おかしいな。俺合格通知貰ったよね?なんでこんな…圧迫面接みたいな絵面になってるんだ?
◇ ◇ ◇
───時は遡って筆記試験終了後
「採点出ました。筆記の方は大体例年通りでしたね。ただ───」
「やはり
「皆、これはあくまで私の勘だ。それを念頭に聞いて欲しいのだが…彼はあまりにも完璧に近すぎると思う」
オールマイトとはまた違う、どこか異質ささえ感じる完璧さ。確かに敵を倒す能力、人を助ける能力、そして単純な学力。どれもが最高に近いが何故かそれを手放しに喜べなかった。
「とはいえ落とすなんてことは出来ないでしょう。俺もこの異常さについては同意しますが、点数は点数です」
場数も内容も桁違いのプロヒーローたちが拭えぬ違和感。しかし結果は結果であり、無視することは不可能であった。
教師陣の思考が泥沼にハマり判断を決めかねる中、雄英高校校長にして鼠なのか犬なのか熊なのか分からない
「…一先ず、実際に呼んでみるのはどうかな?」
こうして入学を前に明慈は雄英高校へと呼び出され、冒頭に戻る。
◇ ◇ ◇
部屋の扉前、校長の後ろ、そして俺の後ろに雄英高校の教員が立っている。え、なんかあったの?
「あ、あの。主席合格したから色々とやる事があるって聞いてこちらに来たのですが…?」
「まあ、それについては置いておいて。浮座明慈君。君の個性は《魔法》とあるけど…今ここで使ってもらっていいかな?」
「へ?え、ええ…構いませんけど」
何故見せなければならないのか分からないが、流石にこれから入学するところの教員相手に反抗的な態度を取るのは中々難しい。大人しく従って指から水を発生させる。
「ふむ…それは入試の実技でも見たやつだね。ところで、《魔法》っていう個性名なぐらいだから他にも出来るのではないかな」
鋭い。この…鼠?犬?の校長、魔法という2文字がハッタリではない可能性をちゃんと踏み込んできた。ちょっと複雑な個性だったり複合の個性だった場合は大仰なものが名付けられる場合もあるという話を聞き馬鹿正直に魔法で通したが…まさかこんな早くに突っ込まれるとは思わなかった。
「…出来ます。火とか、風とか、土、光、闇…色々ですね」
「なるほど、君のは複合的な個性ということなのか。手数が多いのは良い事だと思うのさ!」
ただ、と言葉を区切る。そしてその人外の目が妖しく光った。
「それが《個性》だったら…という話だがね」
「うおわっ!?」
なんか急に全身ぐるぐる巻きにされたんだが!?
「動くな。お前何者だ」
「何者って…
「そうじゃない。「ぐえっ」何故、
「彼のヒーロー名はイレイザー・ヘッド。メディア露出が極端に少なく君は知らないと思うから説明するのさ。個性は《抹消》。見た者の個性を消し、使えなくする個性さ。元からそういう形の異形型は消せないが、発動型や変形型の個性ならば消す事が出来るのさ」
あー…大体分かってきたぞ。個性を消す《個性》で俺を見たのに俺が個性らしき力が使えたからこうなったのか。これは…めんどくさいな。どう説明したものか。
「あのっ!取り敢えず俺の話は聞いていただけますか!?」
「相澤くん、地面に降ろしてあげて」
「…いいんですか?」
「ああ、というか彼は転移能力があっただろう?なのに使わないということは少なくとも逃げる意思はないということじゃないかい?」
幾ばくかの逡巡の後、不承不承といった感じで降ろしてもらい俺の足裏が接地する。それと幾らか締め付けも緩くなっていた。
「えっと…まず、推測の通り俺の使う力は個性ではありません。《魔法》とは、《個性》ではなく《技術》です」
「ふむ。技術と言うならば科学のように体系化されているということだね?」
「その通りです。えっと…説明と実演をしたいので何か書くものとかってありますでしょうか」
教員が部屋の隅にあったホワイトボードを転がしてきた。あー…できれば紙とかの方が嬉しいんだけども。まあ、贅沢は言ってられないか。
「あまり冗長に話すのもアレなので手短にお話しますね。まず、魔法とは主に生体エネルギーを体内で加工して特殊な燃料に変換し、これを特定の紋様や音といった記号に沿って広げる事で記号に記述した通りに世界に現象を引き起こす。というものです」
実演として水を発生させながら魔法陣を描いて説明する。向こうも教育者ということなのか、未知の技術に対してかなり真剣に話を聞いてくれている。
「それじゃあ今のはどこにその記号とやらを描いたんだ」
「それは頭の中に描いてます。映像記憶ってあるじゃないですか。あれを更に鮮明にして、尚且つ記憶の捏造をするみたいに鮮明な図形を作り出すとこういった無詠唱が出来るんですよ」
湯飲み茶碗に水をピューっと放出する。まあ、実際の無詠唱はもうちょい複雑なんだが…いかんせん、魔法が当たり前の前世でも数年かけて詠唱の基礎から無詠唱までやるからな。ここで魔法が非現実の代物なこの世界だととてもじゃないが理解されるとは思わない。
「一応…試してみますか?」
根津校長の頭が勢いよく上がる。そんなにやりたいのか…?
「可能なのかい?」
「あ、いえ。俺以外にこの世界で魔法を使っている人に出くわした事がないので未確定ですが…最低でも魔力を消費する感覚を得ていただけたらなと」
そう。実際に現象が起きなくとも魔力を使用しようとした感覚は残るはずなのだ。それがあれば多少なりとも信用してくれるのではなかろうか。
「───そう、そうです。呼吸を俺に合わせて下さい。ちょっと特殊なので苦しいかもしれませんが、8割方一致すればなんとなくわかると思います」
「ん…?なんだ…?」
「あ、それです!それ!血流に重なるようにして別の流れが感じられると思います。それをこう…指先にどうにか集めてもらって」
「ん…?お?おぉ…あぁ、なるほど。納得なのさ!相澤くん、君も分かっただろう」
「…えぇ。確かに、よく分からないエネルギーが集まって、霧散するところまで感じました。これが?」
「そうです。先ほどもご説明した通り、これを特定の形に広げることで魔法を使えるということなんです」
良かった…納得してもらえた…疲れた…
取り敢えず、これで嫌疑は晴れたはず。あ、でも個性じゃないから合格取り消しってことになるのか!?
根津校長が立ち上がって真っ直ぐ俺を見つめてきた。もふもふだ。
「さて、最後に確認させてもらおうか。君は、僕らヒーローやヒーローになろうとする者たち、そして一般市民に仇なす存在かい?」
「俺がヒーロー科を志望したのは元々担任のアドバイスからで。この力は人助けに使えると言われたんです。実際、使うならば役立つ方が良いと思いましたから…そのご質問はいいえです」
「そうかい。では改めて、合格おめでとう浮座くん。春から君も雄英高校の生徒さ!」
「っ…ありがとうございます!」
◇ ◇ ◇
「酷い目にあった…」
「ほんと、うちの相澤くんがごめんなさいね」
斯くして疑いも晴れ一先ずの信用を得た俺は構内を迷わないよう、教師の案内を受けて出口へ向かっていた。案内してくれているのはミッドナイトという名前のヒーローのようだ。格好すげえっすねって馬鹿正直に言っても笑って流してくれるいい大人である。
「ああ、いえ…別にそこまでキツくはなかったので。ただ急に縛られた時は驚きましたけど」
「彼、
ヒーローにも色々あるってことか。いや考えてみりゃそりゃそうだな。調べた感じ全土を飛び回るヒーローもいれば地域密着型のヒーローもいるみたいだし。そうなれば当然業務も細分化され専門の人が現れてもおかしくないのだろう。
「あ、でも勘違いしないでね?校長も相澤くんも貴方のこと本気で合格取り消しにしようとしてた訳じゃないの。ただ、ちょっと普通の《個性》持ちとは異質に思えてね。様々な子供たちを預かる以上、僅かな危険も排除したかったのよ」
「よく見てらっしゃいますねほんと…」
もはやこっちが普通の人間ではないところまで見抜いているような言い草だな。うーん…でも確かに見透かされてるような気もしてきたな。怖いなあの鼠校長!
◇ ◇ ◇
「相澤くん。彼の《個性》の秘密を知った以上、彼は君のクラスに入れることになるね。その上で…」
「浮座を普通の生徒として扱えるのか、という話ですか」
「ああ。創設以来初めてさ。
「《魔法》も、浮座以外でも再現可能と分かりましたからね。アイツ自身が広めなくとも何処かでこの技術が世間に露呈する可能性は十分あり得る…そうアイツも予測していましたし」
「そこでさ。いっそのこと今年度の定員を
「…それは一体どういう意図で?」
「備えておくのさ。いずれ《魔法》が現れ、そして歴史から考えるに《魔法》はかつての《個性》のように排斥される可能性がある。そんな時に《魔法》に理解を持つ者が1人でも多ければ、かつての超常黎明期のような事態にならずに済むんじゃないかとね」
斯して、明慈の入学前の騒動はひとまず終焉となった。
しかし、世界は根津の予想を大きく超える変化に見舞われることになる。そしてそこに放たれた《魔法》という技術と概念は大きな波紋を引き起こし本来の歴史の流れを変え、2つの個性の因縁にも影響してくるのだが…それはまだもう少し先のお話。
恒例の蛇足
まあ色々きな臭くなってきましたね!
とはいえあらすじの通りあくまで明慈は首を突っ込む側なので、特に本人が困り果てることにはならないと思います。本人が予想もしない方向に着地する羽目にはなりますけど。