃。二人の戦艦娘が、それぞれの観測値を持ち寄って、さらに精度を高める統制砲撃戦。統合された防空指揮による、多段階の防空システム。

 

当初よりも派遣される戦力が少なくなると聞いた時は、作戦の成功に懐疑的だったが、それでも彼女らは、足りない部分を戦術と技術で補っていた。

 

何より、その限られた戦力の中で、ビスマルクたちを救援に来てくれたのだ。

 

『独立艦隊』の指揮官と言う立場を抜きにして、一人の海の娘として、その恩義に応えたい気持ちがないと言えば嘘になる。

 

けれどもそれ以上に、自分が今の『独立艦隊』最高指揮官であることを、忘れてはならない。

 

戦場で感情的になるのを、自らに課した責任で押さえつけて、ビスマルクは前方の敵戦艦を見据える。すでに深海棲艦戦艦部隊の決戦距離である二万五千を割っているが、発砲する気配はない。ビスマルクの狙い通りだ。現在ビスマルクは発揮しうる最大戦速で敵戦艦へ突き進んでいる。相対速力は四〇ノットを越えるはずだ。そんな勢いで向かってくる反航戦の相手に砲撃を命中させるのは困難である。

 

―――勝負は一瞬。

 

二万を切って、最初の射撃でどれだけ精度を高められるか。二隻の戦艦を相手取る以上、全てはそこにかかっていた。

 

ほどなく、その時は訪れる。レーダーで計測していた敵戦艦との距離が、ついに二万を割ったのだ。

 

「両舷第一戦速、砲戦用意!」

 

主機の回転数が下げられ、ビスマルクは減速した。最高の状態にある観測機器が二隻の敵戦艦のうち右方を捕捉する。測距儀が導き出した距離をもとにして、膨大なデータが数字となって頭を駆け巡り、主砲諸元を導き出した。四基の三八センチ連装砲、そのうちの右砲が、諸元に基づいて仰角を上げた。

 

準備は整った。

 

「フォイアー!」

 

気合いの限りに叫び、第一射を放つ。轟音が砲身から飛び出し、盛大な砲炎を上げる。衝撃波が海面を綺麗な円形に抉った。

 

一拍遅れて、敵戦艦も発砲する。両腕の盾のような艤装から連続して炎が生じ、強力な一六インチ砲弾を叩き出した。

 

お互いの弾着はほとんど同時だ。丈高い水柱が所狭しと並び、姿を覆い隠す。それでもビスマルクは、しかと自らの砲撃の成果を見届けた。

 

全弾近。四発の三八センチ砲弾は、その全てが敵艦の手前に落ちていた。

 

修正値が導き出され、すぐさま発砲。今度は左砲だ。その間に、右砲は再装填を終えていた。この次発装填の早さが、ビスマルクの売りである。

 

敵戦艦も撃ってくる。深紅の瞳がこちらを睨み、まるで積年の恨みを晴らすかのように、盾から砲撃を繰り出した。お互いの砲弾が高空ですれ違い、美しい放物線を描いて落下する。今度の砲撃は、手応えがあった。

 

―――よしっ!

 

思わず右拳を握り締める。ビスマルクの放った砲弾は、二発が近、もう二発が遠。夾叉である。距離二万からたった二射で誤差修正を終えられたのは、ひとえに精度の高い観測機器のおかげだ。

 

「次より斉射!」

 

右砲に続き、左砲も再装填が行われるのを待つ。やがて双方の再装填が終わり、全ての準備が整った。深く息を吸い込む。

 

「フォイアーッ!」

 

ビスマルクは早くも今日最初の斉射に踏み切った。爆音と衝撃はそれまでの比ではない。洗練された脚部艤装が大きく波間に沈み込むほどの威力だ。ビリビリと大気を震わせる自らの砲声を、ビスマルクは両足を一杯に踏ん張って聞き届けていた。

 

三八センチ砲弾が飛翔していく。それとは入れ替わりで、敵戦艦の一六インチ砲弾も飛翔中だ。両者の砲弾が、同じタイミングで相手に到達する。

 

―――まだまだ甘いわね。

 

敵戦艦二隻の砲撃は、まだ空振りの部類だ。さすがはEliteだけあって修正が早く、精度は確実に上がっている。それでも現段階では、まだビスマルクの脅威とはなり得なかった。

 

対するビスマルクの砲撃は、早速敵戦艦の艦上で炸裂して、被害を与えていた。右盾の一部が抉れて、うっすらと煙を噴出している。口径は一六インチに劣るものの、三八センチ砲弾は十分過ぎる威力を発揮していたのだった。

 

そしてここからが、ビスマルクの本領発揮である。

 

次発装填が完了し、再び斉射。その間隔はじつに二十秒。並の戦艦の倍近い。もちろん、常にこの装填速度を維持できるわけではないが、十分に艤装の扱いに慣れているビスマルクは、この最速タイムを維持することができる。

 

敵戦艦が第四射を放つよりも早く、ビスマルクの第二斉射は飛翔を始めている。ようやく敵戦艦の第四射が放たれた時には、すでにビスマルクの三八センチ砲弾八発が、突入段階に入ろうとしていた。

 

装甲とぶち当たった徹甲弾が火花を散らし、深く食い込んで炸裂する。ル級Eliteの艤装に爆炎が踊るのがはっきりと見えた。命中弾は二発。

 

ビスマルクが次発装填を終えようかというタイミングで、敵艦からの第四射が降り注いだ。そして、さすがに今度は、ビスマルクの幸運も発揮されなかった。

 

砲塔の正面防盾で火花が上がる。砲弾は弾いたが、一六インチ砲弾が命中したことは変わらない。タイミング的に見て、右方のル級であろう。これで条件は五分。

 

―――いえ、私の方が圧倒的に有利ね。

 

被弾をものともせず、ビスマルクの主砲が三度目の斉射の咆哮を上げた。猛々しい雄叫びが海面に木霊し、戦艦の破壊力を物語る。加熱した砲身が冷却され、その間に装填機構が忙しなく次弾を装填。その作業中に、第三斉射が落下した。ル級の艤装で炎が上がる。

 

準備の整った第四斉射は、ル級が新たな射弾を放つよりも先に飛び出した。主砲発射の反動を受け止めながら、ビスマルクはチラリと、肉薄を続けるヤスを見遣る。ヤスの接近を阻むように展開する敵巡洋艦部隊と、二人の重巡洋艦娘が激しく撃ち合っていた。

 

『ビスマルク』

 

その時、待っていた声が通信機越しに届いた。対水上電探を旋回させ、後方から接近してくる艦娘二人を捉える。意外と近くまで、すでに来ていたようだ。

 

「遅いわよ、レーベ、マックス」

 

ル級からの第一斉射に耐えながら、ビスマルクは駆逐艦娘に呼びかける。二人分の苦笑が通信機の向こうから聞こえてきた。

 

『ごめんごめん。その分、今から働くよ』

 

「そうして頂戴」

 

通信を切るや否や、疾風迅雷を体現するような神速が、ビスマルクの横を通り抜けた。艤装を構えた二人の駆逐艦娘は、一直線に敵艦隊を目指す。彼女らの発揮しうる速力は、驚異の三八ノットだ。激しく飛沫を飛ばし、制服の丈の短いスカートをなびかせ、突撃していく。

 

―――負けてられないわね。

 

第五斉射準備完了を受けて、ビスマルクはさらに主砲を放つ。八門の三八センチ砲が圧倒的な爆音を響かせるや、褐色に沸き立つ炎を上げて、超音速で砲弾が飛び出した。対戦艦用の徹甲弾は、理想的なアーチを描いてル級の艤装に突き刺さり、爆ぜる。細かな破片が飛び散り、ル級は苦悶するように雄叫びを上げていた。

 

入れ替わりで、ル級の砲撃もビスマルクを包み込む。一瞬にして白く染まる視界。全身を軋ませるような異音。金属が上げる不協和音。しかしながら頑丈なビスマルクの艤装は、それらに十分耐えていた。

 

お返しとばかりに、ビスマルクは第六斉射を放った。その調べは先ほどと変わることなく、強烈で頼もしい。まるで海面を叩き割らんばかりの衝撃だ。

 

対抗するようなル級の斉射。すでに左方のル級も夾叉弾を得ており、斉射に移行している。いささか分が悪いだろうか。しかしながら今は、確実に一隻を潰す。ビスマルクはそう断じて、第七斉射の準備を急がせた。

 

第六斉射の命中弾は、それまでで一番多い三発。それも、ル級の右手に持っている艤装にまとまって弾着した。盛大に弾けたル級の艤装は、その上部が大きく抉れていた。

 

一方、ビスマルクも無傷ではない。一六インチ砲弾は容赦なく艤装を抉っており、砲塔型の副砲が一機もぎ取られていた。それでもその被害は、十分想定内だ。

 

第七斉射はル級よりも早い。そして、右方のル級を葬るのに、十分過ぎた。

 

ごっそりと削られていた右側の盾形艤装に食い込んだ一発の三八センチ砲弾は、主砲弾や装薬の詰まったそこで、遠慮会釈なく、破壊の限りを尽くした。弾火薬庫の一斉誘爆という最悪の事態は免れていたとはいえ、それまでの被害の累積が、ル級にそれ以上の戦闘を不可能にさせていた。

 

落伍していく右方のル級を確認して、ビスマルクはすぐさま、目標を残ったもう一隻のル級に変更した。こちらは無傷だ。

 

砲戦を行っている間に、彼我の距離は一万七千まで来ている。ビスマルクはほくそ笑んだ。

 

「初弾より斉射!」

 

この距離ならば外さない。その意志を示すかのように、ビスマルクは最初から斉射に踏み切った。それと入れ替わるようにして、左方のル級から二度目の斉射弾が降り注いだ。命中弾は艤装の上で爆炎を噴き上げ、至近弾が脚部艤装を下方から浮き上がらせる。駆動系をやられたのか、艤装右舷の第四砲塔―――ドーラが砲撃不能となった。ビスマルクは早急に見切りをつけ、ドーラの弾火薬庫を艤装から切り離し、投棄する。

 

ビスマルク最後の全砲門による斉射となった左方のル級への第一斉射は、狙い通り、初弾から命中弾を叩き出した。ル級の左盾から上がる火炎が、『独立艦隊』工廠部が生み出した観測機器の精度の高さを物語っている。

 

続く第二斉射は、ル級と同じタイミングで放たれた。お互いに主砲発射の爆炎を躍らせ、徹甲弾が高空で交錯する。立ち上る水柱。飛び散った断片が艤装に当たる異音。信管を作動させた砲弾の轟音。バラバラと降り注ぐ水滴。

 

―――少し、まずいわね。

 

自らの艤装の状態を確認して、ビスマルクは奥歯を嚙み締める。いかにビスマルクの艤装が堅牢とはいえ、二隻のElite戦艦を相手取るのは、少々どころではない無理があった。

 

それでも。装填機構の性能が許す限り、ビスマルクは撃ち続ける。三度目の斉射だ。

 

ビスマルクたちを守るために、オイゲンは、レーベとマックスは、そして彼女の妹は、制空権の無い中四隻もの敵戦艦を相手取ったのだ。たかだか二隻の戦艦相手に、自分が音を上げるわけにはいかなかった。

 

今度は私が、この船団を守るのだ。

 

『ビスマルク!』

 

ル級の砲弾が再びビスマルクの艤装を抉る中、通信機が呼びかける。先行しているレーベだ。

 

『こっちは一万を切ったよ!もうちょっとだから、頑張って!』

 

ナチとアシガラがこじ開けた敵前衛の穴に、『チンジュフ』とレーベ、マックス、五人の駆逐艦娘が突撃している。

 

技術交流の結果、『独立艦隊』においても、『チンジュフ』が採用している高速長射程の酸素魚雷の開発に成功していた。リランカ襲撃の結果、そのほとんどは失われてしまったものの、“ペーター・シュトラウス”内には数本が残されており、今回の出撃にあたってその全てがレーベとマックスに搭載されていた。

 

つまり、二人は『チンジュフ』の水雷戦隊と共に雷撃戦を行うことができる。

 

搭載魚雷の口径こそ、レーベたちの方が小さいものの、威力についてはお墨付きだ。

 

それまで、何としても敵戦艦を引き付け、その戦闘能力を削ぐ。そのために、ビスマルクは撃ち続ける。

 

例えドーラが使えなくなろうと。副砲塔をもがれようと。Ar196をカタパルトごと吹き飛ばされようと。砲弾の断片が制服を切り裂こうと。頭から被った海水で自慢の金髪がびしょ濡れになろうと。ビスマルクは撃つ。撃つ。撃つ。砲身が焼き切れんばかりに撃ち続ける。

 

しかしながら、その艤装にもまもなく限界が訪れようとしていた。

 

―――そんなことは百も承知よ!

 

ビスマルク級戦艦を侮るな。

 

次の瞬間、ル級Eliteの艤装が下から盛大に吹き飛んだ。その堅牢な姿を洋上にさらしていた黒々とした盾型の艤装が、まるでブリキのおもちゃでもあるかのように浮き上がる。何が起きたのかわからないとでもいうように、極太の水柱の間に見える深紅の瞳が見開かれていた。

 

『命中!やりい!』

 

威勢のいい声が、通信機に乗って聞こえてくる。水雷戦隊の先頭を行く駆逐艦娘。オレンジの髪を元気一杯に揺らす彼女が、ビスマルクに向けて親指を突き立てた。

 

彼女らが放った魚雷が、敵戦艦を葬ったのだ。

 

「・・・やってくれたのね」

 

高まっていた艤装の出力を落とし、速力を原速とする。損害は大きいが、戦闘、航行共に可能だ。ただ、さすがにもう一つの戦艦部隊を叩くだけの余力は、ビスマルクにはなかった。

 

まあ、でも。そちらはすでに、対策を講じている。対処は十分に可能なはずだ。

 

太陽は大きく西へ傾き始めている。西方海域突破をかけたリ号作戦は、ついにその最大の山場を迎えようとしていた。




そういえば、このシリーズも書き始めてもうすぐ二年なんですね

未だに着地点が見えてこない・・・

リ号作戦後、少し色々なフラグを回収しにいこうかと

後、吹雪と司令官の日常も書きたいですし

なか卯ぼのの中破絵がはいてない件についt(雷撃処分)

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