門のある中庭
/*/門のある中庭/*/
この家のいちばんの特徴は、間違いなくこの中庭だ。
建物のど真ん中にぽっかりと空いた、本当の意味での「中庭」。
日当たりを計算し尽くした造りなのだろう。壁面には鏡が多用されていて、家の中心にあるにもかかわらず、ここだけは星明かりでも青白く明るい。
冷たい風はほとんど吹き込まず、家の中からの放熱もあって、ちょっとした温室みたいになっている。
多種多様な観葉植物がセンスよく配置され、ついこの間までなら「見事」の一言で片づけられただろう庭。
――ついこの間までなら。
今は、土は乾ききり、葉はどこか生気を失っている。
世話をする人間がいないのだと、一目でわかる。
こんなに手をかけて造った庭を、そのまま放置するなんて考えにくい。
「世話をしている人間」が、世話をできない状況にある――そう考えるのが自然だ。
下駄箱にあった、小さな女の子用の長靴。
あれは、おそらくカモノハシのもの。
今、その持ち主は、この庭に出ることすらできない。
オレは中庭を歩きながら、「あり得ざるものの大迷宮」へ通じる門とされた庭石を探す。
見つけるつもりでいる。
見つけなければならないと思っている。
けれど――
それと同じくらい強く、
「見つからなければいい」とも思っている。
少し歩き回ったあとで、オレは「それ」を見つけてしまった。
見つけてしまった恐怖と後悔。
見つけることができた安堵と達成感。
相反する感情が、ぐちゃぐちゃに絞り出された絵の具みたいに心の中で押し合いへし合いしている。
黒、灰色、黄色、赤――何色も混ぜたはずなのに、どれも完全には混ざりきらず、互いににじみ合いながらも別々に存在し続けているような、そんなあり得ない心の状態。
……こういうのを、何て言えばいいんだろうな。
その一角だけ、植物の葉はどす黒く、新芽は不気味にねじれて生えていた。
そこが、この庭で「一番影響を受けている」場所だと、直感で分かる。
その中心に、膝ほどの高さ、六十センチ四方ほどの平たい石が据えられていた。
一見すると、ただのテーブル状の庭石。
ぱっと見には、何の変哲もない。
オレは半信半疑のまま、ブラックライトを取り出し、その庭石を照らした。
・
…
……
…………………………………………
石の表面に――見たこともない、不思議な紋様が浮かび上がった。
本気だ。
オレは深く息を吐き、庭石の表面にそっと手を触れた。
次の瞬間、紋様から黄色い炎のようなものが、ゆらゆらと立ち上りはじめる。
驚いたが、不思議と熱くはない。
オレはただ、茫然とその炎を見上げていた。
黄色い炎は、三階吹き抜けの屋根よりも高く伸びていく。
気がつけば、オレの身体は炎に巻き上げられ、ふわりと宙に浮かんでいた。
本当だ。
本気で――本物の「魔術師」だ。
なら、行こう。
それを知っているのはオレだ。
この世界で、本物の魔術師を知っているオレが、やるべきことだ。
黄色い炎に包まれながら、オレは中庭と、三森家の屋根を見下ろした。
それが、オレがこの世界で見た――最後の光景だった。