なんちゃってクトゥルフ小説   作:ぶーく・ぶくぶく

136 / 240
ホラーゲームの夜

 

 

 /*/ ホラーゲーの夜/*/

 

 

「うおっ、また出た!」

 

 画面の中で、血の気のない腕が窓からずるりと伸びてくる。

 惣一郎は反射的にコントローラーのボタンを連打した。

 

 女主人公が、手にした鉄パイプを振り抜く。

 ガンッ、と鈍い音とともに、不気味な影が床にぶっ倒れた。

 

「おおおお、やったやったやった!」

 

「……惣くん、このゲーム、ほんとよくやるね」

 

 隣のソファでは、愛香がクッションを抱えながら、半分画面、半分惣一郎の横顔を見ている。

 

 画面右上には、新作ホラーアクションゲームのタイトルロゴ。

 女主人公が、さくさくと鉄パイプで怪異をしばき倒して進むタイプのやつだ。

 

「この女主人公、鉄パイプで怪異を倒して行くけどさ」

 

 ちょっと落ち着いたところで、惣一郎はぼそっと呟いた。

 

「彩女も出来そうだな」

 

「惣くん?」

 

 愛香が、じとっとした目を向ける。

 

「だって、このパワー。

 腕力でゴリ押ししてんじゃん。あいつもあんな感じでいけるだろ」

 

 主人公が怪異をカウンターで吹っ飛ばして、壁に叩きつける。

 それを見て惣一郎は「ほら絶対彩女」と頷く。

 

「いやいやいやいや」

 

 愛香は、クッションで惣一郎の脇腹を軽く小突いた。

 

「彩女ちゃん、ホラーは好きだけど、“自分がホラーの中に入る”のは別だと思うよ?」

 

「え、でもさ。ホラー映画とかガンガン観るじゃん」

「観るのと、鉄パイプ片手に廃病院の廊下走るのは別世界だからね?」

 

 愛香は、ぽんぽんとクッションを叩きながら続ける。

 

「多分、ゲームの中に入った彩女ちゃんはさ――

 “こっわ。無理。速攻で出口探す”ってタイプだよ。

 走れるけど、戦うより先に脱出ルート確保する感じ」

 

「……あー、確かに。クリア時間だけはやたら早そーだな」

 

「そうそう。ウィキに載るよ。“最短ルート攻略動画:プレイヤー名 AYAME”って」

 

 想像して笑いかけたところで、愛香がふと首をかしげた。

 

「むしろさ、“鉄パイプで怪異しばく主人公”って、青見くんじゃない?」

 

「……」

 

 惣一郎の指が、そこでぴたりと止まる。

 

「……あいつだと、普通に“獣狩りの夜”になる」

 

「分かる」

 

 即答だった。

 

「いやもう、冷静にパターン見切って、ロリでかわしながら、

 “この辺にスタミナ温存して――はい入った”とか言いながらボスの頭殴ってるよね」

 

「で、“最初は怖かったけど、攻撃判定分かると楽しい”とか言いだす」

 

「ホラーの楽しみ方、完全に違う方向に行ってない?」

 

 二人して笑いながら、画面では主人公がまた鉄パイプを構えている。

 

「でもさ、青見くんがこういうゲームの中に入ったらさ」

 

 愛香が、ちょっと真剣な顔で続ける。

 

「ちゃんと、みんな守ろうとしてくれるよね」

 

「……まあ、それは否定できねぇな」

 

「彩女ちゃんと、わたしと……惣くんが変なとこ突っ込もうとしたら腕掴んで止めてくれそう」

 

「お前、それリアルでもやられてるやつじゃね?」

 

「そうだった」

 

 くすっと笑う愛香。

 

「じゃあ、ホラーゲームのパーティ編成は――」

 指を折りながら、楽しそうに言う。

 

「青見くん=前衛タンク兼アタッカー。

 彩女ちゃん=逃走ルートと脱出手段の確保担当。

 わたし=回復とサポートと、惣くんの暴走止める係。

 惣くん=だいたい変なフラグ踏む係」

 

「おい最後」

 

「でも合ってるよね?」

 

 惣一郎は、ぐぬぬと唸りながらも、その通りすぎて言い返せない。

 

「……じゃあせめて、ゲームの中くらい主人公やらせろよ」

 

「うん、惣くんにぴったりの主人公だと思うよ?」

 

 そう言って、愛香は画面の女主人公を指さす。

 

「ビビりながらも、ちゃんと前に進むとこ」

 

「……なんか今、地味に勇気出ること言われた気がする」

 

「でしょ?」

 

 にこっと笑って、愛香は惣一郎の腕にそっと自分の腕を絡める。

 

「じゃ、もうちょっと進めよ。

 “もし自分たちがここにいたら”って考えながらやると、ちょっと楽しいかもね」

 

「いやお前、それフラグ立ての思考だって」

 

 言い合いながらも、惣一郎は再びコントローラーを握り直す。

 

 画面の中で、鉄パイプを構えた女主人公が、暗い廊下を進んでいく。

 その後ろには、頭の中だけで組んだ、いつものメンバーの姿が重なって見えた。

 

(……まあ、もし本当にこんな世界に放り込まれたら)

 

 惣一郎は、一体分の怪異をぶっ飛ばしながら、ぼんやりと思う。

 

(青見と彩女と、愛香が一緒なら――

 なんだかんだで、最後まで笑って帰ってこられそうだよな)

 

 そんな考えがふっと浮かんで、

 ほんの少しだけ、画面の不気味さが薄れて見えた。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。