/*/ ホラーゲーの夜/*/
「うおっ、また出た!」
画面の中で、血の気のない腕が窓からずるりと伸びてくる。
惣一郎は反射的にコントローラーのボタンを連打した。
女主人公が、手にした鉄パイプを振り抜く。
ガンッ、と鈍い音とともに、不気味な影が床にぶっ倒れた。
「おおおお、やったやったやった!」
「……惣くん、このゲーム、ほんとよくやるね」
隣のソファでは、愛香がクッションを抱えながら、半分画面、半分惣一郎の横顔を見ている。
画面右上には、新作ホラーアクションゲームのタイトルロゴ。
女主人公が、さくさくと鉄パイプで怪異をしばき倒して進むタイプのやつだ。
「この女主人公、鉄パイプで怪異を倒して行くけどさ」
ちょっと落ち着いたところで、惣一郎はぼそっと呟いた。
「彩女も出来そうだな」
「惣くん?」
愛香が、じとっとした目を向ける。
「だって、このパワー。
腕力でゴリ押ししてんじゃん。あいつもあんな感じでいけるだろ」
主人公が怪異をカウンターで吹っ飛ばして、壁に叩きつける。
それを見て惣一郎は「ほら絶対彩女」と頷く。
「いやいやいやいや」
愛香は、クッションで惣一郎の脇腹を軽く小突いた。
「彩女ちゃん、ホラーは好きだけど、“自分がホラーの中に入る”のは別だと思うよ?」
「え、でもさ。ホラー映画とかガンガン観るじゃん」
「観るのと、鉄パイプ片手に廃病院の廊下走るのは別世界だからね?」
愛香は、ぽんぽんとクッションを叩きながら続ける。
「多分、ゲームの中に入った彩女ちゃんはさ――
“こっわ。無理。速攻で出口探す”ってタイプだよ。
走れるけど、戦うより先に脱出ルート確保する感じ」
「……あー、確かに。クリア時間だけはやたら早そーだな」
「そうそう。ウィキに載るよ。“最短ルート攻略動画:プレイヤー名 AYAME”って」
想像して笑いかけたところで、愛香がふと首をかしげた。
「むしろさ、“鉄パイプで怪異しばく主人公”って、青見くんじゃない?」
「……」
惣一郎の指が、そこでぴたりと止まる。
「……あいつだと、普通に“獣狩りの夜”になる」
「分かる」
即答だった。
「いやもう、冷静にパターン見切って、ロリでかわしながら、
“この辺にスタミナ温存して――はい入った”とか言いながらボスの頭殴ってるよね」
「で、“最初は怖かったけど、攻撃判定分かると楽しい”とか言いだす」
「ホラーの楽しみ方、完全に違う方向に行ってない?」
二人して笑いながら、画面では主人公がまた鉄パイプを構えている。
「でもさ、青見くんがこういうゲームの中に入ったらさ」
愛香が、ちょっと真剣な顔で続ける。
「ちゃんと、みんな守ろうとしてくれるよね」
「……まあ、それは否定できねぇな」
「彩女ちゃんと、わたしと……惣くんが変なとこ突っ込もうとしたら腕掴んで止めてくれそう」
「お前、それリアルでもやられてるやつじゃね?」
「そうだった」
くすっと笑う愛香。
「じゃあ、ホラーゲームのパーティ編成は――」
指を折りながら、楽しそうに言う。
「青見くん=前衛タンク兼アタッカー。
彩女ちゃん=逃走ルートと脱出手段の確保担当。
わたし=回復とサポートと、惣くんの暴走止める係。
惣くん=だいたい変なフラグ踏む係」
「おい最後」
「でも合ってるよね?」
惣一郎は、ぐぬぬと唸りながらも、その通りすぎて言い返せない。
「……じゃあせめて、ゲームの中くらい主人公やらせろよ」
「うん、惣くんにぴったりの主人公だと思うよ?」
そう言って、愛香は画面の女主人公を指さす。
「ビビりながらも、ちゃんと前に進むとこ」
「……なんか今、地味に勇気出ること言われた気がする」
「でしょ?」
にこっと笑って、愛香は惣一郎の腕にそっと自分の腕を絡める。
「じゃ、もうちょっと進めよ。
“もし自分たちがここにいたら”って考えながらやると、ちょっと楽しいかもね」
「いやお前、それフラグ立ての思考だって」
言い合いながらも、惣一郎は再びコントローラーを握り直す。
画面の中で、鉄パイプを構えた女主人公が、暗い廊下を進んでいく。
その後ろには、頭の中だけで組んだ、いつものメンバーの姿が重なって見えた。
(……まあ、もし本当にこんな世界に放り込まれたら)
惣一郎は、一体分の怪異をぶっ飛ばしながら、ぼんやりと思う。
(青見と彩女と、愛香が一緒なら――
なんだかんだで、最後まで笑って帰ってこられそうだよな)
そんな考えがふっと浮かんで、
ほんの少しだけ、画面の不気味さが薄れて見えた。