「お前、女だったのか!?」「?男だよ〜」   作:澱粉麺

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ウケか攻めか

 

 

 

まだ、自分が『おれ』だったころの話。

色々なことがあった…という訳ではない。物語ではないのだ、そんな都合のいい出来事はそうそう無い。ただ人並みにイベントがあって、中学、高校と年齢が上がっていく内のこと。

 

人間関係を広げる事に躍起になって、できる限り交友関係を広めた。そうして友人が増える事が頼りになる、のそれだと思って。…小学生の時、友達がいないと心配をかけた母の安心にもなると思って。

それは、思ったよりかは上手く行った。

だけれど、たまに、少しずつ。上手くいかないことがあった。

 

『なんだあいつ。男みたいで気持ち悪い』

『なにあの子。あんな見た目しといて女のふり?』

 

それに傷付いた、ということはなかった。むしろ納得したような気がした。なるほど、どっちつかずは、どっちにとっても異物感があるものなのだと。ならばどちらへもの立場を明確にするように。そう公平性を期すことが、男らしさのうちの一つでもあると思った。

 

場合によっては、男のように。

場合によっては、女のように。

そう振る舞う事を決めて。

そうしてから自分はおかしくなり始めた。

 

選択には、体力を使う。

それは身体の力だけでは無いし、心の力もそうだ。どっちかがどっちを選んでいるうちに、自分はどちらだったか?どっちだったかの基準を決めて認識して、自分はここであるべきだ、自分の基準点はどこにあったか。そう決めてからまたどちらかになるかを選択する。

 

まあ、つらつらと言い訳をしたが、つまり。自分が俺であるか、私であるかを選ぶことに疲れてしまったのだ。ならばもういっそ。身体が示す性別にそのまま合っているらしいもの。世間がそれを望んでいるらしいもので、いい。自分を『私』に決めてしまえば、まだ気は楽になってくれるだろう。

 

そう思って、そうしたけれど思ったよりかは生きるのは楽にならず。なんだか色々と全てが面倒くさくなって、一人で暮らすことにした。あれを母に言った時の、ほっとしたようなあの母の顔が忘れられない。それほど気を張っている私が心労をかけていたのだろう。

 

父がいないのならせめて家の為に男らしく。

正々堂々と、胸を張って。そうして無理をしていることが、上手く行ったとしても母の心配にしかなっていなかったのなら。

私のそれまではなんというか、ただの馬鹿だったな。

そう、ぷつりと糸が切れた気がした。

 

無気力な状態で、一人暮らしをしていた。

楽で、楽で。抜けなかった力をずっと抜いているような、100か0しかないような自分の極端さを笑って。

それでもあまり楽しくもなければ、充足感もなかった理由もよくわからなくて。だけどその理由は、今になって、ようやくわかった。

 

私は多分。おれも、多分。

どっちつかずのままでいることが好きだったのだ。

 

 

 

……

 

 

『かんぜーん』

『ふっかつ!』

 

『おお』

 

届いてきたメッセージはそんな、元気そのもの。文面からでも伝わってくるように、あえてしているのだろうが。まずそういう工夫をできるようになるほど余裕が出ているということだけで安心ができる。

カイリはただ、喜んでいることを露わにすると何処か恥ずかしい気がして、わざとそっけない返事だけを返した。

 

『ねえね』

『クリスマスって空いてる?』

 

「…!?」

 

だからこそ、その素っ頓狂な質問に、やっぱりまだ熱にうなされているのではないかと思った。質問の内容如何というよりは、つまり。

 

『何を言ってんだおめー』

『もうとっくに過ぎたろうが』

 

もう24日も25日も過ぎている。暇な年末だから故に、今実家にいるのだから、それはそうだろう。だから、クリスマスが空いているわけがないのだ。それがもう存在してないのだから。

 

『ふふふ』

『僕のクリスマスはまだ終わってないんだ』

 

『あほか』

 

『アホで結構!』

『次の休日、クリスマスのリベンジをするよ!』

 

そうして次に送られてきたのは、あるテーマパークの公式ウェブサイトのリンク。何を言うでも無いが、だからこそそれが示す意図はわかりやすい。

 

「これは…」

 

これは、つまりはそういうことだ。

 

『これは』

 

『うん!』

『デートしよう、カイにぃ』

 

(…あ…あいつ…!)

 

こうまで臆面も無く言えるか、普通。

以前家に呼んできた時、泊まるよう言った時などもそう思ったものだったが、それはつまり自分を男だと思っていたから出来ることだったのだとわかり、少しほっとしたものだった。

だが、今回は性別の勘違いも解けて。

なおこの距離感のままのシオンにカイリはひとしきり驚く。

 

「あらカイ。何処いくの?」

 

「……とりあえず出かけてくることにした」

 

「あら久しぶりね。

…しーちゃんと仲直りしたの?」

 

「…したよ。というか、シオンと飯食ってくる」

 

「あら、あらあら。良かったわ仲良しに戻ったみたいで」

 

「茶化すなよ、母さん」

 

「茶化してるわけじゃなくて本当に気になってるの。ナミも気にかけてたし後で連絡しなね」

 

「えー…まあ姉ちゃんにも相談したしなあ…後でしとく」

 

姉の名前を出されるとどうしても弱い。弱々しく返事をしつつ、いつも通りに厚手のダウンジャケットを羽織って外に出ようとする。

 

「……」

 

そうして、出ようとしてから。

少しだけ、可愛いからと気に入っている帽子を被りに戻って、姿見で髪型を整えてから、外に出た。

 

 

 

……

 

 

「言っとくけど私は嫌だからな」

 

「えー!」

 

手頃なファミリーレストランの中に入って、話をする。メッセージで会話をするよりかは直接話した方が早い、と二人で会う事になったのだ。

相変わらずシオンは可愛らしい見た目をしている。だが男だ。

 

「なんでぇ…」

 

「なんでも何も、年末なんてアホほど混んでそうだろ。やめだやめ、面倒くさい。その上で寒いんだから最悪だ」

 

「だからこそオンシーズンじゃん!って思うけど…まあカイにぃが行きたくないならしょうがないかなぁ…」

 

仕方ない、と諦めたように汐音は口を尖らせてストローを咥える。小さな唇にはリップをちゃんと付けているのだろう、潤いがある。

 

「他に行きたい所とかねえのか?

そこなら一緒に行ってもいいけど…」

 

「うーん…オシャレなレストラン…

なんてのもそんな感じじゃなさそうだしね」

 

「別にファミレスでいい」

 

「イルミネーション?」

 

「ただの明かりじゃん」

 

「なんかヒねてるんだから…

逆に、カイにぃが行きたい場所とか無いの?」

 

「んー…あんま」

 

「出不精だなあ」

 

あはは、と笑って流すシオン。ことごとくの提案が否定されたものの、それには不満がないどころかむしろ上機嫌なようだ。

少し、ほっとする。カイリも、実を言うとあの時以来あうのが初めてで、どのように対応したらいいか、わかっていなかったのだ。だから普通の友達のように、少し前までのように話すことができるならば、まあこれでもいいかと感じた。

 

「…シオンん家にもっかい行くか。

それなら、近場だしいいけど…」

 

「えっだめだよ。

女の子が男の家に行くなんて、そんなの易々と言っちゃだめだよ?」

 

「おっ、お前…!どの口がぁ…!?」

 

前までのことを忘れたような発言に、一瞬かっとなるようだったが、けらけらと笑うその様子を見てそれもすぐに忘れてしまう。

何はともあれ、良かった、と思う。

風邪をひいたあの時。そして、その直前。

ひどい、ひどい顔をしていたから。

今はそういう憂いが無くなっているから、安心する。

海莉は、それでとりあえず落ち着いた。

 

「あ、そうだ。じゃ、今度映画でも観に行く?それくらいならそこまで遠くないし、屋内だから寒くないし。カイにぃって映画は好き?」

 

「好きってほどではないかな…まあ嫌いじゃないよ。

あと暖かい場所なら大体好きだ」

 

「…寒がりというか、なんか暖かさを求める妖怪みたいになってない?」

 

 

シオンが笑う顔は、やはり綺麗だ。

男ではあると、当人も言っている。

きっと自認もそれなのだろうけど。

ただ、もっともっとそういう所を超えて、可愛い。

それが海莉の脳をどうにもおかしくさせる。

 

「だって、寒いのは嫌だろ?

ほんと考えるものも考えられなくなるっていうかさ」

 

「カイにぃ、女の子だし冷え性なのかもね…

…いやにしてもちょっと異常な気もするけど」

 

「……」

 

女の子。

一度けりをつけたはずの『私』と、『おれ』の境目がどうにもわからなくなる。自分をどう出して、どういう風に彼を受け止めたらいいのか、わからなくなる。友達の距離感は、気楽だ。

でもそれは彼にとって失礼ではないのだろうか。

 

 

「…カイにぃ?」

 

「!…悪い、ぼーっとしてた』

 

「いやいや。…疲れてる?今日は解散にして、また今度にしよっか」

 

「…あー、それもいいかもな」

 

なんて事はない。

海莉は汐音に、男女が急激に距離を詰めるのはよくない、と言っておきながらその実。カイリ自身がどのような距離感であるべきかまだわかっていないのだ。どう接していいのかが、わからないのだ。

 

寧ろ、シオンは向かう関係のゴールがある。

だけれど、カイリにはそれがわからない。

だから迷っているのは、こっちの方だ。

 

 

 

……

 

 

 

「じゃ、またね!」

 

「ああ。…

…あー、待った、シオン」

 

「ん?なに?」

 

「いや、大した事じゃないんだけどさ。

一つだけ聞きたくって」

 

分かれ道で、別れる直前。

海莉はどうしても聞いておきたかった。

だから、一息に吐き出した。

 

「お前さ。私と一緒にいて時間を使ってていいのか?お前も理由があってこっちに戻ってきて住んでんだろ。それを、私なんぞに関わって、そんな、楽しそうなふりしなくっても…」

 

言っていて、自分でもどうかと思った。ただの、メンヘルな発言にしか聞こえないだろうし、それへの対応をするしかないだろう、という内容。

だがそれはカイリの中の本音でもあった。

昔、『アニキ』だったから、というだけの理由。提案を否定するだけ否定して、出不精で、本当は女で。そんな自分に、関わり続けてもあの頃の思い出に水を差すだけなのではないか、と。友人感覚で、想いを保留にする自分を見限ってくれと。

なんなら、そうだ、と言ってくれた方が楽だと。

 

 

「…うーん」

 

一瞬、悩んだような顔をするシオン。

その悩みは、何を言おうか悩んでいる、というより。

『どうやったらこの感情を伝えられるか』。

それへの悩みのようだった。

 

一拍、時間をおいて。

 

ゆっくり歩いて、近づいて。

ぎゅっ、と抱きしめた。

服の、その内側から感じる肉感は、確かに少しの硬さがあり、確かに存在する男の子らしさを強調している。その奥の鼓動まで聞こえるくらいに。

 

その感覚に、どうしたらいいかわからなくなった。カイリはそれを引き離すでも抱き寄せるでもなく、ただ、固まった。

 

「これで、わかるかな。

僕が、カイにぃといるのが嫌々とかじゃないの」

 

「は、離…」

 

「…前、結構直球で言ったつもりだったんだけどな。

伝わってなかったなら残念」

 

抱きつかれたまま、そう囁かれ。答えることもできないで固まっているカイリを見て、どう思ったか。ぱっ、と離れてから、少し後ろの方に歩き始める。その悪戯な顔からするに、彼女のその反応が嬉しくはあったようで。

 

「あ。あとそうだ。言い忘れちゃってたけど、その帽子、似合ってるよ!すっごく可愛い!じゃね!」

 

ばっ、と。それを言われて久しぶりに思い出したように帽子を両手で抑えるカイリをただ見もせずそのまま去っていくシオン。

それをしばらく、見て。

 

 

「……だ、だから!そういうこと、するから…!」

 

「…私がどんな顔したらいいか。

わかんなくなるんだろうがあ…っ!」

 

 

わからない、わからない。距離感とか自分の選択だの、そういうこまっしゃくれた言い分とかは全部置いておいて。この関係をどうしたらいいかが、わからないままだ。受けも攻めかも、なにもかも。

 

だけれど、とにかく。

冷え性のこの身体の、頬だけが恐ろしく熱いままだ。

 

 





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