なんちゃってクトゥルフ小説   作:ぶーく・ぶくぶく

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解き放て

 

 

「惣くん、私思ったんだけど」

 

 昼休み、教室の隅。

 弁当箱を片づけて、ストロー付きのパックジュースをちゅうっと吸いながら、愛香がぽつりと言った。

 

「なんだよ?」

「彩女ちゃんと青見くんに、へそ出しチューブトップホットパンツ。素肌に革ジャンとか着せてドレスアップして、東京の繁華街とかに解き放ってみたい」

 

「…………」

 

 惣一郎は一瞬、時が止まったみたいに固まった。

 

「おま、なんて面白そうな事を」

「でしょ?」

 

 ぱぁっと笑う愛香。

 惣一郎の目が、きらりと危険な方向で光る。

 

「いやだってさ」

 愛香はストローを指でくるくる回しながら、楽しそうに続ける。

 

「二人してあの腹筋でしょ? しかも“お揃いだ”とか言ってるんだよ。

 もうさ、究極のペアルックじゃない?」

 

「腹筋ペアルックって単語、世界初じゃねぇかな……」

 

 惣一郎は思わず天井を仰いだ。

 

「でも想像してみ? あの二人、へそ出しで革ジャンだぞ?」

「……あー、なんか分かるわ。変にいやらしくならずに、ふつうに“仕上がってる”感じになりそうなのが腹立つ」

「でしょ? 足も綺麗だし、フォームも良いから歩いてるだけで“様になる”よ、あの二人」

 

「渋谷あたり歩かせたらスカウト三人くらい寄ってくんじゃね?」

「そのたびに彩女ちゃんが『は?』って顔して、青見くんが『すみません結構です』って頭下げてそう」

「想像できるのやめろ、吹くから」

 

 二人してくくっと笑い合う。

 

「で、どこに放つつもりなんだよ、その腹筋ペアルックカップル」

「そうだなぁ……夜じゃなくて夕方の原宿とかどう?」

「まだ人の目が優しい時間帯だな」

「うん。で、竹下通りあたりで、クレープ食べさせたい」

「チューブトップにクレープのクリーム落として『あっ』ってなるやつじゃねぇだろうな」

「惣くんの発想の方が危ないよ?」

 

 じとーっと細められた目に、惣一郎は「すまん」と即土下座ジェスチャー。

 

「真面目な話さ」

 愛香が、ちょっとだけ悪戯っぽく身を乗り出す。

 

「彩女ちゃん、自分の体、女の子らしくないってたまに気にしてるんだよね。

 でもあの子の身体ってさ、“鍛えたからこそ”の綺麗さじゃない?」

 

「まあ、分かる。線の出方がさ、普通の“痩せてます”と違うよな」

「青見くんもさ、あの子に合わせてちゃんと整えてるでしょ」

「“お揃いだ”って言ってたな、そういや」

 

 惣一郎は、あの日のコンビニ前を思い出して笑った。

 

「その二人を、ちゃんと“見せても恥ずかしくない格好”にドレスアップして、

 堂々と胸張って歩かせたいの。『ほら見ろ、これがうちの自慢の二人だー』って」

 

「お前、プロデューサーかなんか?」

「惣くんはマネージャーね」

「やべぇ、もう役職決まってる……」

 

 惣一郎が頭を抱えると、愛香は楽しそうに手を叩いた。

 

「でも、割と本気でやりたいんだよね。

 二人が嫌じゃなかったら、今度の長期休みにさ、東京行き計画立ててさ」

 

「マジで言ってんのか」

「うん。まずは地元のショッピングモールで予行演習」

「予行演習ってなんだよ」

「試着して、“自分たち似合うじゃん?”って体感してもらうの」

 

 言いながら、愛香の目は完全に“楽しい企画を思いついた人のそれ”になっていた。

 

「惣くんはさ」

「お、おう」

「二人の“腹筋ペアルック”見て、どう思った? 正直に」

 

 惣一郎は、少しだけ考えてから――肩をすくめて笑う。

 

「なんか……“ズルい”って思った」

「ズルい?」

「男と女とか関係なく、あれだけちゃんと鍛えてる身体ってさ、説得力あるじゃん。

 “あ、この二人マジで頑張ってんだな”って、一瞬で分かる」

 

「ふふ、分かる」

「しかも、本人たちが“お揃いだ”って楽しそうにしてるの見たらさ。

 “あー、いいなぁ”って思うだろ。ズルいわ、あれ」

 

「……あ、それ、ちょっと分かるかも」

 

 愛香は、ストローの先を唇で軽く噛んで、ふっと目を細めた。

 

「そういうの、もっとちゃんと見せびらかしていいと思うんだよね。

 “わたしたち、こういう風に頑張ってきましたー”って」

 

「なるほどな。で、その第一歩が、腹筋ペアルック・チューブトップ革ジャンなわけだ」

「完璧に理解が早い惣くん好き」

「やめろ、照れるだろ」

 

 二人で馬鹿みたいな案を転がしていると――

 教室の入り口の方から、聞き慣れた声がした。

 

「おーい、何ニヤニヤしてんだ、あんたら」

 

 振り向くと、購買のパンを片手に彩女、その後ろから飲み物を持った青見。

 

「悪巧みしてる顔だな」

「健全な企画会議ですー」

 

 愛香が即座に笑顔で返す。

 

「企画会議?」

「うん。彩女ちゃんと青見くんを、“腹筋ペアルック東京お散歩デートコース”にご招待しようという――」

 

「待て」

「ストップだ」

 

 見事なハモりで、二人から制止が飛ぶ。

 

「な、なにその物騒なワード」

「腹筋ペアルックって何だよ。新しい競技か?」

 

 青見が引きつった顔でツッコむ横で、彩女がじと目になる。

 

「ちょっと。うちらの腹筋勝手にセット売りしないでくれる?」

「売ってはない売っては。プロデュース?」

「余計タチ悪いわ!」

 

 昼休みの教室に、笑い声が弾ける。

 

 惣一郎は、そんな三人を見ながら、肩をすくめて笑った。

 

(……まぁ、こうやってわちゃわちゃ言ってる時間が、一番楽しいのかもしれねぇな)

 

 腹筋ペアルック東京ツアー計画が、

 実現するかどうかは、まだ誰も知らないまま――。

 

 

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